19.お買い物
「明日、一緒に服を買いに行かない、レオ?」
ある日の夕食後、アニエスに話しかけられる。
アニエスからデートのお誘いだと・・・!
え、どうしよう!
女性とデートの経験なんてないぞ!
まずどこに行けばいいんだろう?
初デートと言えば映画か?
映画を見た後は、お洒落な喫茶店で甘いものでも食べながら小一時間おしゃべりして、その後手をつなぎながらウィンドウショッピングと洒落こんで、次のデートの話なんかもしちゃって、気づいたらいつの間にか付き合って三年になってて、自然な感じで「そろそろ結婚しよっか」とか言って結婚しちゃうのか。
いや、初デートで映画は失敗しがちだと、どこかの恋愛指南書に書いてあったな。
じゃあ公園とかにするか?
春らしい暖かな天気の日に一緒に公園に遊びに行って、手作りのお弁当なんかも食べて、いつか犬も飼いたいねとか話して、三年後の初デート記念日にまた遊びに来たりして、俺は就職もして、初給料で買った指輪を「俺と一生一緒にいてください!」とか言いながら渡して結婚しちゃうのか。
どう転んでも結婚しちゃうな。
困ったな。
子供の名前とか今のうちから考えておいた方がいいかな?
・・・ふざけるのはやめるか。
二つ目は服すら買いに行ってないしな。
「ああ、いいぞ。
明日は確か授業はないんだったよな、リーズ?」
「ええ、騎士連合の方に行かなきゃいけないからね。
好きにしていいわ。」
リーズは週に一度くらいの頻度で、街の見回りや結界周辺の巡回などといった、騎士連合の仕事の手伝いをしている。
そういう日は授業はお休みだ。
日頃使わない部屋の掃除などはこういった日にまとめてやっている。
ちなみに、ダンスやテーブルマナー等、習う必要のない授業の時も俺はお休みだ。
マナー等々は習っておいた方がいいのでは?とも思ったが、「奴隷のあなたが、貴族と同じテーブルにつくことはないから大丈夫よ」とのことらしい。
「レミアも行っていい?」
「ええ、もちろんよ。
一緒に行きましょう。」
「わーい!」
明日はアニエス、レミアと三人でお出かけか、楽しみだな。
リーズが行けないのはちょっと残念だけどね。
「ところでどんな服を買いに行くんだ?」
下着かな?
「ふふふっ、買うのはあなたの服よ、レオ。」
「俺の服?」
え、なにかご褒美をもらえるようなことしたっけ?
「レオあなた、作業着以外ろくな服持って無かったでしょ。
貴族議会も近いし、外に着ていけるような服を買ってあげようって話になったのよ。」
感謝しなさいよね、とリーズが髪をかきあげる。
そうだったのか、まじめにやってきてよかったな。
次の日、出かける準備を終え玄関でアニエスとレミアを待っていると、先にリーズがやって来る。
「はいこれ洋服代。
あまり使いすぎないようにね。」
そう言い、お金の入った小袋を手渡される。
「俺に渡していいのか?」
「そうね、普通は奴隷にお金を持たせたりなんかしないわ。
でも姉さん、お金の使い方かなり適当だから・・・」
そう言いため息をつく。
リーズによると、アニエスは自分自身の物はあまり買わないのだが、妹二人のためには値段も見ず何でも買ってしまうらしい。
そのため、「リーズに似合いそうだったから」と家一軒買えるほどの値段のネックレスを買ってきて以来、アニエスの買い物には必ずリーズも付いて行っているそうだ。
領地運営も、お金に関することは全てリーズがやっているのだという。
「あなたお金の計算できたわよね?
姉さんが無駄使いしないように、ちゃんと見ていてちょうだい。」
「わ、わかった。」
一応、数字と通貨の種類についてはリーズから習ってるしな。
物価はわからないが、値段を見比べたり代金を支払ったりくらいはできるだろう。
騎士連合に向かうリーズを見送った後、アニエス、レミアと一緒に街へ出る。
「かっこいい服がいいな!」
レミアは右手をアニエス、左手を俺と繋ぎながら歩く。
また夫婦と娘みたいな感じになってるな。
正直うれしい。
周りの目は痛いが。
「ふふふっ、そうね。
じゃあとりあえず、いつもお世話になっているお店に行ってみましょうか。」
「うん!」
しばらくして、きらびやかな外装の店にたどり着く。
「これはこれは、いらっしゃいませアニエス様、レミア様。
いつも御贔屓にしてくださりありがとうございます。
今日はどのような品をお求めでしょうか?」
店に入るやいなや、腰の低いメガネをかけた短髪の女性が話しかけてきた。
「今日はこの子の服を買おうと思って来たの。
何かいいものはあるかしら?」
そう言いながら、アニエスは後ろでぼんやりとやり取りを見ていた俺の方を向く。
「おや、こちらが噂のレミア様の奴隷ですか!
いやはや、気性の穏やかないい奴隷ですね。
よく調教されてらっしゃる。
すぅばらしい!」
メガネの女性が両手を広げオーバーに反応する。
この人ちょっと苦手だな・・・
服屋で話しかけられたら逃げたくなるタイプの店員だ。
「こちらの奴隷に似合う服ですか?
