28.吸血娘と雪娘③
「そういえば、二人はどういう関係なんだ?」
かき氷も食べ終わり一息ついたところで、俺はルナとフブキに質問する。
「わらわとフブキの関係とな?」
「そうそう、二人とも貴族なんだよな?
この貴族議会の前から知り合いなのか?」
「うむ、その通りなのだ。
それにただの貴族ではないぞ。
ヴラム家は由緒正しき吸血種の一族なのだ!
フブキとは家同士の付き合いでの、生まれたときから知っておる。」
「・・・うん、幼なじみ。」
「なるほど。」
家の仲がいいていうのは、ローズ家とコリー家みたいなものか。
コリー家にもレミアと友達になれるような、歳の小さい子がいればよかったんだがなぁ。
あ、そうだ!
「なあ、ルナやフブキくらいの歳の子って、他に貴族議会に来てたりしないか?
いるのなら誘って一緒に遊ぼうぜ!」
色々なところから人が集まってるんだし、せっかくならもっとレミアに同世代の友達を増やしてあげたいからな。
貴族同士の交流にもなるし悪い話ではあるまい。
と思ったのだが、俺の言葉を聞いたルナは途端に顔を曇らせる。
「い、いるにはいるが・・・
あやつらはいかん!
以前せっかくわらわが誘ってやったのに、すげなく断りおった。
もう絶対誘ってなどやらぬ!」
ルナは腕を組みプンプンと怒る。
「やはりフブキくらい魔力の多い優秀な種族でないと、わらわの友はつとまらぬのだ。
力ばかりの鬼種や西方の犬猫なぞこちらから願い下げだ!」
「そ、そうか・・・
なんかわるかったな。」
「うむ、友はフブキとレミアがいれば十分なのだ!」
・・・なんだかさっきからルナ発言ちょっと危なくないか?
偉そうなのは初めからだけど。
もしかしてルナって・・・
「・・・なあルナ、自分から誘ったって、いったいどういう風に声をかけたんだ?」
「ん?別に変わったことはないぞ。
精霊族の主たる吸血種のわらわが一緒に遊んでやる、と言っただけじゃ。
なのにあやつら、逃げるように立ち去りおって・・・
なんと無礼なことか!」
「な、なるほどね・・・」
・・・たぶんだけどこの子、魔力主義のご家庭の子だ。
魔力の多い優秀な種族とか、自分の種族が一番とか言ってたしな・・・
あれ?でも俺が魔法を使っても何も言われなかったな?
むしろ喜んでたし。
魔力主義にも程度や考えの違いみたいなのがあるってことか?
でも自己紹介でそんなこと言ってるようじゃ、そりゃ友達いないよな。
俺も、「我が種族は~」とかいきなり言ってくる子供がいたら、レミアを一緒に遊ばせないだろうし。
遊んでみればそんなに悪い子じゃないのはわかるんだけどね。
なんかもったいないな。
注意した方がいいだろうか?
でも、よそ様の家の教育方針に口を出すのもなぁ・・・
「それにしても、レオは優秀な奴隷だのう。」
持ってきていた三人分のコップに氷とスポドリを注ぎながら一人悩んでいると、ルナが俺を見上げ言う。
「姉様の集めている奴隷は大きいのや力の強そうなのばかりで、こわ・・・くはないが、あまり好きにはなれなかったのだが・・・
しかしレオならわらわでも平気なのだ!
賢いし、優しいしの!」
「そうか、ありがとうルナ。」
俺はいつもレミアにするように、ルナの頭を優しく撫でる。
先ほどの差別主義的な話を聞いた後だからちょっと複雑な気分だけど、レミアと友達になりたい気持ちは本物だろうし、主義主張で態度を変える必要はあるまい。
ルナもいろんな人と付き合う内に考えが変わるかもしれないしな。
そんなことを考えていると、俺になでられニヤニヤしていたルナが、何かいいことを思いついたようにパッとレミアを見る。
「そうだレミアよ、もしよければレオをわらわに譲ってはくれぬか?
