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鋼の狂犬  作者: 八咫 日本


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第49話 血塗られた防衛線

 新京の官庁街へと繋がる、全長三キロに及ぶ巨大な斜張橋「新京大橋」。

亡命政府・小津家高による第二回の海賊放送に呼応し、完全武装した数万人の暴徒が、怒号を上げながらこの橋へと押し寄せていた。

彼らの目的は、中枢の官庁街の制圧。

だが、その巨大な橋の中央には、たった一人で防衛線を敷く巨漢が立ち塞がっていた。

暗部『鴉』最高位執行官、戌亥迅。

彼の足元には、放棄された数十台の装甲車両が積み上げられ、即席のバリケードが構築されていた。

「道を開けろ、政府の犬が!」

「お前ら全員、ギロチンにかけてやる!」

怒り狂った群衆が、アサルトライフルや火炎瓶、粗製爆弾を掲げて突撃してくる。

戌亥の網膜ディスプレイには、前夜の暗殺任務から続く深刻なエラーコードが、視界を埋め尽くす勢いで明滅していた。

『Error: Overwhelming Logical Contradiction』

『Warning: Artificial Muscle Load Exceeds 150%』

無実の市民を殺し、そして今、怒れる群衆を殺戮しようとしている。システムの中枢でバグが悲鳴を上げ、戌亥の肉体に激痛を走らせる。

だが、彼はその痛みを「迷い」として処理することはしなかった。

「……出力、最大。全リミッター、強制解除」

戌亥は自身の痛覚を完全に遮断し、そのバグによる強烈なノイズと負荷を、すべて敵を粉砕するための「物理的なエネルギー」へと強引に変換した。

胸の奥の動力炉が、臨界寸前の爆音を轟かせる。

「突破しろォォッ!」

先頭集団がバリケードに到達した瞬間。

戌亥はバリケードとして積み上げた装甲車の一台を、両腕で軽々と持ち上げた。

数トンの鉄塊を、群衆のど真ん中へと力任せに投げつける。

轟音と悲鳴。装甲車は群集を巻き込みながらアスファルトを削り、数十人の暴徒をボーリングのピンのように跳ね飛ばした。

「化け物がッ! 撃て! 撃てェ!」

弾雨が戌亥の巨体を襲うが、彼は一切の回避行動をとらない。チタン合金の装甲で弾丸を弾き返し、全身から青白い火花を散らしながら、暴徒の群れへと単騎で突入した。

ヤタガラスの巨大な銃口が火を噴く。

一発の徹甲弾が三人の胴体を貫通し、四人目の持っていた火炎瓶に引火して爆発を起こす。

戌亥はヤタガラスを撃ち尽くすと、それをホルスターに戻す暇もなく、右腕の零式・重圧粉砕腕を起動した。

ズガンッ!!!

炸裂するパイルバンカーが、防弾盾を構えた暴徒たちを、盾ごと赤い霧に変える。

圧倒的な質量の暴力。

戌亥は、悲鳴を上げて逃げようとする者の襟首を掴んで橋の下へと放り投げ、迫り来る装甲車をパイルバンカーの拳で真正面から粉砕する。

スピードと破壊力。それはもはや戦闘ではなく、ただの巨大なミキサーが群衆を切り刻んでいるような、凄惨な蹂躙だった。

バグの痛みがピークに達し、戌亥の左目からは合成血液が血の涙のように流れ落ちていた。

それでも、彼は止まらない。

自らの人間性を押し殺し、ただ「猟犬」としての意地と命令だけを燃料に、血塗られた防衛線をたった一人で維持し続けていた。数万の暴徒の死体が、新京大橋を真っ赤に染め上げていく。

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