↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鋼の狂犬  作者: 八咫 日本


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
94/101

第94話 死に場所の証明(官邸地下の攻防・その2)

 官邸地下へと続く巨大な大回廊は、銃火と硝煙、そして流血が支配する完全な殺戮領域と化していた。

「前へ出ろ! 相手はたった二機のポンコツだぞ!」

革命軍の指揮官が叫ぶが、その声は二丁の『雷火』が奏でる圧倒的な弾幕の音にかき消された。

「アハハハハッ! 遅い遅い! まるで止まっとるみたいやで!」

御堂牡丹が、崩れかけた回廊の壁を蹴り、天井付近の配管を飛び移りながら三次元的な機動を見せる。彼女の放つ9ミリパラベラム弾の雨が、遮蔽物に隠れようとする革命軍の頭上から容赦なく降り注ぎ、その防御を無力化していく。

「チィッ! まずはあの女ガラスから落とせ!」

革命軍の数名が対装甲バズーカを構えた、その瞬間。

チュイィィィンッ!

空間を切り裂くような甲高い発射音と共に、彼らの足元のコンクリートが爆発したように吹き飛んだ。

『ヤタガラス改』のレーザー射撃によるピンポイントの狙撃。

瓦礫と粉塵が巻き上がる中、ノイズのように景色が歪み、光学迷彩『ヤタノカガミ』を展開していた戌亥迅が、彼らの懐に完全なる無音で潜り込んでいた。

「な……ッ!?」

驚愕する暇さえ与えない。

光学迷彩を解除した戌亥は、ヤタガラス改をホルスターへ滑り込ませるのと同時に、右腕の巨大な機構を真横に薙ぎ払った。

火薬と油圧の爆発的な推力。零式・重圧粉砕腕が、革命軍の兵士たちを装甲ごと粉砕し、血の霧を発生させる。

「ホンマ、えげつない一撃やな、戌亥」

牡丹が空中でくるりと反転し、戌亥の背中合わせになる位置へ着地する。着地の反動を利用して『壱式・瞬発穿孔脚』を射出し、背後から迫っていた二人の兵士を吹き飛ばした。

「……お前の弾幕の方がえげつない」

戌亥は、激しく明滅する単眼レンズの奥で、微かに笑ったようなノイズを返した。

二人の息は完全に合っていた。

牡丹が機動力を生かして敵を撹乱し、死角から弾幕を張る。その隙を突いて戌亥が光学迷彩で接近し、パイルバンカーの超圧力で敵の核を粉砕する。

誰の指示によるものでもない。長年、暗部『鴉』として地獄を共に歩んできた二人だけが共有する、阿吽の呼吸だった。

『……戌亥、牡丹。聞こえるか』

通信回線から、微かなノイズと共に声が響く。それは、アメリカ軍の支援を受けて指揮を執っている、革命軍の将校の声だった。

『無駄な抵抗はやめろ。木下は死んだ。軍も壊滅した。お前たち治安維持局が守るべき国家は、もう存在しないんだ。……なのになぜ、まだ戦う?』

その問いかけは、かつて戌亥がエイダから投げかけられたものと同じだった。

だが、今の戌亥はもう迷わない。

「……国家のためじゃない」

戌亥は、傷口から流れるオイルを意に介さず、ヤタガラス改の銃口をまっすぐに構えた。

「俺が、俺の意思で……お前たちから、背後の人間を守ると決めたからだ」

『理解不能だな。今まで命令されるがままに市民を殺してきた狂犬が、今さら正義の味方気取りか?』

将校の声には、明らかな嘲笑が混じっていた。

『お前たちはただのシステムだ。命令がなければ存在意義すら持てない、哀れな機械の残骸にすぎない』

「……ああ、そうやな。ウチらはポンコツの機械や」

牡丹が、通信機に向かって陽気に笑う。

「でもな、エリートさん。ウチらは今、誰の命令でもなく、自分の意思で命を張っとるんや。……これがどれだけ最高の気分か、アンタらみたいな優等生には一生分からへんやろな!」

二人の言葉は、彼らが背負った『自由という呪い』に対する、明確な答えだった。

誰のせいにもできない。システムにも依存できない。

それでも彼らは、自らの意思でこの死地を選び、戦うことを肯定したのだ。

「……ならば、その意思ごと粉砕してやる」

将校の冷酷な声と共に、回廊の奥から重低音が響き始めた。

アメリカ軍の最新鋭パワードスーツ部隊が、ついに出撃してきたのだ。

漆黒の流線型装甲。エイダの技術を応用した電磁防壁。正規軍の『金剛』部隊を赤子のように捻り潰した、次世代のテクノロジーの結晶。

「……来るぞ、牡丹」

「上等や。旧世代の意地、見せちゃるで」

パワードスーツ部隊が一斉にブースターを吹かし、凄まじい速度で突進してくる。

牡丹は『雷火』の残弾をすべて叩き込む勢いで弾幕を張るが、電磁防壁に阻まれ、有効打を与えられない。

パワードスーツの一機が、牡丹の機動を上回る速度で接近し、プラズマブレードを振り下ろす。

「チィッ!」

牡丹が回避行動を取ろうとした瞬間、その前に巨大な影が割り込んだ。

戌亥だ。

彼はヤタノカガミを盾にしてプラズマブレードの斬撃を受け止める。ナノマシンが硬化し、凄まじい火花が散る。

「……俺が戦いたいからだッ!!」

戌亥の咆哮と共に、パイルバンカーの油圧が限界を超えて起動した。

零式・重圧粉砕腕の極太の杭が、電磁防壁ごとパワードスーツの腹部を貫通し、内部の操縦者を装甲ごと完全に粉砕する。

「しゃあッ!!」

牡丹がその隙を突き、別のパワードスーツの関節部に『壱式・瞬発穿孔脚』を叩き込み、機動力を奪う。

最新のテクノロジーに対し、純粋な物理的暴力と、狂犬たちの意地が真っ向から激突する。

官邸地下の死闘は、いよいよ極限の領域へと突入しようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。