3 推しの堪能
隣にいた、最初、怒鳴りつけられた令嬢を引っ張りながら、ドアのほうに向かう。
「ちょっ、ちょっと、何なのよ!! 離しなさいよ!!」
「黙ってって、部外者がいると、二人で過ごせれないでしょ?」
その子だけに聞こえる音量で言う。
(私はいちゃいちゃ推しカプも見たいのよ!!!)
ドアの把手でドアを開け、推しカプを振り返った。
「楽しいひとときを、お過ごしてください♡」
バタン
ドアが閉まった直後に、一緒に連れ出してきた令嬢が文句を呟いた。
「本当にもう……」
「シィ───」
唇に人差し指を当てながら、静かにとその子に念を送ると、綺麗な眉が八の字になりながら 怪訝そうに見られた。
「……何をしてらしゃるの?」
「え? 推しの堪能」
堪能という言葉の意味がわからなかったのか、それとも推しという言葉がこの世界にないのか、意味がわからないというように、綺麗な顔を歪める。
「は?」
「いや、だってさ? 推しカプが二人きりなんだよ? それはもう聞くしかないって。絶対に何か起きるでしょ?」
わからないから丁寧に説明したっていうのに、令嬢は顔を真っ赤にして怒ってきた。
「あ、あなた、来なさい!!!」
「わぁ〜〜ん!! 推しぃぃ〜〜〜〜!!!」
首元を掴まれて、ずるずる引っ張られて行った。
***
さっきの令嬢にざんざん説教されたのち、開放された。
やれ、プライベートだから〜だの、常識を持とうか〜だの、マナーだの、あれこれ言われた。
(知ってるもん! 推しカプの邪魔してないもん! ちゃんと、応援しているもん! でも、推しカプの行動は知りたいもん!)
1時間以上聞かされた莉奈は、すっかり拗ねていた。
すべては推しの堪能を邪魔されたからである。
(あぁ〜〜〜見たかった! 知りたかった!)
漫画じゃない現実に生きているからこそ、もっと推しカプの話を知りたいもの。
邪魔されるから、恋みたいに燃え上がるのだと、莉奈は知らない。だが、説教によってますますオタクの血が騒いでいるのも、莉奈は気づいていない。
そして、莉奈を説教したから、オタクの血を挑発したのだと、さっきの令嬢も同じように気づいていないのであった。




