25.首都セントフィア
屋敷での軽い朝食を終え、コリー領の騎士連合の護衛のもと、ローズ家姉妹にマリル、ハウルも加えた六人で首都へと向かう。
マリルとアニエスは領主としての話し合いがあるとかで、二人で別の馬車に乗った。
マリルがアニエスの腕を抱きながら乗っていくのを見ると、ただ単に二人きりになりたいだけではないのかとも思ったが、マリルがあまりにも幸せそうな顔をしていたので、野暮なつっこみはしないでおいた。
しかし西方領一の権力者があんなにデレデレでいいのだろうか。
アニエスが悪女だったら絶対領地の二つや三つは貢がされてるぞ。
マリルとアニエスが別の馬車に乗ったので、今いる馬車には俺の他にリーズ、レミア、ハウルの三人が乗っている。
俺は来たときと同じようにレミアを膝に乗せ、魔法で一緒に遊んでいた。
レミアの出した剣士風の水の人形が、俺の出す悪者たちをばっさばっさと薙払っていく。
今朝の模擬試合を見て感化されたのだろう。
盛り上がりすぎて周りに水が飛ばないようにしないとな。
それにしても、朝の散歩が終わった頃からか、やけにハウルがチラチラと俺の方を見てくる。
さっき魔法を使ったときなんか三度見くらいされたし。
どうしたんだろう。
やはり亜種とここまで近くで過ごすのは嫌とかだろうか?
でも屋敷に来たときは普通だったよな?
首都に着けばローズ家と敵対するような人たちとも接しなきゃいけないだろうし、ローズ家に迷惑をかけないためにも、楽観的な考えはしないようにしないとな。
でもなにも心当たりがないんだよなぁ。
などと考えていると、平静を装っていたハウルが意を決したように俺に話しかけてくる。
「・・・レオさん、その魔法はあなたが出しているのですか?」
「え?ああ、そうだけど。」
あれ、単に魔法を使うのが珍しかっただけか?
「こらレオ、敬語を使いなさい。」
「いえ、大丈夫ですよ。
いつもはこの口調なんですよね。
それにしても、話に聞いたことはありましたが、無詠唱魔法を使える奴隷なんて初めて見ましたよ。
レオさんは優秀ですね。」
「あ、ありがとう。」
「レオはすごいね!」
俺の膝に座るレミアが手を伸ばして頭をなでてくれる。
かわいい。
たぶん世界から戦争が無くなるくらいかわいい。
「言葉を話したときも驚かれたけど、魔法を使う奴隷って言うのも珍しいものなんだっけ?」
ふと疑問に思ったことをリーズに尋ねる。
「ええ、そうね。
奴隷は奴隷化魔法の効果で、言葉が理解できるようにはなっているから、発声さえ練習させれば話せるようにはなるけど、それにはかなりの時間と根気が必要よ。
魔法を使わせるとなると、言葉を話せるようにした上で詠唱も覚えさせなくちゃいけないから、並大抵じゃないわね。
普通はそこまでしないわ。
あまりメリットもないし。」
「え、使えれば便利じゃないか?
俺も家事とかでめちゃくちゃ重宝してるし。
言葉も話せないと生活できないだろ?」
最近は洗濯も、濯ぎから乾燥まで全部魔法でやってるしな。
「まあ、あなたはそうだろうけど・・・
でも奴隷を持つのは基本的に、町を移動する必要のある商人か、奴隷に働かせて副出入を得ようとする貧民なの。
亜種は精霊族より身体能力が高いから、戦わせるにしろ働かせるにしろ、余計なことはさせない方が効率がいいのよ。
言葉だって話せても、普段は不平や不満しか言わないらしいしね。
聞かれたことへの返答以外は、言葉を発しないように命令するのが普通なのよ。」
「そうですね。
その上魔法を使う奴隷となると、貴族の飼う一部の愛玩用の奴隷か、見世物小屋の奴隷くらいです。」
なるほどな。
ということは、俺って結構希少価値が高っかたりするのか?
ローズ家を追い出されても芸で食っていけるかも!
いや、ローズ家を追い出されるのは嫌だな。
でも働いてお小遣いを稼いだりはしてみたい。
そして稼いだお金全部使ってレミアを甘やかしたい。
「でもそこまで上手いと、逆に首都いる間はあまり魔法は使わない方がいいでしょうね。
魔力主義の方々に目を付けられかねませんから。」
「え、あの連中そんなことまで気にしてるの?」
「ええ、そうみたいですよ。
すぐに何かされるわけではないでしょうが、あまりいい顔はされないでしょうね。」
「なんだその魔力主義って?」
俺が聞くと、リーズがため息をつきながら応える。
「精霊族と、亜種を含めた他の生き物との一番の違いは魔力であり、魔力の最大値が高い種族ほど精霊族として優秀である、みたいなことを言ってる奴らがいるのよ。
建国以来、精霊族同士の争いと種族差別は禁止されているのにね。
まあ種族差がある以上、そういった考えがあるのはしかたないことなのかもしれないけど・・・」
亜種って言う明確な敵がいるから精霊族同士は仲がいいのかとも思ったけど、そういうわけではないんだな。
悲しいことだ。
「そういえばあなた、コリー家のお屋敷に着いたときマリルさんやハウルの耳をじっと見ていたけど、首都に着いたらそういうこともしちゃダメよ。」
「え、見るのもだめなのか!
