48.戦闘準備①
「おぉ、ずいぶんと人がいるな・・・」
騎士連合の建物の前、止まった何台もの馬車と出入りする人々を見て、俺は思わずつぶやく。
「見てないでさっさと入るわよ、レオ。」
そんな人混みにも臆することなく、ズンズンと進んでいくリーズ。
その日、俺は彼女に連れられ、騎士連合の手伝いに来ていた。
リーズ曰く、騎士連合は今猫の手も借りたいほど忙しいのらしい。
理由は、近くに来ている亜種の群。
建物の前にとまった馬車には食料、武器、鎧などの物資が山のように積まれている。
万が一に備えてアニエスが大量の物資を手配し、今は騎士連合総出で、それを運び込んでいるところなのだという。
ローズ領まで来る可能性は低いらしいが、万全を期してということだろう。
建物の中に入ると、人混みの中心で、周りより頭一つ分背の高いの女性が指揮を執っているのが見えた。
バルバラだ。
「バルバラさん、今届いた兵糧はどこに持っていきましょう。」
「ああ、それも全部外の食料庫だ。
馬用の藁と混ぜるなよ。」
「バルさん、こっちの防具は武具庫でいいんですよね。」
「いや、武具庫はもう入らん。
第四以下の会議室を全部臨時の倉庫にするから、武器防具は順次そこに入れてってくれ。」
「わかりました。」
ば、バルさんがまじめに仕事してる・・・
事務仕事は適当なイメージだったのに・・・
強くて気さくで仕事もできるなんて、どこまで男前になるんだこの人。
もう親方と呼んでしまおうか。
などと考えていると、俺たちに気が付いたバルバラは、手に持っていた書類を無理矢理隣の部下に押しつけ、こちらへとやってくる。
「来たかリーズ。
それにレオも久しぶりだな!
貴族議会はどうだった?
お前なら貴族のお偉いさん方のお眼鏡にもかなっただろ。」
「ああ!超モテモテだったぜ!」
嘘じゃないよ。
小さい子にはモテモテだった。
「ハッハッハッ、そりゃよかった。
たしか舞踏会にも参加したんだってな。
まああたしとしちゃ、それをリーズが許したことの方が驚きだがな。」
バルバラはそういいニヤッとリーズの方を見る。
「・・・いいじゃない、べつに。
それより運び込みはどのくらい進んでるの?」
リーズはばつの悪そうな顔で話を逸らす。
「あー、まだ半分ってとこだな。
リーズ、話し合いのために呼んでおいて悪いが、食料庫の方の指示出しを手伝ってくれないか?
おそらく向こうは人が足りてない。」
「ええ、もとからそのつもりよ。
レオは私のところで手伝わせていい?」
「もちろんだ。」
「わかったわ、行きましょうレオ。」
「あ、ああ。」
というわけで、リーズと共に建物裏の食料庫へと向かう。
その途中、働いている職員たちが皆、リーズが前を通ると一度作業の手を止め挨拶をしているのに気がついた。
「・・・もしかしてリーズって結構偉いの?」
そんな様子を見て俺は小声でリーズに尋ねる。
「偉くなんてないわ。
騎士見習いは一番下の階級だもの。
・・・けど、微妙な立場ではあるわね。
ここの領主の妹だし。
特例で見習いじゃまだできないような仕事もさせてもらってるし。
せめて騎士連合員として来てるときは、敬語とか様付けを止めて欲しいのだけど。」
リーズはため息混じりにそんなことを言う。
それにしては、職員のリーズを見る目が、こう、尊敬というか、憧れみたいな物を含んでいる気がするんだけど。
まあ慕われるのはいいことだし、別に気にすることはないのかな。
それにリーズが人気だと、なぜか俺までちょっと気分がいい。
へへっ!実は俺、この人の家の奴隷なんすよっ!
・・・自慢はできないな。
「あっ、リーズ様!
