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第五章 旅立ち

これは私の八年前の記憶──。






暗闇の中、私の体は両手両足を縄で縛られていた。口には布で喋られなくしている。


何人かの大人たちが私を囲むように立って見下ろしている。


大人たちは私を見ながらニヤニヤと笑いながらそれぞれが言う。


『この娘を使えば、オスティア王からたんまりと金がもらえる』


『いやいや、もっと搾り取れるかもしれんぞ』


『金?否、もっとよりよい財宝がもらえるのでは』


男達は私を前にしてそれぞれが思ったことをすぐに口に出していた。




誰か助けて!──そう思った。その考えに一人の男が気付いたのか。


『無駄だ。助けなんかきやしねぇよ』


ゲラゲラと笑いながら私のあごを上げさせられる。


その様子を見て、他の男達もつられて笑う。


──もう駄目かもしれない……。そう思っていたときだった。


『ぐあ!!』


男の悲鳴が外から聞こえた。


私を見下ろしていた男達はお互いの顔を見合わせる。


そして、一人の男が様子を見に行く。垂れ幕を上げて出て行こうとしたその刹那!


男は斬られた。真っ二つに。


『!!!』


男達は声が出ないほど、驚いた。


男を斬った人物の顔は暗闇の中でよく見えなかった。


ただ、右手に刀みたいなものを持っていたような気がした。


『だ、誰だ、貴様!!』


男の一人が言う。しかし、返事は返ってはこない。


『か、構うもんか、お前ら、やっちまうぞ!!』


男は次々に腰から、懐から、各々の武器を取り出す。


そして、入ってきた人物に向かっていく──がしかし。


男達は無残にも残酷にも刀を持つ人物によって斬られてゆく。






『あとは──貴様だけだな』


刀を持っている人物が言う。声からして男であるのは確かだろう。


しかし、当時の私はこの声は聞いたことがなかった。


無残に殺されていった仲間を見つめて、男は床に腰を抜かしていた。


『た、、助けて、、い、命、、、だけは、、頼む、、』


必死に命乞いをしていた。刀を持つ男に向かって。


しかし男は言った。


『──セフィリアをこんな目にあわせておいて、よくそんなことを言えるものだな』


そう言って、男は最後の一人を斬って殺した。




私は恐くなった。刀を持っている男が急に恐くなった。


な、なんで、私のことを知っているの!? 私をどうするつもりなの!!?




多分、体中が振るえていただろう。恐怖に怯えていた顔をしていただろう。


しかし、そんな私を気にしようとはせずに男は刀を持ちながら、ゆっくりと私に近づく。


や、やだ、、、こないで!!


そう思っていることしか出来なかった。体は動かせない。両手両足が縛られていたまんまだったからだ。


そして、男は私の前まで移動して立ち止まる。


そして、持っていた刀で私を斬った。














がしかし斬ったのは私じゃなくて、縛っていた縄だった。


混乱する私。その様子をみてか、男は言った。


『××××××××××××××××××××××××。……×××××××××××××××』


え、何? なんて言ってるの。聞こえない……。


口をパクパクと動かしているだけで何を言っているのか全く分からない。


『じゃあな、セフィリア。もう忘れろよ。……ウィリアム・ハーゲンのことをな』


そう言って男はその場から立ち去ろうとして体を反転させて歩いていく。


待って! 一体どういうこと。なんであなたが、ウィルのことを知っているの!!?待ってよ──。


そこで私の記憶は途絶えた──。















「ん……」


目を開く。ぼんやりとだが、視界が見えてくる。視界には、青く広々とした空が見えた。


いつの間にか夜が明けていたようだった。


体を起こすセフィリア。


辺りを見回した。辺りは木々で囲まれていて、草が乱雑に生え渡っていた。





「──目が覚めたか」


突然、背後から男の声がした。


セフィリアは驚き、後ろを振り向く。そこには、全身黒い服装で長い黒髪をした青年が立っていた。


「あなたは確か……クロイド……?」


思い出しながら言う。


「ああ、そうだ。オスティア王女セフィリア姫」


クロイドはセフィリアの元へと歩きながら肯定した。


「──ここは、一体どこなの……?」


辺りを見回しながら言うセフィリア。


「ここは、オスティアからいくらか離れた森の中だ」


「……!!、なんで、あんたが私をこんなところに連れて出したの!? どういうこと!? 説明しなさいよ!!」


どうやら、セフィリアは状況を読めていないようだった。


「まぁ、いったん落ち着け。手短に話させてもらう」


そう言ってクロイドは語る。


「まず残念なことを伝えなければなるまい……」


一拍置いて、言った。


「オスティアが滅亡した」


「……は?」


セフィリアは唖然とした。唐突にそんなことを言われれば冗談としか思えない。


「な、何言ってんの? あなた冗談のセンス無さ過ぎよ。そんな有り得ない話を誰が信じろって──」


「……残念だが、本当のことだ。この顔が冗談をいうような顔に見えるのか?」


そう言ってクロイドはセフィリアに向かって顔を近づける。彼の顔は無表情で真剣な表情だった。


「で、でも、、私は、あそこにいたのよ。昨日の、夜に、ちゃんと、、自分の部屋に・・・」


そこでセフィリアは思い出す。


(あれ、私いつ眠ってしまったんだっけ?)