もしかして誉めたりするのもダメ?」
「まあ、誉められればそれは嬉しいけど・・・
でも貴族議会中は特にピリピリしてるから、触れないのが無難って話よ。
いいわね。」
確かに国中から色々な種族が集まるんだもんな。
下手に何か誉めれば、それが誰かを貶める発言に聞こえてしまうのかもしれない。
でも考えてみれば、俺はどの種族にも当てはまらないから逆にどんな種族でも偏見なしで愛でられると言えないか?
いいね、みんな違ってみんなかわいい。
数時間後、窓の外を見ていたリーズが声をかける。
「見えてきたわ、あれが首都セントフィアよ。」
リーズの視線の先を見ると、そこには高い白塗りの城壁が丸く町を囲むようにそびえ立っていた。
一定間隔ごとに城壁塔のような建物もついている。
「すごい!あんなたかいかべ、はじめて見た!」
「あれが城壁ってやつか。
確かにすごいな。
あれ?でもそういえば、今まで通った町にはこういう城壁はなかったよな?」
休憩に使った町やコリー家の屋敷がある町にも、こういった防御用の設備はなかった。
「亜種結界魔法ができてから城壁は必要なくなったからね。
今ではこういった城壁があるのはここだけよ。
まあ観光名所みたいなものね。」
「でもそれだと、精霊族同士で争いになったときに大変じゃないのか?」
「さっきも言ったでしょ、精霊族同士で争うのはこの国で最大のタブーなの。
亜種結界魔法ができる前、精霊族同士で物資を奪い合っていくつもの種族が滅びた歴史があるからね。
領地に城壁を造るのも違反行為になるのよ。」
そんな話をしているうちに馬車は城壁を通り町に到着する。
壁の内側には、整然と区画整理された町が広がっていた。
通りに並ぶ建物の色は白に統一され、形状も全て二階か三階建ての直方体だ。
出店が賑い様々な見た目の人が行き交うローズ領やコリー領とは異なり、街を歩く人は皆裕福そうな身なりで、規格と清潔さの保たれた町並みには近未来感さえ感じる。
「レオ!あれみて!」
レミアが指さす方向を見ると、大通りの先に再び掘り付きの高い城壁があり、その内側になにか大きな建物が建っているのが見えた。
馬車は町を通り抜け、厳重な検問の後、その城壁の内側へと入る。
城壁を抜け目に飛び込んできたのは、巨大な城だった。
真っ白な壁に、いくつもの青い屋根の塔、見上げる首が痛くなるほど高く大きい城全体に細かい細工が施されているのも遠目からわかる。
ローズ家やコリー家の住む家はお屋敷といった感じだったが、目の前にそびえ立つ建物は、まさしく想像を形にしたかのような西洋の城だった。
馬車を降り、待ちかまえていた使用人たちの案内で城の中に入る。
赤い絨毯の敷かれた長い廊下を通り、いくつもの部屋を通り過ぎ、芝の生えた広い中庭の横も通り、ようやく泊まる部屋にたどり着く。
絶対迷うなこれ。
もう来た道覚えてないし。
部屋に入る際、再び俺が誰の部屋にいるのかで揉める。
「えー!リーズおねえちゃんばっかりずるいよ!
レミアもごはんいっしょに食べたり、体ふいてもらったりしたい!」
「あ!こらレミア!」
「あらあら、そんな楽しそうなことしてたの?
二人ともずるいわ。
朝の散歩も私を置いて行っちゃうし・・・」
「い、いや、これはその・・・
てっ、朝のは姉さんが起きないからでしょ!」
結局、他の貴族との話し合いで夜遅くなってしまうアニエスを除いた、俺、レミア、リーズの三人で一緒の部屋を使うことに決まった。
一部屋無駄になっちゃうけど仕方ないね。
アニエスはまた拗ねていたが、彼女と一緒の部屋だとそれこそ緊張で俺が寝れなくなるし、まあ適当な部屋割りだろう。
貴族議会の本番は二日後。
明日はアニエスもリーズも用事があるので、レミアと二人で
いてもらうことになるらしい。
お城の探検でもして過ごそうかな。




