↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
12/27

11 市井の者

 森の中に続く血の跡をたどる。この先に小さな村落があったはずだ。確か石炭が採れる村だった。


 村が近づくにつれ、空気が重く淀んでいく。


 地面には血に染まった布切れや、ボロボロの服が散乱していた。


 やがて村の入り口が見える。


 先頭を歩いていたハンジローさんが足を止めた。


「……外道が」


「なによこれ……」


 アマリアさんが絶句する。 あれを見て素通りはできない。


 村の真ん中に、むごたらしく殺されたであろう死体が吊るされていた。若い女性だ。


「そいか……志々雄軍団ちゅうのは相当な悪党どもじゃ」


 ハンジローさんは刀に手をかけると、一歩進み出て、吊るされている支柱を前に立つ。


「しゃあらぁ!」


 抜刀術。


 両手でも抱えきれないような支柱が一刀でなぎ倒された。


 アマリアさんが降りてきた綱を切り、慎重に死体を抱き下ろす。


「なんでこんな……」


「この村は志々雄の手に落ちたようだな」


「どういうことですか?師匠」


「やつらは暴力で村を支配している。その女は先ほど逃げた男の親類だろう。逃げた罪をなすりつけられ、同罪として殺された……というところか」


「……許せない」


 アマリアさんが震える声で呟いた。


 ——カーン、カーン。


 鐘の音が村に響いた。見ると、ボロ布を纏った子どもが必死に鐘を鳴らしている。


 あっという間に取り囲まれ、1人が前に進み出た。


「おい、俺たちの仲間が世話になったらしいな」


 ハンジローさんが落ち着いた様子で聞く。


「貴様ら、軍人としての誇りはないんか」


「は?」と敵が鼻で笑う。


「軍隊が拠点を占領するのは定石よ。だが、市井(しせい)の者に手を出すとは外道じゃ、と言うとる」


「何言ってやがる! ここは志々雄軍団の領地だ。弱い奴は死ぬ、それが運命よ!」


 一斉に笑い声があがった。


「いいかぁ? お前らもすぐに——」


「チェストォ!」


 雷鳴のような気合と共に、ハンジローさんがすさまじい速度で切り込んだ。


 一人、二人、三人。あまりの速さに誰も動けない。あの速さ……!


 斬り伏せられた仲間を前に、残りはたじろぐ。


「い、いてぇ!」


「弱い奴ば死ぬ……。よか。なら貴様らも恨みっこなしじゃ」


 睨み据える声に敵が怯む。


「囲め! やっちまえ!」


 怒号を合図に、僕たちは武器を構えた。


 ハンジローさんはすでに敵の群れの中へ飛び込んでいた。


「雷の矢《トゥネットスリツ・サジタリア》!」


 アマリアさんの雷撃が後方から支援する。


 僕も駆け出し、渾身(こんしん)の一撃を放つ。


「ぐはぁ!」


 ……当たった! 修行の成果だ!


「ロシュ、下がれ」


 師匠が前に出て切り込んでいく。


「余計じゃ! 比古!」


「みね打ちとは優しいな、半次郎!」


「せからしか!」


 次々と倒されていく敵。あれだけいた集団は瞬く間に数人を残すのみとなった。


「だ、ダメだ! 逃げろ!」


 一目散に奥へ走っていく数人。だが途中でどしゃりと倒れた。


——血を吐いている!


「なっ……!」


 思わず声が出た。他の逃亡者は許しを請うように地に伏している。


「魔法よ!」


 アマリアさんが注意を促す。そういえば空気が湿っているような感覚だ。


 遠くから足音。ゆっくりと歩み寄る人影がある。


——逃亡者は死罪だと言ったはずだ。


 声が響いた途端、地に伏していた者たちは次々に血を吐き、そのまま動かなくなった。


 霧の中から男があらわれた。


「また会ったな、比古 清十郎」


 あいつは……確か、森の中で会ったウスイとかいう男だ。


「なんだ。お前も志々雄軍団だったのか」


「ご名答。そしてお前はまんまと罠にはまったというわけだ」


「なんだと……」


「何、心配することはない。うちの大将が話をしたいだけだ。ついてこい」


 ウスイがそう言うと、師匠は黙って頷き、後についていった。


「いいの? 罠かもしれないわよ」


 アマリアが声を低く張る。


「構わん。奴を斬ればそれまでだ」


 師匠は淡々と言った。


 僕とハンジローさんも、師匠の後を追った。


 入口を抜け、大きな扉の前に案内される。扉越しに何か動く気配。


 ウスイが声をかける。


「連れてきた」


 言い終わると、ウスイの輪郭が霧のように僕らの間をすり抜けて、消滅する。


次の瞬間——


——ゴゥッ!!


仕切りがひとりでに燃え上がり、炎は一瞬で灰を残して消え去った。


再び、奥から声が響く。


「奥へ来い、話をしよう」


僕たちは互いに顔を見合わせ、警戒を強めながらゆっくりと扉へと歩を進めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。