27.吸血娘と雪娘②
「なにしてあそぼっか!」
レミアが二人の手を取りながら元気よく言う。
同世代の子供と遊ぶことが少ないから嬉しいんだろうな。
家に食べ物を届けにくるウサミミ少女ことクレアとも年は近いが、朝に少し話したりする程度だし。
「わ、わらわはそういった子供っぽい遊びには通じておらぬからのう。
レミアが決めてよいぞ。」
ルナはレミアに手を握られ照れくさそうにしながらも、上から目線を崩さずそう言う。
フブキも小さくコクンとうなずく。
「レミア、フブキは病み上がりだから、あまり走ったり動いたりしない遊びがいいと思うぞ。」
「うん、わかった!
それじゃあ・・・かくれんぼしよ!」
というわけで、俺はレミアの部屋の扉の前で体育座りをしている。
いや、決していじめられている訳ではない。
俺は鬼で、部屋の中の三人が隠れ終わるのを待っているのだ。
部屋の中からキャッキャと楽しそうに話す声が聞こえて、ちょっと寂しいけどね・・・
ちなみにこちらの世界では遊びの中の「鬼」の役のことを、「亜種」と呼ぶらしい。
まあ現実に人を捕まえて食べるような悪者がいるんだから、そりゃそっちを呼び方としては使うよな。
・・・でもよく考えたら怖いな?
実際にある恐怖なわけだし。
元の世界で言ったら殺人犯ごっことか、変質者ごっこだぞ。
最終的にお巡りさんとの鬼ごっこになりそうだな。
「レオいいよー!」
しばらく待っているとレミアから準備OKの合図がかかる。
ルールとしては一番最後に見つかった人の勝ちだ。
まあ広いとはいえ隠れる場所は一部屋だけだしな。
五分か十分もあれば全員見つけられるだろ。
「へへへっ!どこにいったー!
見つけて食べちゃうぞー!」
それっぽいことを言いながら中に入る。
すると部屋に入った瞬間、ベッドのシーツが不自然に盛り上がっているのが目に入ってきた。
しかもなんかもそもそ動いてる。
シーツの端からさらさらの金髪も少しはみ出てるし。
レミアぁ・・・開始一秒で見つけちゃったよ・・・
「ど、どこだぁー?」
一応まだ見つけていない体で部屋をぐるぐると回る。
シーツにくるまり隠れるレミアは、俺が近づくと息を止めているのかピタッと動きが止まり、俺が通り過ぎると安心したようにまた小さく体が上下し始める。
うーん、顔が見えてなくてもかわいい。
ずっと見てたいなぁ・・・
まあそういうわけにもいかないので、とりあえずレミアの隠れるシーツに手をかけひっぺがす。
「ここかぁ!」
「キャ、あはははっ!
見つかっちゃった!」
レミアは俺に見つかると楽しそうに笑いながら抱きついてきた。
全然くやしがってないな。
もしかして見つけてほしかったのか?
見つかった後もじゃれてくるレミアをとりあえずおんぶして次を探す。
ベッドの下を探し、机の下を探し、クローゼットも開ける。
しかしなかなか見つからない。
よく考えればみんな体が小さいから、割りとどこにでも隠れられるんだよな。
うーん、棚も全部開けてみるか?
などと考えながら再度部屋を見渡す。
・・・ん?
あのカーテン少し不自然だな。
ちょっと動いてるような?
そう思い近づきめくってみる。
「・・・あ。」
カーテンの後ろで窓の外を見ていたフブキが、俺に見つかり小さく声をあげる。
「よし!フブキ見っけ!」
「・・・うん。」
フブキは俺に見つかると、無表情のままくるまったカーテンから出て手をキュッと握ってきた。
ひんやりとした小さい手が気持ちいい。
「フブキも上手く隠れてたな。
ところで何を見てたんだ?」
手を握るフブキに尋ねる。
「・・・誰か、見てたから・・・」
フブキはそう言い窓の外を見る。
誰か見てた?
俺たちが遊ぶのをか?
もしかして監視?
確かにルナもフブキもどこかの貴族みたいだし、見張りがついていたりするのかも。
でも、それならなんでフブキが倒れたときに助けに来なかったんだ?
