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49.戦闘準備②

 バルバラのもとに戻ってきた俺とリーズは、そのまま作戦室のような部屋へと通される。

 部屋の正面の壁には大きな世界地図が掛けられ、中央にある机には、ローズ領周辺の詳細な地図、報告書、魔法書、亜種の図鑑など様々なものが置いてあった。

 そんな部屋の中をきょろきょろと見回していると、やがて幹部らしき数人が机の周りに集まってくる。


「よし、そろったな。

じゃあ始めるか。

リーズ、状況は把握してるか。」


「ええ。

出現したのはナーガ。

最後に被害が出たのは二週間前、クペ領とフラウ領の間の街道。

二、三の群がまとまってて、数は五十以上って聞いてるわ。」


「そうだ、最後に表に出てきてから時間もたってるし、今はもう倍くらいになってると考えていいだろうな。

けっこうな数だ。」


 バルバラはそう言い難しい顔をする。


「相手がナーガなら、きっと近付くだけで森から出てくるはずよ。

森の前に防衛線をしいて、重装兵でくい止めながら、後衛の魔術で一掃っていうのが無難じゃない?」


「まあそれしかないだろうな。

被害が分散しても困る。

森に入っての殲滅戦は、ある程度数を減らしてからにしよう。」


「長引きそうですね・・・

魔術師は今いる部隊だけで足りるでしょうか?」


 会議に参加していた一人が自信なさげに言う。


「いや、足りんだろうな。

そこは魔法協会にも援軍を頼む。

それと、変異種でない限り、ナーガは火に弱いはずだ。

魔法部隊には炎系統の魔法を準備させておいてくれ。」


「了解しました。」



「・・・なあリーズ。」


 黙って会議のなりゆきを見ていた俺は、そこで意を決し声をかける。


「なに、レオ?」


「俺も討伐に参加させてくれ。

魔法で戦うなら、俺もきっと役に立てるはずだ。」


 俺の発言に、作戦室が静まり返る。

 そして次の瞬間、バルバラの笑い声が響いた。


「ハッハッハ、そりゃいい!

自分から言い出すとは、やっぱりあんたは優秀な奴隷だな、レオ!」

 

「いえ、笑い事じゃありませんよ!

奴隷が魔術部隊を希望なんて。」


 会議に参加していた一人が焦ったようにバルバラに忠告する。


「いいや、心配いらないさ。

こいつは魔法だけでオウガを倒してる。

それもたった一人でだ。

そうだろ?」


 俺は黙ってうなずく。

 期待する目、懐疑的な目と向けられる感情は様々だが、全体としては俺の参加に賛成のようだ。


 しかしそんな中、すぐそばに立つリーズは静かに、睨むように俺を見据える。


「・・・本気で言ってるの?」


「ああ、本気だ。」


「・・・・・。」


 腕組みし、じっと俺の目を見つめるリーズ。


「・・・レオ、あなた前に、アッシュウルフに襲われたって言ってたわよね。」


「アッシュウルフって?」


「草原の先の森に住み着いてる、獣型の亜種のことよ。」


「ああ、そうだ。

そいつに襲われた後、レミアに助けられたんだ。」


「・・・バル、森の偵察って明日よね。」


「そうだな。」


「明日の偵察、あなたも付いてきなさいレオ。

いいわね。」


「わ、わかった。」


 俺の返事を聞くと、この話はもう終わりとばかりに、リーズは亜種の対策会議へと話を戻した。


 ・・・これはリーズからもお許しが出たってことでいいのかな?

