17 工場の煙
拠点から東へ10ヴェルスタほど馬車で行くと、目的の町が見えてきた。
前に来た時より1日遅くなってしまった。人数が多いからだろう。
懐かしい風景だ。ここは父さんと何度も鋼鉄を仕入れに来た場所。
石造りの建物と、煤けた煙突。あの頃と変わらないはずなのに、どこか空気が重い。
そういえば、荷馬車を引いていた馬が逃げ出して、町の人たちが一緒に探してくれたことがあったなあ。
「ここからは顔を隠していくわよ」
アマリアさんが小さく言って、フードを深くかぶった。
サガラさんが言うには、町をひそかに見回っている集団がいるらしい。見つかったら厄介だけど……。
……師匠はどう見ても目立つ。あの体格じゃ隠しようがないか。
「おーい、ロシュ! 久しぶりだな!」
声の方を見ると、見慣れた顔があった。
「ペトルさん!」
「久しぶりだな。親父さんは大丈夫か? 村が賊に襲われたって聞いたぞ」
「助けに入ってくれた人がいて、なんとかなりました。ペトルさんのお母さんは元気ですか?」
「……ああ、それがな」
ペトルさんは少しだけ目を伏せる。
「おふくろも歳でな。今は親戚の家で養生してる」
「そうですか……お大事にしてください」
そうか残念だ。優しいおばあちゃんだった。いつも焼きたてのケーキをくれて——。
「それより、そちらの人たちは?」
ペトルさんが僕の後ろを見た。
「ああ、今回の旅の用心棒です。初めて一人で買い付けに来たもので……」
「三人もか。まぁ、今は物騒だからな」
ペトルさんは軽く笑ったが、その目はどこか疲れていた。
「この町は……その、大丈夫ですか?」
「え?」
一瞬きょとんとしてから、ペトルさんは肩をすくめる。
「ああ、確かに今はよそ者が幅を利かせてるが……俺たち地元商会だって」
「郊外にある工場は、なんじゃ」
ハンジローさんが不意に口を開く。
「え? ああ、あれか」
ペトルさんは町の外れを顎で示した。
「最近できた工場でな。硫黄やら硝石やらを運び込んでるから、薬でも作っているんだろう」
——やっぱり。
「誰が運営してるの?」
アマリアさんが自然な調子で聞く。
「さ、さぁな……。誰も知らないんだよ」
この町で、あんなに大きい工場を動かしているのに誰も知らないのはおかしい。
僕は無意識に、町の外れの方へ目を向けた。
工場の図体のわりに少ない煙が、静かに空へと昇っている。




