〘七十八話〙動き出した災禍?
「この俺を呼びつけるのだ、それ相応の話なのであろうな?」
「ふおっふぉ。おぬしはほんに度量の狭き男だのぉ。主オヴィリーネ、お呼びと聞き、アズ=イ、ここに参りましたぞ」
無理言ってここに呼んでもらったのはいいけど、やっぱメンドクサイなぁこの二人。
面倒な役目を押し付けたアンヌやシイ=ナには申し訳ないと思ってはいるけど……。
スヴェンとかいう強面イケメンお貴族様はうざがらみしてくるから本来なら絶対関わりたくないんだけど……。まぁアズ=イがいるし、この先も緩衝材になってくれることに期待するしかないです。
訪れた二人の後ろにはぞろぞろ付属が引っ付いてきてたけど、シイ=ナの家に入り切れるはずもなく、シイ=ナ母が中に入るのは少数を除いて遠慮してもらってました。
で、普段なら家族で囲んでるだろうテーブルに胡散臭い対立種族の大人二人が並んで座り、その向かいに私、両隣に保護者然としたシイ=ナとアンヌが座ってます。
狭いので互いに密着して圧がすごいんですが。アンヌは向かいのスヴェンとかいうお貴族様の射るような視線を避けるように俯き加減ではあるものの、下がるつもりはないみたいです。
ここしばらく空気なリイ=ナはあきれ半分、心配半分みたいな雰囲気で私たちの後ろに控えてます。ちょっとは仕事して!
私は腰に下げてた収納袋(中は当然スライム体謹製無限収納ぷにょ袋)から、暇あるごとに周辺で倒した魔獣から取った魔石で作っていたやつをポイポイ取り出し、テーブルの上に並べていきます。
こんなこともあろうかと!
すみません、うそです。たまたまです。
有り余ってた時間を活かし、ぷにょ転移であそび、いや転移を活用しながら、スライム体による物量作戦でもって行ける範囲をどんどん広げ、そこら中を徘徊して魔器官や魔力吸収に勤しんでたのです。
まぁ、とりあえず二十個と少しばかり出しときましょうか。
「これは虹色魔石……、しかも大粒な上にこのような数、その方の小さな体のどこに持っていたというのだ? それはさておいたとしても、いったい何を考えている?
そもそも先ほど空を飛んでいたこと、それに湖の水霊と呼ばれていることと言い、問わねばならぬことが多すぎる。
更には女神像の破損。そして関連性があるのかわからんが、その方が意識を失ったこともある。この辺りについても聞かせてもらいたいものだな」
長々しゃべりながらスヴェンとかいうお貴族様が睨んできました。
アズ=イは黙って私を見ています。目元は良く言えば優し気ですが、ぶっちゃけ私にお任せって感じで思考放棄してる気がします。
けれど集まってもらったのはお貴族様に説明するためなんかじゃないし、面倒なんで質問なんてスルーです!
あとでアズ=イたちに聞いたり勝手に考え、悩んでください。
私は心底どうでもいいので。
「それあげる。いまからきっと、ひつよう。めがみ、ことば、あったので、つたえる」
そうそれが集めた目的。もうね、女神もうざいってわかった……。
ウザいのばっか増えて困る。
「おおっ、女神フェリアナ様から告げがありましたのですな! さすがは湖の水霊たる主オヴィリーネ。感服いたしましたぞ。
それと、そこにお出しいただいたのは魔石ですかな? 随分と大きく、しかも虹色とは……見たことも聞いたこともありませぬ。おおぉ、なんとも神々しいものでありますなぁ」
あぁ、う、うん。何かにつけて大げさだよね、アズ=イ。
夢……というか、アズ=イが言うようにお告げ?