 よかった、亜種との戦闘に一番詳しいのはリーズだからな。

 リーズが許可してくれたのなら、俺もある程度戦力になるということだろう。

 あとはレミアにこのことを言わないと。

 まあ本当に戦うことになるかは、まだわからないんだけどね。




 その後、物資の運用、兵を配置する範囲、もし亜種がローズ領に来なかった際の対応など、様々なことを話し合い、その日の話し合いは終わった。

 そしてバルさんの「腹が減ったな」の発言で、俺とリーズとバルさんの三人で騎士連合内の食堂へとやってくる。

 食堂には厨房の見えるカウンターと、いくつも古びた木製の長机が並び、談笑している休憩中の職員もちらほら見えた。

 食堂自体は営業時間外のようだったが、バルバラは厨房内をあさり、適当なつまみを持ってくる。

 もちろんリーズに叱られてた。


「あっ、そうだバル。

これ、持ってきたわよ。」


 そう言い、リーズはポケットから布で包まれた何かを取り出す。


「おお!これが例のやつか!」


 バルバラはそう言うと嬉しそうに布を解く。

 包まれていたのは、首都で買った腕輪の魔法陣だった。 


「あっ、それ確か対象・・・めっちゃ堅くなるやつか?」


 なんか名前が面倒くさいやつ。


「そうよ、腕輪型対象硬化魔法陣。

今日まで渡すのを忘れていたのよ。」


 そういえば確かに二つ買ってたな。

 一つはバルさん用だったのか。

 バルさんの方を見ると、彼女はクリスマスプレゼントを開けた子供みたいな顔で腕輪を見ていた。

 ちょっとかわいい。


「ち、小せぇ!!

こりゃ革命だぞ、リーズ!

ちょっと剣持ってくる!」


 バルさんは割れ物を扱うように腕輪を持ち上げ、驚きの表情でしばし眺めた後、走って食堂を出ていった。

 そして何かを担いで戻ってくる。


「で、でか!」


 バルさんが持ってきたのは俺の身の丈ほどもある巨大な剣だった。

 俺が首都の武器屋で見た両手剣よりずっとでかい。

 こんなの振れるのかよ。


「ハッハッハ、いいだろう?

特注品だぜ。」


 バルバラは得意げな顔で剣を担いぎ、嬉しそうに胸を張る。

 おぉ、さらに巨大な柔らかい武器が二も。

 最強だな。

 そしてよく剣を観察すると、その両面に一つずつ魔法陣が掘ってあるのも見えた。


「魔法陣も掘ってあるのか。

それは何の魔法なんだ?」


 そう言えば軽量化の魔法陣とかもあったっけな。

 剣の大きさを見るにそれと何かだろう。


「これか?

これは硬化魔法と重量化魔法だ。

いやー、この二つをつけるのに何本剣を無駄にしたか。」


 ・・・重量化魔法?

 軽量化じゃなくて?


「前にも言ったでしょ、鬼種は身体能力が高いって。

重量化魔法は相手に当てる瞬間に使って、剣の威力を高めるのよ。」


 説明を求めるようにリーズを見ると、彼女は淡々とそう答える。

 それじゃあ、素でこの大きさの剣を振れるってことか。

 マジで化け物だな・・・

 しかもこれが更に重くなると。

 正直振らなくても下敷きなっただけで死ねる自信がある。


「ていうか、バルさんって鬼種だったの!?」


 初耳だ。


「ああ、そうだぞ、ほれ。」


 バルさんはそう言い前髪をめくる。

 彼女の額には根本で折れた角の跡があった。


「この目も同じ時にやられたんだ。

ありゃひどい戦いだった。」


 バルさんは左目の痛々しい傷跡に触れ、少し遠い目をする。


「・・・その傷跡は魔法で消したりはできないのか?」


「治癒魔法は自然治癒を魔法が代わりにやっているだけだからね。

深い傷だと、傷は自体は治せても、傷跡は残っちゃうのよ。」


 そうなのか・・・

 ・・・あれ?

 でも俺が森で狼に襲われた傷は、跡が残らなかったぞ?

 あれってそんなに深い傷じゃなかったのか?

