第四章 オスティアの最期
「ぐあっ!!」
一人のグリアの兵士が倒れる。
オスティア騎士団、将軍グレンは先ほどより開戦されたオスティアとグリアの戦いで敵を斬っていた。
(なんという数だ……。やはり我が軍としてはつらいな)
グレンは辺りにいるグリア兵をだれかれ構わずに斬っていく。
何も考えず、何も思わずに一心不乱に斬っていく。
「くそっ!!やはり敵が多すぎる!!」
そう言いながらもまたグリアの兵士、一人を斬る。
オスティアの兵士はグリアの兵の数とほぼ同じほどだった。
数は互角。なんともいえない状況だとは思えた。がしかし──
「うおおおおおおお!!!」
一人のグリアの者がとてつもない物を持っていた。
黒い鉄球に鎖で繋がれており、その鎖を掴んで鉄球をグルグルと周りにそれを回していた。
骨が粉砕する音。肉が潰れる音。そして、悲痛な悲鳴──。
男はスキンヘッドで常人より体がひときわ大きかった。
「なっ!?」
グレンは思わず声が出てしまう。
周りのオスティア兵が。味方が。部下が。死んでいく──!!
グレンはその男に、馬で向かって行く。
スキンヘッドの男の視界にグレンが映ると、
「ん、貴公はたしか、オスティアのグレン将軍とお見受けするが」
スキンヘッドの男はいったん鎖の動きを止め、グレンに問う。
「!!!、そなたはオウカ殿!」
グレンは男の姿を見て思わず叫ぶ。
「なぜ、あなたが、グリアが攻めてきたのですか」
グレンはずっと抱いていた疑問をオウカに問う。
「──私には、分からない。なぜこうなってしまったのか」
「どういう、ことですか?」
「我らの皇帝陛下は『オスティアに侵攻せよ』と言われただけだ」
目を閉じ、苦虫を噛み潰したような表情をしながら言う。
「なっ、、しかし……でも……」
グレンはどうやら混乱しているようだった。
「……すまぬ、グレン殿。これもグリアのため。理解は到底無理だと思われる。しかし、我らは
騎士。主のために戦うが本分。さぁ剣を構え、我を殺しにかかれよ。我も全力でお相手しよう」
そう言って、オウカは頭上で鉄球をゆっくりと回し始め、だんだんと回転の速さを高めていく。
「……私は、あなたを。グリアを。……怨みます。」
そう言ってグレンは馬から降り、剣を自分の顔の横で構える。
「さぁ。始めようか、グレン殿!!」
こうしてグリア、オスティア両軍の将軍の戦いが始まった──。
オスティア城内。
「陛下!お急ぎ下さい!!敵が近づいてきています!!!」
一人のオスティア兵はオスティア国王にそう言う。
「ああ、わかっておる。しかし、真なのか?あのグリアが攻めてきたのか……?」
オスティア国王は少し前に兵士に事の次第を言われて先ほどからこの城から逃亡をしようと敵のいない東門へと向かっていた。
「ところで、セフィリアは?」
「は、はい。別の班がお連れしています。ですから、陛下はご自分のことだけをお考え下さい」
「うむ。ならよい」
この時。兵士は嘘をついた。
彼がセフィリアの部屋に行ったときには、誰もいなかったのである。
しかし、国王がうろたえてしまわないようにとっさに嘘をついてしまったのである。
「民はどうなっている?」
「はい。現在他の兵が避難を行っています。多分、もう終えているかと」
これは本当のことだ。
「──おやおや。どこへ行こうとしてんですか?オスティア国王陛下」
いきなり背後から声が聞こえた。
国王たちが振り返るとそこには軽装で白髪の一人の男が立っていた。片手には何かを持っていた。
「貴様、何者だ!!」
オスティアの一人の兵士が言う。
「私? 私のことですか? 私はグリア帝国将軍コルテオです。どうぞお見知りおきを。ああ──でも、
関係ないことですね。だってあなたがたもこうなるんですから」
そう言ってコルテオは片手で持っていた何かをこちらに投げ出す。
「!!!」
一同はそれを見て驚く。それはオスティアの将軍、ゲハの首だった。
「おやおや。大丈夫ですか?顔が青くなっていますよ?でも安心してください。あなた方もすぐにこのようになりますから」
そう言ってコルテオは鞘から剣を抜く。
「────っ、きぃさまあああああああああああ!!!!」
オスティアの兵士達は剣を持ち、コルテオに向かう。
「──無駄なことです」
そう言って、一人目は腹を斬り、二人目は首を斬り、三人目は胸を斬り、四人目は腹を貫かれる。
向かっていったオスティア兵、四人が死んだ。
「さて、お次は?」
コルテオは無邪気に言った。
「──陛下。お先にお逃げ下さい。我らが少しでも時間を稼ぎますから」
小声で一人の兵士がオスティア国王に言う。
「駄目だ。相手は私が狙いなのだろう。私がいこう」
そう言ってオスティア国王はコルテオに向かっていく。
「へ、陛下!何を!!」
兵士がそう叫ぶ。しかし、国王は振り返らない。
「ほう。投降されますか。正しい判断ですね」
コルテオは苦笑しながら言う。
「……私はどうなってもいい。だから民と兵士には傷付けないでほしい」
「ええ、いいでしょう。お約束しましょう。オスティア国王陛下。では、さようなら」
そう言ってコルテオは、オスティア国王の首を掴み腹部を勢いよく剣で切り裂いた。
上半身と下半身が分かれる。血が辺り一面に飛び散る。床に。壁に。コルテオの顔に。服に。剣に。
「陛下あああああああああああああああ!!!!」
オスティアの兵達は叫ぶ。もう動かない、もう喋らない、それに向かって。
「さて、私の仕事は終わりですね。ああ、あなた方は逃げるなり我がグリアの兵士になるなりどうぞ、ご勝手にしてください」
剣を鞘に収めながら言うコルテオ。
「貴様、許せん!!陛下の仇、今討たせてもらおうかあぁぁぁ!!!」
それぞれが鞘から剣を抜き、コルテオに一直線に向かう!
