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23.お泊まり

「ローズ家の皆様のお部屋は、それぞれ二階にご用意しておりますのでご案内します。」


 そう言うハウルの案内で今日泊まる部屋に通される。

 さすが建物が大きいだけあって客室もかなり広い。

 三部屋用意してもらったが、一部屋だけでも余裕で全員泊まれそうだ。


「何か不便があれば、手近な使用人にお申し付けください。

ところで、レオさんのお部屋はいかがいたしましょうか?」


「私たちと一緒でいいわ。」


「かしこまりました。

それでは夕食ができましたら、またお部屋に伺います。」


「ありがとう、わかったわ。」


 ハウルは案内が終わると無駄話一つせず去ってしまった。

 本当に真面目な人だ。

 さて、でもこれでようやくゆっくり休めるな。

 さっきは緊張したなー!

 じゃあ早速部屋に・・・ん?


「・・・俺はどの部屋にいればいいんだ?」


 さらっと言ってたから聞き流しちゃったけど、さっきアニエス、一緒の部屋って言ってたよな?

 え、マジで!?誰と!?


「レミアといっしょのへやだよ!」


 レミアが抱きつき、馬車に乗ったとき以上のワクワク顔で俺を見上げる。

 ・・・いいの、それ?

 尋ねるようにリーズを見る。


「・・・まあいいわ。

レオ、あなたはレミアの部屋にいなさい。

レミアもあまりレオにくっついたりしないようにね。」


 リーズがしぶしぶと言った感じで言う。


「やったーー!

レオ!今日はいっしょにねようね!」


「だからそういうのはダメ!

襲われたりしたらどうするの!

・・・やっぱりレオは私の部屋にいさせるわ。」


「えー!レオはそんなことしないよ!」


「私だって信用してないわけじゃないけど・・・

でもどんなに大人しい奴隷でも、我を忘れて術者に襲いかかることはあるのよ。

そうなったらあなたじゃ抵抗できないでしょ。

私なら蹴り飛ばすこともできるし、レオは私の部屋にいさせるわ。」


「うぅー」


「うー、じゃないでしょ。」


 そう言いながらも、ぬか喜びさせてしまったことに対してリーズも少し申し訳なさそうな顔をする。


「それじゃあ間をとって私の部屋はどう?」


「ダメに決まってるでしょ!

姉さんまで何言ってるのよ・・・」


「え~」


「えー、じゃない!」





 というわけで、リーズと二人で部屋に入る。

 部屋にベッドは一つしかないが、大きなソファーがいくつも置いてあるし寝るのには困らなそうだな。

 俺の横でリーズも部屋を見渡す。


「懐かしい・・・。

この部屋一度だけ、小さい頃に母さんたちと泊まったことがあるわ。

まだレミアが生まれていない頃かしら?

今日はレオと二人だけどね。

あれ?二人・・きり・・・?」


 尻すぼみになる言葉に違和感を覚え振り向くと、リーズは入ってきたときの懐かしむような表情からは打って変わり、少し頬を赤らめうつむき、見るからにソワソワしてる。


「・・・どうかしたのかリーズ?

体調でも悪いのか?」


「れ、レオ!さっきも言ったけど、一緒の部屋だからって、その、へ、変な気起こしちゃダメよ!

それと部屋にいる間も、私の言うことはしっかり守ること!

た、例えば、その・・・

ほんとに例えばだけど!

頭を、えっと、撫でてって言ったら、その・・・」


 何か喋ってるみたいだけど、後半は特にごにょごにょ言ってるせいで正直全然聞こえない。

 まあ元気そうだし大丈夫かな。

 それに、まず聞きたいこともある。


「なあリーズ、あんなに心配するくらいなら、もう一部屋用意してもらえばよかったんじゃないか?

