第18話:深層の殲滅戦
新京の地下深く、旧時代の遺物である地下鉄網の深層。永遠の闇に閉ざされたその空間に、重厚な着地音が反響した。
修復されたばかりの銀色の装甲が、わずかな非常灯の光を鈍く反射する。戌亥迅の網膜ディスプレイには、前方の広大なコンコースに密集する無数の敵影と熱源反応が赤く明滅していた。交渉の余地も、警告の必要もない。システムが敵と判定したすべての座標を物理的に消去する。ただそれだけの極めて単純な演算だった。
戌亥が一歩を踏み出した瞬間、暗闇の奥から六門の自動防衛タレットが一斉に火を吹いた。秒間数十発の徹甲弾が飛来し、コンクリートの柱を粉砕する。だが、戌亥は回避すらしない。火花を散らしながら弾雨を真向から浴びて直進し、右腕の大口径対装甲拳銃「ヤタガラス」を無造作に構えた。
轟音。放たれた20ミリ徹甲弾が、タレットの分厚い防盾を紙切れのように貫通し、弾薬庫を誘爆させる。連鎖する爆発の業火を真っ二つに引き裂き、黒煙の中から鋼鉄の巨体が躍り出た。
通路を塞ぐように現れたのは、四脚型の重装甲無人ドローン三機。対戦車ミサイルを搭載した厄介な鉄の塊だ。ミサイルが発射されるよりも早く、戌亥の人工筋肉が限界出力で唸りを上げる。跳躍。数トンの質量がドローンの真上に落下し、そのまま右腕のパイルバンカーを展開した。
超高圧の火薬が炸裂する。射出された極太の鋼鉄杭が、ドローンの強固な装甲板をたやすくブチ抜き、内部のメインフレームを完全に粉砕した。引き抜くと同時に次の機体へ跳び移り、ヤタガラスの至近距離射撃でセンサーユニットを吹き飛ばす。ひしゃげた鉄屑の山が、瞬く間に築かれていく。
「撃て! 撃ち続けろ! 距離を詰めさせるなッ!」
ドローンの残骸の奥から、決死の抗戦を試みる海外工作員たちの悲鳴じみた怒号が響く。EMP手榴弾と対物ライフルによる絶望的な十字砲火。だが、万全の状態に調整された猟犬の歩みは止まらない。
戌亥は弾幕の只中へ突っ込んだ。工作員の一人が放った至近距離からの散弾を左腕の装甲で弾き返し、そのまま男の頭部を鷲掴みにしてコンクリートの壁に叩きつける。頭蓋が熟れた果実のように破裂し、脳漿と鮮血が飛び散った。
息をつかせぬ殺戮の連鎖。逃げ惑う者の背中をヤタガラスで撃ち抜き、命乞いをする者の胴体をパイルバンカーでひき肉に変える。そこには人間らしい感情の交酬など一切なく、ただ工場のプレス機が部品を処理し続けるような、冷酷で完璧な作業だけが延々と繰り返されていた。
地下空間は、断末魔の悲鳴と肉の潰れる湿った音、そしてヤタガラスの狂ったような咆哮で満たされた。血の海と化した旧地下鉄網の深部を、戌亥は一切の感情を交えることなく、ただ次の獲物を求めて冷たく進んでいく。




