第47話 奈落の共闘(後編)
赤いセンサー光が暗闇を埋め尽くす。
数十年前の旧式とはいえ、軍用の無人防衛兵器群。それが何百という単位で、侵入者を排除すべく一斉に押し寄せてきた。
最初に動いたのはエイダだった。
彼女は言葉を一言も発することなく、戌亥の巨体を蹴り台にして中空へ高く跳躍した。同時に光学迷彩を展開し、空間から完全に姿を消す。
直後、戌亥のヤタガラスが火を噴いた。
重低音が奈落に轟き、先頭の多脚戦車の分厚い装甲が吹き飛ぶ。
敵のヘイトが完全に「目立つ巨躯(戌亥)」へと向いた瞬間。死角となる上方や背後から、見えない刃が降り注いだ。
エイダの流体ブレードが、ドローンのローターや戦車の駆動部といった「装甲の隙間(急所)」をピンポイントで次々と切断していく。彼女が敵の機動力を削ぎ、陣形を乱したそこへ、戌亥の圧倒的な質量が突っ込む。
「邪魔だッ!」
戌亥は零式・重圧粉砕腕を起動し、半壊した戦車の装甲ごと、背後に続くドローンの群れへパイルバンカーを叩き込んだ。
爆裂音。鋼鉄の残骸が散弾のように飛び散り、一帯の旧式兵器が纏めてスクラップと化す。
(……この男、完璧ね)
姿を消して空間を舞うエイダは、内心で驚嘆していた。
彼女が牽制した敵を、戌亥が確実に粉砕する。戌亥が足を止めた瞬間には、エイダのシールドが横から割り込んで銃弾を防いでいる。
一切の打ち合わせも、事前のデータリンクもない。牡丹と戌亥が見せる「熟練の戦友」の連携とは違う。互いの太刀筋を知り尽くした「敵同士」だからこそ成立する、殺気と殺気がパズルのように噛み合う、ヒリつくような共犯関係だった。
数十分にも及ぶ殲滅戦。
言葉を交わす必要など、どこにもなかった。二人はただ沈黙の中で、完璧に互いの死角をカバーし合い、破壊の舞踏を続けた。
最後に残った一体の大型指揮車両が、主砲を戌亥へと向ける。
戌亥がヤタガラスを構えようとした時には、すでに光学迷彩を解いたエイダが車両の砲身の上に立ち、内部の制御回路へ流体金属の触手を突き刺していた。
「終わりよ」
エイダが冷酷にショートさせると、指揮車両は火花を噴き上げて沈黙した。
奈落の底に、完全な静寂が戻る。
周囲には、千近い旧式兵器の残骸が山のように積み上がっていた。
「……地上へのルートが見つかったわ。私が先に上がる」
瓦礫の山を指差し、エイダが短く告げる。
「勝手にしろ」
戌亥もまた、ヤタガラスをホルスターに収めて短く返した。
互いに助け合ったことに対する礼の言葉も、次こそは殺すという挑発もない。
エイダは瓦礫を登り、光学迷彩を作動させて闇の中へと消えていった。
一人残された戌亥は、白煙を上げる右腕を軽く振り、彼女が消えたルートをゆっくりと辿り始めた。敵対する男女の一瞬の共犯関係は、暗黒の地下底へ永遠に葬られた。




