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16-荷解きは人海戦術

 葵が立ち上がり玄関の方へと向かうので、出迎えは任せようと俺は座ったままお茶を飲んだ。


 みつきとひなた、かぐやも玄関へと向かっていった。

 少し間を空けて座ったのにはるかさんがススっと寄ってきた。


「雪斗くん行かなくていいの? もしかして私と居たかったの?」


 ふふっと笑いながら身体を擦り寄せてくるので、横に少しズレて離れる。


 くっつきたいわけじゃないが、この状況を見られるとまたあらぬ誤解を受けそうなのだ。

 つまりただのリスクヘッジ。


「違いますよ、玄関そこまで広くないので」

「……今度、飲むの付き合ってね」


 なぜかパチっとウインクをされたので庭の方へと視線を向け、虚無を見つめることにする。


「雪斗呼んでるで」


 襖から顔を出した葵の後ろから母が顔を出した。


「雪斗、せっかくやし来て。はるかさんも」


 そう言われては仕方ないと、立ち上がって隣のはるかに手を伸ばす。

 はるかは一瞬きょとんとして嬉しそうに手を掴んで立ち上がった。


「そういうところか」

「……どういうところです?」

「よいしょっ……と」


 はるかのタンクトップから覗く胸元の景色がなかなかよろしくないので、なるべく縁側の方に視線を向ける。



 玄関へ行くと母の後ろに2人の女性が立っていた。

 落ち着いた雰囲気の女性と、制服姿の女性だった。


 1人は大学生くらいだろうか、肩までの髪で、大きめのリュックを背負っている。


 その斜め後ろにいる制服姿の女の子は白鷺附属の制服だが、リボンの色が1年のものとも、2年のものとも違っていた。


「……3年や」

「そうね、3年の色ですね」


 母が2人に自己紹介するように声をかけ、俺たちの方に向き直った。



「とりあえずもう1人は後から来る言うてたから、先に2人挨拶しとこうか」

「後から来る?」



 首をかしげたところで、庭の方からやたらと低いエンジン音が響いてきた。

 ブォン、と乾いた音に葵がびくっとする。


「なにこの音」


 俺も窓の方を見ると庭の入り口のところに、大型バイクが止まった。

 黒いフルフェイスのヘルメットを被った人物がエンジンを切った。



「……バイク?」

「でか」


 葵もそのバイクの大きさに驚いていた。

 ヘルメットの人物はゆっくり降りて、ヘルメットを外すと、長い髪がふわっと広がった。


「……女の人や」


 葵がぽつりと言い、母が笑った。


「その子がもう1人の子や。自分で来る言うから先帰ってきたんやけど流石に早いなぁ」

「すごい……」


「なんかすごい人来たね」

「雪斗くん……大丈夫かいな」


 俺は少しだけ庭の方を見ると、大型バイクの横で、その女性が手袋を外していた。


 バイクが大きいせいかもしれないが妙に身体が小さく見える。


「……まあ、にぎやかになるのは、悪くないと思う」


 俺はそう言って肩をすくめるとみつきが笑うが、ひなたは何も言わず、庭の方を見たままだった。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 みんなの注意を向けるように母が手を叩いた。


「はいはい、とりあえず自己紹介しとこか。これから同じ家で暮らすんやしな」


 葵が小さく言う。


「ほんまに寮みたいになったやん」

「葵ちゃん聞こえてるで」


 母が笑いながら突っ込んで、葵は肩をすくめた。

 母はまず、玄関の一番手前に立っていた女子高生の肩をポンポン叩いた。



「この子が白鷺附属の3年生」


 その子は背筋を伸ばして、落ち着いた様子で頭を下げた。


「はじめまして。白鷺附属高校三年の桐原紗月(きりはらさつき)です。受験の準備もあって、しばらくこちらの関西キャンパスに通うことになりました。ご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします」


