第一話
「胃ろうと吸血鬼の融合」
事故から、何かがおかしい。
事故後の記憶障害はしかたないにせよ、拒食症は今までの経験からおしはかるとらしくない。
「……!!」
コハクの視界にシオン、その人が映った。
(なぜアイツが病院に?)
心が乱れる、嫌だ、この場から逃げ出したいという欲に駆られた。
なぜだか分からないがとにかくシオンに今会いたくないと思った。
「……ぁ、」
シオンが近づいてくる、その足音に怯えるように俺の足は、思うように動かないながらも相手との距離を取るように一歩、また一歩と後退する。
目が何かに縛られたようにシオンを視界から放せない。
後退し続ける足がついにほつれ、倒れそうになったが踏みとどまり態勢を立て直す。
そうこうしている間にどんどんシオンは近づいてくる。
背を向け、猛ダッシュすれば逃げられるだろうが、病院で猛ダッシュは頭がイカレれた人間のすることだし、事故後まだ1度も走ったことはない。
走る体力があるかないか以前に、もやもやする感覚に戸惑ってしまい、混乱状態から抜け出せず逃げ出せなかった。
(ダメだ、来るな、今は無理だ)
今すぐに一人になりたい。
否定的な、相手を拒絶し殻に篭りたい気持ちが心を支配する。
無意識に身体が硬直し、もう1歩も動けなくなった。
「コハクくん」
声の低さぶわっと鳥肌が立った。
シオンがそう言いながらこちらに近づいてくる。
ついにシオンに捕まってしまった。
ただコハクの目の前にシオンがやってきただけだというのに、捕まったと表現するには語弊がありすぎる。
別に腕を掴まれたわけでも銃を突き付けられたわけでもないのにシオンに捕まったとそう感じた。
ひと時は仕事仲間として同じ屋根の下で夜中過ごしたこともある、知った顔、知った声なのになぜだろう。
まるで子供が夜道に背後から知らない真っ黒な人間から話しかけられるような、そんな恐ろしく、今まで体験したことのないはじめてな感覚に襲われなんだか気持ち悪い。
「久しぶりだな、見かけないのは潜っているのだと思っていたが、入院していたんだな。身体は大丈夫なのか?」
シオンの声の近さにまたもや鳥肌が立った。
シオンに聞かれたことは、たわいもない、己を心配する言葉だった。
シオンと会うのは実に半年ぶりだ。
見れば病院服でタグも左腕に付けているため入院していると一目瞭然だろう。
「え、ええ、見ての通り、無事ですよ」
逃亡欲の傍ら、幾度となく危険な境地をポーカーフェイスで乗り越えてきたからか、声は平然を装えた。
話を終わらせ早く立ち去りたいとは言え、まだ入院しているので行けるところは自分の病室くらいだ。
「そうか、本当によかった」
シオンが言う。
きっとそういうシオンの顔はほっとして、緩やかなのだろうが、正確に
見る余裕はない。
半分目をそらし、しかし不自然にならぬよう心掛ける。
「シオンはなぜ病院へ?」
いますぐ退散したいのだが、今後病院で遭遇する可能性もあるのかと、どこか不調なのだろうかと思う気持ちもまたあり、質問する。
「ん?今日はただの定期検査だよ」
シオンが言う。
此処は軍事病院で、所属国家は違えど同じ警察官という立場であるがゆえ指定された病院が同じだったかと運命を呪う。
バッタリ鉢合わせしたのは偶然だということか。
「そうなんですね、僕はこれから検査なので、失礼します」
検査はないが、口から出まかせは専売特許だ。
「ああ、お大事に。今度、見舞いに行ってもいいか?」
シオンが言う。
「いえ、お構いなく、休暇はご自身のために使ってください」
考えることなく流れるように返す。
「そう言わないでくれ。お互い、いつ死ぬか分からないんだ、君が助かって本当によかった」
そうシオンが言った後、ちょうどいいタイミングでシオンの携帯電話のバイブが震える。
「本当にお気づかないなく、それでは失礼します」
そう言い早々に踵を返した。
「ふぅ、」
シオンと数メートルと離れて、やっとまともに息が吸える気がした。
何も不自然なところは無かっただろうか。
シオンに躓いたところをみられただろうが何も聞かれなかった。
知らず内に早くなっていた動悸をやっと意識する。
身体が熱い。
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コハクが気がづいたときは病院のベットの上にいた。
そして、現在こうして入院中である。
その前は潜っていた。
潜ると言うのはダイビングではなく、潜入捜査だ。
コハクは公安の任務でとある組織にいた。
潜入の最中、銃弾を胃と心臓に受けてしまったらしいが前後の記憶はない。
俺が発見された床に滲んだ血は致死量をとっくに超えていたという。
しかし俺の心臓は辛うじて動いており、胃と心臓にあった銃弾は撤去され医師により縫われた。
生きているのは奇跡だとなんども医師から言われた。
つまり俺は死んでいるはずだった。
何日俺が発見されるまで放置されていたかは不明だが、鑑識によると数日である。
そして適切な処置を受けた後も1週間眠り続けたらしい。
病院で目が覚めた日を自分の感覚から入院生活1日目とカウントすることにする。
入院生活1日目に食事に手を付けたが、全く食べることができなかった。
出された食事を口に入れた時、無味無臭のまずい食パンを食べているような味で、吐いてしまった。
明らかにおかしい。
食欲はあるが食べられない。
結局口に出来たのは水のみだった。
何か味の含まれている飲み物も身体が受け付けなかった。
それからも体力を回復させないといけないので、意を決して一口含んでも、はやり意志ではどうにもならない気持ち悪さが襲い、食べられなかった。
それから、においのない食べ物や、固形を崩してもらっても食べることができなかった。
摂食障害になってしまったのだと医師も自分も判断した。
仕方なしに食事がとれないということで点滴食となっている。
それでも細い静脈からなので、命をぎりぎり保つ程度の栄養しか補えない。
それから5日が経った。
今は、もう自力立っているの怪しい。
命を繋ぎとめるために胃ろう※PEGともいう(手術で胃に穴を開けて管を挿入)にするか、中心静脈栄養(太い静脈に管を通す)にするかという手段も視野に入って来ており、リミットは2週間だと医師から決断を迫られている。
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