第44話 共鳴する刃
横転した装甲車が炎を上げ、ハイウェイに黒煙が立ち込める中。
火の粉が舞い散るアスファルトの向こう側から、陽炎のように揺らめきながら現れた影があった。
CIA特務サイボーグ、エイダ・クロムウェル。
彼女は言葉を発することなく、右腕を流体金属のブレードへと変形させ、静かに切っ先を戌亥へと向けた。
戌亥もまた、何も言わない。
ヤタガラスをホルスターに収めたまま、静かに腰を落とし、迎撃の体勢をとる。
互いの視線が交錯した瞬間。
爆発音のような踏み込みと共に、銀色の流星と鋼鉄の巨砲が激突した。
ガキィィィンッ!!
エイダのブレードを、戌亥の左腕のチタン装甲が受け止める。
凄まじい衝撃波が炎を吹き飛ばし、足元のアスファルトがクレーター状に陥没する。
そこからは、一切の淀みもない、超高速の「死の舞踏」が始まった。
エイダの流体金属は変幻自在に軌道を変え、戌亥の急所を的確に狙い澄ます。
対する戌亥は、バグのノイズを完全に機動力へと昇華させ、重戦車のようなパワーでありながら、エイダの刃を紙一重で躱し、パイルバンカーの拳で空間ごと打ち砕こうとする。
言葉は不要だった。
金属と金属が激突し、火花が散るたびに、互いのAIと感覚が相手の意図を正確に読み取っていく。
(次、上段から来る――)
エイダが跳躍し、踵に仕込んだブレードを振り下ろす。
戌亥はそれを予測し、わずかに上体を反らして回避。その隙に強烈な裏拳を放つ。
エイダは空中で流体シールドを展開し、その一撃を受け流して見事に着地する。
死と隣り合わせの極限状態。
しかし、二人の間に殺伐とした憎悪は存在しなかった。
あるのは、己の限界を引き出してくれる絶対的な存在との、純粋な高揚感。
言葉を交わすよりも雄弁に、拳と刃を交えることでしか理解し合えない、トップ・サイボーグ同士の奇妙な共鳴だった。
戌亥の重い蹴りがガードレールを粉砕し、エイダの刺突がハイウェイの橋脚を深く抉る。
二人の動きは次第に加速し、常人の目には銀と黒の残像がぶつかり合う光の帯にしか見えない領域へと達していた。
「……ッ!」
エイダの唇の端に、歓喜の笑みが浮かぶ。
戌亥の赤い単眼レンズもまた、システムのエラーを超越した、強烈な光を放っていた。
狂った国家も、亡命政府も、自身のバグさえも、今の二人には関係ない。
ただ眼前の敵と、極限まで磨き上げられた己の機能のすべてをぶつけ合う。
その洗練されたバトルの美しさは、炎に包まれたハイウェイの惨状すら、一つの舞台装置へと変えてしまっていた。




