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47.試し打ち

 お昼過ぎ、今日はレミアと一緒に庭の先に広がる草原へとやってきた。

 ここに来た目的は、効果の判明した魔法陣の試し打ちである。

 先日書斎でアニエスと一緒に過ごしたとき、彼女の助言のおかげでそこそこの数の魔法陣の効果がわかったので、今日はそれらをまとめて試してみようというわけだ。


「ごめんなレミア、つきあわせちゃって。」


 手をつなぐレミアに声をかける。


「ううん!レミアもまほう、見てみたい!」


 レミアはそう言い俺を見上げ笑いかける。

 いい子だなぁ、チューしたい。


 さて、今日までに調べられた魔法陣は、

「七等分魔法」

「睡眠魔法」

「覚醒魔法」

「小帯電魔法」

「風刃魔法」

「水刃魔法」の六つだ。

 さっそく順番にやっていくか。

 そしてできるかぎり無詠唱で使えるようにする!



 まずは最初は、一番使うあてのなさそうな「七等分魔法」。

 この魔法の効果は「無生物で形状の安定したものを等しい体積に七等分する」というもの。

 気体や液体のような形の定まらないもや生き物には使えず、魔法の対象の硬度と体積が大きいほど必要な魔力も増えるのだとか。

 ちなみにこの魔法の俗称が「ケーキり切分け魔法」。

 発動に必要な魔力が多すぎて、柔らかいケーキを切り分けるのくらいにしか使えないことからついた名前らしい。

 試しにと拳サイズの石に使ってみると、その一回だけでかなり魔力を吸われた。

 わりと高度な魔法っぽいのにもったいない。

 それに三等分か六等分なら、三姉妹のいるうちでも使い道があったんだけどなぁ。

 まいっか、次行こう次。


 次に取り出したのは「睡眠魔法」と「覚醒魔法」。

 「睡眠魔法」は対象を眠らせる魔法で、「覚醒魔法」は一日眠くならなくなる魔法らしい。

 「覚醒」と聞いて、俺もとうとう身の内に秘めた真なる力を解放してしまうのかと期待したが、普通に目の覚める魔法だった、残念。

 まあそんなことより、まずは試し打ち。

 眠りこけても危なくないよう地面に座ってから、睡眠魔法の魔法陣を自分の目の前で発動させる。

 すると魔法陣がぼんやりと光ると同時に、猛烈な眠気が襲ってきた。

 クッ・・・思ったより強力だなこれ・・・

 でも・・・これを使えば・・・

 俺はもう片方の手に持った覚醒魔法の魔法陣を額に当て魔力を流す。

 その瞬間、先ほどまでの眠気が嘘のように消え去った。

 アニエスの話によると、効果の対立している魔法をかけた場合、魔法の効果は上書きされるのらしい。

 つまり俺は今、覚醒魔法のかかった一日絶対眠らないマンになっているということだ。

 つらいわー、今日寝れないのつらいわー。

 

「ねえねえ、レミアもそれやっていい?」


「ああいいぞ、おいでレミア。」


 そばで立って見ていたレミアが、俺の膝の上に座る。

 ワクワク顔でこちら見上げるレミアに睡眠魔法をかけると、俺に寄りかかったままレミアの顔はトロ~ンと幸せそうゆるんだ。

 かわいい。 

 次に覚醒魔法をかける。

 すると先ほどまでの今にも眠り落ちそうな顔から一転、シャキッと目を覚ましパッと花のような笑顔になる。

 こっちの顔もかわいい。


「すごい!目がさめたよ!

レオもう一回して!」


 その後も睡眠魔法と覚醒魔法を交互に繰り返し、レミアのころころ変わる表情を見て和む。

 幸せだ。

 でもこの魔法、何回やっても仕組みが全然わからん。

 これも無詠唱で真似するには難しいかもなぁ。


「それじゃあ、つぎはレオのばん!」


 そう言いレミアは俺の膝の上に乗ったまま体の向きを変え、俺の両頬に手を当てる。


「はははっ、いいぞ、どんとこい!

じゃあこっちが眠くなる奴で、こっちが目が覚める奴だ。」


 俺はそう言い、レミアに魔法陣を渡そうとする。


「いらない!