「どうやら、あんたは長く寝すぎていたようだな。……あんたはオスティア滅亡した日より、二日は経っている」


そう言いながらセフィリアより顔を離しながら言うクロイド。


「じゃ、じゃあ、オスティアの民は、皆は、お父様はどうなったの!!?」


今にでも泣きそうな目でうったえるセフィリア。


「──俺にはどうなったかは分からないが、生きている確率は少ないだろうな……」


セフィリアから視線を逸らしながら言うクロイド。


「そ、そんな訳ないじゃない……。絶対に生きているわ。皆無事に過ごせている。問題ない。そうでしょう!!?」


「──だと、いいな」


今度は目を瞑りながらクロイドは言う。


「じゃ、じゃあ、……誰が、どこが、……オスティアに攻めて来た……、っていうの?」


「──グリア帝国だ」


「グ、グリア帝国!!!? そ、そんな、ことが、あるはずがない。有り得ない。だって、オスティアとグリアは同盟を結んでいて、両国は特に目立った問題もなかったはず、一体どういうことよ!!」


「その理由ですら俺にも分からん。何故あそこまで平和な関係だった両国がこんなことになってしまったかなんてな」


「そ、そんな……グリアが……グリア帝国が……そんなわけない……」


その場に座ったままで、俯きながら否定を繰り返すセフィリア。しばらくして──






「……あなたが、やったんじゃないの?」


小声で言うセフィリア。その声は小さかったが十分にクロイドの耳に入っていた。


「あなた言ったわよね。私に。敵でもなければ味方でもないって。私をこんなところまで連れ出してきた理由は知らないけれど、私はあなたに騙されたりはしない。そうやって嘘の情報を言ってどうしたいのか知らないけれど、私はあんたなんかに騙されない!!」


クロイドに向かって、罵声を浴びせるセフィリア。


「……俺のことを信じられないのは分かるが、全部言ったことは真実だ。グリアはオスティアへと侵攻し、民を傷つけていた。」


「そんなに言うんだったら、どうしてあなたはオスティアを守ってくれなかったの!! あなたが何もしなかったから私の国は、オスティアは滅んじゃったんでしょ!? あなたが戦えば、悲しむ人が少なくできたんじゃないの!!? あなたは目の前でただ人が死ぬのを見ていたって言うの!!? 何とか言いなさいよ!!!」


クロイドに大声で非難するセフィリア。


「……俺にだってやるべきことはやった。だが、優先順位があったから出来なかった。……それだけだ」


クロイドは俯きながら言う。


「優先順位って何よ。目の前に人が死んだり、苦しんだりしている中であんたは何をしようとしていたってわけ? ああ、分かった。あんた、盗賊なんでしょ。民家から金を盗んで、人が死んでいるっていうのに金を盗んで自分だけはぬけぬけと戦場からぬけていったんでしょ? そうなんでしょ!!」


「そんなことはない!! 俺にはどうしてもあんたを守らなければならなかった!! たとえ近くで誰が死のうと、傷つこうと、苦しんだりしても! あんただけは守らなければならなかった!!!」


クロイドは全力で、大声で、怒鳴るように否定した。


「ど、どういうことなの……? そんなに私を守る理由があったっていうの?」


「──それは言えない。だが、いつか、きっと話せたら、時がきたら話そう。……大声を出してすまなかった。」


「そう……、分かった。私こそあなたのことを疑ったりしてごめんなさい」


互いに謝るセフィリアとクロイド。二人の周りに気まずい空気が流れる。


そんな中、クロイドは口を開く。


「──ただ、これだけは信じてほしい。俺はあの時、敵でも味方でもないと言ったが、俺はあんたの味方になった。あんたのためなら何だってする。そう、誓った」


「……分かった。そこまで言うならあなたのこと、信じます。オスティアの名に懸けて」


「有り難い。恩に着る」


そう言って、クロイドはセフィリアのほうに手を差し出した。


「では、行こうか姫」


それを聞いたセフィリアは不満な表情を浮かべて言う。


「姫とか。堅苦しくてやだ」


「では、なんと呼べばよい?」


「セフィリア、って呼びなさい。たった今から」


「それは無理なことだ。俺は下っ端の者だ。位が高いものにそんな馴れ馴れしく言えるものではない」


「いいじゃない。オスティアは滅んだってことは私はオスティア王女じゃないってことでしょ? それにどこに行くかなって知らないけれど、身分は伏せたほうがいいんじゃないかしら?」


「……もっともなことを言ってくれるじゃないか……。いいだろう、ではいくぞ、セフィリア」


懐かしく、自分の名を言われたセフィリアは喜んで彼の手をとり立ち上がった。







「で、これからどこへ行こうっていうの? クロイド」


森の中、クロイドの隣を歩きながら言うセフィリア。




「まだ、ここはオスティアの国土だ。まずはこの森を抜けてアラスク山を越える」


「アラスク山の向こうってたしか、聖国コーデリアがあるじゃない」


「ああ、そうだ。コーデリアに向かい助けを借りなければなるまい。……道程は厳しいと思うが、ちゃんと休憩は挟むつもりだ。だから安心しろ。セフィリア」


「分かった、クロイド」


そう言って、セフィリアは前を見つめて歩く。
















こうして、彼らの長い旅が始まった──。


彼らの行く先に何があるのか、果たしてそれは希望か。または絶望か。


それは誰にも分からない……。











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