これほどの奴隷なら、姉様も望むだけ報酬を出してくれるはずなのだ!」
ルナが予想外の提案をレミアに持ちかける。
確かリーズに以前聞いた話では、この世界において奴隷の売買は禁止されているはずだ。
奴隷の売買を認めてしまえば、金持ち貴族の奴隷収集という道楽のために、貧しい人たちが寿命を削って奴隷を得て売る、という非人道的な状況が生まれてしまうからだという。
前の世界の臓器売買みたいなものだろうか。
いや、臓器売買なら助かる人もいるが、こちらは完全に道楽である分、元の世界よりたちが悪いだろう。
しかし、そういった奴隷の売買を規制する法律に反対する貴族もおり、雇った者の奴隷を私物化したり、長期の派遣という名目で奴隷を買ったりするのは、グレーゾーンではあるが違法にはならないのだという。
中には、奴隷を複数所持することは家の繁栄の証だと考える貴族もいるのだとか。
聞けば聞くほどろくでもない話だが、姉が奴隷を集めていると言っていたり、ルナ自身が抵抗なく奴隷の売買を持ちかけてくるあたり、ヴラム家もそういった家柄なのだろう。
レミアはルナの言葉に一瞬キョトンとした後、
「や、やだ!レオはあげないよ!!」
と言いながら、ルナの頭を撫でる俺を引き寄せ、渡さないとばかりに強く抱きついてきた。
「あ、いや、すまぬ!嫌ならいいのだ!」
ルナは慌てて否定するが、二人の間にはなんだか気まずい空気が流れる。
あれ、大丈夫か?
これが原因で仲が悪くなって、レミアがクラスで浮いちゃって、いじめに発展したりとかしないだろうか。
いや、ルナの方がいじめられそうだな。
キャラ的に。
「・・・じゃあ、また今度・・・二人に会いに、レミアちゃんのお家・・・遊びに行ってもいい・・・?」
そんな空気を和らげる、フブキがレミアに尋ねる。
「うん!いいよ!
・・・ルナちゃんも来てくれる?」
レミアはフブキの提案に快くうなずいた後、おそるおそるルナを見た。
「う、うむ!もちろんだ!」
「やった!やくそくだよ!」
・・・大丈夫そうだな。
まあ元々三人ともいい子だし、友達になりたいって気持ちはお互いにあるんだから、余計な心配だったかな。
「・・・でもレオは・・・魔力、多いんだね。」
俺の注いだスポドリをちびちび飲みながら、フブキがつぶやく。
「確かに、奴隷とは思えぬほど無詠唱魔法も使いこなしておるしのう。
レオに奴隷化魔法をかけた術者も優秀な種族に違いない!
どうなのだレミア?」
ルナはまた危ない発言をしてるな。
「レオはレミアのどれいだよ!」
「そうではなくての・・・
奴隷化魔法をかけた者のことを聞いておるのだ。」
「?、レミアがかけたよ?」
「・・・レミアが自ら奴隷化魔法を使ったというのか?」
「そうだよ?」
レミアの言葉を聞いたルナは驚愕の表情で俺を見る。
「そ、それは本当かレオ・・・?」
「・・・ああ、本当だよ。」
「な、何をしておるのだレミア!
魔力が、寿命が半分になってしまうのだぞ!」
「そ、そうだけど・・・」
ルナの剣幕にレミアは思わずうつむく。
「姉様も言っておったぞ、わらわたちのような貴族や魔力の多い者が、奴隷化魔法を使ってはならぬと!」
「・・・ルナちゃん。」
「あっ、う、うむ・・・すまぬレミア・・・
しかしわらわは、そなたを思ってだな・・・」
フブキの制止でルナは落ち着きを取り戻す。
レミアを心配する気持ちに加えて、魔力主義の考えも入ってるから、余計かける言葉も強くなってしまったのだろう。
「・・・レオに魔法、かけないほうがよかった?」
レミアが俺を見上げ、消え入りそうな声で尋ねてくる。
「・・・いや、俺はレミアの奴隷になれて幸せだよ。
ありがとう、レミア。」
「うん!!」
笑顔で俺を見上げるレミアの頭を、優しくゆっくりと撫でる。
これからもきっと、奴隷化魔法を使ったことに対して、レミアは周りから色々言われるだろう。
大きくなればレミア自身が、魔力の半分という大きさについて深く考える日も来るかもしれない。
だからこそ俺がやらなきゃいけないのは、レミアを後悔させないことだ。
失った日々を惜しむ暇がないくらい、レミアを幸せにしてあげなくちゃいけない。
レミアをなでながらルナの方を見ると、なんだかすごく落ち込んでいるようだった。
フブキが背中をポンポン叩いて励ましてあげてる。
ルナって何か話すたびに地雷踏むよな・・・
そりゃそんなばんばん狙ったように地雷踏み抜いてれば友達いないだろうさ。
悪い子ではないんだけどねぇ・・・
「・・・と、ところでレオよ、そなたは本当に色々な魔法がつかえるのう!
