〘四十五話〙ミーア、見習い実習で依頼を受ける!
ここ数日、夜中にワイバーンが襲来するなんて事件が起こったせいで冒険者ギルドでは、再度の襲来もあるか? なんて言う人たちもいて物々しい雰囲気が漂っていました。
町中は町中で、誰かさんが派手にワイバーンを退治しちゃったもんだから、噂話に花を咲かせる人々で盛り上がり、更にはその時の話に尾ひれまでついて元ネタと全然違うじゃんって話まで広まったりしてました。
外壁外縁に住み着いた人々にはそれ相応の被害が出て、農作物にも多少被害は出たみたいだけど、人死が出なかったのは不幸中の幸いのようでした。残念なことに、町の中の大多数の人にとって、外縁に住んでる人たちのことなんて気にすることすらないようですけど……。
のど元過ぎればなんとやら……で、そんな事態がそう長続きするはずもなく、今では通常の様子に戻っているのでした。
ワイバーンが町に襲来するなんてことは、そこそこ長い町の歴史の中でも無かったことみたいです。
世間を騒がしたワイバーンさんは、ほんと反省してもらいたいと思います。ま、すでにこの世に居ないから無理なんですけれどね。
見習い実習の一環で、久しぶりに町の外に出ます。
この町に来て以来のことなので、ニ週間以上は経ってるんじゃないでしょうか?
入るときは苦労した通行門も、ギルド支給の見習い登録プレートを見せ、通行税を払えばあっさり通り抜けることが出来ます。
通行税は銅貨四枚必要で、入、出どちらでも払う必要がありとってもがめついです。でもレイナールギルド以外の登録だとその倍の八枚が必要だそうで、まだましなんだそうです。
さらに今回について言えば、私たちはギルドの依頼で外に出るため、依頼達成した暁には、完了報告をもって通行税が返還されるのです。
すばらしい!
「今日は門の外の農耕地で三叉尾ネズミによる作物被害がひどいってことで、その駆除のお仕事をしたいと思いまーす」
ドリスが相変わらずの元気の良さで、受けた依頼の説明をしてくれています。
「三叉尾ネズミは結構大型で、人の赤ちゃんくらいの大きさがあるんだよ。れっきとした魔獣で、三つに分かれたしっぽは自在に動いて、追いつめられると先端から針毛を射出してくるからね! 刺さったら痛いし、なかなか抜けないしで、舐めてたらとっても危険な魔獣なんだよ」
ネズミといえども魔獣、魔力を持つ生き物は侮っては大変危険です。
「でね、畑の下にいっぱいトンネル掘って、作物の根っこを食べちゃうし、夜は出てきてせっかく実った実を食べるしで農家のみなさんも困ってるわけね。だから駆除依頼だって常設依頼化してるんだけどさ~、手間がかかって面倒くさい割に危険だし、何より取れる魔石は小さいからさ~、不人気な依頼なんだよね」
なるほど。
私も面倒くさいのはとっても嫌いです。
けれど、まぁ、今回は見習い実習だし、せっかく外に出られたことだしで、その辺は我慢です。
門を出てしばらく、外壁の外縁には来た時にも見た貧民街じみた集落が続いています。あまりいい暮らしをしているようには見えませんが、私も町に入れなければその中の一員になっていたのかも……って、さすがにそれはないですね。
今はワイバーン被害の爪痕も残っていて、さすがの私もちょっと気分が落ち込んじゃいます。
そこを過ぎればいかにも中世の田舎といった感じの風景に変わり、ちょっとすさんだ気持ちが持ち直します。そしていつしか目に入る風景すべてが農耕地へと変わり、歩み続けること小一時間くらいで依頼主の農地へとやってきました。
そこそこ広い農地です。
依頼主に歓迎され、この範囲をお願いと頼まれたのは広さで言えばサッカー場を四面ほど敷き詰めたほどの面積でしょうか、これ見ただけでもうかなり面倒くさい。
「むうぅ」
「もうミーアちゃん、そんな嫌そうな顔をしないの。ふふっ、これだけの広さを時間かけて作業すればミーアちゃんも健康的なお肌になれるよ、私みたいにさ!」
ドリスは小麦色のお肌で、そばかすがチャームポイントの、茶髪をおさげにした素朴な女の子です。高校生くらいと予想してましたが正解は十六歳。まぁまぁいい線ついてました。
でも私のお肌が青白いのはスライム体所以だし、日焼けとは日差しによるダメージなので、スライム体が浸透したミーアボディにかかれば影響の埒外。
なのでドリスが考えるようなことには決してならないでしょう、残念!
「じゃあ早速はじめよっか。やり方としては私が地下のネズミを探知して追い込むから、ミーアちゃんが魔法で仕留めるって感じでどうかな?」
どうかなと言われましても……、どうなんでしょう?
よくわからないですね。
けど、まぁね。
「うん、だいじょうぶ。やってみる!」
樹海の魔獣に比べれば楽勝に違いないのです。
「あ、それと、畑を荒らさず、作物も傷めないようにしなきゃダメなんだからね? 少しくらいは大目に見てもらえると思うけど、それが重なると減点なんだからね!」
「はわっ、わ、わかった」
まぁ、何ということでしょう!
