〘三十四話〙魔力測定とその顛末
「ん~、まぁ、いっか……」
属性把握だ、魔器官の確認だ~とか聞いて、思わず身構えてはみたものの……、考えてみれば結果がどうあれ私は私。
出来ることをわざわざ出来ないふりするなんて真っ平ごめんだし、私にそんな器用なことが出来るとも思えない。
あれこれ考えるなんて馬鹿らしいし、スライムらしくないです。
それになにより真面目にやれよって、オルガがうるさい。(これが本命)
私はテーブル上に用意された卓上扇風機を思わせる見た目をした魔力測定用魔道具? に歩み寄り、エリーネさんに教えられた通り、魔道具の台座に填まってるアメジストを思わせる紫色をした石に手を乗せました。
あ、おやつ食べてたから手が油だらけです。
そう気付き、一瞬手を退けようとしちゃったけど、そんなに気を使う必要もないかと思い直して遠慮なく手のひらを石に重ねてやりました。
みんな私の測定に興味津々のようで、よく見ようと私の後ろに回り込んでくるので何気にうざい。
気が散るんですけど?
これも気にしても仕方ないから無視してやることやっちゃいましょう。
ほ~れ、魔力ちゃん出ておいき~!
私は魔力を手のひらからガシガシ送りつけます。
変化はすぐ現れました。
魔道具は放射状に伸びる細い枠の中心に合わせて、二重になった円状の細枠が組み付けられていて、その枠に添うように色んな色彩を持つ石たちが配置されています。
その石たちが、私の魔力に呼応するように中心から外側に向け次々と輝きだし、その輪を広げていきます。なんというか、あれです、遠い日の日本で、夜に見た観覧車のイルミネーションのようです。
赤、青、黄、緑……、いろんな色の石が次々と輝くさまはとても綺麗で、じっと見ていると吸い込まれそうな気持ちになります。
面白くなってきたので更に魔力を送ってみます。
おおぉ!
輝きが増したような気がします。魔力の強弱で瞬きもまた変化する石さんたち。なんだか電気の実験してるみたいでワクワクしてきました。
ふあ?
手に違和感。
手元の石がぷるぷるしてます。
合わせて手を添えてる石から痛み的な刺激を感じました。
あれれ。
これはちょ~っと……、まずかったりするのかな? かな?
「ミーア、もういい。これ以上は魔道具に負荷がかかりすぎる!」
ギルドマスターの声を聞くのとどちらが早かったか……、私は急激な浮遊感を覚え、気付いた時には魔道具から引き離されていました。
ギルドマスターが焦ったのか、背後から私の両脇に手を入れ、そのままぐいと持ち上げてくれたみたいです。
どうせ私なんか小さくって、軽い小荷物扱いですよ~~だ!
よ、よ~だって……、私。
……なんだか私、思考形態が幼児化してきてないかい?
見た目は幼女、でも中身は元日本の中年サラリーマンおじさんなんですけど?
まぁスライムになって相当長いし、幼女生活もそれなりだけど……、そんなことありえるんですかね?