・・・まあいいか。
別になにかやましいことをしているわけではないしな。
それにもし誰か見ているのだとしたら、逆に俺の無害さをアピールするチャンスかもしれない。
気が済むまで子供たちの遊びに付き合ってあげよう。
レミアをおんぶし、フブキと手を繋ぎながら、残ったルナを探す。
でももうぱっと見じゃわからないな。
というわけで、近くにあった人が入れそうな大きさの棚を順番に開けていく。
すると三つ目あたりで、ルナが膝を抱え丸まり隠れているのをあっさりと見つける。
「ははは、ルナも見っけ!」
俺が声をかけると、ルナは丸まった状態でビクッと体を震わせ、おそるおそるこちらに顔を向ける。
「わ、わらわを食べるのか・・・?」
完全に涙目だった。
え、なんで泣いてるの!?
・・・あ!
そういえば部屋に入るときに、食べちゃうぞー、とか言ったな。
本気にしちゃったのか?
ま、まあ俺も一応亜種だしな、ちょっと考え無しだったかも・・・
俺はおんぶしたレミアを降ろした後、努めて明るい表情をしながらルナを抱き上げ、
「だ、大丈夫!食べない食べない!
そ、それより、見つかったのルナが一番最後だぞ!やったな!」
と笑顔で言う。
「さ、最後?
・・・ハッ!そ、そうだな!
ふふん、まあ当然なのだ!
もっと誉めてよいぞ!」
さっきまで泣きそうだったルナは、俺のそばに立つレミアとフブキを見た後、高い高いされた状態で腰に手を当てドヤ顔をする。
かわいいなこの子。
「じゃあ、つぎはレミアが見つけるばんね!
レオもかくれて!」
あれ、亜種役交代するのか?
まあ家でかくれんぼしたときも鬼は交代でやったしな。
別にかまわないか。
そうして役を交代しながら、俺達はしばらくかくれんぼを続けた。
俺が隠れる番の時は、大抵一番最初に見つかった。
まあ体の大きさが違うからしかないね。
遊んでいるうちにだんだんと小腹が空いてくる。
「そろそろ休憩しておやつでも食べようか。」
俺は切りのいいところで子供たちに提案した。
「やった!おやつだ!」
レミアが両手をあげ喜ぶ。
「わらわはイチゴが乗ってるやつがよいぞ!」
「・・・なんでも、いい。」
レミアと一緒に食べ物をもらいに部屋を出る。
奴隷の俺一人じゃまずいからね。
軽食は城の使用人に言えば持ってきてもらえると朝リーズに聞いていたので、とりあえず歩きながら探す。
立派なお城だしお菓子も色々な種類が置いてあるんだろうな。
今日は少し暑いし涼しげなものがいいかも。
涼しげなおやつか・・・そうだ!
「なあレミア、かき氷って食べたことあるか?」
「ううん、ないよ。どんなの?」
「細かく砕いた氷に甘いシロップをかけた食べ物なんだけど・・・
ケーキとどっちがいい?」
「氷をたべるの!?それがいい!」
歩いているうちに見つけた使用人に声をかけ、蜂蜜とレモン、深さのある適当なお皿を三つと、ついでにイチゴも用意してもらい、中庭の日陰にあるテーブルに子供たち三人を座らせる。
「外で食べるのか、なかなか趣があってよいの!
・・・ん?なんだこれは?皿しかないではないか。」
外で食べると聞いてワクワクな様子だったルナは、テーブルに用意された空の皿を見て俺に尋ねる。
フブキも、不思議そうな顔で俺を見る。
「大丈夫。よーし、よく見てろよ!」
俺は大げさな動作でテーブルに手をかざし、砕いたサラサラの氷を魔法で出す。
三人の皿は瞬く間に山盛りのかき氷でいっぱいになった。
いやぁー、魔法って本当に便利。
「おお!なんだこれは!雪か?」
「・・・氷。」
「すごい!これを食べるの?」
驚く三人のかき氷に蜂蜜とレモンを混ぜた特製シロップをかける。
「そう!暑い日には涼しくなるために、氷に甘いシロップをかけて食べるんだよ。
二人は食べたことあるか?」
「・・・ううん。」
フブキがふるふると首を振る。
「わらわ達の住む北方領では、こんなに暑い日はそうそうないからの。
氷はあるが食べたりはせぬ。」
ルナも食べたことは無いようだ。
「食べていいレオ?」
レミアが待ちきれないといった風に聞く。
「ああ、いいぞ。
ゆっくり食べるんだぞ。」
俺は最後にかき氷のてっぺんにイチゴを乗せて言う。
「ん~!つめたくておいしい!」
レミアが幸せそうな顔でかき氷をパクつく。
ん~、かわいい。
作ったかいがあった。
「うむ、初めはただの氷かとも思ったが、なかなか美味ではないか!
