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46.お家デート

 リラックスした様子で、俺の入れた紅茶を飲み終えるアニエス。


「ごちそうさま、レオ。

おいしかったわ。

ベッドの移動はこれからかしら?

私も手伝うわ。」


「いや、もう終わったよ。

朝食後にすぐやっちゃったんだ。」


「あら、そうなの、えらいわレオ。」


 アニエスは手を伸ばし、再び傍に立つ俺の頭をなでる。

 うーん、先ほどのことがあるのでちょっと気恥ずかしけど、やっぱり幸せ。

 仕事するたびこんな優しく褒めてもらえるんだからなー。

 うちの職場最高にホワイトだなー。

 ていうかさっき頭抱かれたとき、アニエスの柔らかいのが、おもいっきり顔に当たってたんだよな。

 もっと堪能しとけばよかった。


「ねぇ、レオ。

この後は何をする予定なの?」


「そうだな・・・

家事は終わってるし、台所の掃除は昨日したし、物置の整理もやったばかりだし。

買った魔法陣でも調べようかな・・・」


 図鑑と見比べて魔法陣の効果を調べる作業は、夜中にもちょくちょくやっているのだが、いかんせん図鑑に載ってる魔法陣の量が多く一つ見つけるのにも時間がかかる。

 事実、未だに数十枚あるうちの二枚しか効果がわかっていない。

 それも一日眠気を覚えなくなる魔法と、ケーキを均等に七等分する魔法だ。

 正直使いようがない。

 本当に節操無くどんな魔法陣でも掘ってるんだなあの人。

 まあタダ同然で売ってくれたらしいので文句は言わないけどね。

 

「それなら、この部屋で一緒にやりましょう?」


「ここで?

