12 シシオマコト
長い廊下の先、通された大きな部屋は、やわらかい床の珍しい作りだ。草を編んで作ったのかな。
遠くから弦を弾くような独特な音が聞こえる。異国の楽器だろうか。
奥の一段高くなっている所で、全身に包帯が巻かれた男が座っている。
女の人がしだれかかりながら飲み物を注ぐ。包帯を巻かれてはいるが、鋭い眼光はケガ人のそれではない。
——恐怖・凶悪・残忍。
“死”がそのまま人間になったような男だ。
動けなくなった僕を押しのけてアマリアさんが前に出た。
「シシオ・マコト! よくもお父様達を!」
あいつがシシオ!
シシオはじろりとアマリアさんを睨みながら、思い出したように言った。
「おや? ……あの王族の」
「仇を討たせてもらうわ!」
「おいおい、女・子供は逃がしたんだ、感謝されてもいいぐらいだぜ?」
アマリアさんが王族? アマリアさんを見ると杖を構えようとしていた。
「おい」
しかし、シシオの眼光に制される。
「っ……!」
「やめておけよ、お嬢ちゃん。せっかく生き延びたんだ、犬死には勿体ねえだろ」
師匠が前に出た。
「お前が京都で騒ぎを起こしていた、志々雄 真実とやらか」
「比古 清十郎、俺を知っているようだな。……やっとはっきりした」
「なに?」
「ご覧の通り、この世界には向こうから流れつく奴がいる。俺様や、あの刀鍛冶、お前もな」
「……」
「問題は“どの時代”のお前がこの世界に来たのか。……俺の記憶じゃ不二やら鎌足やらの京都を襲った奴らはお前に倒されたはずだ。だが、お前は奴らを知らなかった」
どの時代……? どういうことだ……?
「そして俺は抜刀斎に剣で敗れた後、俺様はあの城に残った……」
シシオは細長い奇妙な形の煙管を燻らせて言う。
「つまり、ここにいるアンタ。比古 清十郎は “アンタが抜刀斎と会った後、そして、俺が抜刀斎と斬り合うより前に” ここに流れ着いた」
「……あのバカはお前を斬ったのか?」
「さぁな。答える義理はねぇ。オレもアンタほどの剣客を斬ったのが誰なのか聞きてぇところだが、まぁ、なんにせよ俺の手の内がバレてねぇのは好都合」
話が分からな過ぎて、ハンジローさんに聞く
「ハンジローさん。これどういうことですか?」
「……さっぱい分からん」
シシオは立ち上がってこちらを見下ろす。
「こうやってここに来たのは何かの縁だ。俺様はこの国の王になる。同じ轍は踏まねえよ」
ハンジローさんが割って入った。
「人斬り風情が国の王じゃと? そげなこつがあるものか」
「はっ、お前に言われるとさすがに笑うぜ。人斬り風情が大将まで上り詰めたくせによ……中村半次郎」
「——っ! おいを知っとっちょか」
「俺は記憶力が良くてね。島津の腰巾着までちゃんと覚えてんだよ」
「貴様……」
「怒るなよ? 同じ人斬りのよしみだ。お前さえ良ければ俺の下につかせてやってもいいぜ?」
「お断りじゃ!」
「お前ら、おかしいと思わなかったのか? こんな異国で、いきなり話が通じる、しかし日ノ本の言葉だけが通じない。俺達の言葉はこの国の言葉に変換されているんだ。知らねぇうちにな」
「何が言いたい」
「これは人知を超えた力が働いている。つまり、誰だか知らねぇ神がかった存在が ”殺し合え” って言っているんだよ」
「こん外道が、ここでも殺し合いをするつもりか!」
「だからさっき言ったろ。俺はこの世界でまた国獲りをする。そして俺の国を作る」
「その先に何がある? ここで領土ば広げたところで明治政府に復讐はできんぞ」
「そんな小せえことはどうでもいいんだよ。俺は俺が欲しいものをいただく。それだけだ」
「おい、志々雄 真実」
唐突に師匠が遮る。
「……なんだ、比古 清十郎」
「お前が”あのバカ弟子”に敗れた理由が分かったぞ、……知りたいか?」
一瞬言葉を失ったシシオは、師匠を睨みつけたまま、返答するでもなく言った。
「……由美、相手してやれ。殺しても構わねぇ」
「はい、志々雄様」
立ち上がった女の人はしなやかな動きでお辞儀をする。
「十本刀•真打が一人、由美でございます。……参ります!」
その人は何かをかみしめるように魔法を唱え始めた。
「ああ、今度こそ、本当に志々雄様のお役に立てる……」
稲妻を身にまとっている!?
「なにこの魔力! そんな……有り得ないわ!?」
——天津雷華 ・花鳥風月
閃光が走ったかと思えば、稲妻が蛇のようにのたうち回る。その先に触れた、机やら柱は、粉々に砕かれていく!
だめだ! よけられない!
——危ない!
「ぐあああ」
目を開けると、師匠の背中が。
「師匠!」
咄嗟に刀に手をかける僕。
「半次郎! ロシュ! 刀を抜くなっ!」
師匠は僕を掴んで部屋の隅へ放り投げる。
「とどめよ!志々雄様の敵!」
「させない! 防御壁!!」
アマリアさんの防御魔法! なんとか防いだけど、このままじゃ……。
師匠はまた立ち上がって敵に話しかける。
「妖術とは驚いた」
「あら? まだ動けるのね。丈夫なお人」
「はねっかえりは嫌いじゃないぜ」
「あなたもなかなか良い男ね。……志々雄さまほどじゃないけど、ねっ!」
その瞬間、窓の外から轟音が響いた。あれは軍隊!?
「囲め! 逃すな!」
男の怒号が重なり、外からは一斉に矢が放たれる音がした。
敵は外を確認し、怪訝に言う。
「あれは相楽ね……!? 誰かがこの場所を密告した……!」
敵の目が揺らいだ。
「ロシュ、伏せろ!」
師匠はいつのまにか刀を抜いて低い姿勢をとった。
——飛天御剣流 龍槌閃
同時にハンジローさんが僕とアマリアさんをまとめて抱える。
次の瞬間、僕たちは崩れ落ちる床と共に暗闇へと落下していた。