やっぱ面倒くさいです、このお仕事。
「よ~し、じゃあ始めよう!」
「おぉ……」
ドリスの指示で私は長く続く畑の畝の端で待機です。畝は幾筋にも連なっているので、いくつかのエリアに分け、順番にこなしていく手筈です。
ドリスの斥候の腕のお手並み拝見です。
って言うかこの依頼に斥候はあまり関係ないのではないでしょうか?
「土壌にありし弱き震えをこの手に示せ、地振動探知」
遠目に地面に両手をついて詠唱を唱えるドリスが見えます。
探知魔法って感じでしょうか?
「見つけた! 掘り起こせ、ソイルディグアップ、アップ、アップ!」
すごい、早速見つけたみたいです。
かくいう私もこの辺りの気配をこっそり探ってましたからネズミの位置は全て把握している訳ですが、その中の一匹がドリスの土魔法でだんだんこちらへと追いやられてきています。
継続して使うのではなく、要所要所、ピンポイントで使ってこちらに向かうよう、うまく誘導しています。
「ミーアちゃん、そろそろ出るよ。失敗してもいいから、がんばってね!」
遠くから聞こえるドリスの声。
「進路をふさいで……、ソイルディグアップ」
「噴出させる! ヴォルケニックソイル!」
連続で唱える、異なる詠唱。いかにも手慣れた感じです。
私の目の前、三、四メートルってところで、硬いものが砕けたような音と共に地面から土が吹き出しました。ほんとに小さな噴出です。
でもそれで十分。
出来た穴からほうら出てきました。
「まってたよ~、三叉尾ネズミ」
ほんと大きなネズミです。
某ランドのネズミと違い、女の子が見たらキャーキャー悲鳴をあげそうな外見をしています。もちろん悪い意味で。
濃い灰色をしたまるまる太った体に、とがった耳、鋭い爪を持つ短い手足。赤い目がこちらを見つけて睨んでいるような気がします。太い尾は途中から三つに分かれ、それぞれが鋭くとがった針毛になっていて皆こちらを向いてます。
予備動作も音もなく、至近距離からそれは飛んできました。
けれど、それは目的を果たすことなく空中で唐突に静止します。いえ、よく見れば、何かに突き刺さって止まっているのがわかるでしょう。
刺さっているのはネズミが放った針毛です。
ふふん、出てくるとわかっているのに防御をしておかないなんてことはありえないです。
ネズミが出てくる前に張っておきました――。
「透明で冷たい氷のかべ、でもめちゃくちゃ硬い、アイスウォール」
――なのです。
水の壁よりめちゃ薄いくせに超硬いです。
むっ、更に追加が三本飛んできましたがムダムダムダー!
合計六本、二連射してきましたが、どうやらそれで打ち止めのようです。新たな針毛をそう何度も生成出来ないのでしょう。大きいネズミとは言っても所詮はネズミ。
この私に盾突こうなんざ十万年と四日早いです!
効かないとなればさすが野生、とっとと逃げようとしやがりましたがそんなことさせません。
「とがった氷の針、うちだす! アイスニードル」
くふふっ、針毛には針で返して差し上げました。
冷たくて鋭い氷の針は外れることなく、ネズミの背中から喉元に抜けるように刺さり、短い悲鳴と共にあっさりこと切れておしまいです。
「ミーアちゃん、さすがだねぇ。お姉ちゃん手出しする必要が全くなかったよ。っていうか私よりよっぽど手際が良くて、こっちが教えてほしいくらいなんですけどっ」
ドリスはすぐさまこちらに駆け寄り、私のことを見守ってくれてました。冒険者のたしなみ、ポーションもしっかり準備していたようです。
そうポーション、あるんですねぇやっぱり。どんな効き目なのか試してみたい気もしますが、相応にお高いようなので使わないに越したことはないです。
「ありがと。よゆう! どりすはだいじょうぶ?」
「もちろん! 私の魔器官深度は三だけど、少ないなりに魔力消費を抑えるよう工夫してるしね。それに駆除はこれからが本番だよ~」
うへぇ、聞きたくない、聞きたくないでござる。
こんな調子で駆除を進めること四時間と少し。
エリア分けしたすべての畝の探知と駆除を危なげなく、無事終えることが出来たのでした。
***
「おおぉ、七匹も仕留めてくださったか。まだ若い娘さんたちなのにすごいのぉ」
依頼主さんに褒められ、私は頭まで撫でられ……、なんとも言えない気分です。
締めに依頼票に魔力を通してもらい、魔力紋が浮かべば当人確認と了承となり、依頼任務完了です!
依頼主さんに「またぜひよろしくなぁ」とお礼とお見送りを受けつつ帰途につきました。
「この調子でがんばっていこうね。ミーアちゃんなら見習いなんてすぐに終わりそうだよね! でも冒険者登録って十二歳からだしね~、あと二年は我慢だねっ」
え?
ちょ、ま!
じゅう・に・さ・い?
ええ?
私は呆然となり、ドリスの声掛けにもしばらく無反応のまま立ち尽くしていたのでした。




