18.水遊び
今日もレミアと一緒に庭に遊びに出る。
空は雲ひとつない快晴で、外で遊ぶには絶好の天気だった。
この世界にも四季はあるようで、今は季節が春から夏に変わるころだという。
確かに日に日に暖かくなっているのを感じる。
夏になるのかぁ。
元の世界では夏らしいイベントなんかとは疎遠だったな。
地元のお祭りくらいだな。
この世界にも夏祭りとかあるんだろうか。
ふんどしとはっぴで神輿を担いだりとか。
いや、女性しかいないのにふんどしはないか。
でもバルさんは似合いそうだな、ふんどし。
神輿も一人で持ち上げそう。
バルさんが大勢に囲まれながら、神輿を持ち上げて練り歩くのか。
シュールだな・・・
バルさんを崇めてるみたいになるし。
じゃあアニエスに神輿の上に乗ってもらえばいいんじゃないか?
変な宗教みたいになるな。
神々しさにひれ伏す人とかいそう。
もう神輿いらないじゃん。
まあ心配しなくても、こんな西洋風な街で神輿を担ぐようなお祭りなんてないだろう。
豊作祝いで食べて踊って、みたいなのはありそうだな。
無礼講で皆浴びるほど飲んで酔いつぶれたりとかするんだろうな。
・・・見た目二十歳前後の女性たちが?
行きたいな、お祭り。
いやいや、よこしまな気持ちはないよ。
ただ純粋に豊作を祝いに行きたい。
でも見るときはちゃんとレミアの目をふさぎながら見よう。
レミアが俺の少し前を駆け、少し離れると「早く早く!」と催促するように楽しそうな顔で振り返る。
今日もレミアは元気でかわいいなぁ。
心が洗われるな。
この前の魔法の授業以来、レミアとは魔法を使って遊ぶことが多くなった。
俺の魔法の訓練にもなってちょうどいい。
でも火の魔法は危ないから禁止だ。
庭の中央にある小さな噴水のところまで来ると、レミアは立ち止まり俺を手招きする。
「レオ見てて!」
レミアがいたずら顔で噴水に手をかざすと、吹き出す水の勢いが何倍にも大きくなった。
水は見上げるほど高く飛び上がり、噴水の外側にまで飛び散っている。
どうどう?と俺を見上げるレミアの頭を優しくなでる。
まあ水なら危なくもないしな。
怒るようなことではあるまい。
俺もレミアに続いて水に手をかざし、形をイメージしながら魔力を流す。
噴水を中心に、俺とレミアを覆うように水のドームができた。
ドームの中から上を見上げると、水面を通して、ゆらゆらと揺れる太陽が見える。
水中にいるみたいだ。
ここ数日でわかったことだが、無詠唱魔法は正確なイメージ、魔力操作、集中力の三つさえそろえば、本当に何でもできる。
恐らく雷を出したり、重力を操ったりすることも可能だろう。
だが難しいのはその正確なイメージで、これは言葉でなんとなく想像するだけでは成功しない。
傷を治す魔法なども俺にはできなかった。
料理中に指をわりと深く切ってしまったとき、試しにと傷口をふさぐイメージで魔法をかけてみたのだが、表面の皮が引っ張られくっついただけで、中の傷自体はまったく治らない、ということがあった。
あれはちょっとヒヤッとしたな・・・
出来ることと出来ないことを早いうちに見極めとかないとな。
苦手な分野の魔法は詠唱魔法で覚えておくのもありかもしれない。
イメージのお手本にもなるし。
詠唱を覚えられればだけどね・・・
魔力操作の方はわりと簡単に習得できた。
リーズによれば、普通はそれが難しいのだという。
これは恐らく魔力量の違いのせいだろう。
自分から少し離れたところに無詠唱魔法を起こす場合、普通は魔力の無駄遣いが無いよう、魔法を起こしたい場所に慎重に魔力を送るのだという。
だけど魔力は煙のようなものだ。
ある程度操作ができるとはいえ、時間をかければ抑えきれずにどんどん散っていってしまうし、散って薄くなれば魔力量が足りず満足に魔法が起こせない。
