010 急がば回れ
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フロレアールは悩んでいた。
風壁で軟禁したとはいえ、直接的な危害は加えていない筈なのだが、件の五人組の様子から鑑みて簡単に諦めるとは思えなかった為である。
この街道を進めば当初の目的地としていた町に至る。
普通に歩を進めれば後二日も要せずに到着する予定であったことから、急ぎ足の彼らならば明日には辿り着くと思える。
もし、この場から間を置かずに移動を再開した場合には、街道を進んた先や目的の町で彼らが待ち構えており遭遇することになるであろう。
フロレアールの姿は彼らには見られてはいない筈だが、御者から背格好の情報を得ている事も考えられる。
例え確証が無くとも、この状況で若い女が大した間を置かずに現れたとなれば、まず間違いなく疑いの目を向けられる筈である。
そうなれば、否が応でも少なからず言葉を交わすこととなり、最悪の場合には声で気付かれる恐れは決して低いものでは無い筈である。
いざとなれば、探知を駆使すれば彼らとの遭遇を避けることも、例え遭遇したとてもステータスに物を言わせて逃走することも可能であろう。
だが、フロレアールには一抹の不安があった。
それは自分自身の能力をまるで把握しておらず、使いこなせてすらいない点である。
加えて、様々な経験が圧倒的に不足していることである。
先の大規模自然破壊(&お漏○し)や全力疾走が良い例である。
つい先日まで聖女と目くされ、長閑な田舎 穏やかに過ごしていた村娘の彼女には致し方ないことであった。
そこでフロレアールは決意する。
怒りとは長い時間は継続し難く時間経過により薄れるものである。
加えて短く交わした声ならば時間が経てば経つ程に記憶は曖昧になる。
目的地の町への到着は遅くなるが、ほとぼりが冷めるまでの時間を稼ぐことを決意する。
自身の能力を知り、必要とあらば新たなスキルの習得や補助魔術を開発することで、自身の能力を十全と使いこなせる様に訓練する。
幸いにもマジックバックの食料には余裕があることから、ある程度の期間は飢える心配もない。
それでも無尽蔵という訳でもないので実戦訓練を兼ねて狩りを行うこととする。
そうなると先ずは何処で訓練をするのかを検討する。
故郷の村に戻っるのは、どの面下げればいいのか分からないから却下とする。
そして訓練となると人目につかないところと相場は決っており山とする。
それならば、今隠れ潜んでいる森を突っ切って山の方へと向かうことを決意する。
幸いな事に探知には魔物やモンスターの反応も無い。
フロレアールは疑問に思う。
村の人々から聞いた話よりも魔物やモンスターの探知反応が異様に少ない事に。
だが、盗賊とかと同じで数が減ってるのかな?と深く考える迄には至らなかった。
何事も無く森を抜けた後に、探知により問題が無いことを改めて確認する。
その上で、実験を兼ねて山に向かって全速力で駆けてみる。
その結果、フロレアールは困惑していた。
「何コレ、自分自身の身体なのにピーキー過ぎる...。」
身体能力確認を兼ねているので色々と試している最中に愕然とする。
フロレアールの肉体的なステータスの敏捷に関して判明したこと。
どうやら基本ステータスのみ、そして簒奪値が加算されたブースト状態とも言い表せる二段階の出力状態がある事が判ってきた。
先ずは基本ステータスのみ、つまりは人並みの範囲で駆けている時には細かな速度調整や加減速も何の苦もなく思うがままである。
生まれてから15年間普通に過ごしていたから当然の結果ではある。
そして問題なのが簒奪値が加わった、チートドーピングとも評する事ができるブースト状態が手に負えない。
何度も何度もチビりそうになる全力疾走を涙目で味わいながらブースト状態の出力調整を試みる。
その結果として判明したこと、それは全力全開と3割程に抑え込んた2段階しかブースト状態の調整は効かないということであった。
