決断
食事が始まって、俺やロビンの食が進む中、フィリップやライデルは少しだけ躊躇が見える。
その原因は生野菜で、今までも何度か食べる機会があったはずなのだが、どうにも食が進まないらしい。
まぁ、生で食べないという常識を持っている所に、生の良さを全面に押し出した料理を出されたなら、そうなるのも仕方ないのかもしれないな。
逆に俺は前世のおかげで抵抗はなく、ロビンもその様子はない。
恐らく自分なりの知識でハーブや山菜のようなものを食べているのがその理由なんだろうな。
ロビンのような狩人は冬場には生肉を食べたりすることもあるらしい、恐らくはビタミン摂取のためなのだろうが……健康面を考えると不安が残るため、出来るだけやらないようにとは言いつけてある。
その代わりに海でとれた新鮮な生魚や保存しておいた果物なんかを贈ってやっているが……恐らくはまだ食べずに大事にしまっているんだろうなぁ。
しかしまぁ、それはそれで一つの文化だと納得をし、クルミ入りのナンのようなパンを千切ったなら、それをシチューにつけて食べていく。
味の基礎はほぼほぼビーフシチューで凄く美味しい。
あちらの野菜や果物をあれこれと煮込んだことでこの味の組み立てになるそうだが、前世で食べていた味に近いものを食べられるのは素直に嬉しいことだった。
野菜も肉もドルイドに合わせてか大きくゴロゴロ、それがまた良い食べ応えに繋がっていて……スプーンとフォークも上手く使いながら食べ進めていく。
その間コーデリアさんは側に立ってニコニコと見守ってくれていて……その視線が少しだけ恥ずかしい。
本当に直ぐ側でニコニコ、俺としては一緒に座って食事をして欲しいのだけど、コーデリアさんなりに思う所あってのことらしいので、無理にとは言えない。
「もっとたくさん食べてくださいね、まだまだお若いんですから、たくさん食べて大きくならないと」
食事の途中、そんな声もかけてくれる。
……いや、普通にもう成長限界だと思うけどなぁ、多少は伸びるかもしれないが、ここから更にっていうのは中々難しいように思える。
あんまり背が高すぎるというのも心臓に負担を与えるらしいからなぁ。
……そしてアレか、コーデリアさんはドルイド族の料理を食べさせればドルイド族のように体が大きくなるとか思っているのかな?
それはそれで微笑ましくはあるが……。
まぁ、うん、何も言うまい。
そうやって食事を楽しんで、屋敷の使用人達にも楽しんでもらって……ある意味での異文化交流、ドルイド族の食を知るというイベントはこの日から定期的に行われることになった。
週に一回、主催はコーデリアさんで、ドルイド族の誰かが作った故郷の料理を皆で楽しむ。
これはドルイド族への理解を深めると同時に、故郷を離れて頑張っているドルイド族達の心を慰めるという効果もあったようで……思っていた以上の恵みをもたらしてくれることになった。
一ヶ月二ヶ月、三ヶ月と続くことになり……そして秋が深まった今も続けられている。
そんな三ヶ月の間、特筆する出来事はなかった。
書ききれないような細々とした出来事はあるのだが、連続していた関所襲撃も収まり、これといったトラブルもなく王家も不気味なくらいに大人しくて平和な日々。
もちろん政務は続けているし、外交も続けている……各貴族や教会、国外への働きかけも続けていて、忙しくはあったのだが余計なトラブルに頭を抱えるようなことはなかった。
色々とあり過ぎた反動なのか……とにかくこちらとしてはありがたい話ではあったので、今までのツケと言うか、やりきれていなかった細々とした仕事や、各トラブルに対する訴訟の準備、新技術の開発や飛空艇の改良、鎧の改良、ドルイド族用の鎧の配備などを進めていくことになった。
これらが全て解決したならいよいよ王族連中になんらかの報復が出来るかと、そんなことも考えられるくらいに余裕が生まれて、いよいよ動き始めるかとそんなことを考え始めていた頃の昼過ぎ。
「やりやがった!!」
との声を上げながらフィリップが執務室へと駆け込んでくる。
「……どうした?」
ペンを止めてインクを拭いながらそう返すとフィリップは、青い顔でツカツカと歩いてきて、北東連合の地図を机の上にバンッと広げ、報告をし始める。
「北東連合の一つが崩壊しちゃった!! 現在は内乱の真っ最中で他三国が収拾にあたってる!
