第三話 秘め事
「証明してみせましょう」
手袋を取り去った彼に強引に抱き上げられて、バスルームへと連れていかれる。私の抵抗など意にも介さず、浴槽に向かって頭を下げる体勢にさせられた。
「きゃっ!?」
そのままシャワーで勢いよく冷水を浴びせられる。「冷たっ…! 止めて!」慌てて叫ぶも時すでに遅し。私の髪からは黒い水が滴り落ちていく。
「目を瞑っていないと、痛くなりますよ」
——ダメだ。この人は既に見破っているのに、パフォーマンスとして私に見せつけるためにやっている。
私の髪の根本は外出時に一時的に黒色に染めて、いかにも髪全体を染めているかのように装っているのだ。いくら多少の雨風や汗くらいでは落ちないウォータープルーフのカラーリング剤といえど、これだけの勢いで水をかけられればひとたまりもない。
「せっかくアッサムティーにミルクを混ぜたような美しい色なのに、黒を混ぜるなんてもったいないです」
お気に入りのモヘアのニットが肩口からじわじわと黒く染まっていく。素敵なアイボリーだったのにもう着れなくなってしまった。
「きちんと落としてしまいましょう」
シャワーヘッドを握った彼は、私を振り向かせるとニットの裾に手を伸ばしてきた。
「やっ……!」
キャミソールごと鎖骨のあたりまでたくしあげられて、下着に包まれた胸元が露出する。
「うーん、温度はこれくらいですか。熱かったら言ってくださいね」
泡をまとった指先が肌を滑っていく。「さ、触らないで!」温水をかけられてコンシーラーとファンデーションが落ちると、肌に小さなほくろが現れた。
「ほら、見つけました。あなたがレオンハルト家のご息女である印だ。心臓のあたりに七つ星がある、と」
「……ッ!」
「全て脱がしてしまえば隠れているものも確認できるのでしょうが、今日は止めておきます。できるだけ女性に乱暴はしたくないので」
裸にさせられることはないと息をついたのも束の間で「ただし、」バスルームの壁にずぶ濡れの身体を押し付けられてしまう。乱暴はしたくないだなんて、嘘じゃないか。
「今度は……何ですか」
「僕はその人工的な色は好きにはなれませんから、外しますね」
鼻先がぶつかりそうな至近距離で、瞳を覗き込まれる。「目を開けたまま、じっと動かないで」危険だ、と全身に鳥肌が立った。
「でないと角膜に傷がついてしまう恐れがありますから」
大きな手の平に頬を固定されると、ソープを洗い流した綺麗な指先が瞳に迫ってくる。
——待って。待って、冗談でしょう。この人は私の目に指を突っ込むつもりなの!?
「……っ!」
「はい、よくできました」
これはもう必要ありませんね、と彼は満足げに笑って、カラーコンタクトレンズを排水溝へと流してしまった。
「ああ、瞳は父親譲りの蜂蜜色ですか」
周りに馴染むように変えていた外見や特定されないように隠していた身体的特徴は、いとも簡単に暴かれてしまった。