た、助けてくださーい!」
食料庫に着くとすぐ、どこか気の抜けるような間延びした声が響く。
声のもとを見ると、真っ白な髪を短く切りそろえたウサミミの女性が、荷物を持った人たちに囲まれながら、助けを求めるようにこちらに手を振っていた。
「何してるのよラビィーナ。」
「うぅ、バルバラさんに食料庫の整理を任されたんですけど、全然わからなくって・・・」
なるほど、それでこの行列か。
物資を運んできた人をまったくさばききれていない。
「私も手伝うわ。
物資のリスト、半分貸して。」
「はい!ありがとうございますぅ。」
ラビィーナと呼ばれた女性は、ほっとしたような涙目でリーズに書類を渡す。
「俺は何を手伝えばいいんだ?」
書類をめくりざっと目を通すリーズに尋ねる。
「あなたは私が指示するからそばで待ってて。」
「了解だぜ!」
そうして俺はリーズの指示で、運ばれてきた樽や木箱をどんどん持ち上げ積んでいく。
もちろん魔法で補助しながら。
うーん、でもこんな魔法頼りじゃ、いつまでたっても体力がつかないな。
ちょっと魔法をゆるめてみるか?
・・・うっ、重い。
わりと調整が難しい。
もし落として壊したりなんかすれば、奴隷の制約に引っかかっちゃうからな。
慎重にやらないと。
でもこのまま単調に筋トレ兼荷運びするのもつまらないしなぁ。
何かモチベーションになるようなものが欲しい。
・・・レミアと同じ重さにして運ぶか。
俺は荷物にかけている魔法を調整する。
おぉ、これはいい!
俺は今レミアを抱えてる!
この樽の中にはレミアが隠れているんだ!
そう考えるだけで楽しい!
でもこれじゃあちょっと軽いな。
2レミアくらいの重さにしようかな。
・・・ふふふ、すばらしい重さだ。
目をつむれば、俺の腕の中にはレミアが二人、レミアが四人、レミアが六人・・・
「・・・楽しそうね、あなた。」
そんな俺を見て、なぜかリーズはちょっと引いたような顔をする。
「ああ、楽しいぞ!
でも結構な量があるな。
こんなに必要なのか?」
俺は目の前に積まれた木箱の山を見上げる。
「確かにちょっと多いかもね。
でもあって困ることはないわ、食糧は特に。
結界が亜種に取り囲まれたら、最悪増援がくるまで籠城することになるから。
今回はそこまでの規模じゃないけど。」
籠城か。
城も城壁もないのに籠城とはこれいかに。
「でもクペ領だっけ、そっちの方に亜種が行ったらどうするんだ?
たしかその可能性の方が高いんだろ。」
「そのときはクペの騎士連合に支援物資として送ると思うわ。
決めるのは姉さんだけどね。」
「へー・・・グハッ!」
話をしながら作業をしていると、集中していなかったせいか、積もうとした木箱の間に指を挟む。
「ちょっと大丈夫!?」
「へ、平気平気・・・」
「血が出てるじゃない。
ほら、手を出して。」
「あ、ああ。」
リーズは有無を言わせない口調でそう言うと、俺の手を取り治癒魔法の詠唱を始める。
「ーーー、はいおしまい。
これで痛くないでしょう。」
「ああ、ありがとうリーズ。」
俺はレミアにするよう、自然にリーズの頭をなでる。
「も、もう、やめてよ・・・」
リーズは耳の先を赤くして小さくうつ向く。
そんな様子を、いつの間にかそばに来ていたラビィーナが、興味深そうにじっと見つめていた。
神速で俺の手を払いのけるリーズ。
「ど、どしたのラビィーナ?」
「いえ、ちょっと相談したいことがあって。
・・・リーズ様はかなり厳しく奴隷を教育してるって噂でしたけど、そんなことないんですね。」
「そ、そうかしら?」
「というかむしろあまあまですね。」
「そ、そんなことないわ!
レオ何してるの、そこの荷も急いで積み上げなさい!」
「は、はい!」
真っ赤になりながら俺に命令するリーズ。
ちょっと申し訳ないくらいうろたえてるな。
外でリーズの頭をなでるのはやめておくか・・・
「レオ、次はラビィーナの方を手伝ってきて。
こっちはもう私一人でいいわ。」
しばらく作業をしていると、リーズがそんなことを言う。
見てみると、ラビィーナの方はいつのまにか荷がたまり、作業が滞りだしていた。
というわけで場所を移り、ラビィーナの指示で、たまった荷を端から片づけていく。
でもちょっと場所が狭くなってきたな。
うーん、じゃあここに積んであるのを奥にずらして・・・
いや、そうしたら向こうの通路が通れなくなるな。
というかあそこの箱倒れて中身が出ちゃってる!