理由はお察しの通り王太子の工作……あれからおいらなりに調べてはいたんだけど、流石に外国までは手が伸びなくて、完全に後手に回っちゃったよ!!
それでも出来るだけ情報を集めてみた所、工作員の工作が上手くいきまくった結果、王宮内が大混乱、あっちこっちで衝突が始まってやれ肩がぶつかったのどうので殺人まで起きちゃって、そこからはもう雪だるま式に事件が起きて収拾がつかなくなって、結局国王と王妃が殺されて、そのまま王宮は崩壊!
崩壊後は内乱って形になっちゃったんだけど、誰かが望んでそうなったって訳じゃないから目的も信念もない内乱っていう訳の分からないことになっちゃって、めちゃくちゃになっちゃってるみたいだねぇ……」
一瞬口を開けて何かを言おうとして、言葉が出てこなくてそのままフリーズして……それからどうにか喉を震わせて声を絞り出す。
「……何がどうしてそうなった?」
「おいらの予想込みの話になるけど、王太子がその国の情報を完璧に握っていたみたいなんだよね。
国王や王妃他、中枢の人物がどういう人間なのか、人間関係から軋轢、企みとかこれからどう動くか、何をしたいと考えているのか……誰をどうつつけば怒るのか、怯えるのか、慌てるのかを完璧に把握した上で、上手く工作員を動かしたみたい。
王太子がどうしてそんな情報を持っていたのかは完っ璧に謎、向こうの情報を集めているような動きなんかなかったんだけどねぇ……。
だからこそ、あちらさんもそれが他国の思惑だなんて気付けなくて、何かが起きる度に誰の企みだとか、疑心暗鬼になっちゃっての大混乱。
誰も望んでいない王朝崩壊と内乱が起きちゃって、連合三国が大慌てで対処してるんだけど、内乱中の連中にとってはそれすらも企みの一つに思えちゃって、素直には受け入れられずに突っぱねているみたいだねぇ」
そう言ってフィリップは地図の上をなぞる。
北東連合のうち崩壊したのは南東の国家、そこに向けて他三国から手が伸びているということを指で表現し……その上で肩を竦めてやれやれという顔をする。
「……王太子連中の仕業として、目的はなんだと思う?
王朝を崩して混乱させてから国を乗っ取るつもりか? 他三国がそれを許さないだろうし、仮にそれで領土を手に入れたとしてもただでさえ痩せている土地が荒れ果てて何の価値もないだろう?」
俺がそう問いかけるとフィリップは、真剣な表情となって言葉を返してくる。
「それについては国内のことだからね、ある程度情報を集められたよ。
最初に要約しちゃうと一派はそんなことするつもりなかった、だけども王太子は最初からそのつもりだった、って感じだね。
まず一派の貴族としては予想外の結果ではあったみたい、ここまでするつもりはなかったって言うのかな。
簡単な混乱を起こした上で解決してみせて貸しを押し付けるくらいのつもりだったみたいだね。
で、問題は王太子本人。
一派にとって王太子は、ただ担ぎ上げていただけの存在で、弱った立場のまま黙っていて欲しかったと言うか、ただのデク人形扱い……何をどう思っているかなんてことは関係なかったようなんだけど、王太子本人には相変わらずの野心があったみたいだねぇ。
で、そこを読みきれない一派が、王太子の動きに無頓着過ぎたというか、工作員に接触した王太子を放置してしまったというか……結果として王太子から情報を得た工作員がやらかしてくれたと、そんな感じみたい。
王太子の思惑は……読めないかなぁ、思惑はどうあれ自分を担ぎ上げてくれている連中をかいくぐってまで隣国を崩壊させて何を得たいのやらなぁ。
……今回のことで一派の中にも混乱や疑念が生まれているみたいだし、何の得もないと思うんだけどね、なんだろうね??」
……確かになぁ。
思惑がどうあれ自分を担ぎ上げてくれている連中がいるのなら、それを上手く利用した方が利になるはずだ。
そうしながら交流を深めて味方を増やして敵を減らし、それから実権を取り戻すなりしたら良いだろうに……何故隣国に?
