【13】パスポート
国内線で関西の主要空港に到着した。
「俺はこのまま手続きを済ませてくるから、お嬢は少し休んでおいて」
ミシェルからターミナルに直結したホテルの予約票とショップバッグを渡される。
「私だけ休むのは気が引ける」
「お嬢は着替えて待っていてね」
そう言われ、改めてガラスに映る自分の姿を確認する。アンドレアのシャツとスラックスを着て、ミシェルの革ジャンとベルトとスペアの靴を借りている。何ともちぐはぐな格好である。
「あー、やっぱり変かな?」
「いつまでもガブリエーレの服を着せておきたくないんだ」
ミシェルは「シャワーを浴びて着替えるくらいの時間しか確保できなくてごめんね」申し訳なさそうに眉根を寄せる。
「ミシェルが謝ることじゃないよ。着替えを用意してくれてありがとう」
袋の中身を確認して「って、これ、私の!?」驚いた。
「そうだよ。お嬢のパスポートを預かってきた。詳しく話している暇はないから端的に説明するね」
日本に入国したミシェルがまず向かったのは祖父母の元だった。私がいればそのまま保護してドイツに連れ帰る予定だったが、いつもの時間になっても帰宅せず、既にガブリエーレファミリーの手中に落ちた後だったことが発覚した。ミシェルは祖父母に事情を説明して、パスポートと必要最低限の必需品を持って私の救出に向かったらしい。
「まさか私のパスポートを祖父母が保管していたなんて」
大学を卒業する年に友人と海外旅行を計画していたことが役に立つとは、今の今まで思いもしなかった。「本当に敵わないな」あのときはうっかりして計画が露呈してしまい、祖父には大目玉を食らい、祖母には大泣きされて、旅行は諦めたのだ。没収されたパスポートはてっきり捨てられたと思っていたのに。
「お祖父様とお祖母様は俺の突然の訪問にも驚かれることがなかった。孫娘なら大丈夫だ。試練があっても必ず乗り越える力がある、とおっしゃられていました」
「大事な娘に会えなくなるってわかっていたのにレオンハルト家に嫁がせるくらいだもの」
母に会えなくて寂しくないのか、と幼い頃に祖母に何度も尋ねたことがある。
両親に会いたいと泣く私をあやしながら、いつも祖母は微笑んでいた。
『ミアは赤い糸はあると思う?』
『それ、なあに?』
『大好きな人と赤い糸で結ばれてるの。ミアのお母さんとお父さんが愛し合ったように。きっとミアも素敵な人に出会うわ』
大人になってその言葉を思い出す度に祖母はロマンチシストだなと思っていた。
「祖父母はとっくの昔に覚悟していたんだね」
生まれながらに定められた運命があるとしても、自分の行く先は自分自身でより良いものへと変えられる。そう、信じたい。
「はい、とても心が強い方々でした」
日本を出国する前なのに既にホームシックになってしまいそうだ。顔を合わせていってきますが言えないのは心残りだった。
——おじいちゃん、おばあちゃん、必ずまた会いにくるからね。
「それじゃあ、着替えてくるね」
「チェックインしたら俺が部屋に迎えに行くまではドアを開けたらだめだよ」




