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概ね善良でそれなりに有能な反逆貴族の日記より  作者: ふーろう/風楼
第七章 更に盛り上げて

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亡国



 王太子を殺すと決まって各所が動き出し、計画の策定が順調に進む中、俺は通すべき筋を通すための準備を進めていた。


 王太子を殺すとなって通すべき筋は大きく分けるなら五箇所ある。


 まずは司教様と大司教様、絶対に蔑ろにしてはいけない存在だし、お世話にもなっているし、こちらの事情に関して色々と心を砕いてくれた。


 ここに話を通さずにやるなんてことは絶対にやってはいけないことなので、まずはここに使者を送ることにした。


 バトラーとライデルと姉上とその従者達。


 俺自身がいけない代わりに精一杯の誠意を尽くす必要があると考えて、重要かつ身近な人物を送ることにした。


 このタイミングでバトラーとライデルが不在となるのは相応に負担だったが、それもまた司教様達に対する誠意ということで受け入れて……バトラー達には今回の事情全てを説明してもらうことになっている。


 全てを説明するということは、こちらの目的やらがそこから流出してしまうという危険性もある訳だが……それはもう仕方ない。


 司教様達から漏れるのならそこまでの話……それでも強行するかはなんとも言えないが、受け入れるしかないのだろう。


 司教様と大司教様もそれだけの人物であり恩人なのだから仕方ない……まぁ、あの二人ならばそんなことはしないと思うが、俺を止めるためにあえて、ということもなくはないだろうなぁ。


 次に通すべき筋は地方法院だ。


 流石に法院に今からやらかしますとは言えないが、だからといって一切連絡無しではいざという時に味方にはなってくれないだろう。


 だから具体的な内容には全く触れない、意図が全く見えない長文の手紙を送ってある。


 時節の挨拶だけをつらつらと、だらだらと書き綴っただけの手紙。


 普通ならそんな手紙、訳が分からないと捨ててしまうのだろうが……貴族である俺からの手紙となればそんな訳にはいかず、ついでに俺の目的はとうに知れ渡っていることなので、地方法院の主であるマーカス卿ならば大体のことを察してくれるだろう。


 それをどう受け止めるかはマーカス卿次第だが、あのタヌキ親父ならば止めようとはしないはずだ。


 止めずに静観し、虎視眈々とその時を待って、ここぞという売り時に現れて和平だの仲介だのと言って、良い所だけを奪っていくに違いない。


 だがまぁ、それでこちらの味方になってくれるのなら万々歳……必要なコストの範疇と言えるだろう。


 次からは優先度はかなり下がるが、かと言って無視出来ないのが二箇所。


 軍務伯と王妃。


 どちらもこちらの目的を知っていて、心情的にはこちら寄り、と言うか反王太子派で、そうであることを確認している。


 こちらへの連絡は漏洩防止のために実行ギリギリになるだろうが、それでも全くしない訳にはいかないので、今のうちから手紙を用意しておく必要はあるだろう。


 そして最後はクロスビー男爵家。


 我が家で保護しているポーラ嬢と、その騎士ケラン……後は出来れば男爵本人にも話を通しておきたいところだ。


 妊娠中のポーラ嬢に精神的負荷をかけてしまうことは心苦しいが、お腹の子の父親を殺そうって言うのだから、筋は通しておくべきだろう。


 色々と思う所のあるはずのケランにだって知る権利はあるはずだ、知った上で彼がどういう決断を下すかは分からないが……俺よりも直接的で許されない被害を受けた彼女達への配慮はしておきたい。


 いきなりポーラ嬢にそんな話をする訳にはいかないので、保護者であるシャーロットとケラン、両者を呼び出した上で話をするつもりで……数日後にはやってくることになっている。