よーし、ねむくなれーねむくなれー・・・」


 しかしレミアはそれを受け取らず、俺の頬を両手で挟んだまま念じるように呟く。

 なんだか五円玉をゆらす催眠術みたいだな。

 でもレミアの催眠術なら眠くなっちゃうかもなー・・・

 ・・・ん?

 なんか・・・本当に眠くなってきたぞ・・・?

 もしかして・・・成功してる・・・?


「レオねむくなった?」


「ああ・・・かなり・・・

レミアはすごいなぁ・・・」


 俺は眠気に意識を手放しそうになりながらも、レミアの頭をなでてほめる。


「えへへ~!

じゃあはい、レオおきてーおきてー」


 今度は俺の肩に手を置き、耳元で優しく楽しそうにそう言う。

 するとまるで霧が晴れるかのように、体中に漂っていた眠気が掻き消えた。


「レオおきた?」


 レミアが首を傾げながら俺の顔をのぞき込む。

 俺は眠気の覚めた冷静な頭で、レミアのかわいい顔を見ながら一人驚いていた。

 あの数回受けただけで、無詠唱魔法で再現できるようになったのか?

 練習もなしに?

 もしかして、この世界の人なら普通にできることなのか?

 ・・・いや、リーズが言うに俺の魔法のレベルはそこそこ上らしい。

 俺ができない、難しいと思う基準は、この世界の常識とそれほどずれてはいないはずだ。

 それに思い返してみれば、以前首都に行く際、俺が水の人形を出したときにも、レミアは目で見ただけで同じ魔法を出していた。

 魔力の量は同じはずだから、レミアの方が魔法や現象に関する理解力が高いということか?


 ・・・まあ、なんにせよ、


「レミアは天才だな!」


「えへへ~、そうかな?」


 俺が全力で誉めながら抱き上げると、レミアはうれしそうにだらしなく笑った。




 さて、とはいえいつまでも一つの魔法陣で遊んでいるわけには行かない。

 残りもどんどん試してい行こう。

 次の魔法は「帯雷魔法」。

 これは刻んだ物体に弱い電気を帯びさせる魔法らしい。

 うーん、かっこいい。

 これをマスターすれば俺も神速で動けたりしないだろうか?

 でもこういうの慣れてないからなー

 生まれたときから電気浴びたりしてないからなー

 家庭の事情でなー

 まあふざけてないでやるか。


 というわけで魔法陣を地面に置き、ちょっと離れた場所から魔力を流す。

 持ちながら発動させると感電しちゃうからね。

 ある程度魔力を吸収すると魔法陣は淡く光るが、見た目はそれ以外何も変わらない。


「せいこうした?」


「・・・わからん。」


 魔法陣が光ったから成功してるとは思うけど・・・

 とりあえず足下にあった小さな枝で魔法陣を触る。

 しかし反応はない。

 うーん、わからんな。

 ・・・ちょっと触ってみるか?

 魔法陣に向かっておそるおそる手を伸ばす。

 すると、


バチッ!

「痛っった!」


 魔法陣に触れる直前、ネズミ取りにでもかかったかのような鋭い痛みが、伸ばした指先を襲った。


「だいじょうぶレオ!?」


「あ、ああ、大丈夫大丈夫。」


 静電気のように電気が流れてきたのだろう。

 まあ正直わかってたことだけどね。

 好奇心に勝てなかった。

 でも、何度もこの痛みを繰り返せば、俺も魔法で電気を出せるようなるのかな?

 ・・・ま、まあ、他の魔法陣も試してみてから考えるか。


 とりあえず帯雷魔法陣はその場に放置。

 持続時間は送った魔力によって変わるらしい。

 それほど魔力は送らなかったし、魔法陣を全部試し終わるまでには効果も切れているだろう。



 最後の魔法陣は「風刃」と「水刃」。

 はい、もうかっこいい。

 技名叫びながら使いたい。

 というか今日魔法陣の試し打ちをしようと思ったのは、この二つの魔法陣を見つけたからだ。

 どちらも買った中では大きめの魔法陣だが、この二つなら上手く行けば俺の無詠唱魔法にも応用できるだろう。

 

 というわけでまずは「風刃」を使ってみる。

 図鑑の説明によると、魔法は魔法陣の正面からまっすぐに出るらしいので、魔法陣を手に持ち何もない草原に向ける。

 そして魔力を込める。

 すると、


 ブゥォン!


