24.模擬試合
翌朝、レミア、リーズ、俺の三人でコリー家の庭を散歩する。
アニエスも誘ったのだが、寝ぼけてベッドに引きずり込まれただけだった。
レミアを肩車しながらゆっくり歩いて回る。
コリー家の庭は屋敷同様、ローズ家の庭の倍近い広さがあるようだった。
あれだけ栄えた町の中にこんなに大きな土地を持つことからも、コリー家が相当な権力者であることが伺える。
「広い庭だなー。
ここもうちの庭にあるような魔法陣で管理してるんだよな?」
横を歩くリーズに尋ねる。
「いいえ、あの魔法陣はうちの庭でしか使えないわ。
発明した領主様がなんの説明も残さないまま亡くなっちゃってね。
一応、魔法陣を魔法協会に提出してはいるけど、なんの音沙汰もないし、解析は進んでないみたいね。」
「ふーん、なんかもったいないな。
そういう場合でも新魔法発明の報酬ってもらえるの?」
今だに魔法を発明して億万長者になる夢が消せない自分としては、気になるところである。
「この場合は魔法の発明じゃなくて発見になるから、もらえてもほんの少しよ。
法則を見つけて汎用的な形に落とし込んで、初めて魔法の発明になるの。
困窮した見習い魔法学者は、魔法文字を適当に組んで見つけた新しい魔法陣でお金を稼ぐらしいわ。
これは新魔法の発見の方ね。
結構危ないことみたいだけど。
そういう偶然見つかった魔法を解析して、新魔法の発明として登録する魔法学者も多いみたい。」
へー、魔法業界にも色々あるんだな。
でも適当に魔法陣を作るって、適当な薬品を混ぜて実験するみたいな感じか?
怖すぎだろ。
それに魔法学者と見習いがいるってことは、教授が学生の研究成果を奪うみたいな話もありそう。
うーん、厳しそうだな、魔法開発。
無詠唱魔法なら色々できるんだけどなぁ。
無詠唱魔法のコツを本にして出すか?
物を浮かせるときは、こう、下からガーッといい感じに力をかけて・・・
無理だな。いい感じってなんだよ。
「塩と砂糖を適量」ぐらい不親切だな。
そもそも俺、読み書きできないしね。
家事にも慣れたしそろそろ習った方がいいのかな?
「それにうちは魔法協会の魔法管理に賛成の立場だからね。
新魔法は積極的に登録してるのよ。」
「反対する人がいるのか?」
「新しい魔法の普及や管理も魔法協会の仕事の一つなんだけど、発見した魔法を協会に提出したがらない貴族や魔術師もいるのよ。
魔法は共有して精霊国全体のために役立てるべき、ていうのが貴族議会の基本的な方針だけど、強力な魔法はそのままその家の力に直結していたりもするからね。
難しい問題だわ。」
「なるほど・・・
確かに強い魔法なら独占したくもなるよな。」
「そういうこと。
でもそういった魔法の中には、術者に大きな副作用があったり、予期せぬところに被害が出たり、悪用されると大きな問題に繋がるような、危険魔法って呼ばれる魔法もあるから、やっぱり無視はできないのよ。
魔法協会の研究で改善できることもあるしね。
秘匿されてる魔法の提出は、何度も貴族議会の議題にあがってるわ。」
なるほどな。
でも聞いてると、まるで科学技術みたいだな。
自国の科学技術が他国に流出するのは嫌だし、悪用が怖いって言うのは、原子力の技術が犯罪組織に渡るのが怖いみたいな話か。
科学の代わりに魔法が発達しても、同じ様な状況になるんだな。
「レオ!まえ!まえ・・・きゃう!!」
リーズと話しながら歩いていたせいで、飛び出た木の枝に気づかず、肩車するレミアの頭がぶつかってしまう。
「あ!ごめんレミア!大丈夫か?」
「いたい~、レオなでて~」
「ああ!痛いの痛いの飛んでけー!」
「あははは!なにそれー!」
少し涙目で笑うレミアのおでこを撫でていると、クスクスッと笑い声が聞こえる。
声のした方を見ると、庭の一角にある尖った屋根の付いた木造の展望小屋に、使用人服を着たハウルと、優雅にお茶を飲みながらこちらを見て微笑むマリルがいた。
「皆さんおはようございますぅ〜。
朝から賑やかですねぇ〜。
あれぇ、でもアニエスがいませんねぇ?」
「おはようマリル!」
「おはようございます、マリルさん。
姉さんならはまだ寝てますよ。」
レミアとリーズも挨拶を返す。
俺は後ろで軽く会釈する。
「ふふっ、やっぱりまだ朝は弱いんですねぇ〜。
でもちょうどよかったわぁ〜、ついさきほどまで、リーズちゃんのお話をしていたんですよぉ〜。
ハウルがリーズちゃんにぃ、お願いがあるんですってぇ〜。」
「マリル様!?
