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56.襲撃

めっちゃ説明回になってしまった・・・

本文の最後にローズ領周辺の地図?簡略図?のようなものを載せておきました。

少しでも物語の参考にしていただければ幸いです。

 亜種の群れが他の領地に行ったという報告が来た翌日、俺は朝から騎士連合の手伝いをしていた。

 お隣のクペ領に送る物資の運び出しである。

 今回の襲撃のために備えていた物資の三分の一程度は無償で送り、残りは状況を見て決めるのだとか。

 午前中に物資輸送の第一陣は出発しており、今準備している第二陣が出発すれば、とりあえず俺の騎士連合での仕事は終わりだ。


「結構な量を送るんだな。

こんなに送っちゃって大丈夫なのか?」


 俺は運び出される物資の山を眺めながら、隣にいるリーズに尋ねる。


「大丈夫よ、もともとこれは輸送路を分断された場合を想定した量だから。

クペ領に群の本体が行った今は、その心配もないからね。」


「ああ、あとは群れからはぐれたナーガを狩っていくだけだ。

それくらいなら今の人員でも対応できるだろ。

一週間もあれば騒ぎも収まるはずだ。」


 部下に指示を出していたバルバラも、少しさっぱりした表情でそう言う。

 まだ完全には収束していないが、とりあえずは一安心といったところなのだろう。


「でも、亜種って結構簡単に増えるんだろ?

その群れからはぐれたナーガが、また森で繁殖したりはしないのか?」


「大丈夫よ、そのために街道の警備の強化もするから。」


 俺の疑問にリーズが簡単にそう答える。


「・・・?街道を警備するだけでいいのか?」


「ああ、そうだ。

亜種は精霊族がいる場所にやってくる。

それは一度逃げ出した亜種でも同じだ。

まあ、本能みたいなものなんだろ。

わざわざ一匹一匹討伐しに行かなくても、森の手前を部隊に歩かせるだけでおびき寄せることができる。

そっちの方が明らかに被害も少ない。」


 なるほど、亜種の攻撃性を逆に利用してるってことか。

 確かにそれならこっちに有利な地形で戦えるしな。


「へー・・・

あれ?じゃあ何で俺、森に入って亜種倒す訓練してたの?」


 街道の警備ってつまり、森の手前の草原で戦うってことだよな?

 草原での戦い方なんて「指揮官の指示通りに魔法を撃ちなさい、あなたならできるわ」ってくらいしか教わってないけど?


 そんな俺の疑問に、なぜかバルバラが驚いた様にリーズを見る。


「警備隊じゃなくて偵察隊の訓練してるって話、本当だったのか・・・

えらいスパルタだな。」


「奴隷のレオが警備隊に参加することなんてないでしょ。

偵察なら私と一緒に行く機会もあるだろうけど。」


「まあ、確かにそうだがな・・・」


「え?え?どういうこと?」


 俺が何もわからず二人の会話を聞いていると、バルバラは少しかわいそうな人を見るような目で説明を始める。


「警備隊っていうのは亜種結界内の巡回と、結界間の街道の定期的な警備をやる部隊のことだ。

偵察隊は実際に領地付近の未開地に入って、亜種についての情報を調べてくる部隊。

亜種の群れが攻めてくるような非常時には合同で討伐隊をつくって作戦に当たるが、危険度は後者の方が断然高いだろうな。」


「マジでか・・・」


「大丈夫よ、問題なく戦えてるから。

それに最近はアッシュウルフの数も減って来てるし、それほど危なくはないわ。」


 驚愕の事実にリーズの顔を見ると、彼女は何でもないようなすまし顔でそう言った。

 くっ、こいつめ、チューしてやろうか!

 ・・・あ、いや、嘘です、ごめんなさい。

 昨日怒られたばっかりなのに、そんな勇気ないです。

 まあでも冗談でなく、リーズは俺が戦闘に参加しても危なくないように訓練してくれてるわけだし、感謝以外は無いんだけどね。



「リーズはレオに甘いのか厳しいのかよくわからんな。

まあだが、戦えてるって言うんならいいか。

未開地での戦闘を覚えさせた方が、領地開拓のときも役立つだろうしな。」


「バルさんは領地開拓にも参加したことがあるのか?」


「傭兵のころにな。

だが今は無理だ。

騎士連合の職員は領地開拓には参加できないんでな。」


「え、そうなの?」


「騎士連合の仕事は結界内の治安維持だ。

やって結界周辺の警備と、襲撃してきた亜種の撃退まで。

領地開拓のための戦力は領主が別途調達する必要があるんだ。

傭兵組合なんかを使ってな。

ローズ領にはないが。」


「そうね、うちの領地にあっても仕事がないし。」


 へー、でもそうなると、領地を広げようなんて考えてる領主さんは、ゼロから戦力を集めて、魔法協会の本部で見た巨大な魔方陣も用意して、さらにそこから人を集めて町を作らなきゃいけないと。

