↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
14/27

13 さしかぶいの

 気が付くと僕は地面に転がっていた。


 その先、包囲していた義勇軍の兵士たちが駆け寄ってくる。


――サガラさんだ!


「比古さん! 無事でしたか」


「助かった」


 師匠が短く答えると、サガラさんはこちらに駆け寄ってきた、しかし急によそよそしい口ぶりに変わった。


「それより……比古さん。なぜ、その方とご一緒で?」


 目線の先にはハンジローさん。二人は知り合いなのだろうか。


「……さしかぶいの、相楽」


 ハンジローさんが目を合わせず言う。


 なんだこの気まずい雰囲気は……。


「本当ですね。最初のうちは薩摩が援助をくれていたのに……」


「それは貴様が薩摩の命令に背いて勝手に進軍したからやろが」


「まさかあの大西郷(だいさいごう)様から、トカゲのしっぽ切りされるとは」


「なんじゃと! 西郷(せご)どんの……」


 言いかけてハンジローさんは問いかけた。


「待て、相楽、下諏訪で捕まって処されたと聞いたども、牢を抜けたんか?」


「……? 桐野さん、何を言って……」


――ドン! ドン! ドン! ドン!


 弾けるような音が連続して鳴った。


 煙が上がったかと思えば、何人かが倒れている。


 これは魔法……? 僕は思わずアマリアさんを見た。


「これ、魔法じゃないわ……!」


 魔法じゃない? いったい何が……。


「引け! 次が来るぞ!」


 サガラさんはこれを知っているようだ。指示に従って僕たちは身を伏せる。


「敵だ!」


 敵発見の声。前後を囲まれた。


 しばらくにらみ合いが続く。そして、大きな声が戦場に響いた。


「頭目! 相楽総三! 停戦協議の場を設ける! 前へ!」


「やれやれ……なんだか昔を思い出すな」


 サガラさんがため息をついた。


「一緒に行こう」


 師匠が答える。


「心強い。お願いします」


 僕たち一行は、最前線の兵が開けた空間に歩み出た。


 そして敵軍の隊列の奥に道ができ、ゆっくりと大男が現れる。


「西郷どん……!?」


 ハンジローさんが声を震わせた。


「さしかぶいの桐野よ、おまさんもこっちに流されとったか」


 この人が……セゴーさん。ハンジローさんの恩人。


 でも、死んだんじゃなかったのか。


「どうして……いや、あの時、確かに……」


「そうじゃ。おいは一度死んだ。じゃっどん、この世界に蘇ったというわけじゃ」


「なんじゃと……」


 ハンジローさんの目が鋭くなる。


「そうじゃ、ここのやつらはみな一度死んどる」


「そげな……」


「嘘ではない。見覚えのあるやつもおるだろうが」


 ハンジローさんは周りを見て、確かめている。でも一度死んだ人が蘇るなんて信じられない。


「……し、しかし、なぜ志々雄なんぞに……」


「この国は王族の圧政で民が苦しんじょった」


「嘘よ!」


 アマリアさんが叫ぶ。だが、師匠が無言で手を上げ、口を出すなと示した。


 ——沈黙。


 ハンジローさんはセゴーをじっと見据えて口を開く。


「せごどん……こげんとこきもすでに、どげんげんでけえなったとやっどか、さとんことばまんまで、ゆてみっくいや」


 え? 外国語……?


「しんけなかどん、きづいちょったらここおったとよ。としあきも、わっぜかおんなじごっならんか?」


 答えている。ハンジローさんの故郷の言葉だろうか。


 ハンジローさんは少し考えてから、つぶやいた。


「わかりもうした」


 ハンジローさんは敵に向けて歩いていく。


「中村さん! 西郷隆盛は死んだんです!」


 サガラさんの声は聞こえていないようだ。


「ハンジローさん!」


 その瞬間、ハンジローさんは抜刀していた。


 ——一閃。セゴーの体を引き裂いた。


「なっ……」


 思わず声が漏れる。


 倒れたその身体は、霧に包まれ、やがて別の姿へと変わっていったと思ったら泡のように消えた。


「幻術魔法だわ! 」


 アマリアさんが杖をかまえる。


「やっぱい、偽物じゃったな」


 師匠が珍しく笑う


「半次郎、やっぱりお前は面白い」


 薄気味悪い笑い声か響くと、何事もなかったかのように男が奥から現れた。


 やはりウスイ!


「桐野利秋……。よく気が付いたな」


「西郷どんはおいを半次郎ち呼ぶ。そもそも、大西郷が志々雄なんぞ小物の下につくわけなか」


ハンジローさんはきっぱりと言い切る。


「なるほど、上手く化けてたつもりだったが……。しかし桐野よ、お前は一度死んだんだ。こちら側について西郷の無念を晴らすのもいいのではないか」


「西郷どんはそんなこと考えんわ。それよか貴様、大西郷の名を騙(かた)った罪は重いぞ」


切先がウスイに向けられる。


「そうか、ならば……ここで死ぬがいい」


ウスイの姿が霧のように消えた。


——かかれぇ!


次の瞬間、四方から敵軍がなだれ込んでくる。


 師匠が姿勢を低くとる。


——飛天御剣流 龍巻閃・旋


 師匠が敵の中に溶け込み、次の瞬間、轟音と共に数十人が一斉に吹き飛んだ。削り取られたように地面に一本の道が拓ける。


「チェストーッ!」


 ハンジローさんが獣のように飛び込み、斬撃の嵐で敵を蹴散らす。


「突撃!」


 サガラさんの号令で義勇軍が一斉に駆けた。


 僕も無我夢中で剣を振るう。肩をかすめる矢、耳元をかすめる刃。


 けれど振り返る暇もなく、ただ前へ。気が付けば敵の陣が崩れ、何とか逃げ出せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。