〘四十話〙ミーアの魔法とオルガの悩み
強引に休憩にさせたが、正直オレにはどうしたらいいのかわかんねぇってのが本音だ。
ミーアは不貞腐れながらもエリーネが用意してあったおやつを嬉しそうに食ってやがる。
そこだけ見てると、どう見ても年相応、いやそれ以下にしか見えない幼子で、可愛らしいもんなんだけどよ。
中身はアレだったからなぁ――。
ウルヴとエリーネは実はオレらより先にここに着いていて、ミーアの様子を裏からずっと見てやがんだぜ。
依頼を受けた時、なんでまたそんな面倒くせぇことすんだよって聞いてみたけど、「余計なプレッシャーを与えず、ありのままの魔法用法を見たい」とか出来た識者みてぇなことを言って、それでいて段取りは全てオレに押し付けてくんだぜ、まったく。たまんねぇっての。
好きにやらせて、いきなり使った二つの魔法。
使ったのは風魔法だと思うが、魔法の形態を決める詠唱は、俺の知ってるのと全然違うどころか、まともな詠唱ですらなかった気がするし、発動のトリガー句は一応言ってたものの、合ってるかどうかもわかんねぇ。
まぁ舌ったらずで、しかも片言だからってのもあるかもしれねぇが……。
一つ目の魔法は、パシュンパシュンってな具合に高く鋭い音はしたものの、丸太にちいせぇ穴が二つ開いただけで、オレ的にはすっげぇ地味に思えたけど、ウルヴとエリーネの感想は違うようですっげぇ驚いた顔をしてやがったぜ。
シャープエッジって魔法は本来あんな小さな穴が開くような魔法じゃなく、圧した風を瞬時に放ち、その一瞬にかかる圧で対象物を切り裂くなり、抉り抜いたりする魔法らしい。
ミーアがやってみせたみたいに、小さくて丸い、しかもしっかり貫通した穴を連続で隣り合って空けるなんてことは、普通に出来ないんだってよ。
しかも丸太組みの丸太はオレの胴くらいは余裕であったしな、それだけ見ても相当な魔力が必要みてぇだ。
二つ目の魔法はかなりえぐかったな。
対人戦であれを使われたらオレはさっさと逃げを打つね。つっても逃げることも至難の業で防ぎようがねぇ訳だが。
一つ目のも喰らえばやべぇだろうけど、まっすぐ向かってくるだけだし、まだ対処のしようがある。
けど二つ目のは無理だ。
刺突数十回を一瞬で受けるようなもんだからな。しかもすべて貫通ダメージときた。オレは身体穴だらけのグズグズになって死にたくはねぇな。
更にそれが広範囲に来るんだからたまったもんじゃねぇ。両隣りの丸太組みすらダメージ喰らってたから少なくとも十メートル幅くらいの射角があるってことで、しかも届いた距離だって四十メートルだ。
一つ目の二十メートルでも大したものなんだが、威力は恐ろしいわ、射程もあるわで、そんなもんしゃれになんねぇだろ!
ウィンドブラストって魔法は、狭い範囲でしかないシャープエッジの効果をより広い範囲に与える魔法ではあるものの、その分、一つ一つを見てみれば威力は落ちるのが普通らしい。
まぁそれでも身体を抉ってくるような風の範囲攻撃なんて、普通レベルのもんでも遠慮させてもらいたいがな。
ともかく、ミーアの魔法はいずれも普通とは全然違う代物ってこったな。
あれだけの威力を出すために魔力がどれだけ必要になるのか……、気が遠くなりそうだってウルヴが嘆いてたな。
くくっ、おっさん、心労で禿げるんじゃねぇか?
――ま、そんなことから休憩させろって話になって、ミーアに声をかけようとしたんだが……、あいつとっとと次の魔法を撃とうとしてやがんだよ。
「おいっ、ちょっと、ちょっと待てやミーア!」
オレは慌てて、ちみっこいミーアをかまわねぇから後ろから羽交い絞めにして、無理矢理やめさせた。
「なに? おるが」
「何ってお前、そんなにぶっ続けでデカい魔力使って大丈夫なのかよ?」
ギルマスたちの受け売りで、そう聞いてはみたものの、オレだってイマイチよく分かってねぇもんだからあいつに隙を見せちまった。
「まだじゅんび運動! 今からがほんばん。 は~い、お約束、火のたま、ふぁいあーぼーる!」
準備運動って……お前、なんだよそりゃ、半分しゃべってるじゃねぇか。
どっから詠唱なんだよ?
ファイアーボール? なんだよそれ。
なんて具合にオレが混乱してる間に、ミーアがくるまったら収まっちまうくらいの、でかい火の玉が空中に出来やがった。ちいせぇ太陽があるみたいなもんで、周囲の温度があっという間に上がっちまう。
なんてもん、簡単に作り出すんだよ、おい。
と思ったのも束の間で、どうやったのかわかんねぇが一番奥の丸太組み、二百メートルも先の的に向かって、するすると音もなく飛んでいきやがった。
丸太組みは近くで見りゃオレと同じくらいのサイズがある。そりゃそうだ、遠くまで置くんだ、小さすぎたら目視もままならねぇ。
遠くにあるはずの、その丸太組みがミーアの火の玉を喰らった途端、一瞬で赤を通り越した白っぽい炎と共に燃え上がったかと思えば、不思議と形を保ったまま真っ白な塊になった。
なんだそりゃ?
何が起こった?
で、中はまだ熱いままだったのか、間を置かず気が抜けるような軽い音とともに弾け飛んで、真っ白だった丸太組みは爆発四散しちまった。
儚く光る火の粉が、まるで雪のように降りしきる……なんて、馬鹿な光景を見る羽目になっちまった。
もう呆然としちまったね。
ウルヴとエリーネも同じだろうさ。
「こんのお調子もんが! 一旦休憩だ、休憩。今度撃ちやがったら、ケツひん剥いて真っ赤になるまで引っ叩いてやるからな、覚悟しとけや!」
オレは冗談めかしてミーアをどやしつけたものの、正直こいつが恐ろしいもんに見えてきて仕方がねぇ。
…………。
ふざけんじゃねぇぞ。
なにビビッてやがんだよ、オレは。
後頭部にイッパツ頭突きかましてやったからな。
涙目になってこっちを睨んでくるミーアはなんとも可愛らしくて無邪気なもんだ。
ウルヴが何を考えてるのかは知らねぇけどな、お貴族様に言われて、はいそうですかって簡単に従うほど、オレは出来は良くねぇんだ。
ミーアは今もそうだが周りのことに無頓着で、警戒なんて知らねぇとばかりに言われたこと、やれることを素直にやっちまいやがる。まだ幼い子供なんだし悪いことじゃあねぇんだけど……、この先お貴族様がらみになってきた時、それが悪い方に転んじまう要因にならねぇとも限らねぇ。
ま、どう転ぼうが乗りかかった船だ。
こんなチビをほっぽり出して、はいさようならってことだけは絶対したくねぇ。
とりあえずはそのうち来るだろうお貴族様が、ミーアにとって良い奴らなことを女神フェリアナ様にでも祈っとくことにするさ。
――とまぁ、そんな訳だから休憩に引っ張り込んだミーアにエサを与えて機嫌取って、そしてこの後だって魔力に問題がねぇと言うんなら、せいぜい好きにやらせてやればいいのさ。
どうせギルマスたちに知られるなら、オレだってきっちり把握しときてぇ。
あーあ、このオレ様がこんなにも頭を悩ませてるってぇのに、きっとこいつはなーんにも考えてねぇんだろなぁ……。
うらやましいもんだぜ、ほんと。




