第二話 不快な品定め
「驚きましたよ。部下があなたにとんだ無礼をしてしまったようだ」
仕立ての良いスーツを着こなした男性が背後のドアから近付いてくる。私の正面に回った彼は「これは外しますね。苦しかったでしょう」口を塞いでいたタオルを外した。
「……あなたは誰ですか?」
「可愛らしい声ですね」
赤みを帯びたブラウンの前髪の間からエメラルドグリーンの瞳が覗いている。
柔和な笑みを浮かべた彼は、私の頭のてっぺんから爪先までをじっくりと視線でなぞっていく。優しげな雰囲気とは裏腹に品定めされているようで非常に不快だ。
「はぐらかさないで」
「気を悪くしないでほしいのですが、そんな体勢で睨まれても怖くないなと」
革手袋に包まれた指先で顎を持ち上げられた。「誰のせいでっ!」私が好きで四つん這いになっているとでも思っているのか。
「あなたを丁重にもてなすように、と命令したのに意味を履き違えた馬鹿者がいたようです。申し訳ありません」
「謝罪は結構ですから、早く縄を解いてください」
「もっと可愛くおねだりできたら、お願いを聞いてあげたいところですが」
八の字に眉を下げた青年は「それはできませんね。残念です」上着の内ポケットからナイフを取り出した。すぐに殺されることはないはずだと思っていても、背筋に悪寒が走る。
「……どうして、ですか」
視線を合わせたまま問いかけると、彼は楽しそうに翡翠の瞳を細めて「わざわざ尋ねなくても、理由なんてあなたが一番よくわかっているのでは?」壊れかけの椅子の背に括り付けられた縄を切った。
両手首は後ろ手で縛られたままで、解放してくれる気はさらさらない様子だ。
——嫌な予感がする。
「さっぱりわからないです」
「まあ、僕の口から聞きたいというのなら、お伝えしましょう」
肩に添えられた手でゆっくりと上体を起こされながらも、相手に焦りを悟られないように普段通りの息遣いを続ける。
「なぜなら、あなたがレオンハルト家のご息女だからです。長い間、僕はあなたを探していました。迎えに来ましたよ、ミア」
指で数えられるほどの限られた者しか知らないはずの事実を告げられて、内心ではとても驚いてしまったけれど、表情には出さなかったと思う。
「人違いじゃないですか。ここは日本ですよ。私の見た目からもわかると思いますけどね」
たとえ凶器で脅されようと、簡単に肯定するわけにはいかないのだ。
「確かにあなたは表向きはタケダを名乗っているようですね。探ったところで簡単にはレオンハルト家との繋がりは見つからないでしょう。でも、僕は誤魔化されません」
私の前頭部に顔を寄せた彼はわざとらしく鼻を鳴らして匂いを嗅いでいる。