い、いえ、私は大丈夫ですから!」
後ろで熟練の執事感を醸し出していたハウルが、急に乙女のように狼狽する。
「なに?別に私にできることならかまわないわよ。」
「いえ、その・・・
リーズ様は剣の達人だと前々からうかがっていたので、よろしければお手合わせ願えないかと・・・」
「なんだそんなことね。
いいわよ、今からでいい?」
「は、はい!
よろしくお願いします!」
というわけで、ハウルの持ってきた模擬刀を持ち向かい合う。
お手合わせってやっぱりそういうことなのか・・・
あんなにかわいく恥じらってしたお願いがこれかよ!
周りも全然突っ込まないし・・・
これ割りと普通のことなの?
え、こわ。異世界こわ。
・・・いや、もしかしたら俺が知らないだけで、元の世界でもこんなことがあったのかもしれない。
剣道部なんかは他校の生徒と、
「お前、剣士だな!」
「貴様こそ!勝負だ!」
みたいなやり取りを電車でしてたのかも!
・・・ないな。
野蛮すぎだろ。
ポケモントレーナーかよ。
ふざけてないで二人の試合に集中しよ。
剣を持つ二人の間には張り詰めた空気が流れる。
ハウルの様子は先ほどとは打って変わり、その目つきは獲物を狙う猟犬の様だ。
腕、足、体のバネを縮め、戦う意志を全身で表している。
それに引き替えリーズは自然体だ。
静かな目でハウルを見ながら、片手で持った剣を向ける。
先に仕掛けたのはハウルだった。
体全身を使いリーズに切りかかる。
リーズは最小限の動作でそれを受け流すが、ハウルの攻撃は止まらない。
休まず次々に攻撃を重ねる。
リーズが押されてるか?
いや、攻撃の間を縫ってリーズも的確にハウルの急所に攻撃を繰り出している。
だがハウルも危ないながらもギリギリでそれをかわし続ける。
しばらくそうした激しい剣戟を交わすが決着はつかない。
リーズが後ろに飛び間合いをひらく。
あれほどの打ち合いを続けたにも関わらず、息一つあがっていないようだ。
「なかなかやるわね。
じゃあこんなのはどう?」
リーズはそう言うと、先ほどの間合いよりさらに深くに踏み込み、ハウルの喉元に向かって真っ直ぐに剣を突いた。
おそらく踏み込む際に何か魔法を使ったのだろう、リーズの間合いを詰めるスピードは尋常ではなく、虚を突かれたハウルは反応が一瞬遅れる。
「くっ!」
ハウルは上体をそらしながら、迫る剣を切り上げはじく。
その衝撃でリーズの剣はあっさりと手から放れてしまった。
やられた!
と思ったが、次の瞬間、倒れていたのはハウルだった。
リーズは手から剣をはじかれた瞬間、懐に入ると同時にハウルの剣を持った腕をつかみ、背負い投げで地面に叩き付けたのだ。
そして、いつのまにか奪っていた模擬刀を、倒れるハウルの首に突き付ける。
「・・・完敗です、リーズ様。」
「いいえ、こっちはただの奇襲技。
通じるのは一度だけよ。」
リーズはハウルの手を握り起きあがらせる。
「いえ、最後の突き、とっさに回避行動はとりましたが、切り上げて軌道をそらさなければ一撃もらっていたでしょう。
そしてリーズ様は、私が切り上げるのを見てから剣を離し、私を投げた。
どちらにせよ回避のしようがありませんでしたよ。
おみそれいりました。」
「でもそれがわかっているなら、あなたに二度目は通じないわ。」
「お姉ちゃんたちかっこいいね!」
勝負の終わった二人を見てレミアが俺に言う。
確かにかっこいい。
盗賊に襲われたときは遠目でよくわからなかったが、本当にバルさんの言った通りリーズは強いんだな。
俺はこんな人に守るとかのたまったのか。
ちょっと恥ずかしい。
「お手合わせありがとうございました。
やはり貴族学校で聞いたお噂通りの強さでしたね。」
試合の終わったハウルが、乱れた服を正しお礼を言う。
「貴族学校での噂って、学校を追い出されたっ不良生徒とか、そんな話じゃないの?」
「え!リーズ様って不良生徒だったんですか?」
俺は予想外のことに思わず尋ねる。
どちらかというと委員長キャラだけど。
「いえとんでもない!