言葉として現れたものはとぎれとぎれで、なんというか、理解に苦しむものでしかなかったけど……、最後の盛大な頭痛と共に頭の中に嫌と言うほど押し付けられた強い願い、それでなんとか言わんとすることが伝わったのです。
だから、私なりに翻訳したものを二人に聞かせます。
「さいかのきょうりゅう、っておおきな、まじゅう? が、あらわれ、る。めがみのふういん、やぶれる。ここのまじゅうたち、のがれるためにかいきょうわたって、そっちにいっぱいいく」
うーん、説明するための語彙不足に悩まされますね。
伝えるのって難しい。
ま、そもそも女神にしても盛大に説明不足なわけですけれど。
「聞き取りにくいが、災禍の凶龍? それを女神フェリアナが封印しているというのか? なんだそれは、俺はそんな話、聞いたこともないぞ。ヨアン、知っているか?」
「いえ、私も聞いたことはないですね……。災禍の凶龍という言葉も含めて。しかし、今の話が昨今の魔獣の海峡渡りの要因となっているのであれば……、由々しき事態であるとしか」
「わしも知らぬことでありますな。しかしですな、この世界で長きを生き、アールヴ族の知識を繋いできた長老たちは残念なことにみな過去のある出来事で天上世界へと召されましたからの……。
偉大にして貴き先人たちの中には、それらの話を伝える役を担っていたお方も、居りましたやもしれませぬ。……いや、間違いなく居ったことでありましょうぞ」
スヴェンとかいうお貴族様の会話に被せるように、アズ=イがねちっこく語ってます。穏やかそうに見えて、相当過去の弾圧を恨んでて、根に持ってるよね。
「ふん……。ともかく、魔獣の海峡渡りが増えているのはその『災禍の凶龍』などという怪しげなものの所為だというのか? 女神フェリアナが封印しているというのなら、なぜ、今、破れてしまうのだ?」
「さ、さあ? まじゅう、ふえすぎ。とちがうのかな? よくわかんない!」
…………。
と、言いきりました……が。
恐ろしい事実が実はあったのです。
ああもう……、スルーしちゃだめ?
実は……私がもっと世の中の魔獣を間引きし、世界にある魔滓を、浄化しなきゃいけなかったっぽいのです。
うんまぁ、私、湖にずっとひきこもってましたね。
樹海から出たのもつい最近だったね。
しかも、結局また出戻ってきた訳だし。
いや、私悪くないでしょ?
そもそも聞いてないし!
ねぇ?
説明不足、というか、放置だったよね!
放置しとく方が悪いよね?
なんで放置してたんだろ……。
ま、ともかく。
私は絶対悪くな~い!
それに凡人族さんだって自業自得だよね?
女神様の話を伝えてたはずのアールヴ族を弾圧しちゃったんだから。
みんながもっと仲良くして、樹海もほったらかしにせず、色々やってれば良かったはずなんだよ、うん。
きっとそう!
だからまぁ、私の役目のはずだったこと……については言わないでもいいよね?
それでそれで、肝心の災禍の凶龍がどこに封印されてるかって言えば!
「なんだそれは、わからないなど……、それでは告げの意味がなかろう。大体そう言うのであれば結局、災禍の凶龍とはどこに封印されているのだ? それがわからぬでは対処のしようもあるまいに」
あ、今言おうと思ってたのに~。
「それはね、ここ! みずうみのさき。そこにある、やまの……そのした。でも、もうでてくる、よ?」
そう。そうなの。
だから私、ここに転生したみたい?
ほんと聞いてないし、そんなの。
うん百年好き放題、自由に生きてきたのに今更そんなこと……、ねぇ。
「もう出てくる、だと? と言うかだ、その方が言っていることが正しいかどうか、真かどうか……、そもそもわからないではないか。何か証明出来るものはあるのであろうな?」
そんなこと言われたって……。
「ない。……しんじない、なら、べつにそれでもいい。わたしは、わたしで、かって、に、する。いしあげたし。それでがんばる、といい」
だからね、もう帰っていいよ?
あ、アンヌは居ても構わないんだからね?
私とスヴェンとか言うお貴族さまとのやりとりをアタフタして見てるアンヌ。
うん、見ててほっこりします。
私はSっ気があるのかしらん?
そんなやりとりをグダグダやってたそんな時。
『ズンッ、ズズゥン……』
お腹にガッツリくる、地の底から地上まで響いてきて、そのまま空気まで震わせるような大きな音と共に、とてつもない質量すら感じ取れそうな全身を揺るがす震動が周辺一帯、広範囲に拡散していきました。高所にある樹上宮など、その揺れは輪をかけたものとなりまるで大地震にでもみまわれたかの如くです。
うそじゃないですよ?