他には何が出来るのだ?」
ルナが暗い雰囲気を変えようとまたもや話を変える。
ルナは失言の連続でさっきから落ち込みっぱなしだし、ここは一つ派手な魔法でも披露して気を紛らわせてあげようかな。
でも派手な魔法か、何がいいだろう?
今日は暑いし、やっぱり涼しくなるような魔法がいいな。
となると氷魔法かな?
でも大きい氷を出すのはフブキを助けるときにやったしな。
じゃあオーロラとか?
いや、あれ氷じゃないか、見たこともないし。
とそこで、かつて北海道旅行に行った際に目にした光景を、俺は思い出す。
・・・できるかわからないが試しにやってみるか。
「よし!じゃあ、ちょっと待っててくれよ。」
俺は中庭の中心にまで移動し、両手を頭上にかかげる。
そして魔力を空中に大量に放出し、イメージをする。
んー・・・出ろ!
おぼろげな記憶を頼りに魔法を出そうするも、小石サイズの氷がパラパラと落ちてきただけだった。
起こしたかった現象にはほど遠い。
「なんだこれは、小さい氷?
雪でも降らせたいのか?」
ルナが落ちてきた氷粒を拾い不思議そうな顔をする。
「うーん、そうじゃないんだけどな・・・」
やっぱり無理か?
・・・そういえばあれって確か、霧ぐらいの小さい水の塊が凍ってできるんだよな。
直接は出せなかったけど、順を追ってならどうだ?
たしか霧は風呂の湯気と同じ原理らしいし、大量に水蒸気を出してそれを凍らせられれば・・・
そう思い、俺は手始めに空中に送った魔力を全て水蒸気に変える。
「すごい!白くなったよ!」
「レミア、危ないからさがってて。」
さて、あとはこの霧の温度を下げるだけだ。
でもどれぐらい冷たくすればいいのだろうか?
まあ、とりあえず出来る限りやってみるか。
俺は再度魔力を送り、フブキを助けたときと同じように魔法で気温を変えようと試みる。
それも想像できる限り一番冷たい温度で。
しばしの集中の後、俺のイメージに合わせ魔力が姿を変える。
暖かな日差しとは対称的な真冬のような冷たい空気が、下にいる俺たちの所にもゆっくりと流れてくる。
しかし霧は凍らない。
ダメか・・・
霧が凍るような気温がイメージできていないんだ。
冬の寒い日くらいの気温には出来るが、氷点下にまでいく極寒地の気温にはほど遠い。
横目で子供たちの方を見る。
「お、おぬし、そんなに魔力を使って大丈夫か?
無理なら別にかまわんのだぞ!」
ルナは狼狽しながら俺に声をかけてくる。
確かにここまでするのにも結構な魔力を使っている。
普通なら今すぐにでも倒れてしまうような魔力の消費量なのだろう。
フブキも俺の服の裾をギュッと握りながら、心配そうに見上げてくる。
しかしそんな中、レミアの表情は二人と違っていた。
レミアだけは俺が失敗するなんて微塵も思っていないようだった。
俺を見上げる何の疑いもない目からは、
「がんばって!」
「レオならできるよ!」
と応援されているのがひしひしと伝わってくる。
・・・こんなに信頼されたんじゃ、かっこわるい姿は見せられないよな!
まだ手はある。
温度を変える魔法がこれ以上できないなら、次は「温度を奪う魔法」を使えばいいだけだ。
水に手を浸けたときや、氷を手で握ったときの感覚だ。
熱が外に移動していく感覚。
単なる熱が移動する現象。
これなら上限なんて無いはずだ。
俺は左手に魔法で出した氷を握りしめ感覚を確認しながら、再び右手を頭上にかざし魔力で霧を覆う。
・・・行け!奪い尽くせ!!
俺がイメージすると、空から流れてくる空気がより冷たいものに変わった。
うまくいったか!?
・・・いや、温度は下げられたが、霧はまったく変化していない。
なら凍るまでやるだけだ!
俺は空っぽにする覚悟で何度も魔力を送り直し、何十回と魔法を繰り返す。
しかし霧は凍らない。
・・・くそ、もう魔力が持たないぞ!
やっぱりだめなのか!
