38.お留守番②
扉を開き入って来たのは、晩餐会に出ているはずのレミアだった。
なんだか息が上がっている。
走ってきたのか?
それよりなんでここに?
晩餐会の後はすぐに舞踏会だって聞いてたけど?
それになんでレミア一人なんだ?
アニエスやリーズは?
混乱し何も言えないでいる俺をよそに、俺と目が合ったレミアは嬉しそうな顔で駆け寄ってくる。
「ごはんたべてるの、レオ?」
「あ、ああ・・・」
「レミアたちも今ごはんたべおわったの!
それでね、とってもおいしいパンがあったから、レオにもってきたの!
たべてみて!」
そう言い、どこにしまっていたのかパンを一切れ取り出すと、一口大に千切り俺の口元に差し出す。
言われるがまま口を付ける。
確かに柔らかくおいしいパンだが、どうやら少し冷めているようだ。
ずっと服の中に隠していたのだろうか?
レミアは座る場所を俺の膝の上に移し、二口目を差し出してくる。
なんかこの状況、初めて会った時を思い出すな・・・
・・・いや、懐かしんでる場合か!
どうしてレミアがここにいるのかはわからないが、今はこんなことしている場合じゃないはずだ。
「ねえねえ、きいてレオ!
ごはんのときにね、みんながレオをほめてたの!
すごいね、つよいねって!」
「そ、そうか・・・」
「あと、ルナちゃんとフブキちゃんもいたの!
ルナちゃんは話しかけようとしたらどこかに行っちゃったけど、フブキちゃんとはごはんのまえにいっぱい話せたよ!」
「レミア」
「それでね、フブキちゃんがねーーー」
「レミア、そろそろ行かないと。
舞踏会、始まっちゃうぞ?」
レミアの言葉を遮り、俺は努めて優しい口調で諭すように言う。
「・・・いかない。」
しかし、レミアは消え入りそうな小さな声で俺の言葉を拒否した。
そして膝の上に座ったまま、俺の手を抱き寄せぎゅっと握る。
「・・・どうしたんだ、レミア?
また不安になっちゃたのか。
大丈夫、レミアならちゃんと踊れるよ。
一杯練習だってしただろう?」
「・・・レオだってれんしゅうしたもん。」
「・・・?、ああ、そうだな。
だからレミアが踊れるのもちゃんと知ってるぞ。
舞踏会、行かなきゃもったいないぞ。」
「・・・・・」
俺は説得を続けるが、レミアは動こうとしない。
そのとき、
コンコンコンッ!
「レオ、入るわよ!」
慌てたノックの音と同時に、リーズが扉を開け入って来た。
「レオ、ここにレミア来て・・・
あっ、いた!
姉さん、レミアいたわ!」
リーズが部屋の外に声をかけると、少し遅れてアニエスもやってくる。
ドレス姿で探し回ったのだろう、息は切れ、額にはうっすらと汗もかいている。
アニエスはレミアの無事を見て安堵の表情を浮かべると、静かに近づき、俺の膝の上でうつむくレミアに優しく声をかけた。
「どうしたの、レミア?
晩餐会の間も元気がなかったわよね?
悩みがあるなら、お姉ちゃんに話してみて?」
俺の手を握るレミアの手に力が入る。
レミアは少し涙目になりながら、絞り出すように言葉を発した。
「・・・おねえちゃんおねがい、レオもぶとうかい、行かせてあげて。
レミアがちゃんといっしょにいるから・・・」
「それは・・・」
「・・・ダメよレミア。
レオは亜種だから舞踏会には連れていけない。
何度も言ったことでしょ。」
悩むアニエスを見て、リーズが後ろから声をかける。
しかしそれを聞いたレミアは、泣き出しそうな震え声で反論する。
「なんで亜種だとだめなの!?
亜種でもレオはぜったい悪いことなんてしないもん!
レオは、レオはすっごくやさしいのに!!
