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異世界召喚は二度目です   作者: 岸本 和葉
第五章 七聖剣編
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114 地獄の門

「――――何がともあれ、貴様が神になったと言うことは信じねばならんな」


「……」


 宙を舞っていたクレアシルの首から、胴体が現れる。

 再生、というよりは、もとから斬られてないと言っても信じてしまうほどに、クレアシルは無傷で地面に足をつけていた。


「神どうしの戦いでの、決着の方法を知っているか?」


「……神は概念に近い上位の存在。だから――――」


「外傷では死なない。決着をつけるには、どちらかが封印するしかないのだ」


 クレアシルは、セツの眼を見て話している。


「神となった貴様も外傷では殺せないのだろう」


 セツの粉砕された腕は、元に戻っていた。

 それが示すように、神への外傷はすべて『なかったことになる』。


「どちらが先に、〈封印〉を刻めるか……さあ、神々の戦いを始めるぞ」


「ああ」


 クレアシルは再び剣を創造し、セツは鎌を構える。

 2つの神がぶつかり、世界が揺れた。


 剣と鎌を、一振り、二振り。


 島が揺れに耐え切れず、地割れを生んだ。


 三振り、四振り。


 天候が影響を受け、一瞬で雲が空を覆い、そして晴れた。


 五振り、六振り。


 孤島から放たれた衝撃が海へ影響を及ぼし、津波が発生した。

 

 まるで天変地異。

 

 誰もが世界の終わりを感じ取り、空を仰いだ。


◆◆◆

 ――――いいか、セツ。

 

 鎌を振りながら、俺はデストロイアの言葉を思い出していた。


「神は、殺すことが出来ないんじゃ」


「は?」


 俺は突然何を言われているのか分からず、呆気にとられた。


「神は、殺せないんじゃ」


「……それでどうやって倒せって言うんだよ……」


「封印じゃよ! 封印! 相手を自分の力で封じ込めるんじゃ! 儂がクレアシルにしたように!」


 そう言われたのはいいが、俺は封印のやり方も仕組みも知らなかった。

 

「お前さんもクレアシルを封印しなければならないじゃろう。ただ――――」


「ただ?」


「お前さんは封印が使えん」


 時が止まったのを覚えている。

 

「どうやってクレアシル倒せって言うんだよ!」


「ええい! お前は〈消失〉は使えるようになっても、〈封印〉はまだ使えないじゃろ!?」


 確かに、まだ〈封印〉は覚えていない。

 てかそもそも教わってない。

 もう一ヶ月もないってのに、こいつは俺をどう勝たせようとしているんだ? 


「はっきり言おう。神になりたてのものは、〈封印〉を扱えるようになるまでに100年ほどかかる」


「――――100年!?」


 思わず大声を出した。

 聞き間違いかと思った。


「神になった時点で、神技の初歩である〈消失〉は扱えるようになる。しかしその先は、神になって長い年月を過ごさなければ習得出来ないんじゃ」


「どうしても……無理なのか?」


「うむ。最低100年じゃ。200年かかるものだってときにはいる」


 雲行きがかなり怪しくなってきた。

 これでクレアシルへの有効打がないことが、確認できてしまった。

 ぶっ飛ばせば済む話じゃない。


「――――安心せい。お前ならではの解決策がある」


「え?」


「お前には、死神の力として〈門〉が与えられている。別の場所どうしをつなげる転移門などが、その一例じゃな」


「……詳しいな」


 俺がそう言うと、デストロイアはくすりと笑った。


「死神に知り合いがいるんじゃよ。古き友じゃ」


「へぇ……」


「ともかく、お前のその〈門〉の力は、封印に匹敵するほどに強力だ。門を開けるようになるだけなら、1一週間もいらんじゃろ」


 その力があれば、神を殺せるかもしれん――――。

 

 デストロイアは、ギリギリ聞こえるかという程度の声で、つぶやいた。

 