確かに北方領や東方領の出身者には、今でも悪く言う者はいますが・・・
しかし西方領の学生や、特に講師陣は皆あなたの中退を惜しんでいましたよ!」
ハウルが慌てて説明する。
話によると、アニエスが主席で卒業した後に入学したリーズは、周りの期待通り成績も優秀で、特に魔術と剣術においては右に出る者がいなかったという。
しかし入学から三年目に周りに何も告げずに退学したことで、当時の学校内で大きな話題となり、様々な憶測が飛びかったのだとか。
ハウルが入学したのもちょうどその頃だという。
「へー、でもなんで途中で辞めちゃったんですか?」
期待の重さに、とかか?
「在学中に前の領主だった母さんが死んじゃってね。
姉さんが新しい領主になったんだけど、領主になるにはまだかなり若かったし、家には姉さんと幼いレミアしかいなかったから、家の手伝いをするために学校は辞めたの。
まあ元々学校に行くのは領地管理の知識を付けるのが目的だったし、予定が少し早まっただけね。」
リーズはなんでもないことの様に言う。
でも大変だったんだろうな。
アニエスと二人での慣れない領地管理に加え、幼いレミアの世話と、あの広い屋敷での家事だ。
並大抵では無かっただろう。
「でもどうして、リーズ様はあんなに貴族学校で敵視されていたのでしょうか?」
「知らないわ。
単に成績がいいのが気に食わなかったんじゃない?」
まあ確かにリーズは性格も口調も、慣れていないと厳しく感じるからな。
アニエスなら優秀でも憧れられるだけだろうけど、リーズの優秀さは妬ましく見えたのだろうか。
「う〜ん、それはですねぇ〜、リーズちゃんがとぉっても強かったのが、理由なんですよぉ〜。」
とそこにマリルが口を挟む。
「貴族の家の子はぁ〜、成人したら領主の手伝いをするかぁ〜、力のある子は領地開拓をするのがぁ、普通じゃないですかぁ〜。
領主として有望なアニエスの後にぃ、とぉっても強いリーズちゃんが来たからぁ〜、ローズ家が力を増してくんじゃないかってぇ、皆さん焦ったんですよぉ〜。」
それはつまり、リーズのいじめの裏には貴族の勢力争いがあったってこと?
えー・・・貴族学校こわ・・・
リーズがレミアを行かせたくないのもわかるな。
でもマリルは流石領主だけあって、そういうことはよく知ってるんだな。
「なるほどね。
ようやく謎が解けたわ。
ありがとう、マリルさん。」
「いいえぇ、リーズちゃんは大変でしたねぇ・・・
私はアニエスの後輩でしたからねぇ、とぉっても幸せでしたよぉ〜。
毎日アニエスと一緒に過ごしてぇ、ご飯も食べてぇ〜・・・
あっ、リーズちゃんたちはぁ、一緒に住んでるから当然なんですねぇ〜、うらやましいですぅ〜」
本当にアニエス大好きだなこの人。
「それじゃあ、そろそろアニエスも起きるころでしょうしぃ〜、皆さん屋敷に戻りましょうかぁ〜。」
そう言いマリルは立ち上がる。
「うん!レミアもおなかすいちゃった!」
そうして、レミアと手を繋ぎながら、みんなで屋敷に戻った。
リーズとハウルの試合は予想外だったけど、リーズの昔話も聞けたし楽しい散歩だったな。




