TSを知る一人
「これから海へ?」
ご飯まで静かにアニメ見ていようかと思ってたんだけど、海人が海を見に行きたいから一緒にどうだと言い始めた。
「そう。海に入る時間なんかなかったんだから、眺めてくるくらいしたいかなと」
初海だーと意気込んでは来たけど、そんな時間なかっただろ。 四時前に終わってくれたけど、お風呂入っちゃったし、もう六時近い時間。
「海なんて、昼間さんざん眺めただろ
「眺めただけじゃん。休憩時間に誘っても泳ぎもしなかったし」
「そりゃ、濡れた体でアルバイトするわけにもいかないんだから泳ぐわけないだろ」
この季節だから、まだ明るいから男だけど、散歩してる間にニョタとか勘弁願いたいね。
西向きの海岸だから、夕日は綺麗だろうしロケーションとしては悪くないけど、地元民以外がいたらすぐわかるような地域だから、男だ女だコロコロ入れ替わる訳にもいかないんだからな。
横になったまま、両腕でペケ印を作って話しをする。
「とにかく今日はダメ。叔父さん達にもちゃんと挨拶できてないだろ」
「むう。なんか奏がケチな事ばかり言ってる」
食堂から入ったけど、叔父さん近所に行ってていなかったから仕方ないじゃない。
「それに、土地勘もなく出歩くとロクな事にならないし」
「ひとりで通おうとしてたクセに何を」
「建て前はね。無理なら泊めて貰えるようにお願いしてたし」
てか、アルバイト中は叔父さんちで世話になろうかと思ってたからな。
女の子ばっかりだけど、ある意味安全地帯だと思う。
「知らなかったら、俺は一人で待ちぼうけさせられてたのか」
海人がちょっと不機嫌に…。
「オレがアルバイトの話しを決めた時には、夏休み時点で海人がフリーだなんて想定してなかったからな」
「なんだと?」
そうさ。 カラオケ通ってる間に彼女が出来て、夏休み前にはオレがフリー…いや彼女持ちになってる予定だったんだ。
「あのペースなら、女の子を二三人連れて遊びにいくのが普通になってておかしくなかったハズなんだ」
「奏。自分の爛れた妄想を俺で発散させようとしてない?」
「それはないと思うぞ」
オレは、学校の静かな中庭で、二人だけのランチデートしたりとかしたいからな。
だが、海人ならそのハーレムに至るだけの才能があると信じている。だからこそ、巻き込まれない枠を作りたかった。
「だって、昼間だけならまだしも、夜を知られてハーレムから誤解されたら刺されるのオレよ? 」
「そもそもハーレムが存在しないんだって」
「甘いっ!
ハーレムってのは本人の築かない間に、静かに構築されていくもんだ。
仲のいい女の子が一人。 中のいい女の子が二人。 仲のいい女の子が三人。 その内一晩でウスウスが一箱じゃたりなくて、ああ一枚足りない…と、数の少なさに嘆くんだ。いや回数か?」
何の回数なんて聞くのは野暮ってもんだ。
「…ていっ!!」
「ぐふぇ」
海人にのしかかられた。
「ちょ、重い重いおーもーいっ」
「……ふっ……はっ…」
返事もしないで腕グルグルするの何!?!!
「サーフボードは黙ってろ」
「まさかのサーファー!?」
波じゃなくて布団しかねぇよ!いや、畳が波打ってるから布団はもはやビッグウェーブ!?
「あ、なんかちょっと柔らかくなった」
「今まさに女になりましたからね!?」
「この波を逃したら終わりだ」
「立たれたら潰れちゃうって!背中で動くのやめてって」
体制を変えようとのしかかったままもぞもぞもぞもぞ。
重いしもぞもぞと気持ち悪い。
あ、ちょっと軽くなった。
「一応、幼なじみに気を使って腰を軽く浮かしてみました」
いま正にボードの上で“立って”ますってか!?