◆◆◆

「……悪いな、俺〈封印〉を使えないんだ」


「何?」


 鍔迫り合いをしていた両者は、お互いに押し合って距離を取った。

 セツの言った一言に、クレアシルは驚いている様子である。

 

「貴様はただ封印だけされに来たのか?」


「そんなわけないだろ? 勝算がなければ挑まないさ」


 クレアシルは訝しげな視線をセツに向けている。

 セツは静かにクレアシルを見据えると、ゆっくり手を突き出した。


「死神に与えられた〈門〉の力。世界と世界をつなぐ〈異界門〉。場所と場所をつなぐ〈転移門〉」


 そして――――。


「――――地獄とつなぐ、〈地獄門〉」


「っ!」


 クレアシルは、生まれて初めて悪寒と言うものを味わった。

 本能的に身体が下がろうとしてしまい、それを無理やり押しとどめる。


「今から門を開く」


「さ、させるか!」


「がっ」


 クレアシルは、〈地獄門〉と言うものの存在を知っていた。

 だからこそ取り乱し、セツに掴みかかったのだ。

 首を捉え、セツは押し倒される。


「もう遅い」


「っ!」


 セツは、クレアシルの後ろを指差した。

 クレアシルは振り返る。

 そこには、鎖で縛られた骨で出来た黒い門が建っていた。

 おそらく、人間である夕陽や冬真では、この門の禍々しさは見た目だけでしか判断出来なかっただろう。

 神であるクレアシルは、この門の本質を理解してしまった。


 これは、この世にあってはいけないものだと。


「〈地獄門〉――――開門」


 転移門のときとはまた別の、低い鐘の音が辺りに響く。

 うめき声のような音も入り混じり、辺りに黒い瘴気が漂い始めた。

 

「貴様がなぜこの門を使える!?」


「どうにもこうにも、俺は死神らしいぜ。死神の能力なんだろ? これって」


 鐘の音は徐々に大きくなり、それにともなって門の鎖が外れる。

 そして、重苦しい圧力を発しながら、扉が開き始めた。


「この門の向こうは、亡者が蔓延る地獄だ。地獄に存在出来るのは、『死者』のみ。つまり、地獄門を潜った生者は――――」


 ――――強制的に死者となる。


「おおおぉぉぉぉ!」


 クレアシルは雄叫びを上げ、セツの頭を押さえつけた。

〈封印〉を起動させようとしているらしい。

 しかし、セツは動じない。


 もう遅いと、知っているから。


「亡者はあらゆるものを憎んでいる。特に生者を必要に憎み、門が開けば周りの生者を取り込もうとする。さすがの神も、直接的な死には勝てないだろ?」


「門を閉じるんだ!」


 強い口調でセツに怒鳴るが、門は閉じる気配を見せない。

 もちとん、セツに閉じる気がないからだ。


「亡者と仲良く暮らせよ」


「やめろぉぉ!」


 腹の底に響き渡る亡者の声。

 門が完全に開き切り、中からいくつもの巨大な腕が伸びてきた。


「寄るな!」


 それらはクレアシルに向かい始める。

 クレアシルはセツから手を離し、振り返って壁を創造した。

 しかし、無数の腕たちはそれをすり抜ける。


「来るな!」


「残念だが、抵抗は無駄だ」


 ついに、クレアシルの身体が腕に掴まれる。

 逃れようと身をよじるクレアシルであったが、さらにいくつもの腕が絡みつき、逃れられない。


「はな……せ……」


 クレアシルの身体が、門に引き込まれる。

 完全に門まで引き込まれると、扉はゆっくりと閉じ始めた。 

 門の奥で、亡者の笑い声がする。


「さよならだ、クレアシル」


 そして、門は、閉じた。


 

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この度新作を投稿させていただいたので、告知させていただきます。 よろしければ、ぜひブックマークや評価をいただけると嬉しいです! 世界を救った〝最強の勇者〟――――を育てたおっさん、かつての教え子に連れられ冒険者学園の教師になる ~すべてを奪われたアラフォーの教師無双~
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