それに引き換え、俺は魔力が無駄になるのを気にしないでいい分、多少雑でも大量にすばやく魔力を送り、魔法を起こすことができる。
魔力操作が上手いわけではないのかもしれないけどね。
今のところ問題なのは集中力かな。
魔法の工程が複雑になるほど、魔力と集中力はそれだけ多く必要になる。
魔力の感覚がつかめてからはだいぶ減ったが、意識がそれると魔法は結構簡単に消えてしまう。
俺が今出している水の魔法も、レミアがちょっとかわいい仕草をすればすぐに霧散してしまうだろう。
最近は動きながら魔法を使ったり、見えない状態でも魔法が継続できるように練習をしている。
実戦で無詠唱魔法があまり使われないのも納得だな。
普通はこんなに慎重さと集中力を必要とする魔法を、実戦では使わないだろう。
レミアは俺の作った水のドームの中を、手で水をかきわけながら楽しそうに走り回る。
あまりはしゃいで転んだりしないようにな。
と思ったら、
「えい!」
という掛け声と共に、水の壁に突っ込みドームの外に飛び出してしまった。
おお、びっくりして魔法を崩すところだった。
再び水の壁を通り、レミアが戻ってくる。
もちろん服はびしょびしょだ。
「あははは!
すごい!これ楽しいよ!
レオもいっしょにやろう!」
レミアが俺の手を引っ張る。
まあ、今日は暖かいし水に濡れても平気かな。
風邪を引いたりはしないだろう。
「じゃあせーのでいっしょに通ろう!
いくよ!せーの!」
バシャァ!
レミアと手を繋ぎ水の壁に突撃する。
「はははっ、気持ちなこれ! 」
「でしょ!」
俺もレミアと一緒にはしゃぐ。
とそこで、意識がそれたせいか水のドームは崩れてしまった。
「あはははっ、こわしちゃったね!」
レミアは俺と手を繋いだまま楽しそうに笑った。
今度は、レミアは手から水を出し、細長いリボンの様にしながら濡れた服のままピョンピョンと踊り始めた。
水の線がレミアの動きに合わせて空中を舞い、太陽の光を反射してキラキラと輝く。
綺麗だなぁ。
レミアの見た目も相まってなんだか神秘的だ。
一日中見ていられるな。
「レオも!レオもいっしょにやろう!」
レミアが踊りながら俺を誘う。
「俺もか?ははは、出来るかな?」
そういえば、踊りなんて盆踊り以外やったことないな。
でもレミアのわがままなら聞いてあげたい。
俺も手から水を出し、レミアの動きに合わせるようにして踊る。
ぎこちない動きをする俺に、レミアが手を取りながら教えてくれる。
二人で踊っている最中、時々水のリボン同士がぶつかって弾けると、そのたびにレミアは楽しそうにニコーと笑いかけてきた。
次第にリボンは長く太くなっていき、いつの間にか手のひらに立てた水の棒をどれだけ高くできるかのゲームに変わっていた。
箒を手のひらの上に立てて落とさないようにするゲームのように、魔力で水を棒のバランスを取りながら、上に上に伸ばしていく。
レミアも真剣な表情だ。
真面目な顔のレミアもかわいい。
三メートル近くの高さにまでなったとき、二人の間に強い風が吹く。
「あっ!」
レミアも俺も強風にあおられ、水の棒がユラユラと揺れる。
そして棒の頭同士が触れたのをきっかけに、一気にぶつかり合い、二本の水の棒はどちらも崩れてしまった。
一瞬、スコールのように、バシャバシャと空から水が降る。
空を見上げると、そこには大きな虹が出ていた。
それを見たレミアは俺に勢いよく抱きつく。
「ははは、すごいなレミア。」
「うん!楽しいね、レオ!」
レミアは満面の笑みで俺を見上げた。
その後、びしょびしょのまま屋敷に帰り、リーズにたんまりと怒られた。
魔法で乾かしとけばよかったな。
楽しくてすっかり忘れてたよ。
こんな生活がずっと続けばいいなぁ。




