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35.魔法具店巡り②

「ねえねえアニエスおねえちゃん、さっきの魔法陣、レミアもつかっていい!?」


 お店を出た後、アニエスと手を繋いだレミアがワクワク顔で尋ねる。


「ふふふっ、もちろんよ。

何に使うの?」


「おようふく!

あと、くつとぼうしとハンカチにも!」


「全身真っ赤っかね、素敵だわ。」


「あとお水を赤くして、それであそぶの!」


「とっても楽しそう。」


「あとケーキも!」


「ふふふっ、おいしくなるかもしれないわね。」


 アニエスはそんなレミアの言葉を、優しく楽しそうに聞いていた。


 うーん、子供らしくはしゃぐレミアもかわいいな。

 値段的におもちゃ用の魔法陣なんて買えないだろうし、姉妹で一緒に楽しめ魔法陣が見つかってよかったんじゃないかな。

 まあこんな魔法がなくとも、俺の心はとっくにレミアへの情熱で真っ赤に染まってるけどね!

 ・・・今のはちょっと気持ち悪かったな。

 


「なあリーズ、そういえばさっきの店でも、詠唱魔法の商品って売ってなかったよな?

もしかして詠唱魔法って人気無いの?」


 レミアのかわいい後ろ姿を眺めながら、俺は先ほど疑問に思ったことをリーズに尋ねてみた。

 最初に入ろうとした買い取り屋にも、さっき入った魔法雑貨屋にも詠唱魔法の商品は置いていなかった。

 前聞いた話だと、詠唱魔法が一番一般的な魔法だって言ってはずだけど。


「うーん、人気がないわけではないけど・・・」


 次に入る店を探していたリーズは、少し考えた後話し始める。


「まず詠唱魔法の商品って、詠唱が載った魔法書か、読み方の教本くらいで種類が少ないの。

それに一度買えば消耗もせずずっと使えるし。

必需品ではあるけど、魔法商売の花形っていったらやっぱり魔法陣ね。」


「そうなのか・・・

詠唱魔法の本を構えて戦うのとか、かっこいい思ったんだけどなぁ。

こう、歴戦の魔術師みたいで!」


 俺が、魔法書を詠みながら戦う伝説の老魔術師っぽいポーズをとると、リーズは「何やってんのこいつ」的な視線で罵ってくる。

 つらい。


「言っておくけど、戦場に詠唱魔法書を持ち込む魔術師なんてはっきり言って二流よ。

魔法書で片手がふさがれるし、詠唱の時に敵から目線がそれるし、暗記してないから詠唱がスムーズじゃないし、自分の扱える魔法を把握できていない人が多いし、魔法書を失うと大抵平常心が保てず魔法が使えなくなるし・・・

亜種討伐に魔法書を持ってきている魔術師なんていたら、私ならすぐ帰らせるわね。」


 うわぁ、ぼろくそに言うなぁ・・・

 まあでも、亜種との戦いでは実際に死傷者も出るようだし、中途半端な実力で戦場には来て欲しくないということなんだろうな。


 ・・・そうなると、俺は亜種討伐には参加できるのだろうか?

 亜種討伐に奴隷を使うのは普通のことみたいだし、俺が参加すること自体はおかしくないとは思う。

 昨日のでかい奴隷も一人で倒せたし、実力もきっとあるはずだ。

 いや、でもあれはちょっとズルしたみたいなところあるしなぁ・・・

 相手の見えない森の中とかだと、対応できなかったりするのかなぁ・・・

 

 まあなんにせよ、できるだけリーズの助けにもなりたいからな。

 魔法練習は欠かさずして、もしそういう事態になったら、そのときは自分から志願してみよう。





「あっ!なあなあリーズ、あの店に入ってみないか!」


 俺はショーウィンドウに飾られた商品を見て、一件の店を指さす。

 店の文字は読めないけどたぶんあの店って・・・


「あの店?

・・・そうね、あなたも入れるみたいだし、入ってみましょうか。」


 リーズの後ろに続き店の扉をくぐる。

 店に入り目に飛び込んできたのは、魔法陣が刻まれた様々な武器や防具だった。

 いわゆる魔法武具店というやつだろう。

 魔法協会に行く途中に見かけてから、ずっと気になってたんだよなぁこの店。

 結構大きな店だし、ここなら俺でも使えるような護身用の魔法武器が見つかるかもしれない。


 真剣な表情で商品を吟味するリーズの横で、俺もレミアと手を繋ぎながら飾られた商品を見てまわる。

 内側に魔法陣の刻まれた平たい大きな盾、太い剣身に二つも魔法陣のついた両手剣、側面に魔法陣の刻まれた槌、鞘や矢筒にも魔法陣が付いたものがある。

 剣身の細い剣は、魔法陣を刻むため根本の部分が太くなっているものが多い。

 こんなに色々な武器防具が並んでいるのを見るのは、なんだかワクワクするな。

 RPGゲームの中に入ったみたい。

 こんな店なら俺でも使える武器があるかもしれない。

 気が遠くなるほど低い確率だがゼロではない。


「なあレミア、あれは何て書いてあるんだ?」


 店の中心の目立つ場所に説明書き付きで飾られた一本の両手剣を見て、俺はレミアに尋ねる。


「あれ?

うーんとね、えんしょうまほうけん、ってかいてあるよ!」


 えんしょう?

 もしかして炎焼か?

 え、かっこいい。

 これを買えば俺もまさかの魔法剣士デビュー!?

 そして亜種討伐でも大活躍で、リーズにも頼られまくり、やがて二人の間には信頼を越えた禁断の感情が!?


