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鋼の狂犬  作者: 八咫 日本


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第46話 奈落の共闘(前編)

 新京の地下深く、かつては工業用水を浄化していた巨大な廃プラント。

レジスタンスがこの迷宮のような施設を爆薬の貯蔵庫にしているという情報を得て、戌亥迅は単独で暗闇を進んでいた。バグによるノイズは慢性的な鈍痛としてシステムに居座っているが、彼はそれを無視して索敵センサーを広げる。

「……?」

戌亥のセンサーが、微かな熱源と、特有の流体金属の駆動音を捉えた。

コンクリートの通路の先、暗がりの中から現れたのは、エイダ・クロムウェルだった。亡命政府との連携のためか、彼女もまたこのプラントを訪れていたらしい。

ハイウェイでの死闘から数日。再び相対した二人は、互いの姿を認めるなり、反射的に戦闘態勢に入った。戌亥はヤタガラスに手をかけ、エイダは右腕をブレードへと変形させる。

だが、二人が激突しようとしたまさにその瞬間だった。

「――新京の犬どもめ、まとめて地獄へ落ちろッ!」

通路の奥から狂気じみた絶叫が響き、閃光が迸った。

レジスタンスの残党が、プラントに仕掛けられていた大量の爆薬を、自らの命ごと起爆させたのだ。

凄まじい爆発が地下空間を吹き飛ばす。

轟音と業火が通路を飲み込み、強固なコンクリートの床が、紙くずのように原形を失って崩壊した。

「ッ……!」

足場を失い、真っ暗な奈落へと落ちていく戌亥。

落下しながら単眼レンズを走らせると、数メートル先でエイダもまた、崩れ落ちる瓦礫と共に虚空へ投げ出されているのが見えた。

数十メートルの自由落下。

轟音と共に、二人は新京の公式マップには存在しない、巨大な廃棄区画の最下層へと叩きつけられた。

「……システム再起動。装甲損傷率20%。駆動系に異常なし」

濛々と立ち込める粉塵の中、戌亥は巨大な瓦礫を跳ね除けて立ち上がった。

彼から少し離れた場所で、エイダもまた瓦礫を払い落とし、警戒態勢で立ち上がっていた。

ここは、太陽の光など永遠に届かない真の暗闇。どこまでも続く広大な空間には、山のように積み上げられたスクラップと、新京の歴史の闇に葬られた無数の白骨が散乱していた。

「最悪ね。あなたと一緒にこんな墓底へ落ちるなんて」

エイダが流体ブレードを構えたまま、舌打ちをする。

戌亥もヤタガラスの銃口をエイダに向けた。

しかし、その時。

廃棄区画の奥深くから、ギギギ……という錆びついた金属音が、何百、何千という規模で反響し始めた。

暗闇のあちこちで、不気味な赤い光が一斉に点灯する。

それは、かつて『東京事変』の時代に使われ、ここに破棄されたはずの旧式無人防衛兵器群(ドローンや多脚戦車)。人間を敵と認識するようプログラムされたまま暴走状態にある「亡霊」たちが、侵入者を排除すべく一斉に起動したのだ。

「……どうする」

戌亥が銃口をエイダに向けたまま、低く問う。

「決まってるでしょ」

エイダはブレードを下ろし、戌亥の背中側へと回り込んだ。

「ここを出るまでは、休戦よ」

戌亥もまた無言でヤタガラスを旧式兵器の群れへと向けた。

圧倒的な数の敵意に取り囲まれた奈落の底で、敵対する二人のトップ・サイボーグによる、極限の共闘が始まろうとしていた。

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