とりあえず、まずは散らばった物を箱に戻して・・・
と一人物資と格闘していると、ふとラビィーナがこちらを見ているのに気がつく。
「どうかしましたか、ラビィーナさん?」
「ふぇ!いえいえ、ただその、すごいなーと思って。
それ魔法で動かしてるんですよね?
うちの魔術師長でも、魔法でそんな細かい作業できませんよ、たぶん・・・」
おっ、誉められちゃたぜ!
ていうか魔術師長なんて役職があるのか。
ということは魔術師の部隊もあるってことかな?
うーん、ファンタジー。
「ラビィーナは魔術師なのか?」
体の線も腕も細いし、剣を振り回すようなタイプには見えない。
「え、いえいえ、魔術師なんてそんな。
私は・・・そうですねぇ、斥候というか、策敵係ですかね。」
「斥候?」
「ええそうです、これを使うんです。」
ラビィーナは頭の上のウサミミをピコピコと動かす。
「魔法を使わずこの耳で策敵するんです。
兎種は耳がいいですからね。
あとは初級の攻撃魔法と治癒魔法を使って支援ですかね。
魔力量が少ないので、あまり魔法には自信がありませんが。」
なるほど、種族の特性を生かして戦っているというわけか。
固有能力みたいでかっこいい。
俺も何かほしいな。
レミアをかわいがる能力とか、レミアを甘やかす能力とか。
いや、それはもう持ってるな。
ということは俺は能力者だったのか・・・
「それにしてもあなたは働き者ですね。
流石リーズ様の奴隷です。」
ラビィーナはだんだん減ってきた荷を見てしみじみと言う。
「いや、俺は三女のレミアの奴隷だ。
リーズのではないよ。」
「あっ、そうでしたね、すみません。
あんまり優秀な奴隷なのでつい。」
ラビィーナはそういい、ウサミミの先を申し訳なさそうに少し折り曲げる。
「やっぱりリーズって騎士連合でも優秀なのか?」
「当たり前ですよ!
強くて、責任感があって、リーダーシップもあって。
リーズ様の率いる隊では今まで一人も戦死者が出てないんですよ!」
ほう、それはすごい。
ラビィーナの物言いからすると、領主の妹だから安全な場所にしか出陣しない、みたいなわけでもないのだろう。
個人の戦闘能力だけじゃなく、集団を率いる能力もあるってことか。
「でもそれなら、なんで騎士見習いなんだ?」
「それはリーズ様が昇級を辞退してるからですね。
受け取るのも他の騎士見習いと同じ金額のお給料だけで、勲章とか特別報酬とかは絶対に受け取らないんですよ。
部隊長クラスの仕事をしてるのにです。
金銭も名誉も望まず、ただ市民のために尽くす騎士。
はぁ、素敵、リーズ様。」
「なんて言ってたけど。」
食糧庫での作業が終わり、バルバラのもとへ戻る途中、俺が先ほど聞いたことを話すと、リーズはげんなりした顔をした。
「ラビィーナとは同じ部隊だし、なついてもらえるのは嬉しいのだけど・・・あんまり期待させるのは申し訳ないわね。
私が働くのは家族のためだけよ。
市民の為なんかじゃないわ。
お金に厳しいのだって、日頃の私を見てるあなたなら知ってるでしょ。」
「でもそれなら、なんで昇級とか勲章とかを受け取らないんだ?」
「昇級したら姉さんを手伝う時間が減るからよ。
そもそも手伝えるときにしか来ない人がどうして昇級するのよ。
それに騎士連合の勲章授与って領主と支部長、つまり姉さんとバルが話し合って決めるのよ。
私が貰ったら身内びいきみたいになっちゃうじゃない。
なんにせよ、ラビィーナの誤解はといておかないとね。
あとで私から話しておくわ。」
リーズはそう言い、気が重そうにため息をつく。
でも周りの様子を見てると、リーズを崇拝してるのはラビィーナだけじゃなさそうなんだけどな・・・
まいっか。
リーズが人気者なのはいいことだよな。