って、今はそんなこと考えてるとこじゃないですね。
なんだか妙に静かです。
振り向いてみれば、皆が私を見て、まるで示し合わせたかのように口を開けたまま固まっています。
綺麗で女性らしさの権化、エリーネさんですらそうなのです。
美人さんは口をポカンと開けててもやっぱ綺麗です。
ずるい。
ドリスはもちろんのこと、オルガも例外ではありません。
唯一、怖い顔をして私を見てくるのはギルドマスターです。
高い高い状態から床に下ろされ、座るよう促されました。
いや、椅子が高くて座るに座れませんから。
実は最初もオルガに座らせてもらったんですからね。
黙ったまま再び持ち上げ、椅子に乗せてくれました。
ギルドマスターが皆の顔が見れる位置に移動し、眼光鋭く全員を見据えます。
「……ここに居る皆にᚲᚨᚾᚲᛟᚢᚱᛖᛁを敷く。先ほどミーアが成したことについて、ここに居る関係者間を除き、決して話してはならない。文書として残すことももちろんダメだ」
そこまで言って一度皆の顔を見回すギルドマスター。
か、顔が怖い。
渋いおじさんが睨みを利かせてくるとすごいプレッシャーです。
ないはずのあれがヒュンとする感覚に襲われる気がします。
「ミーア。お前……、自分がいかに大変なことを成したのか全く理解していないだろう? 精々魔石が光って綺麗だ……くらいの感覚なのだろうさ。だが、その認識は大きな誤りであり、大変危険なものでもある――。幸いなことにお前は今よりギルドの見習いとして過ごすことになるわけだし、それについては今後しっかり覚え込ませてやる。わかったな?」
ひぃえ~~。
やっぱ逃げておけばよかったですぅ、ぐっすん。
後悔先に立たず、覆水盆に返らず。
スライムらしくないとかどうとか言ってた少し前の私を、乾燥させまくって寒天にして、それを粉にして、トラウマな海に向かって撒き散らしてあげたいです。
「返事は?」
ギルマスがいじめてくる~。
「ふ、ふあぁい……」
頼りない返事をした私の頭に、ギルドマスターの大きな手がポスンと乗せられ、予想外に優しい手つきでナデナデされた。
ふと顔を見れば口角だけを上げて笑ってます。
こわいよ~。
「よかろう……。次にオルガ、それにドリス。お前たち二人には、闇属性特級魔法、強制誓約を受けてもらう。決して信用していない訳ではない。人の意志ではどうにもならないこともあるということだ。理解してもらえると助かる。費用はこちら持ちだ。安心するがいい」
「ちぇ、しょうがねぇなぁ。いいもん見せてもらった駄賃として諦めるとするさ。ウルヴの言ってることだってちゃんと理解もしてるんだぜ。なっ、ドリス!」
オルガがそう言いながら残念体型のドリスの背中をバンバン叩く。ドリスは迷惑そうな顔をしつつも案外平気そうに受け流してる。素朴な田舎娘って印象が強いドリスもやっぱ冒険者ということなのでしょう。
「うん、さすがの私だってあれが知れ渡ったらマズイことくらいわかるよ。ほんと、今でもまだ信じられない気分なんだけど!」
オルガとドリスは普通に言葉を交わしてて、あまり恐れた様子は見られません。ギアスという言葉にあまりいい印象を持てないのはアニメ大好きな日本人だった所為なのでしょうか?
変な先入観を持ちすぎなんでしょうかね。
「あとエリーネについてだが、ギルド職員は例外なく強制誓約を受けさせている。したがって、彼女からの情報漏洩の心配は無用だ」
ほうほう。職員さんは全員受けてると。
っていうかですよ、そんな都合よくポンポン受けさせられるなんて、もしかして闇属性のギアス持ちとはギルドマスターのことではないのですか?
いえ、イメージ的にもピッタリだなって……、思っただけです。根拠などない!
「ああ、言い忘れたが、もし強制誓約を受けず情報を漏らしたことが発覚した場合、罰則金として一律金貨百枚。払えなければ借金奴隷落ちが待っているぞ。更に漏れたことによる影響も精査する。内容に応じて処罰は決定されるからそれについては今は何とも言えないが……、甘くはないぞ。気を付けろよ」
金貨百枚!
いえ、それもすごいけど、内容に応じた処罰っていうのも底知れない怖さを感じます。
恐ろしや、異世界。
けど、罰則とかは地球世界でもひどいところは悲惨そうだったし、あまり異世界がどうとかは関係ないかもしれない……。
げに恐ろしきはどの世界でも人間なり。
それとですよ。結局のところ、私の属性についてはどのような扱いになりますの?
他にも魔力や魔道具について、教えてほしいことが山ほどあるのですけれども?
そんな私の想いを他所に、皆様もうお開き気分で片付けに入っています。
「えっ、うそ! ま、マスター。測定用魔石に、ヒビが入っています! どうしましょう……」
ぎくっ。
し、しーらないっと。