更にタチが悪い事にブースト状態は常に全力全開で発動する。
その後に、抑え込むことで移動速度を緩める事が辛うじて可能となるものであった。
...、今回はお漏らしなんてして無いわよ。
本当なんだからね。
さて、上からも下からも水分が漏れ出そうな目にあった甲斐もあり、ブースト状態の課題が判明しました。
そうとなれば、魔術で改善すれば良いだけの話である。
そう思っていた時代が私にもありました。
ですな、然は問屋が卸さないとばかりに簒奪値さんが抵抗したのです。
初めに思いついたもの、それは単純に速度を魔術で落とせば良いだろうというものであった。
結果としては失敗。
それはそれで改良すれば緊急減速又は緊急停止としては使えるのもであった。
なので溜飲を下げることにします。
それなのに何が失敗なのかと言うとですね、動き始める直前からでも減速を掛けると初動が遅すぎて全く使い物にならなかっなのですよ。
敵に掛けてたら面白いとは思うので今後で機会があれば試してみましょう。
それならばと全力全開で駆け出してトップスピードに達してた後に減速魔術を自身に掛けたのですよ。
はい、自損事故で盛大にコケて地面の上を信じられないくらい長距離転がり滑り続ける羽目になりました。
何故って腕や脚など身体全体の動きが遅れたのですよ。
意識した身体の動きと全く噛み合わず、移動速度が低下する前に盛大に逝きましたよ。
お気に入りのフード付き外套は破け裂けて消え失せました。
旅装束も見ての通りボロ雑巾と相成りました。
ですが、簒奪値で盛られている耐久のお陰様で私自身は擦り傷ひとつ負うことなく無事です。
逆に転がり滑った跡が大地に描かれています。
人の体で地面が抉れている事に驚いてますけどね。
サイズ直しと裾上げなどのに従事してくれた故郷の奥様たちゴメンなさい。
改めて自損事故後の自身の状態を確認する。
ボロボロの旅装束は擦り切れ、至る所が裂け千切れている。
その下からは砂に塗れたフロレアールの白い肌や下着の一部が顕になっている。
そして顔を覗かしている下着の一部もやはり擦り切れ裂けている。
本来ならば、おいそれと人目に晒す事が許されないものが、さらけ出されている。
胸の一方がその頂きにあるピンクの首を晒し、下方に至ってはヘソから下の肌や見えちゃイケナイ黒い毛などの一部も僅かに見え隠れしている。
不幸中の幸いとしてはマジックバック本体が辛うじて無事だったことであろうか。
肩に掛けて腰に廻していた作成品のものは旅装束の下を通していたのが幸いし外套と旅装束に護られていた。
とは言えども肩から掛けていたベルトは流石に擦り切れがありボロボロである。
腰ベルトの下を廻していたいたダンジョン産のものは、ベルト含めて殆ど無傷。
そして肝心のマジックバック本体は腰に携えていた白メイスに護られて度装束や下衣類のヒップ部分共々無事であった。
白メイスさん、本当にありがとうございます。
お陰様でマジックバックは無事でした。
この格好で衣服を調達する難関ミッションに挑まなくて済みましたので、人としての尊厳を保てそうです。
それにしても本当に丈夫で驚きです。
あっ、左前腕に篭手代わりに固定していた肉厚ダガー君が消えてる。
振り向き長々と続く抉れた大地痕を眺め、私は呟く手を合わせる。
「ダガー君、短いながら一緒に旅が出来て嬉しかったぜ。君の事は(多分)忘れないよ。」
さて、色々と失ったものともお別れも済ませたし、全身砂塗れなので洗浄してお着替えしましょうかね
...、だからチビって無いですよ。
本当の本当ですよ。
察しのいい方は何となくお分かりかもしれませんが、フロレアールは探知を人外ステータスに物を言わせて常時発動しています。
魔物やモンスターはその馬鹿げた魔力を強烈なプレッシャーとして感じとり有効範囲範囲外へと逃げ去っています。
ヒューマンや草食動物などは残念さんで感じ取れません。
一部の魔力感知系スキル保有者などは別扱いとなります。