16 塩の谷
「第一の目標は、ここから北にある塩の谷です」
地図を広げながら、サガラさんが説明する。
「この地は不毛の谷として知られていますが、志々雄が最初に進軍した場所でもあります」
「……硝石が目当てだったというわけか」
師匠が静かに言った。
「はい。こちらも、そこまで考えが及びませんでした」
「先発隊は、おいと比古、それにロシュじゃな」
ハンジローさんが即座に決める。
「私はこの拠点の守りがあります。申し訳ありません」
サガラさんは悔しそうに言った。
「いや」
師匠が首を振る。
「統率が取れなくなった拠点を叩くには、指揮の取れた軍隊が不可欠だ。相楽は残ったほうがいい」
「……ありがとうございます」
「この土地は昔、鉄を仕入れに行ったときに訪れました」
僕は記憶を辿りながら地図を指す。
「敵が拠点を構えるとしたら……このあたりです」
町のはずれ、川沿いで一段低くなった平野。
「偵察の情報とも一致します」
サガラさんが頷く。
「おそらくここに拠点を構え、町を支配しているのでしょう」
「潜入はできるんか?」
ハンジローさんが聞く。
「私たちが潜入させた同士は、みな捕まってしまいましたが、もともと行商人が行き交う土地です。行商人に偽装すれば、入れるはずです」
「よし。じゃあ出発じゃ」
——バァン!
勢いよく扉が開いた。
「待って! 私も行く!」
そこに立っていたのは、旅支度を整えたアマリアさんだった。
サガラさんが慌てて制する。
「王女殿下、それは——」
「この人たちだけでは、魔法使いの相手はできないわ。王国の魔法使いは、もうほとんどやられてしまった」
「それは……そうかもしれませんが」
「大丈夫よ。他の兄妹も、この拠点に来ているのでしょう?」
アマリアさんは真っ直ぐに言った。
「王国の再興は、できるわ」
「そういう問題では……」
「サガラ殿。お願い、行かせて」
沈黙。
「……敵討ちじゃ」
ハンジローさんが口を開く。
「行かせてやらねばならん」
「……はあ」
サガラさんは大きく息を吐いた。
「仕方ありません。比古さん、姫様をお願いします」
「いいだろう」
師匠は軽く肩をすくめる。
「うちのバカ弟子よりは、世話が楽そうだ」
「なんですかそれ!」
思わず声を上げると、場の空気が少しだけ和らぐ。
——僕たちは打倒・志々雄に向けて動き始めた。




