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42.舞踏会④

「る、ルナか!?

どうしたんだいったい?」


 突然腰に飛び付いてきた銀髪少女に俺は声をかける。


「レオがレミアの姉君と外に出るのを見て追ってきたのだ!

レオ、わらわは決してレミアと踊りたくないわけではない!

姉様の言いつけで踊れぬだけなのだ!

レミアは怒っておらぬか?

友達をやめるなどとは言っておらぬか!?」


「ちょ、ちょっと落ち着け、ルナ!

深呼吸だ、深呼吸!」


 ルナの肩に手を置き、深く息を吸わせる。

 数回の深呼吸の後、少しだけ落ち着きを取り戻したルナは、ダンスホールの方を何度も振り向き伺いながら言葉を続ける。


「す、すまぬレオ。

しかし時間がないのだ、早くせぬと姉様が踊りから戻ってきてしまう。」


「・・・どういうことだ?」


「姉様から、ローズ家の者と話してはならぬと言われておるのだ。

だから、レオとは今しか話せぬ。」


 ルナは今にも泣き出しそうな、せっぱ詰まった顔で俺の服にしがみつく。

 そうか、だからレミアと合ってもずっと素っ気ない態度だったのか。


「・・・レオ、私は中にいるわ。

ダンスが終わるころに知らせるわね。」


「あ、ああ、頼む。」


 リーズはホールに戻り、ガラス戸の前に立つ。

 ルナの話しを聞き、気を利かせてくれたのだろう。



 さて、ルナが無理してでも、こうして話しをしに来てくれたんだ。

 まずは彼女を安心させてあげなくては。


「ルナ、レミアは全然怒ってないよ。

一緒に遊んでから、次に遊ぶ機会をずっと楽しみにしてる。

友達をやめたりなんかしないよ。」


「本当か!?」


「ああ、本当だ。」


「よかった・・・」


 ルナは安堵し大きく息を吐く。


「でもリナはルナの交友関係まで制限するような、その・・・厳しい人なんだな。」


 厳しいというか、暴君というか。

 正直納得いかない。


「うむ、そうなのだ・・・

一昨日の奴隷決闘が終わってからは、特に機嫌が悪くなってしまっての。

四人で遊び、友達になったことも話しておったから、今度からは話すことも禁止だと言われてしまって・・・」


 ・・・あれ?奴隷決闘後に機嫌が悪いって、もしかして俺が余計なこと言ったからか?


「な、なんていうか、ごめんな、ルナ。

それ、ちょっと俺のせいかも・・・」


「いや、謝るのはわらわの方だ!

奴隷決闘の話を聞いたとき、考え直していただけるよう言ったのだが、説得しきれなかった!」


「説得してくれたのか!?」


 あんな怖そうな姉を!?


「うむ、まったく聞き入れてはもらえなかったが・・・」


「いや、それでもうれしいよ。

ルナは勇気があるな。」


 俺が頭を撫でると、ルナは少しだけ嬉しそうな顔をした。

 しかし、すぐに先ほどまでの暗い表情に戻る。


「それとレオよ、レミアの家に遊びに行くという約束も、果たせそうにない。

次の貴族議会からは舞踏会以外で会うこともできぬ。

そのことも、レミアに謝っておいてくれ・・・」


「そうか・・・」


 話すことも許さないのに、家に遊びに行くことをリナが許可するはずがないか。


 でもこのままじゃあまりにもルナが不憫だ。

 どうにかしてルナとレミアを引き合わせてあげられないだろうか?


「一人でだまって来るとかはできないのか?

ローズ家がだめなら、セラス家の方に集まるのでもいいし。」


「・・・ダメだ、姉様にバレずに何日も家を空けることなどできぬ。

フブキの家に集まっても、そこにはフブキの母君もおるし、ヴラム家の使用人もわらわに付いて来ておる。

そこにレミアがおれば、必ず姉様の耳に入るであろう。」


 自分の状況を振り返り、ルナは更に表情を暗くする。


「・・・じゃあ、手紙なんかはどうだ?

手紙ならバレずにやりとりだってできるだろう?」


「ヴラム家に届く郵便物は全て姉さまの使用人が受け取る。

怪しい物があれば、すぐに見つかってしまうのだ・・・」


「そうか・・・

じゃあ例えば、フブキを経由してセラス家名義で手紙のやり取りをするのはどうだ。レミアはきっとフブキにも手紙を書くだろうし。」


「・・・なるほど、それならよい!