と思ったそのとき、霧に覆われた空が一瞬キラッと光った。
そしてそれを皮切りに、霧は一斉に光の粒へと姿を変え、見上げる空一面に宝石を敷き詰めたかの様に溢れる。
溢れる光の粒はその輝きを保ちながら、天使の羽のように俺たちの元へゆっくりと降りてきた。
・・・できた。
俺が魔法でつくったのはダイヤモンドダストってやつだ。
本当は極寒地の風のない晴れた日にしか見れないものらしい。
金色へ虹色へと色を変えながら輝くその姿は、確かに本物の宝石のようだ。
レミアたちの方へ目を向けると、三人とも言葉を忘れたかのようにその光景に目を奪われていた。
フフフッ、これだけ驚いてくれると嬉しいもんだな。
そこで、急に立ちくらみに襲われ、思わず芝の上に尻もちをつく。
体も少し重いし頭もぼんやりする。
魔力が少なくなったせいか。
なんだか風邪にかかったみたいだな。
「レオ!」
レミアはそんな俺の腕に抱きつき、いつも以上に興奮した様子で俺の名前を呼ぶ。
「寒くないかレミア。」
「だいじょうぶ!
レオすごいよ!大好き!」
そう言いながら、レミアは俺の腕をさらに強く抱きしめた。
反対側の腕も誰かに捕まえられる。
見ると、フブキがレミアと同じように俺の腕に抱きついていた。
頬を染め、ポーとした顔で俺を見上げている。
「ははは、フブキはそれじゃ暑くないか?」
「・・・いいの。
・・・ねえ、レオ・・・私にも、魔法教えて?」
「ああ、いいぞ。今度遊びに来たときにな。」
「・・・約束。」
「ああ、約束だ。」
そう言い俺とフブキは互いに微笑み合う。
「すごい!すごいぞレオ!」
今度はルナが正面から俺の膝の上に座り、俺の両頬に手を当てながら熱っぽく感動を伝えてくる。
「ああ、ありがとう。」
「礼を言うのはこちらの方だ!
まさか魔法で『雪精の祝福』が起こせるとは!」
「雪精の祝福?
そういう名前なのか?」
「・・・うん。
・・・見れたら、大人になるまで・・・亜種に襲われないの。」
そうなのか。
まあこれ自体はただの自然現象だし、迷信みたいなものだろうな。
「褒美を与えるぞ!
なんでも言ってみよ!」
「はははっ、いいよ別に。
じゃあ、レミアとずっと友達でいてくれ。」
「それはもちろんなのだ!
だがレオにも何か褒美をやらねば、わらわの気が収まらぬ!
何か褒美を・・・そうだな、レオには褒美をやらねばな。」
ルナは話している途中でなぜか神妙な顔になり、俺の首もとに顔を寄せた。
と思ったら、柔らかい感触の後に、首元をチクッと何か堅いもので刺される。
え、なんだ?
噛まれたのか!?
なんで!?
あ、そういえばルナは自分のことを吸血種とか言ってたな。
もしかして血を吸ってるのか?
「・・・あ。」
「あー!ルナちゃんだめだよ!
レオたべちゃだめ!」
抗議の声を両側から聞きながら、俺はなすすべなく首元を噛まれる。
両腕も二人に抱きしめられてふさがってるからね。
でもあれだな。
いざ噛まれてみると,歯で刺された痛みより唇の柔らかさの方が気になるな。
なんかいけないことしてる気分。
やがて、プハッという声と共に、ルナが俺の首から口を離す。
「終わったか?
これが褒美なのか?」
「うむ、魔力を補給してやったのだ!
わらわたち吸血種は吸血で魔力の授受ができるのでな。」
言われてみれば先ほどまでの体のだるさが消え、魔力も少量だが回復している。
「本当は親族と臣下にしかしてはならぬのだが、レオは特別だぞ!」
「ありがとう、ルナ。」
俺が感謝の言葉を言うと、ルナは俺の膝の上で胸を張りながら満面の笑みを見せた。
とその時、視界の端に何かが動いたのが見える。
今見えたのは・・・尻尾?
誰か見ていたのか?
まっ、気にすることはないかな。
城の使用人か何かだろう。
その後はリーズが帰ってくるまで、四人一緒に部屋の中で楽しく遊んだ。
ルナのことを見てリーズが一瞬驚いたような顔をしていたが、まあそれは深く考えないでおこう。
政治的な立ち位置もあるのだろうが、彼女たちはまだ子供なのだ。
子供のうちくらいはややこしいこと抜きに、無邪気に遊ばせてあげてもいいだろう。