丘サーファーもビックリだわ。
「はいドーン」
「ぎゃうんっ?!」
アレの存在なんか気にならないくらいの勢いで、ベターンと全身全霊で押しつぶしてきよった。
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「キミバカだろう。普通に女の子にやったら泣かれるとわかるだろう!?」
「スミマセン。本当に反省します」
乱入してきた女の人にぶん殴られた海人。
海人から見えないように頭抱えられてるけど、別に泣かされた訳じゃない。
痛くてちょっと涙でたけど、不可抗力の範囲内だと思って黙って一人で拭ってたんけど…。
ちょうど、彼女が階段を上がってきたもんだから、誤解された海人はお姉さんにぶん殴られた。
多分、抱きかかえてるのは勘違いで殴った事を正当化するのに一役買わされてるんじゃないかな。
渥美はづみ。19才。26才の幸村さんの妹で三女の末っ子。
ショートカットで活発な人だ。昔は近所の子供達の中心的立ち位置にいて、こっちに来た時は、一緒に連れて歩いてもらったっけな。
ガキ大将って言うか、年下ばかりだったから面倒見がいいから体よく預けられてただけかも知れない。
とにかく互いに誤解を解いて終了。
時刻は7時をまわっていたので一階の食堂に降りる。
「まかないはないが、二人ともメニューから好きな物を選ぶといいよ」
そういや、夕飯は営業時間中だから、厨房で作って貰って台所のある居間で食べるシステムでしたねー。
まぁ、店からの続きに居間があるから、台所必要ないんじゃないかと子供心に思ったっけな。
和洋中のメニューがあるんだけど、夏と言えば…。
「冷やし中華でお願いします」
「じゃあ、オレは〜ラーメンライスにしようかな」
「海人、そこは普通同じ物にしない?」
“じゃあ”と来たら普通は同じ物だよね?
「いや、冷やし中華だけだと腹減りそうで、ご飯食べたかったし」
「あ、オレもライス追加で」
「いや、冷やし中華にライスって会うのか?」
「合うんじゃない?具の避難場所にもなるし、ラーメンで海人がよくやるじゃん」
チャーシューとメンマ避けてたべるてるの見てるし。
「んー、そうだけどさぁ」
なんだか煮え切らない感じだが、とりあえず冷やし中華にライスとラーメンライスをはづみさんが経由で頼む事にした。
「…んん?」
「どうした海人」
「…なんか、オレの事見てすげー不思議そうな顔してながら二度見してきた奴がいる」
は?
「リア充爆発しろ?」
「いや、同じ学校の有名なのに似てたんだけど…」
「有名なのって先輩とか?」
「いや、同級だよ確か名前は鈴木イチル?」
「ああ、なら間違いないよ。奏も昔遊んだ事ある子だけど覚えてない?」
「そんなの居たっけ?」
みんなチビばっかで、同い年なんかいないと思ってたんだけど。
「会えばわかるかも、イっちゃん呼んで一緒に食べる?」
「むしろご飯前に微妙な空気になりそうだから止めて下さい」
「えっ!?なにマジで柊か?なんでこんなとこにいんの」
呼ぶ前に向こうからきちゃってたわ。
見えない場所にスススとさりげなく移動。
「やっぱり隣のクラスのか」
「柊って、はづみさんと知り合いだったのか?」
暖簾の向こうから話しをしはじめてるけど、どうも全く知らない間柄ではないみたいだけど…。
「まてよ。もしかしてカナちゃん”も来てる?」
「まぁ奏についてきたから居るには居るよ」
チラチラ見るな察してください。
親戚の家で、如太で同級生にあうとかどんな地獄か!!
「ちょっと、はづみさん断ってください」
「いや、隠してもイチルは見た事あるから知ってるよ。一緒にお風呂も入ってたし」
「マジで!?」
「なにそれ知らないっ!」
海人も驚いてるけど、全然記憶にありませんがー?
「おお、マジでカナちゃんが居た」
「ぎゃー!?」
気がつけば、当人が暖簾をかき分け覗いてた。
色白だが精悍な顔つきの…こいつもこいつでイケメンだけど、やっぱり知らない奴だ。
そもそも廊下ですれ違った憶えもないような?
「…だ、誰?」
「そりゃ、小学生だし今じゃわかんないよねぇ。ボクは知ってたけど、憶えてないみたいだから話しかけないようにしてたんだけどさ」
いや、知ってたなら逆に一度くらいはなしかけて欲しかった。てか、お盆休みしかきてないから記憶の中の子供達真っ黒で誰が誰だか本当に判別つかんし顔なんて忘れてるよ。
「どうも、隣のクラスでここの隣に住んでる鈴木市留です」
知らない隣人だ。でも割と生息域が近いぞ。
「渥美奏ですが、ゴメン全く憶えてない」
「憶えてなくて当たり前だと思うしいいよ。鈴木でもイチルでもいいよ。これからよろしく」
「ええ、まぁなんとか」
シェイクハンド。
かつてない微妙な空気の再会をよしとする彼に戸惑うしかない。
女である事を言及されないし、どうなってんだ。