でも邪魔にならないか。」


「いいえ、私、誰かと話しながらの方が仕事がはかどるの。

いつもはリーズが相談と話し相手になってくれるのだけど。」


「まあ、俺だと領地管理の相談とかはできないだろうけど、それでもいいなら。」


「ええ、もちろんよ、うれしいわ。」




 アニエスに誘われ、俺は数枚の魔法陣と魔法陣図鑑を持って、再び書斎へとやってくる。


「それじゃあ、レオはここに座って。」


 部屋に入ると、いつの間に移動させたのか、アニエスは自分の真横に用意した椅子に座るよう俺に勧める。


「い、いや、それだと机が狭いだろうし・・・

俺はこっちでやるよ。」


「ふふふっ、だめよ、ほら、こっちに来て。」


 アニエスはなぜか子供のわがままを優しくたしなめるような口調でそう言い、横の椅子をポンポンと叩く。

 ・・・観念するしかないか。



「使われてる魔法文字を見ると、これはきっと変質系の魔法陣ね。

ここからここを調べれば見つかると思うわ。」


「あ、ありがとうアニエス。

でも、その、なんというか・・・」


「どうしたの、何でも言って?」


「・・・近くないか?」


 そう近い。

 何がって距離が近い。

 ていうかもうくっついてる。

 その距離0である。

 メートル換算でもミリ換算でも0である。


「ふふふっ、一緒にやってるのだから仕方ないわ。」


「だ、だから俺はあっちの机でやるって・・・」


「だーめ、わがまま言わないの。」


 えー・・・

 でもそっかぁ・・・

 俺、わがまま言ってたのかぁ・・・

 じゃあこの状態も仕方ないなぁ・・・

 でもなんか、いけない家庭教師との勉強会みたいな状況でもう心臓がやばい。


 などと俺が図鑑のページをめくりながら混乱している横で、アニエスは仕事を進める。

 俺にかまいながらも、自分の仕事は滞り無くやれているようだ。

 話しながらの方がはかどるというのは嘘ではなかったらしい。




 庭の草花、季節の行事、レミアとの遊びなど、他愛のないことを話しながら作業をし、ちょうど正午を過ぎたころ、


「・・・これで終わり。

ありがとうレオ、おかげでやること全部終わっちゃたわ。」


と言い、アニエスは小さく伸びをした。


「俺はおしゃべりしてただけだけどな。

じゃあそろそろおやつにするか。

お茶受けは何がいい?」


「そうねぇ、今日は時間もあるし、せっかくだから二人でお菓子を作らない?」


 アニエスは少し考えた後、そんなことを提案する。

 流石アニエス、お菓子作りなんて女子力が高い。

 リーズはやらなそうだな、そして焦がしそう。

 もしリーズが作ったら、「別にあなたのために作った訳じゃないから」とか言いながら、ものすごく丁寧にラッピングしたクッキーを渡そうとしてきて、けどやっぱり少し焦げてるのを気にして躊躇しちゃって、そんな様子を見た俺はサッとそれを奪い取ってその場で食べて「おいしいよ」って笑顔で言ってあげたい。

 俺も今何を言ってるのかはよくわかってない。

 まあ日ごろ一緒に料理を作ってるのはリーズだし、お菓子作りだけ下手なんてことはないんだろうけどね。


「よし、じゃあそうするか!

せっかくなら買い物に行ってる二人の分も作りたいな。」


「ふふふっ、いい考えね。」



 というわけで、アニエスと二人台所へとやってくる。

 アニエスはバター、砂糖、卵など必要な物をてきぱきと準備し始める。

 ちなみに今、アニエスはエプロン姿である。

 素敵だ。

 うーん、でも二つ選択肢があるよね。

 お嫁さんにするか、お婿にいくか。


「それじゃあ、これを泡立つまで混ぜてもらえる?」


「まかせろ!」


 俺がわりと無礼なことを考えていると、アニエスが食材の入ったボウルを渡してくる。


「うおぉーーーー!」

シャカシャカシャカッ


 全力で混ぜる。

 

「ふふふっ、がんばってレオ。」


「どりゃぁーーーー!」

シャカシャカシャカシャカッ


 今度は魔法を使って混ぜる。

 中身が飛び散らないようにしながら、人力ではあり得ないスピードで泡立て器を動かし続ける。


「できた!!」


「ありがとう、えらいわレオ。」

 

「いやー、それほどでも。」


 またもやアニエスに頭をなでられる。

 ていうかもはや俺の方から頭を差し出してる。 

 我ながら単純だが、今が幸せなのできっと何も間違っていない。


「もっと手伝うぞ!

何でも言ってくれ!」


「それじゃあ、私の後ろに立ってもらえる?」


「まかせろ!」


 俺は全速力でアニエスの後ろに移動する。


「それじゃあ次は、私のおなかに手を回して。」


「よし!こうか!」


「そうそう、上手よ。

最後に、もうちょっとだけ体をくっつけて。」


「わかった!

えっと、体をくっつけ・・・

・・・これは何の作業なんだ?」


「ふふふっ、何かしら?

私のやる気がわく作業?」




 などと色々やってるうちに、お菓子は焼き上がった。

 できたのはふっくらとしたおいしそうなマフィンだ。

 味もプレーンだけでなく、紅茶、ブルーベリー、リンゴと様々な種類がある。

 すぐに紅茶を入れ、食堂でアニエスと一緒に試食会を行った。

 

「おぉ!うまい!」


 出来立てのマフィンはフォークで切ると甘い香りが広がり、外はさくっと、中はしっとりとしている。


「ふふふっ、そうね、上手くできたわ。」


「ああ!こんなに美味しいマフィン初めて食べたよ!