 そんな風に準備を進める中、俺は飛空艇の発着所……正式に空港と呼ばれることになった場所へ来ていた。


 屋敷に一番近いウィルバートフォース空港……俺は最後までその名前に反対していたのだが、いつのまにか決定してしまい、一般的には空港、またはウィル空港と呼ばれている。


 そんなウィル空港で待っているのは、兄上の下に送った飛空艇の到着で……なんとそれには兄上が搭乗しているらしい。


 流石の長期戦で疲れての帰郷かと思いきや、手紙では済ませられない大事な話があるとかで、しっかり出迎えの準備をしての待機をしている。


 屋敷では兄上のための料理やらの準備も進んでいて……一泊しか出来ないそうだが、その一泊で少しでも心と体を癒してくださるようにと手を尽くしている。


「……しっかし何しにくるんだろうねぇ。

 ある程度戦いが落ち着いたっていっても、大陸は大陸だし……不在はまずいんじゃないの?」


 飛空艇をただ待つだけの時間が暇なのか、空を見上げたままのフィリップがそんな声をかけてくる。


「さてな……。

 不在に関しては父上や叔父上、奥方もいらっしゃるから問題はないはずだ。

 兄上の部下も優秀と聞いている、兄上の褒め方からすると相当な人物がいるようだ。

 他にも連戦の中で鍛え上げられた猛者達がいると聞いているし、数日の不在くらいは問題にもならないだろう」


「なるほどねぇ~……。

 まぁ、兄貴の話からして悪い人じゃなさそーだし? おいらとしても大歓迎だけどね。

 ……ついでにあの件についてもおにーさんに手伝ってもらったら?」


「作戦次第ではそうなるだろうなぁ。

 元々そういうつもりではあったんだ……ここから軍を起こして進軍、同時に兄上と父上に空と海から迫ってもらっての二方向攻撃。

 その状態でアレだけが目的だと迫れば、無血開城もあると考えてはいたんだ。

 だが現状を考えるとそこまでの無茶はしなくても良いかもしれないな。

 味方が減って暗殺騒動が起こるような状況となれば隙だらけなんだろうし、実際にやってしまったとして、首謀者候補は数えるだけで一手間と来たらこちらが疑われる可能性も少なくなる。

 下策だったはずの暗殺が普通にあり得る選択肢になるとは……アレの言動はある意味で遠回りな自害のようなもんだな」


「そう言いたくなるよねぇ……色々報告聞いててドン引きだもんねぇ」


 と、そんな会話をしていると、フィリップが何かに気付いて目を細める。


 フィリップは俺よりも目がかなり良い。


 俺もそんなに悪くはないと思うんだが、フィリップの目には負ける。


 フィリップから遅れて数十秒後、ようやく俺にも飛空艇の姿が見えて……見たこともない旗をはためかせながらこちらへとやってくる。


 着陸の準備が慌ただしく進み、係員達が旗を振って場所などを知らせ……ゆっくりと飛空艇が降りてきて専用台座に着地、固定が終わるとタラップが降りてきて、まずは旗を持った兵士達がタラップから降りてくる。


 本当に見たことのない図柄で、そこに描かれているのは背中を預け合う双竜、察するに兄上が考えた兄上の領地……いや、国の国旗なのだろうなぁ。


 兵士達がタラップの左右に立って旗を掲げると、金色の旧式騎士鎧に真っ赤なマント、嘘だろ!? と、声を上げたくなる派手さで兄上が姿を見せて、笑いながらタラップを降りてくる。


「はーっはっはっは! 故郷は風景だけでなく風の匂いまでが懐かしく感じられるのだな! そしてブライト! 大きくなったではないか!

 すっかりと一人前の男だ! お前に領地を任せた決断は間違ってなかったと、よくぞ証明してくれた!!

