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19-姉も乱入してくる

「別に……同級生だからとか、年上だからとかで決めるわけじゃないですね……」


 凛子がグラスを傾けながら頷き、真琴がグラスに追加のお酒を注いだ。


「普通に好きになった人は好きですし、好きって言われたら……それは普通に嬉しいです」


 一瞬、居間が静かになった。

「……」

「……」


「雪斗君は多愛主義なのか」

「最近増えたよねー。昔からいてるのに名称付けされたから増えた気がするやつ」


 聞いたことのない単語に俺は思わず真琴に聞き返した。


「多愛主義?」


「要は一人だけって決めず、あちこちフラフラとする恋愛観のこと。好きな人や好きって言ってくれる人を否定しないっていう考え方ね。そう言うテーマのドラマも多いでしょ?」


 真琴が笑いながら説明してくれたのだが、それはただの遊び人というやつではないだろうか。



 いや、名前がついた途端と言っていたので、そういう性格を持った人をそう呼ぶということか。

 となれば本質的に男は大体がそういうグループなのだろうか。



「まあ、要するにモテるやつの理屈だな」



 バッサリだった。

 もっと民族学的な崇高な分析文類なのかと思っていたのに。



「……俺、別にモテてないですよ?」

「いやいや、こよ状況でそれは無理あるし、女の子に失礼でしょ」


 はるかにポンポンと肩を叩かれる。バシバシと叩かれると言った方が正解かもしれない。



「でもまあ、若いな」


 真琴が締めくくる横で、みつきは少しだけ目を丸くしていた。


「へぇ……雪斗くん、そういう恋愛観なんだ」


 コップを持ったまま、俺の腕に絡めていた腕を軽く揺らす。


「違うと思う」

「でも今そう言ってたよね?」

「そういうつもりじゃないぞ」


 別に遊び人宣言をしたつもりはなく、彼女居ない歴=年齢が必死に考えた返事なだけだ。

 みつきはくすっと笑う。


「ふふっ、じゃあ……私も普通に好きになっていいんだ」

「……」


 内緒話の距離で普通に宣言された俺を見て、はるかが吹き出した。


「ほら、攻撃力高い」


 真琴が肩をすくめる。


「これはひなたちゃん大変だな」


 みつきはコップの水を一口飲んでから言った。


「でも、ひなたも多分気にしないと思いますよ。だって……」



 みつきは少し考え言葉を選んでいるようだが、その続きの言葉に俺が助かるルートはあるのだろうか。



「ひなたも雪斗くんのこと好きだし、お姉ちゃんも、多分好きだと思うよ」



 袋の鼠だった。

 凛子がグラスを持ったまま肩を揺らすほど笑った。



「情報量多すぎて酒が回るのが早いよ」

「ラブコメだね、完全に」


 居間が笑い声に包まれた……その時、廊下の方から床がきしむ音がした。

 みつきがちらっとそちらを見るのにつられ、俺もそちらを見る。


「……あれ?」


 廊下の暗がりに居たパジャマ姿のかぐやと目が合った。


「……かぐや?」


 俺が声をかけると、かぐやは少しだけ肩を揺らし部屋に入ってきた。


「起きてたのか」

「ええ……その……」


 少し視線をそらしながら、手に持っていた空のコップを見せた。


「水を取りに来ただけよ」

「あ、私もお茶の間に来たの忘れてた」

「戻ってこないと思ったら」


 そのやりとりが終わるのを待って、はるかがくすっと笑った。


「こんばんは、かぐやちゃん」

「ごめんね、騒がしくて」


「起こしたか?」

「いえ、まだ寝る前でしたので」


 酔っ払い組が口々に言う横で、かぐやのグラスにお茶を注いでやる。

 かぐやは「ありがと」とこぼし、お茶を一口飲んで室内を見回した。



 テーブルの上の酒瓶につまみ。

 座り込んで出来上がった様子の3人。


「……楽しそうですね」

「大人の時間だよ」

「雪斗も巻き込んでるところだけどね」


 お茶を飲んだら寝に行くのかと思ってたが、そのに凛子がくすっと笑って爆弾を落とした。


「雪斗君の恋愛相談中」


 かぐやの動きが一瞬止まった。


「……恋愛相談?」


「雪斗君が多愛主義……つまり好きになってくれた子は平等にみんな好き系男子らしい」

「……」


 かぐやがゆっくり首を動かし、俺に視線を向けてくる。


「そういう感じなの?」


 俺はため息をついた。


「違う」

「でも今そう真琴さんが言ってたよ?」


「いや、そういうつもりじゃないって」


 かぐやは少しだけ沈黙し、ポットからお茶を注いで一気飲みをし、再び満タンまでお茶を入れた。


 そのコップのお茶も飲み干すのかと思ったらが、かぐやは俺の方に身体を向けた。

 怖いぞ。



「……つまり、女の子に好きって言われたら嬉しいってこと?」

「それは……普通そうだろ」


 かぐやはコップのお茶をまた一気飲みした。

 トイレが近くなるぞと思いながらかぐやの次の行動から目が離せない。


 真琴がグラスを傾け氷がカランと静かな部屋に響いた。



「じゃあ、私が好きになっても、別に問題ないわね」

「……」



 居間が更に沈黙に包まれ、すぐにはるかが吹き出し、凛子も豪快に笑う。



「うわ」

「この姉妹強すぎる」

「これは戦国時代だな」



 その横で、みつきは楽しそうに笑っていた。


「あはは、ほらね。言ったでしょ?」


 そして俺の腕を軽くつついてから腕を絡ませると、反対側にかぐやが座った。

 いつの間にか真琴さんがはるかの隣に移動していた。



「で、みつきはどうしてそんなにベタベタしてるにかしら?」

「むしろお姉ちゃんはなんでしないの?」


「…………それもそうね」


 そう言って左腕にそっと触れた細く冷たい手のひら。びっくりするほどの……みつきとはまた違う柔らかさのものが肘に当たる。


「ひなたちゃんがこれ見たら泡を吹いて倒れるんじゃないかな」


「あー……ひなたは、多分……」



 そう言って、みつきがテーブルの向こうまで四つん這いで這っていった。

 かぐやも何かと向こう側へと周り女性陣で内緒話が始まった。



 ……なんだこれ。



 しばらくして情報の共有が終わったのか、みつきとかぐやが「そろそろ寝るね」と立ち上がった。



「ふふっ、女子校というのは勿体無いことをしたなって思うわね」

「凛子は結構アレだったろうに」

「真琴さんに言われなくないですよ」



 よし、なんかわからんが今のうちだと俺も席を立ち上がった。



「雪斗君、2人が迷わないように部屋まで送っていってあげてね」

「送り狼はまだ早いからな」

「おやすみ、雪斗くん」



 酔っ払い3人に次々と言われたが、最初のやつはおかしいだろ。家の中だぞ。



「じゃ、おやすみなさーい」


 みつきがさっと俺の右腕に腕を回してくる。

 やめなと伝えるより早く反対側にかぐやがしがみついてきた。


 2人とも酔っ払っているのかと思うほどの、特にかぐやは普段の様子から他人ではないかと思う。


「雪斗、送ってね?」

「お姉ちゃん、突然のデレ期だぁ……」


 俺はどういうテンションで入れば良いのか分からず、引っ張られるように2人を部屋まで送ったのだった。


 姉妹の部屋の前で押し問答が起こりそうになったが、無事に部屋へと逃げ出してきたのだった。


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