第38話 牡丹の流儀
新京の外周区に位置する、放棄された巨大な立体駐車場。そこは現在、レジスタンスがCIAから横流しされた武器を隠し持つ、重要な中継拠点となっていた。
「よっしゃ、いくで!」
軽快な掛け声と共に、御堂牡丹がコンクリートの壁を蹴って中空へと跳躍した。
眼下には、突然の襲撃に慌ててアサルトライフルを構える十数名のレジスタンスたち。牡丹は空中でしなやかに身を捻ると、両手のカスタム・マシンピストル雷火から徹甲弾の雨を降らせた。
「ひぃッ! 上だ!」
「撃て、撃ち落とせ!」
弾幕で敵の制圧射撃を封じた直後、牡丹は最も体格のいい男の肩口へと落下した。両脚で男の首をガッチリと挟み込み、腰の捻りを利用して後方へ激しく投げ飛ばす。
完璧なフランケンシュタイナー。男は床に後頭部を強打して白目を剥き、そのまま沈黙した。
「ほい、一丁あがり! 戌亥、そっちは任せたで!」
「……了解した」
牡丹が攪乱した陣形のど真ん中へ、巨大な銀の砲弾が突っ込んだ。戌亥迅である。
彼は銃弾を避ける素振りすら見せず、敵の懐へ直線的に飛び込んだ。ヤタガラスを抜くこともなく、右腕のパイルバンカーを横薙ぎに一閃する。
火薬の炸裂音が響き、装甲ごと吹き飛ばされた三人の男が、コンクリートの柱に激突して崩れ落ちた。
さらに戌亥は、悲鳴を上げて逃げようとする男の背中へ無造作に左手を伸ばし、襟首を掴んでそのまま床へと叩きつける。
それは、かつての洗練された猟犬の制圧術ではない。迷いやノイズを強引に押さえ込むため、ひたすらに暴力の出力を上げただけの、あまりにも荒々しく、泥臭い突貫攻撃だった。
「ちょ、ちょお待てや戌亥! それ以上やったら建物ごと崩れるわ!」
牡丹の制止も耳に入らないかのように、戌亥は残る敵を次々と粉砕していく。
数分後。立体駐車場のワンフロアは、無数の血溜まりとスクラップと化した武器の山で埋め尽くされていた。
「……対象の完全沈黙を確認」
オーバーヒートで肩から白煙を上げながら、戌亥は無機質な声でシステムに報告した。その赤い単眼レンズの奥では、任務終了と共に再び溢れ出しそうになるエラーコードを、必死にねじ伏せているのが明らかだった。
牡丹は二丁の雷火をホルスターに収めながら、ふう、と大げさに息を吐いた。
彼女の鋭敏なセンサーは、戌亥のシステムが異常な負荷を抱えていること、そして彼が「内面の迷いを圧倒的な暴力で誤魔化している」ことを、完全に察知していた。
「ホンマ、最近のお前は荒っぽすぎるわ。昔はもっと、スパーンとスマートに片付けとったやろ」
牡丹は軽口を叩きながら戌亥に近づき、白煙を上げる彼の銀色の肩を、ポンと軽く叩いた。
「ま、色々あるんやろうけどな。……あんま無理して、自分の歯車壊すなや」
その声は、いつもの飄々とした関西弁でありながら、確かな気遣いの熱を帯びていた。
深くは踏み込まない。だが、絶対に孤独にはさせない。それが、狂った国家で共に手を血に染める戦友としての、牡丹なりの絶妙な距離感だった。
戌亥は少しだけ視線を下げ、牡丹の小さな手を見た。
「……すまない。次から気を付ける」
「おお、ええ心がけや! ほな、とっとと武器回収して帰るで。木下のおっちゃんに急かされてるんやからな」
牡丹はカラカラと笑いながら、駐車場の奥へと歩き出す。
戌亥は自身の右腕を一度だけ強く握りしめると、エラーコードを意識の奥底へと押し込め、戦友の小さな背中を追って静かに歩き始めた。