 それでこそ我が弟だ!!」


 一歩一歩、力強く、まるで舞台の上の役者のように仰々しい仕草で降りてきた兄上は、


「ブライト!!」


 と、大声を張り上げてからハグをしてくる。


 正直鎧姿でのそれは痛かったが、だからと言って嫌がる程でもなく、こちらからも精一杯のハグを返す。


 すると兄上はハグをしたまま「はーーっはっはっはっはっは!!」と、耳が痛くなる程の大声を張り上げ、それからしばらくハグを続けた後に解放してくれて、改めて口を開く。


「本当に元気そうで良かった! お前が負担で潰れやしないかと心配した時もあったが、その顔を見るとただの杞憂だったようだ。

 ……そして覚悟を決めたその目、ついにやる気のようだな……。

 ……そうなると良いタイミングかどうか分からなくなってしまうが、紹介したい人物がいる。

 今日足を運んだ理由は、そのお方にある」


 力強くそれでいてどこか神妙に、輝く笑顔でそう言った兄上はタラップの上部を見上げ、その視線を受けてか、一人の男性がゆっくりとタラップを降りてくる。


 年齢は……俺と同じくらいだろうか、多分10代半ば、黒混じりの茶髪を編み込んでいて、ヒゲも伸ばして編み込もうとしているようだが、若さのせいか量は少なく長さもなく、半端な状態となっている。


 こちらの文化的には若い男がヒゲを伸ばしっぱなしにしているのはあまり良いこととはされていないのだが、服装は立派そのもの、真っ黒で艷やかな布のチュニックは金糸での細やかな刺繍がされていて、ベルトは宝石付き、ズボンは革で銀細工付き。


 力強い眉毛、真っ青な目は力強く輝き、色男ではあるのだろうけども無骨さも感じられる顔で、威風堂々たる佇まいからも只者ではないことが感じられるが……何者だろうか?


 ヒゲからして異国人ではある、そもそも兄上が大陸から連れて来たのだから当たり前のことだが……それにしても兄上が拠点としている地域では見ない衣装な気がする。


 こちらとあの辺りは、服装と言うか外見的な文化はほぼ一緒だったはずだし……大陸のどこか遠方の貴人、なのだろうか?


「紹介しよう、ブライト。

 彼はつい先日滅んだ国家、コプランの王子だ。

 ……いや、唯一の王位後継者だったことを考えると王だと呼ぶべきだろうかな?

 ともあれ、混乱の中にある祖国を脱し保護を求めてきたのでな、我が家で保護していたんだが……祖国の混乱を引き起こした主犯がいると聞いて居ても立ってもいられなくなったらしい。

 そしてお前の顔から状況を察するに、先を争うお前のライバルとなった訳だが……さて、お前はどうするんだ? ブライト?

 ああ、王子、これが弟のブライトだ」


 兄上のそんな紹介を受けて冷や汗をかいた俺は、とりあえず居住まいを正し、胸に手を当て、コプラン王子へと簡単な挨拶をする。


「兄上から紹介をいただきました、ウィルバートフォース伯ブライトと申します。

 殿下との拝謁に即しただけでなく我が領にご足労頂いたこと光栄の極み、感謝申し上げます」


 ……正直滅んだ国の王子相手に、どの程度の礼儀を尽くせば良いのかが分からないところだ、事前に相手の国の歴史や文化を知っていれば対処のしようがあったのだが、流石にそこまで深くは知っていないからなぁ。


 軽い歴史と外交関係、交易の状況ならしっかりと覚えているんだが……。


 そしてまさかこのタイミングであの王太子に国を滅ぼされた王子様か……。


 この場合は通すべき筋とかではなく、同じ首を狙うライバルということになるんだろうか?