なのに・・・なのに、レオばっかりお留守番だし、おいしいごはんも食べれないし、この前のおねえさんもレオにいじわるするし・・・
レオばっかり・・・かわいそうだよ・・・」
ため込んできたものを吐き出したかのような言葉の後、とうとうレミアは俺の胸に顔をうずめ泣き出してしまった。
・・・そうか、レミアが悩んでいたのは俺のことだったのか。
思い返せば、俺が褒められてときはいつだって、レミアは本当に心から喜んでいた。
自分の奴隷が褒められたからとか、自分の評価に繋がるからではなく、レミアはずっと純粋に、俺のことを俺以上に喜んでくれていたんだ。
奴隷だ何だと言って俺がはなから諦めていたことを、レミアはずっと考えてくれていたんだ。
「・・・ありがとう、レミア、ありがとな。」
レミアの小さな体を抱きしめる。
レミアはすごくいい子だ。
こんなに優しい子は、今まで見たことがない。
「・・・でもやっぱり、俺は行っちゃダメだよ、レミア。
俺なら平気だから、レミアは俺の分までいっぱい楽しんでおいで。」
「うぅ・・・」
俺の言葉にレミアはまた涙をにじませる。
「・・・いいわ、一緒に行きましょう、レオ。」
「おねえちゃん!」
「姉さん!」
レミアとリーズが同時に声を上げる。
「ダメよ姉さん!
どれだけ反感を買うかわからないわよ!」
「大丈夫よ、何とかするわ。」
「なんとかするって・・・・
・・・マリルさんと組んで色々新しい法案を通してるせいで、古参連中から目を付けられてるのは姉さんもわかってるでしょ。
その上こんな目立つことすれば、なんて言われるかわからないわよ!
奴隷自体に嫌悪感が強い、南方領の貴族からの印象もきっと悪くなるわ。
それにお母さんの代からやってきた奴隷規制の強化はどうするのよ?」
「他の領主の人たちとの仲は、私ががんばればいいことだわ。
それに、奴隷の規制強化はなんのためにしてるの?」
「・・・奴隷の安全な使役と、奴隷化魔法による格差問題解決のためでしょ?」
「そうね。
でも元々は、失う魔力の量と、自分の半身をわけた奴隷の価値を再認識させるための法案なの。
建国後の、奴隷を使い捨てにして生存圏を広げる風潮を諫めるためのね。
そう考えれば、自分の奴隷をとっても大切にする私たちは、奴隷規制推進派の鏡だなんて言えない?」
「そんなの屁理屈じゃない・・・」
「ふふふっ、そうかもしれないわね。
でも、それでいいの。
多少無茶でも、私は家族にやりたいことをやらせてあげたいわ。」
「・・・会場には姉さんを目の敵にしてるあのヴラムの領主だっているのよ。
罵倒されたら反論なんてできないわよ。
きっと中に入るのだって止められるわ。」
「彼女には協力してもらえるようお願いしてみるわ。」
「そんなできるわけ・・・あっ!
いえ、してもらえるわね、協力。」
リーズの何か気が付いたような顔に、アニエスはふふふっといたずらそうに笑う。
「・・・もう、わかったわよ。
私も協力するわ、姉さん。」
「ありがとう、リーズ。」
「別に、いつものことよ。」
「・・・いいのか、俺が行っても?」
話のまとまった二人に、俺は改めて確認する。
「ええ、聞いてた通り。
でも、絶対に私たちのそばを離れないでね。
私たちも誰か一人は、あなたのそばにいるようにするから。」
「ああ、わかった。
本当にありがとう、アニエス、リーズ。」
俺がお礼を言うと、アニエスは俺とレミアを見て優しく微笑み、リーズもまた吹っ切れたようなさっぱりした顔で笑顔を浮かべた。
「ありがとう・・・アニエスおねえちゃん、リーズおねえちゃん・・・」
俺に続き、レミアも二人にお礼を言う。
わがままを言ったという思いがあるのか、俺の膝の上から降りたレミアは何とも言えない複雑な表情でうつむく。
全部俺のために言ってくれたわがままなんだけどね・・・
そんなレミアの目元を優しく拭うアニエス。
「泣いちゃだめよ、レミア。
連れていくのはあなたの奴隷なんだから。
あなたがちゃんと手を引いて、胸を張って連れて行きなさい。」
「・・・うん!!」
そして俺たちは、四人そろって舞踏会の会場へと向かう。