別に俺は物置とかでもいいし。」


 正直さっきはまだ完全には信用してもらえてないのかと、ちょっと落ち込みもしたが、亜種について知った今では、俺をレミアと一緒に寝させるのが心配な気持ちも分かるしな。

 俺だって実際、アニエスなんかと同じ部屋になったら、リーズの言っていた通り理性が持つかわからないし。

 ちょっと違うかもしれないけど、そういうことだよな?

 亜種は本能に忠実で、精霊族を襲い犯し喰らうものらしいし。


 俺の言葉を聞いたリーズは少し真面目な顔になる。


「・・・まあ、マリルは頼めば一部屋くらい用意してくれるでしょうけど、他の使用人たちの目もあるし、奴隷のあなたに客室を与えるなんて普通はするべきじゃないわ。

逆に物置とかだと姉さんとレミアが反対するだろうし。

べ、別に気にしなくていいわよ。

私だって、その・・・

あなたと一緒の部屋が嫌な訳じゃないし・・・」


「そ、そうか・・・

でも普通、奴隷はどこに居させるものなんだ?」


 リーズの唐突なデレに内心テンパるが、適当な質問でお茶を濁す。

 もっと大人な対応ができるようになりたい。


「普通は外にいさせるわね。

あなたみたいに大人しいなら部屋にいさせてもいいけど。」


 流石に外は嫌だな・・・

 この季節なら死にはしないだろうけど、風邪くらいはひくだろうし。



 俺は適当なソファーの近くに荷物を下ろす。

 それにしてもリーズと一緒の部屋か、一番予想してなかったな。

 もちろん嬉しいけどね。

 リーズも嫌じゃないって言ってくれたし。

 美少女エルフと一つ屋根の下どころか、同部屋一泊だもんなぁ・・・

 やばいなんか緊張してきた。

 いや、もちろん俺からはなにもしないよ!

 絶対蹴り飛ばされるし。

 でも万が一もしかしたら何かの気の迷いとかで、リーズの方からお誘いが・・・

 いやないな。

 大人しくしてるか。




 部屋でリーズと一緒に簡単な荷ほどきをしていると、ハウルが夕食に呼びに来た。

 だけど残念ながら俺は部屋でお留守番だ。

 まあ他の使用人が仕事をしている中、奴隷の俺が一緒のテーブルで食事をするわけにもいかないしな。

 ちょっと残念。

 俺の分の夕食はリーズが戻ってくるときに持ってきてくれるという。

 それまでは部屋からは出れないが自由時間だ。

 なにしてよう?

 ローズ家のお屋敷にいるときは、なんだかんだいって一日のスケジュールは決まってるから、暇な時間ってないんだよな。

 うーん、魔法の練習でもしてるか。

 リーズと一緒の部屋だし、夜にはできないからな。


 というわけで、ポケットに忍ばせておいた石夫と石子を取り出そうとする。

 あれ?石子がいない!?

 どこかで落としたか?

 くっ!あんなに愛し合ってた二人が引き裂かれるなんて!

 なんて悲劇なんだ!!

 ・・・まあ茶番はいいか、石夫を二つに割ろ。




「・・・なにしてるのあなた?」


 頬杖を突きなが空中おはじきをしていると、バスケットを持ったリーズが部屋に入ってくる。


「いや、ちょっと魔法の練習を・・・

あ!それ俺の夕食か?」


 ちょうどお腹も空いたし、空中おはじきにも飽きたしで退屈してたんだ。

 リーズの差し出すバスケットの中を見ると、パン、チーズ、ハムとワインが入っていた。

 ちょっと質素かなと思ったが、パンはふわっふわの白パンだし、チーズは何倍にも凝縮したように濃厚だし、ハムは口に入れた瞬間肉の旨みが弾けるしで、大満足の夕飯だった。

 ワインはまだ自分には苦いだけだったので水を魔法で出して飲んだ。


 無言で黙々と食べていると、横に座るリーズがじーと俺を見てくる。


「・・・どうしたんだ、そんなにこっち見て?」


 正直すごい食べにくい。

 美少女に見られてると思うと、思わず食べる仕草もお上品になってしまう。

 今めっちゃ背筋伸びてる。

 おいしいかどうか気になるのか?