その目的が分からないことには何とも言えないが……今回かなり危険なことをやらかしやがったのは問題だ。
これまではある程度の準備が出来るまでは放置で良いだろうと考えていた訳だが、これでそうもいかなくなった。
次に何をやらかすのか、またどこかに手を出して混乱を広げるつもりなのだとしたら見過ごせない……この国の評判に関わるし、それで激怒した隣国が攻めてきたとなったら大惨事も良い所だ。
……これは早いうちに手を打つ必要があるかもしれないな。
そして王太子の目的……目的、国内で散々騒動を起こして、戦争まで引き起こして、更に騒動を巻き起こして、それからまた違う国に手出しをする目的……。
いや、そんなのはもう一つしかないだろう、前々からこの可能性を考えてはいたのだが、こうなるともう確信するしかない。
「世界中に混乱をばらまくことが王太子の目的なんだろうな。
だからまず国内を、次に他国をと次々に手を出している。
理不尽、あるいは考えなしに思える言動も全ては混乱をばらまくため……各地の情報源については似たような思想を持つ協力者がいるのかもしれないな。
もしかしたら大陸の革命騒動すらもそいつらの思惑あってのことかもしれん。
そういった連中、あるいは組織が存在していて王太子もその一員なのかもな」
俺がそう声を上げるとフィリップは目を丸くし、動揺しながらも思考を巡らせ……そして手を顎に当てて納得したような顔になる。
ついでに側に控えていたライデルや、騎士達の特訓を終えて報告に来ていたアレス男爵も納得顔だ。
それからフィリップは手近な窓へとツカツカと歩いていって、勢いよく押し開き……まるでそこに誰かがいるかのように下へと視線を向けて口を開く。
「ジェミィ、ロック、お前達はこういう推理が得意だろう?
兄貴の考えをどう思う? 遠慮なく率直に報告しろ」
……そこで盗み聞きをしていたのか、ジェミィとロックが大慌てで立ち上がってそれぞれ声を張り上げる。
「ご慧眼かと、付け加えるべき言葉もありません!」
「そういう発想はなかったというのが正直な所です、が否定材料はありません。一番理屈が通るお話かと!」
頭の良い二人も同意見なのはありがたい、この二人はうちで教育を始めてからメキメキと成長して、今では学者連中すら敵わない頭脳となっているからなぁ……これでほぼ間違いないと言い切ることが出来る。
世界中に混乱をばらまいてどんな利があるのかは……考えても無駄なのだろうな。
下手をするとバックにいるのがカルト宗教団体とかいうこともあり得るからなぁ、あれこれと考えるだけ無駄だ。
それよりも今はそんな危険思想が王太子であるということを考えるべきで……そうなるともう残された時間は少ないのだろうな。
これ以上の混乱を広げられないために、平和な暮らしのために……決断する時が来たのだろう。
「……なるべく早く王太子をとる。
ここでやってしまえば今後の計画にとっては大きなリスクとなる、他の王族を殺すことは難しくなるかもしれない、王太子殺しの汚名が重くのしかかることだろう。
……だが世界と天秤にかけられる話ではない、このことに気付いてしまった以上、我儘を貫き通す訳にはいかない……元々殺したい相手ではあったんだ、良い機会だと思うことにする。
フィリップ、ジェミィ、ロック、それぞれこれという計画を考えてくれ。その中から優れたもの、あるいは全てを採用して仕掛けるぞ。
条件はなるべく周囲に被害を出さないこと、それと黒幕に関する情報、あるいはそれに繋がる何かを得ることも目標としたい。
王太子の部屋を漁れば何か見つかるかもしれないからな……その辺りを考慮してくれ」
「任せて」
「完璧な計画を立ててみせます」
「……暗殺は苦手分野ですがやるだけやってみます」
フィリップ、ジェミィ、ロックの順にそう言って……それから俺はライデルとアレス男爵に視線を送る。
どんな計画になるにせよ二人と騎士達には頑張ってもらうことになるだろう。
そんな俺の視線を受けて二人は何も言わずに頷いてくれて……そうして俺達は王太子を討つために本格的に動き始めるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回からは VS王太子
迷推理の向かう先はどっちだ?