周りに散ってるスライム体からの現地情報なんですから。
「な、なんだこの異様な震動はっ」
「お、お、オルガ、何これ~」
「女神様~!」
悲鳴と驚きの声が上がり、腰を落として警戒したり、床にへたり込んだり、キョロキョロと落ち着きなく辺りを見回したりと、皆浮足立っています。
村の中の状況も似たようなものでしょう。
人が騒々しくなったのはもちろんですが、樹海のほうからもざわめく魔獣の騒々しい鳴き声がここまで届いてきますし、鳥類とかも驚いて一斉に飛び立ったみたいで、空にもかなりの魔獣たちが飛び交っているのがわかります。
「スヴェン様っ、ケービック砦から魔伝書簡が届きました。岸壁に居ついていたワイバーンの群れに動きが出ているとのこと。至急戻られたし、と!」
「スヴェン隊長、実は会談中にダール伯クリスティアン様よりも魔伝書簡が届いております。領内のいたるところで魔獣が浮足立っている様子で、領都及び、各地の警備隊に注意喚起を促すと。それと、早く戻ってほしいとも」
えらそうな雰囲気のお貴族様や美男子ヨアンさんが強面スヴェンたいちょさんになにやら報告してます。
はかったかのように、一気に騒々しくなってまいりました!
「ミーアちゃん!」
「ミーア様」
アンヌとシイ=ナが両側からその腕を回し、私の腕に絡ませてきます。
あのぉ、そうされると身動き取れないのですが……。
「あんにゅ、しんぱい、ない。ちょっとわたし、いってくる。シイ=ナも。だから、ここのことはおねがい。にじのませき、じょうずにつかって、ね」
関係ないと思ってたものの、私に関わりの深い人はちゃんと守りたいとも思います。アンヌには虹色魔石を個人的にも渡しておきましょう。
まぁあれです。
アールヴの村くらいはきっちり守れるよう……がんばりましょうか。
ついでに偉そうなお貴族さんたちも……。
オルガたちはほっといても何とかしそうだけどね。
あ、そうだ!
あんにゅ、いや、アンヌにはぷにょ袋を渡しておこう!
そうすれば、また離ればなれになってもアンヌに会いに行けますからね。
「あんにゅ、これ、おまもり。いつもみにつけてて、ほしい」
収納袋から取り出した小さな皮袋を手渡しました。もろ日本のお守り袋みたいなイメージ。
収納袋としては使えません。口は閉じてありますし、そもそもアンヌでは魔石の魔力だって読み取れませんからね。
「お守り? うわぁ、かわいらしいね。ありがとうミーアちゃん、大切にするね」
その笑顔、まぶしすぎ。
アンヌ尊い。
…………えっと。
シイ=ナがすがるような目で私を見てきます。
「シイ=ナ……、にもあげるね。はい」
うーん、ほんとはそんなつもりなかったけど……、まぁ仕方ないか。
試しにいくつか作ったやつの一つをあげる。
「ありがとうございます、ミーア様!」
思いっきり抱きしめられました。
あきれてるリイ=ナの視線がちょっと痛い。
リイ=ナ、すまないけど君にはあげな~い。キリないしね。
ま、どんな効能があるかもわからないんだし、そんなに無理して欲しがるモノでもないよね?
微振動は断続的に起きています。
時折、大きく揺れて、そのたびに周囲がざわめきます。
村の外も中も。
「ミーア。その方、湖の水霊というのが真実なのだとすれば、この状況を打開出来るというのか? 女神フェリアナの告げというものを我らは聞いたわけではない。
アールヴ族のことにしても信用出来る謂れもない。だが口惜しいことに俺はここに留まることが出来ぬ。よって、その方と懇意にしていたという冒険者二人、それにアンヌを置いていく。先ほどまでの話が真実だと言うのであれば、結果を示してみせよ」
なんかまたグダグダ言ってますけど、言ってることの半分も理解不能~。
理解する気もありまっせ~ん。
私だってあなたに証明してみせる謂れなんてないのです!
私は私の出来ることを、私に好意的な人のためにするだけ。
女神についてもちょっと思うところはあるけれど。
ほんと、ささっと終わらせて、お貴族様たちとの関係もさっさと断ち切らなきゃね。
あ、アンヌは別ね。