 残念だなー、聞いてくれれば「君の方が何倍もおいしそうだよ」とか言っちゃうのになー。

 おっさんかよ。


 リーズは俺の言葉で慌てて目をそらす。


「べ、別に見てないわよ!

・・・ねえレオ、あなた毎日あんな魔法の練習をしてるの?」


「ん?ああ、夜中にちょこっとだけね。」


「どうして?」


「どうしてって、まあ寝るまで暇だっていうのもあるけど・・・

魔法を使えた方が家事をするのにも便利だし、それに前に言った通り、リーズたちを守れるようになりたいしな。」


「そう・・・」


 俺の言葉を聞いたリーズが暗い表情になる。

 え?なんかまずいこと言ったか?

 もしかして売られる!?

 嫌だ!ドナドナは嫌だ!


「・・・さっきはごめんなさいレオ、怒ってるわよね。」


 何故かいきなり謝られた。


「え、どうしたんだ急に?

ていうか何のことだ?」


 さっぱり心当たりがない。


「さっきあなたのいる部屋を決めるとき、私、信用していないみたいなことを言っちゃったじゃない、だから・・・」


 ・・・なるほど、そういうことか。


「・・・大丈夫だよリーズ。

まあ確かに、少しも悲しくなかったなんて言えば嘘になるけど、でも、リーズはいつでも皆のことを考えて、色々言ってくれてるんだってことは、俺もわかってるから・・・」


 そう言いながらリーズの頭を撫でる。

 リーズの口調が厳しいのは、誰よりも一番ローズ家のことを考えているからなんだ。

 それがわかっているのに、リーズを嫌いになれるはずがない。


「うん・・・」


 リーズは俺の手を払おうとはせず、小さく頷いた。


「でも急にどうしたんだ?

部屋を出る前は普通にしてたのに。」


「・・・夕食の前にレミアがね、『レオがかわいそう!』ってあんまり言うものだから、ちょっと考えちゃって・・・」


「はははっ、そうか、まあレミアもいずれわかってくれるよ。」


 俺はリーズを元気付けようと努めて明るく言う。

 するとリーズはゆっくりと俺の肩にもたれかかってきた。

 俺は彼女の頭を優しく撫で続ける。


 え、な、なんか、すごくいい雰囲気なんだけど・・・

 な、なにか話しかけた方がいいかな?

 とりあえず深呼吸だ!

 リーズを安心させるためにも、俺が取り乱してはいけない。

 あ!いつもより早い心臓の音も聞かれてるかも!

 心臓止めなきゃ!



 などと考えていると、


「い、いつまで撫でてるのよ!

わ、私はもう着替えて寝るわ!」


と、いつの間にか少し元気になっていたリーズが、俺の手を払い立ち上がる。

 あぁ、肩に残った熱が寂しい・・・

 まあリーズが元気になったんならいいけどさ。

 さて、じゃあ俺も食べたものを片づけて寝るとするか。


 と思ったところで、リーズの姿を見てぎょっとする。

 リーズは今まさにベッドの上で服を脱ごうとしていた。

 え!ここで着替えるの!?

 い、いやそりゃそうか、ここリーズの部屋だし。

 ・・・これは見てしまってもいいものなのか?

 いや、見てもいいはずだ!

 見るな、という命令はされてないし。

 それにこの世界で俺は亜種だからな!

 亜種は違う生き物って認識らしいし、俺が見てても問題ないはずだ!

 そうに違いない!


 と思ったら、


「な、なに見てるのよ!!