「やれやれ、愚かな者たちですね。私はあなたがたの陛下の約束を守るつもりでしたが──」
そう言って、また鞘から剣を抜き取り、一人、二人、三人、四人、五人──斬った。
「まったく。あなた方は酷い方々だ。私を嘘つき者にするなんて、でもまぁ、それも悪くはないですかねぇ」
ニヤリと笑うコルテオだった──。
オスティア中心部付近──。
剣と鎖の当たる音が辺りに響く──。
あれから何十分か経っていた。
オスティア騎士団をまとめている将軍グレンと、グリア帝国将軍オウカの戦いはどちらが優勢かなんて答えられなかった。
「さすが、グレン殿。その歳でそこまでとは凄い物ですな」
オウカは鎖を使って鉄球を自在に操りながら言う。
「──そんなことを言えるということは私を相手にするのは余裕ということですか?なめられたものです。」
「そうではない。ただ素直に驚いているだけだ」
「・・・私はあなたを、あなたという方を友と思っていました。同じ騎士として志が同じかと思っていま
した。だが、そんなことは無かったようですね」
そう言われたオウカは何ともいえない複雑な表情を見せる。
「くだらない話は終わりです。あなたは私が葬らせてもらいます!!」
そう言ってグレンはオウカに突っ込む。
それに対してオウカは鎖で鉄球をグレンの方に向かわせる。
グレンはそれを体を器用に、ぎりぎりのところで避けた。鉄球は固い地面に当たり、地面が砕ける──。
「くっ!」
鉄球を避けられたオウカは声を漏らす。
鉄球を避けたグレンはそのままオウカの元に進んでいく──。
「これで、終わりだ!!」
そう叫び、剣を地面に垂直で突っ込む──がしかし、オウカの体の寸前で彼の剣先は止まる。横から声がしたからだ。
「はいはい、そこやめてください。戦いは終わりましたよ」
声の主は手をパンパンっと叩きながら言った。
声のする方へ振り向いた。すると、グレンの顔がだんだんと青ざめていく。
そこにいたのはコルテオだったが、彼が驚いたのはコルテオではなく、彼が片手で持っていた物に衝撃を受けたのだった。
「ん? ああ、これですか。よく見せましょうか。はい、どうぞ」
コルテオは乱暴にそれをグレンの方に投げた。それは何回転もしながらグレンのもとにいき、ゆっくりと地面の上を転がりながら、やがてそれはグレンの足元に止まった。
それは──その物は──オスティア国王の生首だった。
「う、嘘だ、へ、陛下が、我が国王陛下が死ぬはずが無い。このようなことになるはずがない……」
グレンは顔を横に振りながら言う。剣を持つ手は小刻みに震える。
「残念ですが、これが現実です。認めてください」
コルテオは冷たくグレンに言い放つ。
「き、きさぁまぁあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
グレンはオウカに向けていた剣をコルテオに向けて咆哮しながら向かう。がしかし彼の動きは止まる。
まわりにいたグリアの兵士の持つ剣によって、制された。
「く、くそぉぉ……」
そのまま地に体を落とすグレン。
彼は辺りを見回した。そこらに無事であろうオスティア兵の何人かが見えた。
しかし、それよりも多くの死体が視界に映る。腕が無い者、頭部が無い者、足が無い者、体のあちこちが曲がっている者──数え切れないほどの両軍の死体が地面を埋めていた。
「オスティア騎士団、グレン将軍ですよね? 安心して下さい。東の門から避難しようとしていたオスティアの国民たちも大丈夫ですよ。我らグリア軍が捕獲し、捕虜となっていますから」
「……何を安心しろというのだ」
小声で言い返す。
「殺されるよりかはマシでしょう?」
不思議そうにコルテオは言った。
しかし、そんなコルテオの言葉はグレンの耳には届かなかった。
ただ、陛下が死んでしまったという衝撃的な事実にうろたえているばかりだった。
「オウカ将軍、この後彼らはどうするのですか?」
一人のグリア兵がオウカに近づきオウカに言う。
「……ひとまずは、グリアに連行することになるであろうな」
こうして、たった一夜でオスティアは滅んでしまった。
数々の痛みと悲しみ、ただそれら負の物を残していって──。