もぉちろんありますとも!
幸い精霊族に近い体型の種族ですし、すぐにでもご用意できますよ!
それではただいま何点か見繕って持って参りますので、少々お待ちください。」
「うわ・・・」
思わずうめき声がでる。
店員の持ってきた服は、全てフリルのついた少女趣味全開のかわいらしい女性服だった。
おいおい嫌がらせかよ・・・
いや、この世界には女性しかいないんだ。
メンズ服なんて考えはないんだろう。
でも流石にこれは・・・
「さあさあ、どうぞお好きな物をご試着ください!」
え!試着できちゃうの!
やばい、誰一人得をしない女装ファッションショー的な展開になってしまう。
「・・・気に入った服は無さそう、レオ?」
俺がためらってるの感じたのか、アニエスが尋ねる。
「あ、ああ・・・
奴隷の俺がアニエスたちと同じような服を着るのもあれだし・・・
も、もっと質素な、奴隷用の服も見に行ってみないか?」
もっともらしい理由をつけて店を移らないかと提案する。
「そうしましょうか。
今日はありがとう、また来るわね。」
店員に挨拶をしてから店を出る。
よかった・・・
外出用の服があれになったら、マジで一生お屋敷に引きこもってたな。
「私たちの服はたいていあそこで買っちゃうのだけど・・・
レオには少し似合わなかったわね。」
「レミアも、もっとかっこいい服がいいとおもう!」
アニエスとレミアも先ほどの服は気に入らなかったようだ。
「でも、奴隷用の服なんてどこで買えばいいのかしら?
・・・行ったことはないけれど、確か奴隷用の道具を扱ってるお店があったはずだから、そこに行ってみる?」
「ああ、よろしく頼む。」
アニエスの案内で一軒の店にたどり着く。
大通りから外れた路地に建つ、暗い雰囲気の小さな店だった。
壁には蔦が這っており、窓はあるが、汚れと店内の暗さのせいで中はうかがえない。
大丈夫か?ちょっとヤバそうだぞこの店。
「・・・やっぱり止めておく?」
アニエスがしり込みした様子で聞いてくる。
少し戸惑ってるみたいだ。
こんな店だとは思ってなかったのだろう。
「いや、せっかく来たんだ、少しだけ見ていくよ。
アニエスはレミアとここで待っていてくれ。」
「わかったわ。いってらっしゃい。」
アニエスが小さく手を振るのを横目で見ながら、店に入った。
「・・・なんだこれ。」
目に入って来たのは、壁一面に飾られた、棘や刃のついた拷問道具だった。
店の半分近くを占めている。
二人を外で待たせておいてよかったな・・・
「・・・どうして奴隷が一人でこんなところにいるんだい。」
暗い店の奥から声が聞こえて来る。
目を凝らすと、そこにはボサボサの白い髪を生やした、背の低い女性が座っていた。
「ん?・・・あんた最近噂になってる領主様んところの奴隷だねぇ。
こんなところに何しに来たんだい。
盗みでも命令されたのかい。」
白髪の女性はクックックと笑う。
「いや・・・奴隷用の服でいい物があれば、買って来るように言われてるんだ。
何かないか?」
正直今すぐにでも出ていきたい気分だが、とりあえず確認だけする。
「服かい、それならそこの角に置いてあるから勝手に見な。」
店員は顎をしゃくり店の隅を指す。
あるのか・・・
なかったらすぐ帰れたんだけど。
まあ、あるなら一応見ていくか。
雑多に置かれた品を手に取り見ていく。
粗い麻のシャツやズボン、口の部分だけ開いた皮のフルフェイスマスク、首輪、貞操帯など様々な物が置いてある。
「・・・なあ、ここは奴隷用の道具を売ってる店って聞いたんだが、なんでこんな物騒な物ばかり置いてあるんだ?」
品物を物色する俺を監視するようにジッと見つめる店員に尋ねる。
壁にかけられた道具の中には、首輪や手錠といった拘束具から、ペンチや焼きごてなど、明らかに人体を破壊する目的の物も飾ってあった。
「そんなの、奴隷の調教用に決まってるじゃないか。
制約でしつけるより、道具で直接やった方が恐怖心を植えつけられるからね。
まあもっとも、そうゆう趣味なだけの奴が大半だがね。」
店員がまたもや不気味に笑う。
・・・出よう。
正直もうこの店員と話すのすら嫌だ。
俺は無言で出口に向かう。
「なんだ買わないのかい。
なあ、領主様に言っといておくれよ。
いい道具がいっぱいあったから是非買いに行くべきです、ってね。」
店の前で待っていた二人と合流する。
「おかえりなさい、レオ。
何かいいものはあった?」
「いや、特にはなかったよ。もう行こう。」
中の様子を話す必要はあるまい。
レミアはあんな世界知らなくていい。
「でも困ったわね、次はどこに行きましょうか?」
アニエスが頬に手を当て考える。
なんだか思っていたより難航しちゃってるな・・・
「あれ、こんな所でなにしてるんです、アニエス様?」
不意に背後から話しかけられる。
振り向くと、騎士連合の職員を数人引き連れたバルバラが不思議そうにこちらを見ていた。
「バルだー!」
レミアがバルバラに飛びつく。
「あら、バルバラさん、見回りご苦労様。
リーズはちゃんとお役に立ってるかしら?」
「ええ、大助かりですよ!
