【9】脇見運転注意報
「初めまして、ミアです。助けてくれてありがとうございます」
「いいえ、私が間に合わなかったばかりに、ミアお嬢様を裸足で歩かせてしまうことになりました。お嬢様は私に対して怒るべきです。本当に申し訳ございませんでした」
感謝を伝えたかっただけなので「元はと言えばあなたのせいではないので、謝らないでください」謝罪は不要であると強調する。
「誘拐されてすぐは何が起こっているのかわからずに混乱したけど、子どもの頃から警告されていたことですし」
「私が来たからには二度と危険な目には合わせません。ところで、お嬢様はなぜそのような格好をされているのですか?」
運転する女性はちらりと横目に私を見た。
「ああ、もともと着ていた服がなくなっていたので部屋にあった服を拝借したんです」
「…………は?」
腹から出た声といい「穢れた手でお嬢様に触れるなど、許されない」怒りに顔を歪めた表情といい、美しい人が怒ると怖いって本当だったんだと実感する。
「無体を働いた者は始末してしま、」
「だ、大丈夫です! 身体には何もされてないの! 逃げられないように脱がされていただけで」
「脱がされた、と。……やはり万死に値する」
「あっ、しまった」
余計なことを言って、火に油を注いでしまった。
「とにかく! 今こうして逃げられたのはあなたのおかげです。それに私の代わりに怒ってくれてありがとうございます」
「お礼など無用です。あなた様のためなら私の命など惜しくはありません」
父が寄越したミシェルという護衛は、父にとっては信用に足る部下なのだろう。命を投げ打ってでも護衛対象を守る——己の立場を弁えていると褒められるべきだ。
護衛としては正しいけれど、私にとっては自分の代わりに誰かを犠牲にするのはちっとも嬉しくないことだった。
「あなたにお願いがあるんですが」
「はい。何なりとお申し付けくださいませ」
父の立場がどうであれ、私は「お嬢様」と呼ばれて敬われるような人ではない。子どもの頃は祖父母からはお転婆だとよく叱られていたものだ。
「私はあなたのことをミシェルと呼びます。だから、あなたも私のことをお嬢様と呼ぶのは止めて、ミアと呼んでくれませんか」
同じ年頃のミシェルと仲良くなりたくて「……えっと、回りくどいかな。あの、つまり、あなたとお友達になりたいです!」そうお願いすると、ミシェルは私の方を凝視したまま言葉を失っていた。
——何をそんなに驚いているの。え、私を見て固まってしまっているということは。
「わわわっ前! ミシェル、前!」