今から体を拭いて着替えるから、終わるまで向こうむいてなさい!」


と、俺と目が合い顔を真っ赤にしたリーズが叫ぶ。


「は、はい!」


 高速で回れ右する。

 残念だ・・・

 でも、やっぱり恥ずかしいんだな。

 ・・・恥ずかしいってことは、意識されてるってことか?

 よかった後ろ向いといて。

 ちょっと顔がにやけてるかもしれない。




 ・・・それにしても遅いな。

 まだ着替え終わらないのか?


「れ、レオ・・・」


 気をつけして待っていると、リーズから声がかかる。


「・・・なんだ?」


「せ、背中、拭いてもらえない・・・?」


 え!背中を?拭く!?

 リーズの呼びかけに、おそるおそる後ろを振り向くと、ベッドの上で女の子座りをしながら、脱いだ服を両腕で抱え前を隠し、何も身につけていない真っ白な背中をこちらに向けたリーズがいた。

 背中越しに恥ずかしそうにチラチラこちらをうかがっている。


「・・・・・」


「な、なんで黙ってるのよ・・・」


「え、あ、いや、綺麗だなと思って・・・」


 思わず思ったことがそのまま口に出る。


「き、綺麗って・・・

ば、バカ!変なこと言ってないで早くして!」


「あ、ああ・・・」


 ベッドに上がり、受け取ったタオルを魔法で濡らし、リーズの裸の背中と向き合った。

 めちゃくちゃ綺麗だな・・・

 シミや傷一つない真っ白な肌に、思わず生唾を飲む。

 やばい、緊張で手が震えてきた。

 ていうか、なんでリーズはいきなり背中を拭いてなんて頼んできたんだ?

 一人で拭けないわけないのに。

 もしかして俺に拭いてほしかったとか・・・?

 時間がかかっていたのも、頼むかどうかで悩んでたからとか・・・

 い、いや、余計なことは考えるな!

 無心だ!無心で拭くんだ!

 ・・・でも、リーズはあんなに強いのに、首や腰はこんなに細いんだなぁ。

 こ、こんなの俺が触れていいものなのか?

 いやいや、そんなんじゃない、俺はリーズの背中を拭くだけだ、何もやましいことなど無い。

 そう、このセクシーな背中を布一枚で直接拭いていくだけ・・・


 えぇい!ままよ!

 考えるほど泥沼にはまりそうなので、思い切って拭き始める。

 リーズの背中は見た目通り拭き心地もなめらかで、タオル越しでも張りのあるきめの細かい肌であることがわかった。


「い、痛いわ!

もう少し優しく拭いて・・・」


「わ、わるい・・・」


 緊張から力が入っていたようだ。

 あぁ、ダメだ・・・

 触ると布越しに肌の下の柔らかい肉の感触まで伝わってきてしまう。

 少し視線を逸らせば、わきの下から柔らかそうな胸の膨らみが見え、視線をあげると、真っ赤になったエルフ耳が手を動かすたびにピクピク震えているのが見える。

 ・・・ダメだ、完全にやばい。

 このままじゃ本当にいけない狼になってしまう!

 だ、誰か!誰か助けて!



 ガチャ!


 その時、扉の開く音が響く。


「リーズおねえちゃん!いっしょにねよー・・・

あー!!おねえちゃんズルい!

レオにふいてもらってるー!」


 入って来たのはレミアだった。

 レミアは部屋に入って来るなり、スポポーンと服を脱いで俺とリーズのもとに駆け寄ってくる。


「な、なにしに来たのレミア!

ていうか前隠しなさい!」


「ねえレオ!レミアもふいて!!」


 先ほどの危ないムードは吹き飛び、いつものリーズがレミアを叱る微笑ましい光景になっていた。

 た、助かった・・・



 そしてその後は、レミアの前で少し冷静になったリーズとレミア二人の背中を拭き、何故か俺の体も二人に拭いてもらった。

 リーズの肌が目に焼き付いてなかなか寝付けなかったのは言うまでもない。




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