 いや、そんなはずは・・・


「ハッハッハ、気にすることないぞ、レオ。

今はもうこの傷も、逆に気に入ってるんだ。

見るからに威厳がありそうだしな。」


 バルバラの豪快な笑い声で、俺は現実に戻される。

 ・・・まあいっか、傷が治ってるならそれはそれで。



「よし、そんじゃあさっそく試すか!」


 バルバラはそう言い、持ってきた大剣を持ち上げ前に突き出した。

 腕輪の魔法陣が光り、その光は流れるようにして大剣へと移る。

 光が止むと、バルバラは剣の平をコンコンッと手の甲で叩くいた。


「・・・本当にかかってるな。

ありがとな、リーズ。

こりゃ重宝しそうだ。」


「いいわよ、別に。

日頃お世話になってるしね。」


 そう言い、バルバラはニッと口角を崩して笑い、リーズも小さくほほえんだ。


 うーん、なんかいいね。

 強者同士お互いを認めあう関係ってステキ。

 あっそうだ、強者と言えば、聞きたいことがあったんだ。


「なあ、ところでさ、バルさんとリーズってどっちが強いの?」


「・・・・・」


「・・・・・」


 その瞬間、休憩室が静まり返る。

 あっ、地雷踏んだな。

 もう空気でわかる、凍り付いてる。

 一つ隣の机で休憩してたラビィーナなんか「はわわわっ」とか言ってるし。


「ハッハッハ、そりゃあたしだろうな!」


 少し間をおいた後、バルバラは笑いながらそう言う。

 あぁ!そんなこと言ったらまたリーズがムキになって、「それなら確かめましょう、今から」とかいって決闘する流れになっちゃう!

 やめて!あれ見てるだけでヒヤヒヤするから!


「・・・そうね、まだあなたの方が強いわ。」


 あれ、あっさり認めた? 

 回避できそう?


「この前やったときもあたしが全勝だったしな!」


「いつの話よそれ。

それに、この前は私も一本取ったわ。」


「おっ、じゃあせっかくだし今やるか。

この腕輪も試したいしな。」


「いいわよ。

魔法あり、二本先取よね。」


「ああ、そうだ、行くか。」


「ええ」




 結局決闘すんのかよ!

 中庭に集まったギャラリーの中、俺は心の中で一人突っ込んでいた。

 俺のうしろから、「誰よまた余計なこと言ったの」とかいった愚痴が聞こえてくる。

 本当にごめんなさい。

 でも運命は変えられなかった。

 ていうかこの世界、決闘に対して抵抗なさすぎません?

 町中で「おい、『決闘』しろよ」って言えば俺でも戦えちゃうんじゃないか?

 いや、俺は奴隷だから攻撃できないのか。

 ていうかこの前ハウルさんとやったときと違って、今回二人が持ってるの真剣だぞ。

 本当に大丈夫なのか?

 あとバルさんは剣に加えて鉄の胸当もつけている。

 確かにあれつけないとブルンブルン揺れて大変だろうしね。

 残念だ・・・

 まあそんなことで残念がってる場合じゃないんだけど。


 二人が向かい合い、ギャラリーも静まり返る。

 開始の合図もなく、一筋の風が駆け抜けると同時に、リーズはバルバラに切りかかった。

 リーズの剣は、前の世界を含め、今まで見たどんな剣技よりも速い。

 要所要所で攻撃を魔法で加速しているのがわかる。

 バルバラの方を見ても明らかに防戦一方だ。

 そして、とうとうリーズの剣がバルバラの防御の隙間を越え、頬に傷を付ける。

 こ、これなら行けるぞ!


 そう思った瞬間、雷が落ちたかのような超速の一撃が振り下ろされた。

 バルバラの振り下ろした大剣は、リーズの剣を吹き飛ばし、そのまま相手の体勢までも大きく崩す。

 リーズは武器を失いながらも何とか体勢を立て直そうとするが、次の瞬間には切り返したバルバラの剣が、リーズの首もとに突きつけられていた。


「まずは一本だな。」


 ・・・な、なんだよ今の。

 こっちにまで風圧が届いたぞ・・・

 ていうかこれ本当に大丈夫なのか?