「……先輩や」


「お姉ちゃんより先輩だね」




 次に母が隣の女性を指す。


「こっちの子は大学生やな」


 リュックを背負った女性が柔らかく笑った。


「こんにちは。白鷺女子大学、人類文化学部の高瀬凛子です。このあたりの研究の都合でしばらくこちらに住ませてもらうことになりました」



 その声を聞いた瞬間、一番後ろの方にいたはるかが少し身を乗り出してきた。


「……あれ?」


 玄関の凛子も目を丸くする。


「はるか、やっほー」

「凛子?」


 2人は一瞬見つめ合って、同時に笑った。


「なんでここにいるの」

「はるかが来るって聞いたから、私も申し込んでたのよ? 提出物が合ったから遅くなっちゃったけど」



 葵が小声で「知り合い?」とはるかに聞く。


「同じ研究室の友達よ」


 最後に庭の方から歩いてきた大学生が玄関に入ってきてバイクジャケットを脱ぎながら挨拶をする。


「すみません、遅くなりました」


 長い髪を軽くまとめながらペコリと挨拶をする。


「白鷺女子大学、文化人類学専攻の神谷真琴です」


 その名前を聞いて、はるかが少し笑った。


「やっぱり真琴さんだった」

「お、藤森じゃん」

「久しぶりです」


 葵がひなたとひそひそ話す。


「また知り合い?」


 それを聞いたはるかがみんなに改めて説明してくれた。


「凛子は同級生で、真琴さんは同じ研究室の先輩なんだけど、ほとんど研究室に居ない人で……なんというか神出鬼没?」


 神出鬼没と言い表されるのはどう言う人なんだろうと思っていると、真琴が肩をすくめて苦笑した。


「研究で全国を回ってうろうろしてるからね」


 みつきが目を丸くする。


「バイクでですか? かっこいいー」

「ほんまやね!」




 そんな俺たちを満足そうに見ていた母が頷いた。


「はい、これで3人とも挨拶終わったわね? じゃぁ次こっち」


 そして俺たちの方を指し、俺たちに自己紹介を促した。


「こっちがこの家に住んでる子たちね」


 母のセリフにみつきが一歩前に出た。


「九条みつきです。えっと、紗月さんと同じ高校の1年で、ここに下宿してます」


 その隣のかぐやが軽く頭を下げる。


「九条かぐや、2年です。妹と一緒にお世話になっています」


 はるかも手を挙げた。


「藤森はるか。大学の民俗学でこの辺りを調べてるので、ここに住ませてもらってます」


 次は私と言わんばかりに、その横に居た葵が手を振った。


「植村葵です。この雪斗とは同級生で、ご近所です」


 ひなたも少しだけ前に出る。


「三輪ひなたです。……同じく近所に住んでます」


「で、これが私の息子」


 全員の視線が集まるのを感じる。


「葛城雪斗です。高校1年生です。よろしくお願いします」


「よし、とりあえず中入ろか。荷物はもう来てるらしいから、あとで部屋に案内するわ」


 そう言って母は3人を居間へと案内しようとし、葵とみつきが「あ、片付けなきゃ」とパタパタと走っていった。


 その後ろからついてきた凛子がはるかに「あんたなんて格好してるの」とこそっと言っているのが聞こえた。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 そのあとは一旦居間で一息つき、母が「ほな部屋見せよか」と言って3人を離れの方へ案内していった。

 俺も一応ついて行くことになり、みんなで縁側から離れへと向かう。


 離れの廊下には、さっき運び込まれた段ボールがそれぞれの部屋の前に置かれていた。


「この一つと向こうの二つが今日から使う部屋やな」


 母が順番に襖を開けていく。


「こっちが紗月ちゃん、向こうに凛子ちゃんと真琴ちゃんな。洗面所はこっち、お風呂は母屋の方やけど慣れたらすぐ分かるで」


 母の説明に3人がそれぞれ頷く。


 凛子は部屋を見回して「すごい広い」と感心していたし、真琴は窓を開けて庭を見ながら「風通しがいい……素敵」と言っていた。


 紗月は部屋の真ん中に立って、静かに一度だけ深呼吸をしていた。


 そのあと洗面所や風呂場の場所を軽く案内して、母屋へ戻る。

 荷物の整理はどうするのかと思っていたら、みつきが手を挙げた。


「あっ、私たち手伝いますよ」

「そうやな、人数多いし早いわ」


 ひなたと、かぐやも一緒に手伝ってくれるらしい。

 はるかはすでに凛子に着いて荷解きを始めている……のだが。


「雪斗……ガン見しすぎやで」


 葵が耳元で……ひなたに聞こえないようにそんなことを言ってきた。


「段ボール開けますね」

「服はこっちにまとめた方がいいかもしれませんね」

「この棚使っていいんですか?」


 と、女性陣がぞろぞろ手分けして荷解きを始めた。


「それ多分真琴さんの」

「工具箱?」

「なんでこんなの持ってるんですか」


 3人よれば姦しいとはよく言ったもので、楽しそうな声が聞こえ始めてきた。


「母さん、俺、何かすることある?」


「ないな。女の子の荷解きにあんたおったら逆に邪魔やろ」

「そうか」


「あ、ひなたちゃんと葵ちゃんご飯食べてくでしょ? 作るの手伝ってくれる?」

「はーい、わかりましたー」

「はい、お手伝いしますね」


 しばらくして、台所の方からひなたと葵の声、包丁の音が聞こえ始め、母は手分けしながら夕飯の準備が始まった。



 それから1時間ほど。

 俺はやることもないので、1人で問題集を解きながら時間を潰していた。


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