第二章 戦場オスティア
オスティア城内。
暗闇の中、一人の男がいた。
「・・・そろそろか。雇い主殿をこれ以上待たせるわけにはいかんな」
男はどうやら天井裏にいるようだった。
他に誰もいないこの薄暗い中でじっと機会を窺っていたのだった。
「準備は完了。我が武器『爪刃』の調子もよさそうだ」
男は自分の指の一本一本に装備されている刃を見ながら言う。
「──では、ひと暴れをするかな」
そう言って男は、音を立てずにいつの間にかその場から消えていた。
部屋の扉が開かれる。そこには、セフィリアが床に倒れていた。
ある人物の影がセフィリアに近付く。彼女はそれでも目が覚めない。
やがて人影はセフィリアの前に止まり、そして──
「国王陛下、大変です!この城内に侵入者が現れました!!」
一人の兵士が扉を勢い開け、アスティア国王のいる玉座の間に現れる。そこには国王の他に武装した二人
の男がいた。
「何!?それはまことか!!?」
アスティア王の他にその場にいた一人の髪を後ろで整えた男が反応する。
「はい!敵は現在確認されているのは一名、只者ではない実力を持っています!」
兵士は慌てた様子で言う。
「陛下、ここは私にお任せを」
髪を後ろで整えた男はアスティア王に向かってそう言った。
「では、頼んだぞ。ゲハ」
「仰せのままに国王陛下」
そう言って玉座の間から去っていったゲハ。
「……奇妙ですね」
残っていたもう一人の男が呟く。
「どういうことだ。グレン」
国王はもう一人残っていた若い男に目をやる。
「陛下、これはおそらく陽動でしょう。」
「なぜ、そう思う?」
「──どう考えてみても、侵入者が一人でのこのこと、この王宮で暴れるはずがありません。相手の目的
は分かりませんがきっとどこかに潜んでいるはずです。陛下、我らオスティア騎士団にご命令下さい」
「お主がそう思うのであれば、そうであろうな。よしでは行け」
「仰せのままに」
グレンもそういって玉座の間から出て行った。
オスティア北城門前──。
「……そろそろ時間だ。皆の者、攻撃開始だ!!」
オウカは兵士にそう伝え、正門に兵士と共に進攻を始めた。
同刻、オスティア南城門前──。
「では、そろそろ始めましょうかね。皆さん」
コルテオは後ろで控えていたグリアの兵士に言った。
「かしこまりました、コルテオ将軍。皆の者、攻撃開始だ!!」
兵士たちの叫びが地に響くかのようにここも進攻を始めた。
オスティア西城門前──。
「ガネッド将軍、伝令です!現在南門、北門、共に突破し、我が軍が進撃しております!」
「とうとう始まったか……」
苦痛な表情を浮かべ続けるガネッド。
「我々も進撃しましょう将軍!」
「我らも出撃すればこちらの被害も少なくなりましょうぞ!」
「陛下ご命令を」
「陛下!」
何人かの部下たちがガネッドにそう進言し続ける。
「……進撃だ。皆の者、出陣せよ!!!」
その言葉に呼応し、部下たちも自分兵士たちに向かって命令を出した。
「出陣だ!この門を突破せよ!!!」
こうして、怒濤のような勢いでグリアの兵士たちはオスティアに向かって侵攻を始めた──。
オスティア城内──。
仮面で顔全体を隠している一人の男の辺りには何人ものオスティアの兵士が死んでいた。
「さて、もうそろそろ引き上げるか。雇い主殿も動き始めたようだ」
男の指に装備していた刃には血が付着しており、ポタポタと水適がこぼれるかのように流れていた。
「──貴様が侵入者か」
背後から声がした。男は振り返る。
そこには髪を後ろで整えた男がいた。
「お主はオスティアの将軍、ゲハ殿か。聞いたことがあるな。この国で最も強い武人と言われているもの
か」
男は単調に言った。
「ほう、私のことをそう理解しているのなら話がはやい。今すぐ投降するべきだな。さもなくばこの剣で
斬られたいか?」
そう言い、剣を鞘から抜いて構える。
「さぁ、どうするか。この神聖なるオスティアで命を奪うことはしたくはないんだが」