 当たったら怪我なんかじゃす済まないぞ。


 リーズは目をつむり一度だけゆっくりと呼吸をすると、バルバラの一撃によって折れ曲がった剣の代わりを、そばで見ていた職員から受け取った。

 その後、俺の方を見る。

 視線はすぐに逸らされたが、静かに向けられたその目には、何か覚悟のようなものが宿っていたように見えた。


 そして、二本目が始まる。

 先に仕掛けたのはバルバラだった。

 身の丈ほどもある鋭い鉄の塊が、リーズの細い体めがけていくたびも襲いかかる。

 目を見張るのはそのリーチ。

 例え剣が降り下ろされてから最短の距離で突いても、バルバラの切り返しの方が速いことが確信できる、そんなリーチと速さだ。

 あまりにもインチキすぎる。

 だから一本目は先に間合いを詰めたのか。

 体力切れを狙った方がいいか?

 いや、バルさん相手にそれは期待できないだろうし・・・


 と俺が一人思い悩んでいると、リーズは一歩後ろに引いた後、バルバラが剣を降り下ろすと同時に突っ込むように間合いを詰めた。

 なっ!?

 自殺ともとれるその行動に、俺は思わず目をつむる。

 そして響きわたる轟音と地震。

 あぁ、やっぱり・・・

 ・・・ん?地面が揺れた?

 ゆっくりと開けた目に飛び込んできたのは、地面に突き刺さったバルバラの大剣と、バルバラに細剣を突きつけるリーズの姿だった。


「・・・ハッハッハ、あれを避けたか!!

今日は気合が入ってるな!」


 喉元に突きつけられた剣を見て、驚いたような顔から、心底楽しそうな笑い顔へと表情を変えるバルバラ。




 しかし結局、三本目はバルバラが取り、最終的にこの勝負はバルバラの勝ちとなった。

 三本目は二本目と同じようにバルバラが先に仕掛け、ぎりぎりの間合いを見極めるリーズに、投げるかのような変則的な大剣での突きを繰り出し優位を取った、技ありの勝利だった。


「・・・また勝てなかったわ。」


 決闘後、少し落ち込んだ表情で呟くリーズ。


「いや、その歳で追い越されたんじゃ、あたしの方こそたまらないだろ。

それに、あんたはあたしに勝てない方がいい。」


 呆れたような表情の後、バルバラはそんな言葉を口にした。


「なによそれ。」


 バルバラの言葉にむっとした顔をするリーズ。


「いや、貶してるわけじゃない。

戦い方の話だ。

いずれ気が付くだろうから言うが、リーズ、あんた絶対に死なない戦い方をしてるだろ。」


 バルバラはなおも言葉を続ける。


「あんたの戦い方は端から見れば完璧な戦い方だ。

絶対に優位が保てる範囲で戦う、隙のない剣技だ。

だがあたしくらい強けりゃ、戦いの最中、お前が一定の安全圏の中で戦ってることがわかる。

その一戦を越えて来ないことがわかるんだ。

そしてそれがわかるような奴は、お前のその安全圏を踏み越える技を必ず持ってる。

俺の場合は力だ。」


 リーズの方を見ると、先ほどまでの不満気な表情は消えており、バルバラの言葉に静かに耳を傾けているようだった。


「それが悪いと言ってるわけじゃない。

そもそも精霊族同士の強さの優劣なんてものに意味はないし、あんたのその戦い方のおかげで、部下は死なずに済んでるんだからな。

だがもし本当にあたしに勝ちたいのなら、そういうものを見極められるようにならなきゃいけない。

まあそれで言えば、今日の二本目なんかはいい線いってたな。」


「・・・そう、ありがとうバル。

勉強になったわ。」


 神妙な顔で、噛みしめるように礼を言うリーズ。


 そんな姿を見たバルバラは、リーズの肩に優しく手を置く。

 そして、


「いいとこ見せられなくて残念だったな。」


 と、いやらしく笑った。


「う、うるさい!

帰るわよ、レオ!」


「あ、ああ!

ありがとう、バルさん。」


「ああ、また明日な。」


 俺とリーズはバルバラのなま暖かい笑顔に見送られ、騎士連合を後にした。


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