11 市井の者
森の中に続く血の跡をたどる。この先に小さな村落があったはずだ。確か石炭が採れる村だった。
村が近づくにつれ、空気が重く淀んでいく。
地面には血に染まった布切れや、ボロボロの服が散乱していた。
やがて村の入り口が見える。
先頭を歩いていたハンジローさんが足を止めた。
「……外道が」
「なによこれ……」
アマリアさんが絶句する。 あれを見て素通りはできない。
村の真ん中に、むごたらしく殺されたであろう死体が吊るされていた。若い女性だ。
「そいか……志々雄軍団ちゅうのは相当な悪党どもじゃ」
ハンジローさんは刀に手をかけると、一歩進み出て、吊るされている支柱を前に立つ。
「しゃあらぁ!」
抜刀術。
両手でも抱えきれないような支柱が一刀でなぎ倒された。
アマリアさんが降りてきた綱を切り、慎重に死体を抱き下ろす。
「なんでこんな……」
「この村は志々雄の手に落ちたようだな」
「どういうことですか?師匠」
「やつらは暴力で村を支配している。その女は先ほど逃げた男の親類だろう。逃げた罪をなすりつけられ、同罪として殺された……というところか」
「……許せない」
アマリアさんが震える声で呟いた。
——カーン、カーン。
鐘の音が村に響いた。見ると、ボロ布を纏った子どもが必死に鐘を鳴らしている。
あっという間に取り囲まれ、1人が前に進み出た。
「おい、俺たちの仲間が世話になったらしいな」
ハンジローさんが落ち着いた様子で聞く。
「貴様ら、軍人としての誇りはないんか」
「は?」と敵が鼻で笑う。
「軍隊が拠点を占領するのは定石よ。だが、市井の者に手を出すとは外道じゃ、と言うとる」
「何言ってやがる! ここは志々雄軍団の領地だ。弱い奴は死ぬ、それが運命よ!」
一斉に笑い声があがった。
「いいかぁ? お前らもすぐに——」
「チェストォ!」
雷鳴のような気合と共に、ハンジローさんがすさまじい速度で切り込んだ。
一人、二人、三人。あまりの速さに誰も動けない。あの速さ……!
斬り伏せられた仲間を前に、残りはたじろぐ。
「い、いてぇ!」
「弱い奴ば死ぬ……。よか。なら貴様らも恨みっこなしじゃ」
睨み据える声に敵が怯む。
「囲め! やっちまえ!」
怒号を合図に、僕たちは武器を構えた。
ハンジローさんはすでに敵の群れの中へ飛び込んでいた。
「雷の矢!」
アマリアさんの雷撃が後方から支援する。
僕も駆け出し、渾身の一撃を放つ。
「ぐはぁ!」
……当たった! 修行の成果だ!
「ロシュ、下がれ」
師匠が前に出て切り込んでいく。
「余計じゃ! 比古!」
「みね打ちとは優しいな、半次郎!」
「せからしか!」
次々と倒されていく敵。あれだけいた集団は瞬く間に数人を残すのみとなった。
「だ、ダメだ! 逃げろ!」
一目散に奥へ走っていく数人。だが途中でどしゃりと倒れた。
——血を吐いている!
「なっ……!」
思わず声が出た。他の逃亡者は許しを請うように地に伏している。
「魔法よ!」
アマリアさんが注意を促す。そういえば空気が湿っているような感覚だ。
遠くから足音。ゆっくりと歩み寄る人影がある。
——逃亡者は死罪だと言ったはずだ。
声が響いた途端、地に伏していた者たちは次々に血を吐き、そのまま動かなくなった。
霧の中から男があらわれた。
「また会ったな、比古 清十郎」
あいつは……確か、森の中で会ったウスイとかいう男だ。
「なんだ。お前も志々雄軍団だったのか」
「ご名答。そしてお前はまんまと罠にはまったというわけだ」
「なんだと……」
「何、心配することはない。うちの大将が話をしたいだけだ。ついてこい」
ウスイがそう言うと、師匠は黙って頷き、後についていった。
「いいの? 罠かもしれないわよ」
アマリアが声を低く張る。
「構わん。奴を斬ればそれまでだ」
師匠は淡々と言った。
僕とハンジローさんも、師匠の後を追った。
入口を抜け、大きな扉の前に案内される。扉越しに何か動く気配。
ウスイが声をかける。
「連れてきた」
言い終わると、ウスイの輪郭が霧のように僕らの間をすり抜けて、消滅する。
次の瞬間——
——ゴゥッ!!
仕切りがひとりでに燃え上がり、炎は一瞬で灰を残して消え去った。
再び、奥から声が響く。
「奥へ来い、話をしよう」
僕たちは互いに顔を見合わせ、警戒を強めながらゆっくりと扉へと歩を進めた。