フブキとは頻繁に文を交わしておるからの、フブキと同じ便箋に入れてもらえば、姉様にも怪しまれぬ!」


 俺の考えを聞き、ルナがパッと顔を上げた。


「そうか、よかった。

それじゃあ帰ったらすぐルナに手紙を送るよ。」


「いや待て、先にわらわが送る!

冷たく振る舞ってしまったことを、まず最初に謝りたいのだ!」


 手紙だけでもレミアとの交友を続けられるのが嬉しいのだろう。

 ルナの顔からは、もう先ほどまでの思い詰めた表情は消えていた。


「・・・ルナ、レミアと友達になってくれてありがとな。

ルナがレミアのことを好きでいてくれるなら、レミアもきっとルナの友達でいてくれるはずだ。

話す方法も今は手紙ぐらいしか思い付かないけど、みんなで相談していけば、きっともっといい方法も見つかるはずだ。

よければこれからも、レミアと仲良くしてくれ。」


「うむ!!」


 すっかり表情の明るくなったルナは、俺の言葉に元気よく返事を返す。


「よかった、元気になったな。

さっきまでは泣き出しちゃいそうな顔だったけど。」


「何を言う!

ヴラム家の者は決して人前で泣いたりはせぬぞ!」


 ルナは俺の言葉に怒った風を装いながらじゃれついてくる。 

 その後、立っている俺に寄りかかるようにして体をあずけてきた。


「ずっと一人でウジウジと悩んでおったが、心が晴れた。

おぬしと話せてよかったぞ、レオ。」


「そうか、お役に立てて光栄です、ルナ様。」


 そう言い俺は彼女の頭を撫でる。

 ルナはくすぐったそうにしながらも、さらに俺に体を寄せてきた。



コンコンッ


 そこに、扉をたたく音が聞こえてくる。

 見ると、リーズがガラス戸越しにこちらを見ていた。

 どうやらもうすぐリナの踊りが終わるらしい。


「ルナ、そろそろ時間だ、中に戻ろう。」


「う、うむ・・・」


 ルナは俺の言葉で名残惜しそうに体を離す。


「あっ、一緒に戻ると怪しまれるかな?

俺はまだここにいるから、ルナが先にーーー」


「レオ」


「ん、どうした?」


 はっきりとした俺を呼ぶ声に振り向く。


「ここに屈め。」


「屈む?・・・これでいいか?」


 言われるがまま、ルナの前に屈んだ。

 すると、ルナはいきなり俺の首に手を回し抱きつく。

 そして首元に感じるチクッとした感覚。

 あ、噛まれた。

 ガラス戸越しにこちらを見ていたリーズも、口を開け驚いた顔をしてる。


 静かな息遣いと体温を感じながらじっとしていると、やがてルナは俺の首から口を放す。


「また魔力を分けてくれたのか?」


「うむ、そうだ。

・・・レオよ、わらわのこと、忘れてはならぬぞ。」


「ああ、忘れないよ、また遊ぼうな。」


 俺が頭を撫でると、ルナは少しだけ涙目になるが、そのまま振り返らずダンスホールへと戻って行った。




 ルナがホールへ戻った後、少し時間をおいてから俺も中へ入る。

 レミアとアニエスはすでに踊りから戻って来ていた。


「お帰りなさいアニエス様、レミア様。」


「レオもおかえり!なにしてたの?」


「ルナ様と話してました。

帰ったらレミア様に手紙を書くと言っていましたよ。」


 俺は周りに聞こえないよう小声でレミアに伝える。


「ほんと!やった!

じゃあレミアも、ルナちゃんとフブキちゃんにかくね!

レオもいっしょにおてがみかこ!」


「え、俺もですか?」


「うん!」


 レミアはさも当然のようにそう言う。

 ルナから手紙が届くまで少しは時間があるだろうけど、こりゃ本格的に文字の勉強をしなくちゃいけないな。





「あら、この曲・・・

そろそろ舞踏会もおしまいね、寂しいわ。」


 しばらくして、アニエスが流れてきた曲を聴きそう呟く。


「そうですか。

やっぱり最後も、踊るのは第一貴族の人たちだけなんですか?」


「いえ、最後は本当に自由に好きな人を誘って踊るの。

最後が一番踊る人が多いのよ。」


 まわりを見ると、確かに先ほどより人が活発に行き交い、踊るスペースの周りで最後の一巡が始まるのを待っているペアも多くいる。


「レオレオ!」


 そんな様子を見ていると、レミアが飛び跳ねるようなかわいい声で俺を呼ぶ。


「レミアとおどろ!」


「え、俺でいいのか?

