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鋼の狂犬  作者: 八咫 日本


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43/101

第43話 亡命政府の刺客

 新京の上層と中層を繋ぐ、巨大な高架ハイウェイ。

深夜の静寂を引き裂くように、漆黒の装甲車が猛スピードで爆走していた。乗っているのは、亡命政府の小津家高が新京へ極秘裏に送り込んだ、旧自衛軍のサイボーグ特殊部隊である。

彼らの目的は、中枢エリアへの多発的テロ攻撃。

だが、その野望はハイウェイ上で一人の執行官によって阻まれることとなる。

「……標的車両、捕捉した」

装甲車の後方、時速二百キロで迫る一条の光があった。

『鴉』専用の大型装甲バイク『黒王』。漆黒の機体を操る戌亥迅の赤い単眼レンズが、風圧の中で冷たく発光する。

国家へのバグ(疑念)を抱えながらも、戌亥のサイボーグとしてのプロ意識は健在だった。敵が迫るなら、ただ物理的に粉砕するのみ。

「チッ、追手だ! 治安維持局の猟犬か!」

「振り切れ! 撃ち落とせ!」

装甲車の後部ハッチが開き、重機関銃が火を噴く。

オレンジ色の曳光弾が弾幕となって降り注ぐが、戌亥はバイクの車体を地面スレスレまで傾ける超絶的なバンク角で、弾の雨を紙一重で潜り抜ける。アスファルトとチタンの膝当てが擦れ、凄まじい火花が夜のハイウェイを彩った。

「馬鹿な、あの速度でよけるだと!?」

敵が驚愕する一瞬の隙。戌亥はスロットルを全開に捻り、装甲車との距離をゼロへと詰めた。

「……跳ぶぞ」

戌亥は時速二百キロのままバイクの座席に立ち上がり、フロントガラスを蹴って宙へと跳躍した。

風圧の壁を突き破り、数トンの巨体が装甲車のルーフへと着地する。

轟音と共に装甲車の屋根が大きく拉げ、サスペンションが悲鳴を上げた。戌亥は即座に右手の零式・重圧粉砕腕を起動し、足元の屋根へ向けて容赦なくパイルバンカーを打ち込んだ。

ズガンッ!!!

分厚い装甲が紙のように引き裂かれる。戌亥はその穴から車内へと強引に飛び降りた。

そこは、屈強な旧自衛軍サイボーグたちで密集した閉鎖空間。戌亥にとって、最高の狩り場だった。

「なっ――うおおおッ!」

驚愕から立ち直り、ナイフを構えて飛びかかってくる兵士。

戌亥はその腕を左手で掴んで軽々とへし折り、返す刀で右肘を男の顔面へと叩き込んだ。頭蓋が陥没し、男の巨体が車内の壁に激突する。

「撃て! 車内ごと穴だらけにしてやれ!」

仲間を巻き込むことも厭わないアサルトライフルの乱射。

戌亥は弾丸を自身の厚い装甲で受け止めながら、弾雨の中を強引に直進。ヤタガラスを抜く暇すら惜しみ、両手で兵士の頭を掴むと、そのまま装甲車の壁面へと力任せに叩きつけた。装甲が凹み、兵士の動きが完全に停止する。

時速二百キロの密室での、一方的な蹂躙劇。

戌亥のバグがエラーコードを吐き出そうとする暇すら与えない、純粋な暴力の連鎖。彼の中の迷いなど、この圧倒的な戦闘力の前では些末なノイズに過ぎない。

数分後。

コントロールを失った装甲車が、激しいスキール音を立てながらガードレールに激突し、ハイウェイの路肩で横転した。

濛々と立ち上る白煙の中から、装甲の扉を内側から蹴り破り、戌亥がゆっくりと姿を現す。

車内の特殊部隊は一人残らずスクラップと化し、炎上する装甲車の前で、戌亥は無傷のまま、ただ静かに自身の装甲バイクの到着を待っていた。

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