「もはや身分すら失ってしまった身に過分な挨拶痛み入る。

 エドラン・デューンだ、よろしく頼む」


 目の前までやってきて背筋を伸ばし、威風堂々……ハキハキとしながら力強い喋り方でそう言ったエドラン王子は、その佇まいから相当に体を鍛えていることが分かる。


 俺もそれなりに鍛えている方だが恐らく次元が違う、ライデルと同レベルか、兄上と同レベルか……アレス男爵には敵わないだろうが、それでも良い勝負くらいはするかもしれない。


 そんなエドラン王子に見入っていると王子は、更に言葉を続けてくる。


「申し訳ないことではあるが、貴国の王太子の首をこちらに譲ってはくれないだろうか。

 両親、家臣、国民、そして我が国の歴史と文化の仇だ、どうしてもこの手で討ちたい。

 ……何も持たぬ身で要求とは図々しく感じるだろうが、最早我が手には何もなく、ただ縋ることしかない無礼はご容赦いただきたい」


 背筋も目線も、そして言葉もまっすぐ、いかにも武人肌といった人物であるようだ。


「申し訳ありませんが、お譲りすることは出来ません。

 それ程に因縁が深いということもありますが……現状、譲っていられる程の余裕がないのです。

 アレは早急に対処しなければ更なる害を広げる存在に成り果てました。

 各国との関係悪化を防ぐためにもすぐにでも手を打たなければなりません。

 時も場も手段も選んではいられない中、殿下のために動きを緩める訳にはいきません」


「……それは道理なのだろうな。

 ……そしてその言い様、既に暗殺のために動いておられるのだろう。

 であれば、どうかその作戦に余も参加させてはくれないだろうか。

 なぁに、足手まといにはならんだろうし、いざ命を落としたとしても貴殿を責める身内もいない身だ、何の気兼ねもなく使ってくれて構わん」


 堂々たる態度でそう言い切るエドラン王子。


 そう来るかなと予想をしていはいたが驚きの発言で、確認のために兄上の方を見やると兄上は満面の笑み。


 ……そうだよね、兄上好みの人物だよね、エドラン王子は。


 そういうことなら……。


「分かりました。

 では殿下に参加いただいた上で、早いもの勝ちと行きましょう。

 殿下が討つか、我々が討つかは、運命に任せるとしましょう。

 しかし目標は同じ、また下手に争ってアレに逃げられたでは意味がないので妨害などは厳禁としましょう。

 むしろお互い協力した上で競争するのが理想です。

 お互い協力した上での結果であれば、どちらが討ったとしても名分は立つでしょうし、晴れやかな気持ちにもなれるはずです」


 と、俺が淡々とそう言うと、殿下よりも早く兄上が声を上げる。


「はっ!!」


 そう言って見たことのないような笑顔、驚きと嬉しさが混ざって思わずそんな声を出してしまったらしい。


 そして笑顔をどこまで輝かせて、その笑顔でこちらをじぃっと見つめてきて……少しの後に、


「はーっはっはっはっはっはっは!!!」

 

 と、大爆笑、どうやら兄上好みの返事が出来たようだ。


「流石はジェラール殿の弟君、好漢紳士ここにあり、この国の本質を見た気分だ。

 それで全く構わない、むしろそんな好条件を頂いて良いのかと恐縮するばかり。

 どちらが討てるのか、そういったことは神々に任せて我らは気持ちの良い勝負をするとしよう

 ……本当に何も持たない身で恐縮だが、その時までは屋敷の片隅にでも居候させて欲しい。

 そして事が済んだ折には、借りを返せるその時まで、貴殿の下で働かせてもらおう。

 ……なぁに、これでも学問武術、海戦の一通りを習得している、邪魔にはならないはずだ」


 と、そう言ってエドラン王子は胸を更に強く張り、その上で右手をすっと差し出してくる。


 それに応じて手を差し出して握手をするとエドラン王子は、しっかりと握った手を引き寄せて肩をぶつけ合い、王子なりのハグを力いっぱい……少し肩が痛くなるくらいにしてくれるのだった。


 

お読みいただきありがとうございました。


次回からはいよいよ作戦開始的なアレです

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― 新着の感想 ―
武力8か9あたりかな、この殿下
王太子の意味不侵略の理由はこれかぁ ゲーム処理的には侵攻して捕虜にすりゃ味方ユニットにできたんだろうな
亡国の王子と兄上の出会い気になる〜!いつか番外編でお目にかかりたい! 亡国の王子良いキャラだわ!!
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