イチゴも乗っておるしな!」
ルナにも好評だ。
偉そうな言葉遣いとはうらはらに夢中になって食べている。
フブキは相変わらず無表情だし、食べるペースもゆっくりだが、スプーンを止めずに食べ続けているのを見ると、たぶん気に入ってくれたのだろう。
とそこで、
「うー、レオー、あたまがー・・・」
とレミアが頭を押さえながら、俺に助けを求めてきた。
「はははっ、大丈夫か?
ゆくっり食べないとキーンってなるぞ。」
しかめっ面になるレミアの頭を撫でてやる。
「・・・なおった!ありがとレオ!」
レミアは元気になると、またパクパクとかき氷を食べ始める。
「ゆっくりな、レミア。」
「あぁー、うぅー、レオよ・・・
わらわにもしてくれぇ・・・」
と、今度は横にいたルナが頭を押さえてうなり始めた。
「はははっ、はいはい。これでいいか。」
ルナのつやつやの銀髪を優しく撫でる。
「・・・レオ。」
するとそれを見ていたフブキも、撫でてと言わんばかりに頭を差し出してきた。
フブキはゆっくり食べてたから痛くなってないはずなんだけど・・・
まあいいか。
二人の頭を同時になでる。
なんだこれ、幸せだ。
「あぅー、レオもう一回してー・・・」
レミアがまたもや痛くなったのか頭を差し出してしてくる。
ていうか、頭が痛くなったら俺が撫でて直すみたいな流れになってるな。
別にほっとけば勝手に直るんだが。
「ありがとうレオ!はい!あげる!」
頭痛が治り晴れやかな顔のレミアが、かき氷をすくったスプーンを俺に向けた。
「ありがとう、レミア。」
俺は素直にそれに口を付ける。
これももう慣れたやりとりだ。
家でもそうだが、お昼のティータイムのとき俺の分は用意しない。
リーズ曰く、「奴隷のあなたの分のおやつなんてないわ」ということらしく、お昼は給仕に徹している。
この世界の食事は朝夕二食みたいだし、奴隷には不必要な贅沢ということなのだろう。
しかし、それにレミアは納得しなかったようで、代わりにと毎回一口か二口ほど俺に分けてくれるのだ。
天使だね。エルフの天使。
まあ、最近になってなぜか、
「べ、別に、あなたの分も用意してもいいのよ。」
とリーズからお許しが出たが、丁重にお断りした。
奴隷には贅沢だって言うのもわかるしね。
あまり立場を越えて甘えすぎるのはよくない。
なにより現状がベストだしね。
ずっとこのままでいたい。
リーズが大きくなって、「お父さんと一緒に食べるのなんてイヤ!」と言うまではこのままでいたい。
とそこで、そんな俺とレミアのやりとりをポカンとした顔で見ていたルナが、一瞬迷った後、俺に声をかける。
「れ、レオ!
ほれ、わらわのも食べてよいぞ!
わらわもそなたに治してもらったからな。」
ルナは胸を張りながらスプーンをさし出す。
「おお、ありがとう。ルナもやさしいな。」
俺は差し出しされたかき氷を食べ、ルナの頭を撫でて誉める。
するとルナはうつむき顔を隠すが、明らかに口元がニヤついている
嬉しいのかな。隠せてないな。
それにしてもすぐ顔に出るなこの子。
そして、当然のようにスプーンを差し出してくるフブキにもあーんをしてもらい、なぜか立て続けに二口目を食べさせようとするレミアのかき氷を食べたところで、俺も頭がキーンとなる。
「だ、大丈夫かレオよ!?」
「・・・頭痛いの?」
「レミアがなおしてあげる!」
俺の様子を見た三人は、皆で一緒に俺の頭を撫でてくれた。
食べ終わるまでに、撫でなくても治ること教えてあげなきゃな。