「うーん・・・」


 とそこで、一人で商品を見ていたリーズが微妙な顔をして小さく声を出す。

 ピンとくる商品は見つからないようだ。


「んまぁ!

ご来店まことにありがとうございます、お美しい騎士様!

本日はどんな武具をお探しでしょうか?」


 そんなリーズの様子を見て、揉み手をした女性店員がやってくる。

 武器屋なのに綺麗な手をした線の細いの店員だ。

 まあ武器屋だからってムキムキで口の悪い店員を期待するのもおかしな話だけど。


 そんなことを考えていると、店員はいきなりズイッとリーズに近づき、


「実は展示してある物の他にも、特別なお客様だけに販売している、入手困難な武具も店の奥にございますの。

お申し付けくだされば、きっとお力になれるはずです。

あっ、もちろん証明書付きの合法なものですわ。」


と小声で告げる。

 えらいグイグイくるなこの人。


「・・・そう、じゃあ軽量化魔法か硬化魔法のついた片手剣はある?」


「まあ、お客様は大変幸運でございます!

ちょうど軽量化魔法付きの武器で、とっておきの一品がございますの!

ただいまお持ちしましょう。」


 先ほどの小声は何処へやら、店員は大げさな身振りでそう言うと、店の奥から鞘に入った剣を一本持ってくる。


「こちら、ドヴェルグ領の名匠が打った魔法剣『風神斬り』でございます。」


 店員の持ってきた剣は、軍のお偉いさんか位の高い騎士なんかが持っていそうな、美しい装飾の施された片手剣だった。

 店員は仰々しい動作でリーズへとそれを手渡す。


「魔法陣は発動していい?」


「はぁい、もちろんです。」


 リーズが渡された剣を鞘から抜いく。


 この剣も他の片手剣と同じように、剣身の根本が太く、そこに魔法陣が刻まれているタイプのものだった。

 しかも、今まで見てきた魔法陣より文字のサイズが小さいように見える。

 文字を小さくして魔法陣を縮小する、みたいなこともできるんだな。

 まあそれだけ腕も必要だし、値段も高いのだろうが。

 

 リーズは剣を胸の前に掲げ、剣身を眺める。

 そして軽く一振りし、魔法陣を発動させた後、もう一度だけ剣を振った。

 明らかに力は入っていないのに、リーズの振る剣は速く鋭い。

 武器を持つ洗練されたその立ち姿も、見惚れるほど美しい。


 こんなのを見ると、形だけでも剣を持ってみたいなんて考えが恥ずかしくなるな・・・

 さっき見た燃える剣とやらも、よく考えれば明らかに俺の扱える重さじゃなさそうだし。

 俺が買ったら最終的に焼き肉の鉄板とかにしちゃいそう。


「・・・ありがとう、やっぱり遠慮しておくわ。

防御用か回復用のシンプルな魔法陣は置いてある?」


「申し訳ございません、当店は魔法陣付きの武器防具のみの取り扱いでして。」


「そう、ありがとう、おじゃましたわね。

行くわよ、レオ。」





「結局何も買わなかったな。

良いものは見つからなかったのか、リーズ?」


 店を出た後、なぜか少し無口になっているリーズに話しかける。


「・・・そうね。

あなたが使えそうな防具も無かったし、また別の店を探してみましょう。」


 あ、俺の付ける物を探してくれてたのか。

 ちょっと嬉しい。


「そういえばあの剣、『風神斬り』だっけ、あれはちょっとかっこよかったな。

秘蔵の剣っぽかったけど、どのくらい強い剣なんだ?」


「あんなのはおもちゃよ。」


 リーズは小さくため息を吐き言葉を続ける。


「軽量化の魔法陣はちゃんとしたものだったけど、剣の方が全然ダメ。

ドヴェルグ領の剣だっていうのも怪しいくらいだわ。

装飾は後から付け足したものだったし、たぶん魔法陣が思ってた以上にうまく彫れたから、見栄えだけ良くして、高くで売ろうとしたのね。」


 ドヴェルグ領はドワーフ種の多く集まる鍛冶業の盛んな領地で、金物製品はどんな物であれ、そこで作られたと言うだけで高い品質が約束されるのだという。


「でもドヴェルグ領には魔法技師なんてほとんどいないから、ちゃんとした魔法陣付きの武具は買えないの。

魔法武器が欲しいなら、ここみたいな魔法研究の盛んな町で探すか、武器を持ち込んで彫ってもらうしかないのだけど・・・

少なくとも、あんななまくらを名刀なんて言って売ってるような店じゃ買えないわね。」


「そ、そうなのか・・・」 


 全然気が付かなかった・・・

 俺一人だったら絶対あの厨二っぽい名前に騙されてたな。


 ていうか、今のところ俺が入ろうって言った店、全部地雷じゃないか?

 ・・・今更だけど不安になってきたな。

 もしかしたら俺は素敵な魔法陣には出会えない星の下に生まれたのかもしれない。

 まあ生まれた星には魔法なんて無かったけど。


 い、いや、まだあきらめるな!

 心配せずとも、まだ大本命のテルテ会長おすすめの魔法具店が残ってるじゃないか!




「ここ・・・だよな?」


 渡された地図を頼りに、テルテに勧められた魔法技師のお店にたどり着いく。

 しかし様子がおかしい。

 まず看板が掛かってない。

 それに物音もしない。

 窓から見える店内には明かりがついておらず、無人のようにも見える。


 これ本当に営業してるのか・・・?


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