37.お留守番①
セントフィア城のアニエスの部屋の前、背筋を伸ばし、気を付けの状態で立つ俺。
今日は待ちに待った舞踏会の日。
部屋の中では、三姉妹がこの日のために用意したドレスに着換えている最中だ。
時刻は夕方、これから首都に集まった全貴族が出席する晩餐会があり、舞踏会はその後会場を移して開かれるのだという。
まあ、俺はお留守番なんだけどね。
俺の分の食事は、城のメイドが部屋に持ってきてくれるのだとか。
帰りも遅くなるだろうから、先に寝ててもいいとのこと。
残念だけど仕方ないね。
今回ばっかりは連れて行ってくれなんて言えないし。
大人しく部屋でゆっくりしてますか。
・・・でも、心配なのはレミアだ。
なんだか見るからに元気がない。
何かを悩んでいるようにも見える。
魔法具店を巡っていた時は元気だったのだが、昨日の夜、舞踏会の話をし始めてから目に見えてシュンとしてしまっている。
やっぱり初めての舞踏会で不安なのだろうか・・・
「何か悩んでるのか?」と聞いたら、「・・・レオは一緒に行かないの?」なんて言葉も返ってきたし。
できるなら俺もそばにいてあげたいんだけどね。
でもこれからのことを考えると、あまり俺とベッタリなのもよくないからな。
頼られるのは嬉しいが、レミアも少しずつでも大人になっていかないと。
いやぁ、でもそうなったらそうなったで寂しいなぁ。
本当は共依存したい。
ズブズブに共依存したい。
幼い今のうちから色々教え込んでドロドロの共依存関係を実現したい・・・
・・・ハッ!何考えてんだ俺!
やばいやばい、思考が完全に犯罪者のそれだった。
俺の欲望を優先してどうする。
いつだって俺は「レミアの最善」を考えて行動しなくちゃな!
「レオ、入っていいわよ。」
しばらくすると、部屋の中から声がかかる。
三姉妹が着替え終わったらしい。
とうとう来たな。
あー、やばい、緊張してきた。
い、いや、ここは紳士的に、少し余裕を持った感じで入ろう。
「ああ、わかった。
それじゃあ、失礼するよぉぉ・・・」
部屋に入り三人を見た瞬間、その美しさに言葉を失う。
レミアはフリルのたくさんついた、淡い黄色と白のかわいらしいドレス。
小さな手を前で組み、何か言ってほしそうにはにかむその姿は、今すぐ飛びつき抱き上げたくなるような愛らしさがある。
リーズは装飾の少ない、体のラインがはっきりと出るタイプのドレス。
慎ましやかに膨らんだ胸、陶器のように美しい曲線をえがくくびれ、小ぶりで引き締まったお尻、鍛えられたしなやかな太ももまで、まるで手で直接撫でたかのように明確に体のラインが見て取れる。
膝から下は少しだけ広がったスカートになっているようだ。
情熱的な真紅が、リーズのスレンダーな体型と凛とした顔つきによく似合い、一層魅力的に見える。
背中もガバッと開いててセクシー。
髪型はいつものツインテールではなく、お姫様のように後ろで丸めてまとめている。
アニエスは胸から上が全部出たベアトップのドレス。
上半身は胸と腰のくびれを強調した体のラインが出るシンプルな作りで、腰から下は思わず飛び込みたくなるような柔らかく広がるスカート。
アニエスの透き通った肌、適度に肉のついた細い腕、滑らかな鎖骨と、薄いドレス生地に覆われた豊満な胸が一度に目に飛び込み、思わず生唾を飲む。
ちょっと近くに寄るのをためらうほどの色気だ。
そんな艶やかな上半身とは異なり、腰から下は天使の羽のようにふわりと広がった優美な品のあるスカートだ。
妖艶さと神々しさが合わさった、目を背けられられない美しさ。
跪いて手の甲にキスしたい。
「・・・なんて顔してるのよ。
口、空いてるわよ。」
「えっ、あっ、いや・・・
三人ともあまりに似合っててびっくりしちゃって・・・」
リーズの言葉で我に返り、思った言葉がそのまま口に出る。
すると、レミアは嬉しそうにパッと顔を輝かせ、リーズはちょっと驚いた後恥ずかしそうに顔を背け、アニエスは頬に手を当て幸せそうにふふふっと微笑んだ。
「ねえねえ、レミアきれい?きれい?」
レミアが俺のもとに駆け寄り、ドレス姿でピョンピョン跳ね両手を伸ばしながら更なる感想を求める。
「ああ!綺麗だし最高にかわいいぞ!