 一つ領地を増やすだけでも、相当な資金が必要なんだろうな。

 それにそう考えると、奴隷が領地拡大に使われる理由もなんとなくわかる。

 オウガみたいなタフな亜種がいれば、とりあえず突っ込ませて傷ついたら回復してを繰り返す、みたいな使い方ができるし。

 死なないようにさえ気を付ければ、使い古すということもない。

 傭兵よりよっぽど便利な存在だろう。

 強力で整備も簡単な戦車を一台買うようなものだ。



「でも傭兵を雇うって、領主は私兵を持ってないのか?」


 領主ってなんかそういうの持ってそうなイメージ。

 ローズ家に無いことは知ってるけどね。


「ハッハッハ、本当に何でも聞きたがるな!

日ごろこいつにどんな教育してるんだリーズ?」


「まあ確かに、何でそんなことまで聞きたがるのかって思うことはあるわね。」


 バルさんは面白そうな顔で、リーズは不思議そうな顔で俺を見る。


「もしかして聞いちゃマズいことだった?」


「いや、そんなことないぞ。

ただ、こいつ本当に亜種なのかって思っただけだ。

貴族学校にいた学生でもこんな熱心じゃなかったぞ。」


「まあ、あそこで本気で勉強してる生徒なんてごく一部だからね・・・」


 リーズは学生時代を思い出したのか、どこか微妙な顔で物思いにふける。


「それにしても私兵か、そうだな、年中戦ってるドラーク領の専属契約の兵なんかは私兵だろうが・・・」


「それ以外では、私兵なんてほとんどないわね。

そもそも私兵を持つメリットがないわ。

結界内とその周辺は騎士連合が守ってくれるし、私兵を持っても使うあては領地開拓くらいよ。

でも領地開拓をする機会なんてそうそう無いわ。

兵を養っていく費用を考えれば、傭兵の方がよっぽど合理的ね。」


「なるほど・・・」


 騎士連合っていう国軍、というか国営の警察組織があって、攻め込んでくる他国も存在せず、たしか精霊族同士の武力衝突もタブー。

 用途が領地拡大しかないなら、確かに私兵を持っておく意味はないな。



「ちなみに傭兵は日ごろどうやって稼いでるんだ?」


 領地開拓が頻繁に行われてないなら、傭兵の稼ぎ口だって無いだろ。


「それは亜種討伐の報奨金だな。

領主は普通、領地周辺の亜種に討伐報酬をかけてるからな。

未開地の希少な植物や鉱石を売ったり、未確認の亜種の情報を売ったりもできるが・・・

まあそれは少数派だな。」


 おっ、何かちょっと惹かれる話だぞ。

 討伐報酬で稼ぐ人が集まる組織って、なんか俗にいう冒険者ギルドっぽい。

 冒険者は少ないみたいだけど。

 いいなー、俺も入りたいなー。

 そして、ギルドにやってきた新米冒険者に足を掛けようとするけど失敗して返り討ちに合う、いじわる熟練冒険者の役をやりたい。


「へー・・・

あれ?じゃあもしかしてアッシュウルフも倒せばお金もらえたの?」


「もちろんよ、アッシュウルフの左耳を持っていけば騎士連合で換金してもらえるわ。

うちの領地の報奨金は他と比べると低いけどね。」


 お金もらえたのかよ!

 知ってれば森に入ったとき集めまくってたのに!


「でもリーズはアッシュウルフの耳、集めたりしてなかったよな?」


 ブルジョアの余裕ってやつか?


「報奨金が出るのは騎士連合の予算からじゃなくて領主の資金からだからね。

私がもらっても意味がないじゃない。」


「そういうことね・・・」


「あなた、もしかしてお金が欲しいの?

必要な物があるなら買ってあげるわよ?」


 俺が逃がした魚を思い悔しそうな顔をしていると、リーズがどこか心配そうに声をかける。


「あっ、いや、そういうわけじゃないんだ!

けど、なんだ・・・お小遣い分くらいは稼いでもよかったかな、なんて・・・」


「ああ、自由に使えるお金が欲しいてことね。

別にいいわよ。

確かにあなた、お金の計算できるものね。」


「マジで!?やった!」


 おっ小遣い!おっ小遣い!