ていうか俺も踊っていいの?」


 俺がアニエスを見ると、アニエスはにっこりと微笑みながらうなずいた。


「ええ、いいわよ。

二人で踊ってらっしゃい。」


「もう今更でしょ。

それにあなたが踊らないと、それこそここに連れてきた意味がないじゃない。

周りなんか気にせず踊ってきなさい。」


 リーズからも許可がでる。


「わかった、ありがとう、二人とも。」



「それじゃあ、リーズは私と踊ってくれる?」


 俺の感謝の言葉を笑顔で返した後、アニエスがリーズに言う。


「え、姉さんと!?」


「もしかして先約があるかしら?」


「そういうわけじゃないけど・・・

でも、姉さんは他の領主の人と踊ってきた方がいいんじゃない?

身内と踊ってると、誘いが無かったと思われるわよ。」


「誘いなら全部断っちゃった。」


「なっ!

・・・もうわかったわよ、姉さんと踊るわ。」


「ふふふっ、ありがとう、リーズ。」




 やがて一つ前の演奏が終わり、踊っていた人たちが捌けると、最後の一巡を踊ろうと多くのペアが会場の中心へと出てくる。

 しかし、その中心の中心、会場の真ん中にいる俺とレミアの周りには、誰も近づかない。

 舞台の中にもう一つ舞台があるかのように、俺とレミアの周りだけぽっかりと穴があいている。

 俺たちに向けられる視線は突き刺さるように鋭く冷たい。


 そして最後の演奏が始った。

 レミアは待ってましたとばかりに俺の手を引き踊り始める。

 周りの視線など気にしない、いや気が付いていないのだろう。

 心から純粋に俺とのダンスを楽しんでいる。


 幸せそうな表情で踊るレミアを見ながら、俺は考える。


 本人は気にしていないとしても、レミアをこんな視線に晒し続けるのは、絶対によくない。

 このままでは他の貴族とちゃんとした付き合いはできないし、きっと新しい友達だってできない。

 せっかく友達になったルナやフブキだって、いつ交友を親から止められるかわからない。

 俺自身、ルナが魔力主義だと知ったとき、付き合いを続けていいのかと少し考えたくらいだ。

 時も場所も考えずどこにでも奴隷を連れて歩く人物なんて、それ以上の変人だろう。

 この冷たい視線も、いずれはきっとレミアの苦痛になる。

 そしてその原因になっているのは俺の存在なんだ。

 本当は、レミアの好意に甘えて、こんなところにいるべきじゃないんだ。


 だがその一方で、俺はずっとレミアと一緒にいたいとも、当然思ってる。

 俺のことを慕ってくれているレミアと、いつだって一緒にいたい。

 いつ何があってもいいように、常に傍でレミアを守りたい。

 誰よりも一番近くで、レミアの成長を見ていたい。


 なら、そのためにはどうすればいいか。

 そんなの決まってる。

 俺の存在が認められればいい。

 俺がレミアと一緒にいても許される存在になればいい。

 知識を得て、教養を得て、精霊族に奉仕し、俺が全ての人から受け入れられる存在になればいい。

 隣にいても恥ずかしくない存在に俺がなればいい。

 それでレミアと一緒にいられるのなら、何が待っていようと、きっとつらいことなんてない。



 そう考え、改めて周りを見渡すと、なんだか他の貴族からの視線も、それほど苦痛なものではなくなっていた。

 そしてレミアを見る。

 踊りながらずっと俺だけを見ていたレミアは、俺と目が合うと、幸せそうな、信頼し切った表情で笑顔を浮かべた。


 ・・・さて、色々考えるのはここまでにするか。

 今はレミアとの踊りを楽しみたい。

 そして何より、ローズ家の末の妹は、レミア・ローズはこんなにかわいいんだってところを、ここにいる全員に見せてあげたい!


 俺は踊りに合わせ、レミアを高く抱き上げる。

 レミアは一瞬驚くが、すぐに俺の意を汲み踊り始めた。

 ローズ家の屋敷で一緒に踊った、レミアらしい明るく、自由で、最高にかわいい、見る人を引きつける踊りだ。


「楽しいな、レミア。」


 俺はレミアに問いかける。


「うん!楽しいね、レオ!」


 レミアは会場にいる誰よりも素敵な笑顔でそう答えた。


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