「……、契約には入ってはいないことだが、よかろう。お主は我が相手をしよう」
そう言って、仮面の男は『爪刃』をゲハに向ける。
「悪いが、我とてあまり時間がない。さっさと終わらせてもらおうか」
「ああ、そのとおりだ、な!!」
勢いよく仮面の男に突っ込む。
対する男はただ直立しているだけ、何の構えもしないで。
「ふ、死ぬ覚悟でも出来たのか!」
仮面の男に向かいながら、剣を自分の頭上まで振りかぶり、そして、斬る────はずだった。斬ったはずだった。しかし、どうしてだろうか。斬ったのは自分ではなく、斬ったのは、相手だった。
「な!!!!??」
ゲハの肩からわき腹にかけて左右五本の腺で×印に斬られた傷跡から勢いよく血が飛び散る──。そして、そのまま倒れた。
「な、なぜだ……。貴様は何もしていないはず……」
弱々しい声で言うゲハ。
「そうか、お主にはそう見えたか。なら、この国の実力者とも言えど、実力が足りなかったか歳のせいか
のどちらかであろう。しかし、残念ではあったな。今し方に出会ったばかりの我に命を奪われるなんてな」
「く、、、そんなはずは、、、、」
仮面の男は倒れたゲハの目の前まで近づき言う。
「今死に行くお主だからこそ、良い情報をくれてやろう。先ほどからこの国は我が雇い主殿に攻められて
いるはずだ」
「!!!、なっ、それは、どういう、ことだ!」
「……悪いが我には時間がない、話は終わりだ。」
そう言って、仮面の男はゲハに向かって、トドメを刺した──。
「さて、本当に時間がない。ここにはあれがいる以上、さっさと退散せねばなるまい。」
そう言って、仮面の男は暗闇の中へ消えていった──。
オスティア城門前──。
「て、敵襲!敵襲です!!グレン将軍!!」
一人の兵士が、走って大声で言う。
「……やはりそうか。敵の数は」
「およそ八千ほどかと──」
「八千だと!!?──まずいな、敵はそんな数でこちらに攻めてきたのか。敵がどこの者か、分かる
か?」
「そ、、それが。グリア帝国、です」
「なっ、グリアだと!!!?」
グレンは驚く。
(何故グリアがここに攻めてくるのか、同盟は破られてしまった・・・のか!!?)
「……いかがいたしましょう、グレン様。」
部下にそう問われ、我に返る。
「よし、──ではそなたは今から陛下と姫様に状況説明と避難の準備を任せる、迅速にな」
「はっ!」
兵士は城の中に入っていく。
「オスティアの騎士の諸君よ!これより我が軍は陛下と姫様の避難のための時間稼ぎ、及び住民の避難を
する。皆、我に続け!!!」
こうして、オスティアの騎士団は城下町へと降りていった──。
城下町──。
「きゃあああああああああああ」
一人の女性が斬られる。
「ああ、なんと言ういい声で叫んでくれるんだ!これだ、これこそがまさしく戦争というもの殺し殺されの戦慄の中、ここまで楽しいものはないですねえぇぇぇぇえ!!」
叫ぶコルテオ、手には血で染まった剣が握られていた。
「コ、コルテオ様!ガネッド将軍からは住民は殺すなと命令が下っていたはず──」
言い切る前に、そのグリアの兵士の首は跳ねられていた。
「黙ってください。今私は最高に喜んでいるんですから人の楽しみの邪魔をしないでくれませんかね?」
その兵士の体は、血を勢いよく噴出しながら倒れた。
「ははは、なんという姿でしょう!私は自分の部下で美しい作品を作ってしまいました。しかし、なんと
いう美しい姿でしょう!!」
笑いながら、それを見るコルテオ。周りの兵士たちの顔は青ざめている。その様子に気付いてか、
「ん?、ああ気にしないで下さい。ただ私の邪魔をしなければこうはなりませんから。さぁ仕事をめいいっぱい楽しみましょうではありませんか!」
そう言って先へと進んでいくコルテオとその部隊。
しかし目の前に一人の青年の姿が映る。その青年はいつからいたのかはコルテオ達には分からなかった。
目の前の男は長い黒髪を後ろに束ねていて全身黒い服装、左の腰には柄と鞘、両方黒いものを挿していた。