リーズが、おっと、リーズ様がいるだけで、職員たちの気の引き締まり方が違いますからね。」
バルバラは腰にぶら下がったレミアを持ち上げ、肩車しながら答える。
「レオも久しぶりだな!
今度はいつ手伝いに来てくれるんだ?
また一緒に飲もうじゃないか!」
バルさんが俺の肩をバシバシと叩く。
正直ちょっと痛い。
「ああ、また今度な。
ところでバルさん、どこかいい服屋を知らないか?
俺の貴族議会に着ていく服を探して回ってるんだけど、なかなかいいのが見つからなくて困ってるんだ。」
「ほう、どんな服がいいんだ?」
「そうだな、あまり飾りの付いてない、シンプルでかっこいい服がいいな。」
フリルはもう勘弁。
「かっこいい服か・・・
よし、わかった!
私にまかせな、連れて行ってやる!」
おお!流石バルさん、頼りになるな。
「というわけで、私はアニエス様たちの案内をするから、あとの見回りは任せたぞ!」
他の騎士連合員のブーイングを受けるバルさんに連れられ、俺たちは次の店に向かった。
「おお!なかなか似合ってるじゃないか!」
バルさんに連れてこられた店で、俺はなぜか西洋甲冑を着せられていた。
お、重い・・・
重さで足がプルプル震えてる。
「お前は見た目が弱そうだから、これくらいがちょうどいいだろ。」
バルさんは俺を見て満足そうにうなずいた後、「得物は何にするかなー」と壁にかけられた武器を物色し始める。
いや、武器屋じゃねーかここ!
まあ入ったときからわかってたけどさ・・・
かっこいい服でなんで甲冑なんだよ・・・
・・・いや、バルさんは悪くないな。
俺が思ってた以上にバルさんが男前だっただけだ。
バルさんの男前さを見誤った俺が悪い。
俺も「お気に入りの服は甲冑です!」と答えられるくらいの男気を持たなければ。
「かっこいいー!!
これ!これにしようレオ!」
レミアが興奮した様子で甲冑姿の俺の見上げる。
そうか・・・かっこいいのか・・・
レミアが言うならこれにしちゃおうかな・・・
・・・ハッ!
いやいやダメだろ!
重くて歩けないし!
そもそもこれ服じゃないし!
危なかった・・・
レミアがかわいすぎて思考が停止してた。
「おねえちゃん!この服でいい?」
レミアの楽しそうな声に、アニエスも少し困ったように微笑む。
そこに、
「いいわけないじゃない。
バル、あなたこんなところで何してるのよ、兵舎で職員が探してたわよ。」
と言いながら、リーズが入ってくる。
「あ!そういえば仕事を任せてたんだった。
アニエス様、あまり力になれず申し訳ない。」
「いいえ、ありがとう。
お仕事がんばってくださいね、バルバラさん。」
バルさんが出て行くのを手を振り見送る。
「で、やっぱりまだ決まってなかったのね、レオの服。」
リーズがあきれたように言う。
「そうなのよ、何かいい案はないかしら、リーズ?」
「・・・まあ、一応こんなときのために考えておいたわよ。
騎士連合の手伝いも終ったし、私が案内するわ。
行きましょう。」
リーズに連れて来られたのは、黒を基調としたスーツやメイド服が並ぶお店だった。
「ここは使用人用の服を扱ってるお店よ。
これなら貴族議会でもあまり目立たないし、ちょうどいいでしょ。
まあ、奴隷が着るにはちょっと上等すぎるけどね。」
「あら、いいわね。
確かにレオに似合いそうだわ。」
姉妹三人と一緒に店内を回り、一着の服を選ぶ。
ネクタイの無い、女性のパンツスーツといった感じの服だ。
これなら男の俺でも着れそうだな。
さっそく試着する。
「どうだレミア?」
「うん!かっこいいよレオ!」
「ふふふっ、そうね、とてもよく似合ってるわ。」
「ま、まあ悪くないんじゃない。
これで決まりね。」
三人がそれぞれに感想を述べる。
「ありがとうアニエス、大事にするよ。」
「いいのよ、がんばったご褒美だもの。
これからもよろしくね、レオ。」
アニエスが俺の頭を撫でる。
少しだけ気恥ずかしい。
「リーズもありがとな。
リーズが考えてくれたおかげでいい服が買えたよ。」
「べ、別にあなたのためじゃないわ。
貴族議会に変な格好でいけないし、それに・・・」
俺はアニエスに撫でられながら、何かごにょごにょ言ってるリーズの頭を撫でる。
と思ったら、すぐ払われた。
まあいいかな。
気持ちは伝わってるだろうし。
「これ着ていくのたのしみだね、レオ!」
レミアが満面の笑みで俺を見上げる。
今日も色々あったけど、なんだかんだいって楽しい一日だったな。