「ハッハッハ、よかったなレオ。

そうだ、それなら今度いい酒屋を紹介してやろう!」


 小躍りし出しそうなほど喜ぶ俺に、バルバラが笑いながらそんなことを提案する。

 え、お酒か、全然考えてなかったなぁ・・・

 ローズ家ではお酒出ないし。

 どうしよっかな?

 俺もこの機会にちょっとだけ大人の階段上っちゃおっかな?

 でもバルさんにつきあってると、お金が入るたびにお酒を買ってくるダメな大人になりそう。


「・・・あまりレオに変なこと教えないでよ。」


「ハッハッハ、心配するなって。

あっそうだ、酒と言えばこの前、東方領のいいのが手に入ったんだ。

今夜一緒に飲まないかリーズ?」


「私はお酒飲まないって言ってるでしょ。

姉さんなら喜ぶんじゃない?」


「そういえばアニエス様とも久しく飲んでないな。

それじゃあ今夜お邪魔してもいいか?」


「ええ、いいわよ。

帰ったら姉さんにも伝えておくわね。

あっ、でももうじき中央から審査官が来るんでしょ?

あんまりうちと仲良くし過ぎると、また癒着だ何だって怒られるわよ。」


「ハッハッハ、いいんだよ、どうせあと二十年もすりゃ他の領地に転勤だろうし。

これ以上出世する気もないしな。」


 バルバラは書類片手に俺と肩を組み、また豪快に笑う。

 そうか、バルさんもいつか別のところに行っちゃうんだな。

 全然知らなかった。

 一か所の領主と関係を深めすぎないようにするためなんだろうが、バルさんのいない騎士連合を考えるとちょっと寂しいなぁ・・・


「・・・よし、じゃあ今日の夕飯は腕によりをかけて作るか!」


「ハッハッハ、そりゃいい!

楽しみにしてるぞ。」





 そんな和やかな会話の最中、外から荒い馬の足音が聞こえてくる。

 そして兵士が一人、転がるように建物に入ってきた。

 右肩と腕を負傷し、顔は青ざめている。


「ば、バルバラさん!!」


「何があった?」


 兵士の緊迫した様子を見て、バルバラの表情が一瞬で切り替わる。


「な、ナーガです!

輸送隊が襲われ、全滅しました!」


 ナーガだって!?

 隣の領地に行ったんじゃなかったのか!?


「場所と群れの規模は?」


「は、はい、場所はクペ領までの街道、約二十キロの地点です。

規模は、隊が襲われた群は百匹程度ですが・・・」


 バルバラの落ち着いた態度に、兵士も初めは冷静な口調を努めていたが、群れの大きさの説明で急に体が震え出す。


「ですが・・・その後方に、草原を埋め尽くすほどの大群が現れて・・・

私は報告のため離脱しましたが・・・

後方でくい止めていた仲間は全員・・・」


 兵士の言葉に、そばで作業をしていた他の騎士連合員もざわつき始める。

 報告が来ていたクペ領の群れよりはるかに大きい。

  

「全員、動き止め!!」


 バルバラはそんな兵士たちに、目が覚めるような大声で号令をかけた。


「運び出しは中止だ、すぐに全隊、出撃準備を始めろ!!

・・・良く戻ってきた、医務室までは行けるか?」


「は、はい!」




 兵士の報告を受け、バルバラたちはすぐに作戦室へと集まる。

  

「メスが出たな・・・いつからだ?」


 バルバラはいつになく険しい顔でそう問いかけた。

 メス?

 ・・・そういえば前散髪したときリーズに教えてもらったな。

 亜種は基本オスで、オスだけで増えることもできるけど、メスが生まれた群は特別大きくなるとかなんとか。


「初めに商隊が襲われたのが南方領との境目の街道で、それ以降は小さな群が数回表に出てきてるわ。

最初の襲撃のすぐ後に産まれたとすれば、最悪一ヶ月は経ってるわね。」


「死人が出てるのは最初の襲撃だけだったな・・・

そこで精霊族を喰ったナーガがメスを産んだって考えるのが妥当か。

なんにせよ、時間が経ち過ぎてる。」


「今の部隊だけで対応しきれるでしょうか・・・?」


 魔術師部隊のエルフ種の指揮官が弱々しい声で問いかける。


「いや、足りないだろうな。

物資はアニエス様が十分すぎるほど手配したおかげでまだ持つだろうが、兵士の数が足りなすぎる。」


「街道に来た群れの中にメスはいますかね?」


「メスはまだ森に潜伏してるはずだ。

居場所が特定できるまでは手が出せん。

とりあえずは結界と輸送路の防衛を優先させる。

その防衛部隊とは別に、飛行可能な兵士を集めた偵察隊をーーー」



「ど、どういう状況なんだ、リーズ?」


 緊急の作戦会議が進む中、苦々しい表情でバルバラの言葉を聞いていたリーズに俺は尋ねる。


「・・・最悪ここからここまでナーガ巣になってるってことよ。」


 そう言いリーズは、地図上のクペ領の南からローズ領の南までの広い範囲を指で囲んだ。


「そんなにか!