その青年はその場にただ立っていた。
「ん?どうしましたか、腰でも抜かしましたか?目の前の光景に愕然とでもしましたか?」
そうコルテオは青年に対して言うが、反応は返ってこない。
「まぁいいでしょう。あなたもその身に体感すればいい話ですからね!!」
コルテオは二人の部下に指図し、青年に対して向かわせた。
ニヤニヤと笑い、見物するコルテオ。その様子をじっと見るグリアの兵士たち。そして向かってきているのに対して未だに逃げることもしない青年。
兵士と青年の距離が近くなっていく──そして後数歩というところで青年は動いた。
左に挿していた刀の柄を右手で掴み、そして──
コルテオには何が起こったのか分からんなかった。近くにいた兵士ですら同様であろう。
ただ彼らの目には死んでいる二人の部下と、刀を片手に持っている青年の姿しか映っていなかった。
いつ抜刀したしたのかが全く分からなかった。
「き、貴様、一体何をしたのですか!」
コルテオは青年に向かって怒声を放つ。
「──貴様らに見えていなかったのなら、貴様らには一生分からないことだな」
そこで初めて口を開いた青年。
コルテオは青年の持つ刀をはっきりと見る。その刀は柄が黒いのはさっきから知ってはいたことだが、刃も黒かった。その刀は不気味だった。まるで人が持ってはいけない物の様に。
青年は、刀を抜刀したままでコルテオたちの目の前から突然、姿を消した──。
「なっ!!?」
グリアの兵士は辺りを見渡す。しかしどこにも姿が見当たらない。
「どこに消えたのです!探しなさい!」
コルテオの怒声が辺りに響く。もはや彼には楽しんでいる余裕がなかった。
すると突然、コルテオのずっと後ろのほうから人の叫び声が聞こえた。
コルテオは振り返る。しかし、振り返りきったところでどんどんと叫び声が重なっていく。
後ろでは次々とやられていくグリアの兵士たちの姿が映る。見えない何かによって斬られていく兵士たち
の姿が。一人、また一人──。
何も出来ずにただ死んでいく兵士たち。
コルテオは理解した。あの青年はとんでもない者だったということを。
しかし、理解するのが遅かった。そうこうしているうちに次々と兵士は死んでいく。
「くっ、、何をやっているのですか!!はやく殺しなさい!!!!」
「し、しかし、姿が見えない以上、攻撃が出来ません」
「ええい!こうなったら私が相手をするまでです!!」
コルテオは剣を掴んだまま、見えない何かに向かって走る。
その間でも次々と叫び声をあげながら兵士は死んでいく。
一人の兵士が斬られた瞬間を見計らい、そして剣を縦に振った。
しかし、彼の剣からは手ごたえが全く伝わってこなかった。
辺りを見回す。時間がどれだけ経っても兵士はやられてはいない。
「──逃げられましたか」
厳しい表情で言うコルテオ。
「…・・・、あなた方は何をやっていたのですか?目の前で死んでいく仲間でも茫然として見ていたのですか
?何とも愚かなものですね、この部隊は!!」
味方の兵士に向かって罵声を放つ。
「いいでしょう…・・・。この国の者たちに死を与える前に先にあなた方に死を与えてあげましょう!!」
そう言ってコルテオは剣を構えだれかれ構わずに自分の兵士に斬っていく。
「コ、コルテオ様!落ち着いてくだ──」
「黙りなさい!この役立たず!!」
「コルテオ様お許しを──」
「コルテオ様──」
「コル──」
「コ──」
「黙れ、黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ、黙れえぇぇぇ!!!」
部下の言葉に耳を傾けずに一心不乱で剣を振るう。
「はーーっ、っはーーーっ、……何ということでしょうか。私というものがなんということでしょう。まさか罪もない私の部下を殺してしまうだなんて。ありえませんね……。とりあえず落ち着きましょうか──」
辺りを見回すと、辺り一面グリア兵の死体だらけだった。その場で生きているものはコルテオ、ただ一人だけだった──。