 強烈な一文字の風が駆け抜け、4、5メートル先まで草原の伸びた草花を引きちぎりながら進む。


 おお!すごい!


 やがて風は拡散し、草原は元の穏やかな様子に戻る。

 刃というほど鋭くはなかったけど、思っていたより威力があったな。

 それに攻撃範囲も広い。

 囲まれたときなんかに使えそうだな。

 そしてもう一つわかったことがある。

 それは今まで俺が風魔法について勘違いをしていたということだ。

 この魔法陣は風を生み出しているのではなく、空気を動かす魔法を起こしていただけだった。

 風魔法の根本は物を動かす魔法なのだ。

 今まで上手く使えなかったのも納得だな。

 空気から作ってたようなものだ。

 物を動かす魔法なら使えるし、風魔法も練習すれば扱えるようになるだろう。


 次は「水刃」。

 結構威力がありそうなことがわかったので、「風刃」で舞った花びらを追って遊ぶレミアをしっかり俺のそばに避難させてから、魔法陣をかまえ発動させた。

 

 バシュッ!


 あれ?範囲が狭い?

 と思ったのも一瞬だけ。

 視線を前に移した俺は驚愕した。

 地面に深い切れ目が入っている。

 そばに生えていた草にも、まるで刀で切ったかのように綺麗に真っ二つになっていた。

 本当にこちらは名前の通り水の刃のようだ。

 こういう魔法があるのを考えると、とりあえず発動させて効果を確認する、みたいな調べ方はやっぱり危なくてできないな。


「もう一回打つぞ。」


「うん!」


 威力を見て危ないものだとわかったレミアも、俺にしがみつきながら魔法陣を見つめる。

 今度は少し上空に向けて魔法を打つ。

 鋭い音も共に発射された水の刃は、10メートルほど勢いを保ち進んだ後、雨となり草原に降り注ぐ。

 距離を進むと弱まるのは変わらないが、やはり風刃より威力が高い。

 ゼロ距離で食らえば確実に致命傷になるような威力だ。

 流石魔法陣魔法といったところだろう。

 

 ・・・無詠唱でこの威力を出せるだろうか?

 催眠魔法の時は何をしているか全くわからなかったが、この「水刃」の魔法は違う。

 なぜなら魔法を出す基礎になっている水の魔法も、物を動かす魔法も、俺は使えるからだ。

 流した魔力を通じて、魔法陣がどんな風にこの魔法を作っているかが感覚的にわかる。

 どう水を圧縮し、どんな威力で押し出しているのかが、魔力の変化を通して伝わってくる。


「レミア、ちょっとこの魔法、練習していいか?」


「うん!がんばってレオ!」


 俺はもう一度魔法陣を打ってから、無詠唱魔法を行う。

 水を圧縮して・・・薄い刃にして・・・打ち出す!

 魔法陣の行程をなぞるように魔法を出す。

 しかし葉を切り裂く「水刃」のような鋭さはない。 


 まあ、一度でできるなんて思ってない。

 何度だってやってやるさ。


 何度も何度も魔法陣と無詠唱を繰り返し、感覚を確かめる。

 疲れても、横で俺を真似て遊ぶかわいいレミアを見れば、体力は一瞬で回復する。

 永久機関だね。

 不老長寿と共また一つ、人類の永遠の夢を体験してしまったよ。



「・・・さて、こんなもんかな。

つきあってくれてありがとうレミア。」


 ある程度形になったところで、練習を切り上げる。

 いつまでもレミアにつきあわせるのはかわいそうだしね。


「どういたしまして!

レミアも楽しかったよ!」


 かわいい。

 チューはしなけど抱きしめとく。


 さて、じゃあこの後は何をしようか・・・

 あっ、そういえば今、覚醒魔法を使ってる状態なんだっけ。

 このままだと俺もレミアも、今日一日眠れなくなるんじゃないか?


「なあレミア。」


「なにレオ?」


「ちょっとだけ、ここでお昼寝しようか。」


「お外でおひるねするの?

いいよ!楽しそう!」


 寝転がった俺の上にレミアが飛び乗る。

 そしてレミアが俺に、俺がレミアに催眠魔法をかける。

 暖かい日差しと涼しく穏やかな風の中、柔らかい芝生の上で俺とレミアは少しの間だけ一緒に眠った。


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