抱きしめたくなるな!」
「えへへ~、はい、いいよ!」
レミアは照れくさそうに笑った後、俺に向かって両腕を突き出す。
抱きしめていいらしい。
「ねぇレオ、私はどうかしら?変じゃない?」
俺が最高にかわいいレミアを抱き上げると、しなりとそばに近づいてきたアニエスが顔を寄せながら問いかける。
「あ、ああ、アニエスも綺麗だよ。
全然変なんかじゃない。
なんていうか、すごいドキドキする。」
「抱きしめたくなる?」
「ッ!・・・あ、ああ、もちろん。」
「ふふふっ・・・嬉しいわ、レオ。」
アニエスは俺の腕を軽く抱き、耳元でそう言う。
え、やばい、今日のアニエス色っぽ過ぎるんだけど・・・
アニエスは時々こういうアプローチをしてくるから非常に困る。
効果抜群だから止めてほしい。
そんな中、リーズもチラチラとこちらを見てくる。
・・・あれはきっと感想求めてるな。
ちょっと照れくさいけど・・・
「り、リーズも綺麗だよ。
その赤色、すごくリーズに似合ってる。」
「なっ!・・・ふふっ、あっ、あたりまえでしょ!」
リーズはにやけ顔を無理やり抑えながら、プイッとそっぽを向く。
お、照れてる照れてる。
こういうリーズの素直じゃないけど素直なところ、すごいかわいいと思う。
恥ずかしくても言ったかいがあったな。
「それじゃあいい時間だし、そろそろ出ましょうか。
レオ、昨日も言ったけど、今夜はこの部屋で留守番お願いね?」
リーズが壁の時計を見て声をかける。
至福のイチャイチャタイムは終わりらしい。
「ああ、わかった。楽しんできてな。」
「ごめんなさいね、レオ。
食事はお城の方に頼んであるわ。
他に何か必要なものはある?」
「大丈夫、心配ないよ。
部屋からも出ないし。
レミアも楽しんで来いよ。」
俺は膝を曲げ、うつむくレミアの頭をなでる。
「・・・うん。」
晩餐会へと向かう三姉妹を扉の前で見送る。
レミアは去り際、何か言いたげに、何度も俺の方を振り返っていた。
一人、広い部屋の中を見渡す。
さて・・・暇だな!
正直何してようか全然考えてなかった。
魔法練習かな?
でも、間違って何か物を壊してしまった時のことを考えるとなぁ・・・
うーん、少しすれば夕食も来るし、買ってもらった魔方陣でも眺めて待ってるかな。
・・・コンコンッ
「お食事をお持ちしました。」
机の上に買った魔方陣を並べ、その厨二っぽさに一人でニヤニヤしていると、頼んでいた夕食が部屋へと運ばれてくる。
おっ、来た来た。
「どうぞどうぞ!
鍵は開いてるので入ってきてください。」
机に出した魔方陣を傷つけないよう急いで片付けながら、俺は扉に向かって声をかける。
「えっ・・・し、失礼します。」
扉が開き、城のメイドが入ってくる。
ん?なんか驚いた顔してるな。
声を掛けられるとは思ってなかったのか?
それに全然営業スマイルもつくってないし。
むしろ引きつった表情に見える。
なぜ?
ていうかなんか距離も遠くね?
メイドは食事を乗せたワゴンを押して部屋に入ってきた後、入り口からまったく動かない。
少し離れた場所に座る俺を、目を離さずじっと見つめている。
・・・何だこの人?
このまま睨み合っていてもらちが明かないので、メイドの持ってきた食事を運ぼうと机から立ち上がる。
「ひぃ!」
ガチャン!
それを見たメイドは小さく悲鳴を上げて後ずさった。
そして我に返ったように「すみません」と小声で謝る。
「・・・そこで大丈夫ですよ、置いておいてください。
食べ終わったら部屋の外に出しておきますから。」
メイドは俺の言葉に何か迷ったような表情を浮かべるが、結局一礼だけすると食事を乗せたワゴンを置いて逃げるように去っていった。
・・・もしかしなくても今、怖がられてたよな?
思い返せば確かに、一昨日の奴隷決闘の後貴族たちからの視線が変わったように、城の使用人たちからの視線もなんとなく変わっていた。
見張られてるみたいな、警戒されてるみたいな感じに。
でもあれだけ露骨にやられるとちょっとショックだなぁ・・・
あれ?でも朝食のときはここまで露骨じゃなかったよな?
いや、あのときはアニエスたちと一緒にいたからか。
飼い主がいない、命令を聞かせられる人が側にいない今の状態だと、やっぱり怖いものなんだろう。
ワゴンの食事を机に運び、一人黙々と食べる。
首都にやって来てからの様々なことを、取り留めもなく考える。
・・・それにしても三人ともドレス似合ってたなぁ。
レミアもかわいかったし。
日ごろのシンプルな普段着もよく似合ってるが、おしゃれしてもあんなにかわいいんだな。
そういえば晩餐会ってどんな食事が出るんだろうか?
一回でいいから、そういう本当の上流階級の会食も体験してみたいな。
リーズは肩がこるだけとか言ってたけどね。
端で見てるだけでもいいから行ってみたい。
そしてレミアのおいしそうに食べる顔を見たい。
レミアはドレスにご飯をこぼしちゃったりしないだろうか。
いや、テーブルマナー等々はよく教え込まれてるから平気かな。
心配といえば、晩餐会のあとの舞踏会。
レミアはしっかり楽しんで踊れるだろうか。
首都に来る前も不安がってたし、それに直前のあんな考え込んだ顔を見ちゃうとなぁ・・・
リーズやアニエスもそばにいるから、大丈夫だとは思うが・・・
まあ、今更悩んだって仕方ないか。
会場にも行けないし。
俺は拾われた身で貴族でもなんでもないし、なにより亜種なんだから。
うーん、でもなんというか、一緒にいられないのは、やっぱり寂しいな・・・
食事をとる音だけが響く広い室内で、そんなことを一人思う。
そのとき、
キィ・・・
扉のきしむ静かな音が、部屋の中に響く。
視線を向ける。
そこにいたのは息を切らしたレミアだった。