アニエスが食べてるのはリンゴを入れたやつか?」


「ええ、そうよ。

じゃあはい、レオ。」


 アニエスが食べていたマフィンのひと欠片を俺の口元に差し出す。

 俗に言うあーんである。


「ふふふっ、レミアがしているのを見てね、私もしてみたいと思ってたの、だめ?」


 俺が戸惑っていると、アニエスは少し上目使いになりながらお願いしてくる。


「い、いや、だめじゃないけど・・・」


「じゃあはい、あーん。」


「あ、あーん・・・」


 アニエスの優しい瞳に見つめられながら、俺は差し出されたマフィンを食べる。

 ・・・さっきの台所での一件もそうだけど、これはちょっとまずい。

 なにがまずいって、レミアとイチャイチャするのは「子供と戯れてるだけ」みたいな言い訳が心の中でできたけど、アニエスとのこれは言い逃れのしようがない。

 確実にイチャイチャしてる。

 なんの混ざりっ気もなくイチャイチャしてる。

 だんだん恥ずかしくなってきた。


「はいレオ、あーん。」


 アニエスが二口目を差し出す。


「ふふふっ、あーん」


 まだ差し出す。


「あーん」


 まだまだ差し出す。


「ちょ、なんか俺ばっかり食べてるぞ!」


「ふふふっ、ごめんなさい、なんだか楽しくって。」


 アニエスはそう言い、いたずらに笑った。




「ただいまー!

あー!マフィンだー!」


「ただいま姉さん。

ずいぶんたくさん作ったのね。」


 しばらくしてレミアとリーズが買い物から帰ってくる。


「ふふふっ、レオが大変な泡立てを全部やってくれたから、いっぱい作れたの。

すごいのよ、全部魔法でやっちゃって。」


「魔法でやったの?どうやって?」


「えーと、物を動かす魔法でボウルを押さえながら泡立て器を動かして、飛び散った中身は地面につく前に戻して・・・」


「・・・ねえレオ、前々から思ってたけど、あなたちょっと魔法の上達が早すぎない?

どうしてなの?」


 レミアが美味しそうにマフィンをほおばる横で、リーズはいぶかしげな目を俺に向ける。


「どうしてって言われてもなぁ・・・

夜中にちょっと練習してるくらいだし。」


「前にもそんなこと言ってたわよね。

ちょっとってどのくらいよ。」


「二、三時間くらいは遊んでるかな?」


「三時間!?

三時間も無詠唱魔法使いっぱなしってこと!?」


 リーズが驚いて手に持ったマフィンを落としかける。


「そうそう、飽きたら寝る。」


「毎日?」


「毎日だな。

あっ、最近は読み書きの勉強をしながらだから、あんまり魔法の方は集中してないかも。」


「勉強しながらって?」


「机を使わずノートを浮かて書いたり、ペンの先を光らせて空中に文字を書いて練習したり。

あっ、勉強はちゃんとしてるよ、うん!」


「午前中の家事も全部魔法でやってるわよね?」


「あ、それもあるな。それで慣れたのかな?」


「・・・あなた夜倒れたりしてない?」


「倒れる?

うーん、最初はちょっとだるく感じたりもしたけど、最近は全然そんなことないな。

魔力残ってるのに使わないのもったいないなー、って思ってるくらい。」


「・・・ハーッ」


 リーズがめちゃくちゃでかいため息をついたあと、説明を始める。


 曰く、無詠唱魔法を発動し続けるのは、魔力量的に普通はできないことなのらしい。

 どれだけ長くても1時間、それも後半は意識が朦朧とし練習どころではなく、魔力操作に長けていない人には危険でさせられないような練習なのだとか。

 俺がしていたのは魔力量の多い人にしかできない、超スパルタな練習方法とのこと。

 そりゃ上達するわ。


「魔力量が多い人ほど魔法が上手いっていうのは、こういう理由だったのね。

一日に練習できる時間が違うと。

やっと納得がいったわ。」


 リーズがジト目で俺を見る。


「そうなのか、じゃあこれもレミアのおかげだな。

ありがとうレミア。」


 この魔力をくれたのはレミアだからな。

 俺が自慢するようなことじゃない。

 俺がレミアの頭をなでると、レミアはほっぺにマフィンをつけたままニヘーとだらしなく笑った。


マフィンは手で食べるのかフォークで食べるのか

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