メスのナーガが産まれたって言ってたけど、それだけでそんなに違うものなのか?」


「メスが一匹産まれれば、群の規模は十倍になるって言われてるわ。」


「十倍って・・・じゃあメスを倒さない限りずっと増え続けるってことか?」


「そういうことよ。

それにメスは繁殖力だけじゃなくて知能も高いの。

距離が離れた場所からでも、同種のオスをある程度統率することもできるらしいわ。

初めに何度か小さい群を戦わせて勝てないことがわかったから、群れが大きくなるまで森で潜伏していたのね。

森のアッシュウルフが減っていたのも生息地を移したんじゃなくて、ナーガに狩りつくされていたせいだったのかもしれないわ・・・」




 そのとき、会議室の扉が静かに開く。

 入ってきたのはアニエスだった。


「遅くなってごめんなさい、バルバラさん。

メスの亜種が出たのね。」


「そうです。

しかもかなり数を増やしてる。

この規模だとローズ領の騎士連合では対応できません。

ですので、早急に他領地へ協力の要請をしていただきたいんですが。」


「ええ、ここに来る前に、コリー領とヘカトル領に援軍の要請、首都の騎士連合に亜種討伐隊の要請を送ったわ。

他に私の名前で協力をお願いした方がいい場所はある?」


「いいえ、十分です。

ありがとうございます。」


「援軍は早くても四日はかかるわ。

それまで持ちそう?」


「援軍が来るまでは、絶対に持たせます。

ですが、かなりの被害は覚悟しておいて下さい。」


「そうよね、被害は出るわよね・・・

結界の内側で待ちかまえて戦うことはできないの?

そういう戦い方もあるって聞いたことがあるのだけど・・・?」


 そうだ、亜種は結界の中に入ってこれないし、結界の内側から魔法を撃てば一方的に攻撃できるんじゃないか?


「・・・いや、やめた方がいいでしょう。

防衛線を結界の内側にまで下げてしまうと、結界の北側、町と街道のある方にまで亜種に回られてしまいます。

そうなると援軍部隊との連絡や、物資の補給ができなくなる。

それともう一つ、立地的に今回の亜種討伐で拠点になるのはここの結界です。

来た援軍を収容できるスペースもありますし、なにより他に拠点になりうるクペ領の最南端の結界は、恐らく今はもう亜種に包囲されてる。

結界を包囲した亜種を完全に排除して、防衛線を元の位置に取り戻すのに一週間はかかります。

もし今、防衛線を下げてここの結果が亜種に包囲されてしまえば、クペ領の結界の救出も含めて、今回の襲撃を治めるのにかかる日数はかなり伸びてしまうでしょう。

籠城戦に持ち込むのは最後の手段です。」


「そう、わかったわ・・・

・・・死傷者とその家族への支援は最大限いたします。

ローズ領を、どうかよろしくお願いします、バルバラさん。」


「ええ、任せてください。」





「バルバラさん!

出撃準備、完了しました!」


 作戦室に装備を身にまとった兵士がバルバラを呼びに来る。

 扉の外からも、戦いの前の物々しい気配が漂ってきていた。


「それじゃあ行ってくるわね、姉さん。」


 バルバラや他の幹部に続き、俺とリーズも作戦室を出ようとする。

 すると、


「待ってリーズ、レオ!」


とアニエスが俺達を呼び止めた。

 そして俺とリーズを二人いっぺんに抱きしめる。


「何もできないお姉ちゃんでごめんね。

絶対に、無事で帰って来てね。」


 耳元で呟くようなそのアニエスの言葉は、かすかに震えているようだった。


「・・・大丈夫だよ、アニエス。

絶対にちゃんと帰ってくるから。」


 俺はレミアにするように、アニエスの頭を優しく撫でる。


「そうよ姉さん。

それに、姉さんにしかできないことだってあるでしょう?

領主の姉さんがそんな風に不安がってちゃダメよ。」


「・・・ふふふっ、そうね。

ありがとう、二人とも。

私も頑張るわ。」


 アニエスはそう言い、いつものように柔らかい笑顔を浮かべた後、俺とリーズの頬に軽くキスをする。

 リーズはアニエスのキスに一瞬文句を言おうとしたが、「・・・まあいいわ」と照れたようにそのまま俺と外へ向かった。

 



挿絵(By みてみん)

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