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スライムになった私が拾った体を使って好きに生きる話  作者: あやちん
<二章> ミーアと冒険者ギルド

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〘三十三話〙ミーアとギルマスと魔力測定

 冒険者ギルドにその通達が届いたのはオルガから魔伝書簡(マナエピスル)が届く少し前だった。


「マスター、ケーヴィック砦の領境警備隊隊長、スヴェン=リンストロム様から魔伝書簡(マナエピスル)が届いております」


 何、スヴェン=リンストロムだと?

 また面倒な方から……。


「ありがとう、もらおう」


 スヴェン=リンストロム。


 普段、職務をされている時は一族の統治領の総称であるソールバルグまでは名乗らないことが多い。


 領主であるヴィースハウン公セヴェリンの母君の生家であるソールバルグ侯爵家の第三子であり、ヴィースハウン公はスヴェン様の従兄にあたる。


 ここレイナールの町もソールバルグ侯爵家配下のレイナール子爵が治めている土地であるが、リンストロムは数あるソールバルグ家統治領よりスヴェン様が与えられている領地となる。従って正式に名を呼ぶならスヴェン=リンストロム=ソールバルグが正しい。


 あの方は家の権威を職務に持ち込みたくないのだろうが、ありていに言えばその程度のことで周囲が気を許すことは無いので意味のないことともいえる。


 まあ、わざわざそれを指摘するような者もいないだろうがな。



 書簡を読んでみれば、面倒ごとしか書いてないのかと言うほど厄介な内容に終始した。


 ヴィーアル樹海よりワイバーンが襲来し、ソルヴェ村が壊滅したという。その村の調査中、唯一の生き残りかもしれない、ミーアという名の幼子を保護したとある。


 そんな滞在調査の最中(さなか)、ワイバーン十三頭の襲来があり……、



 ――なんだと? これは本当なのか。


 十三頭ものワイバーンの襲撃を受けたというのか?

 良く生きて戻れたものだ。


 いや、ともかく続きだ。



 そこで保護した幼子ミーアが、魔力暴走で凄まじい火柱をあげる魔法を発現し、巻き込まれたワイバーン二頭が消滅、そのおかげもあり撃退に成功した……と。



 ――幼子が火柱をあげる魔法だと?


 ワイバーン二頭が消滅?


 意味が分からん……。



 不明な点が多く、危険な魔法を放った幼子ミーアをケーヴィック砦に隔離したのはいいが、逃げ出され、以降行方不明。


 現在は行方不明となった幼子を保護すべく捜索にあたっているが、多くの人手を割くようなことも出来ず苦慮していると。


 それを踏まえ、ミーアの捜索に冒険者ギルドも協力してほしい……か――。


 うーむ。


 しかし幼子を隔離とは、また思い切ったことを……。

 幼子のような力のない、本来なら守るべき弱者を、よほどのことがなければそうはすまい。


 加えてこの件について、ハウゲン子爵家は見つけたものに謝礼を出すと前向き、ダール伯クリスティアンはミーアの保護には協力するとの回答を得ている……か。


 なんだこのヴィースハウン貴族までからめた捜索網は。

 いったい、その幼子に何があるというのだ?


 いや、魔法が関わっていることはわかるが……。

 


 恐ろしく関わりたくないぞ!



 とは言っても協力しないわけにもいかない――。




 などと頭を悩ませていたところに、今度はオルガからの魔伝書簡(マナエピスル)だ。


 時間を空けオルガからは二通届いたが、これの内容はさすがの俺も驚いた。しかもここレイナールの町に(くだん)の幼子、ミーアを連れてくると言うんだからな。


 全く、運が良いのか悪いのか。


 とりあえずその判断はミーアという幼子を見てからの話だ。

 問題が大きくならないことを祈るしかあるまい。



***



「マスター。オルガさんが無事戻ってきました。マスターに報告したいことがあるとのことでしたので、小会議室に案内してあります。対応お願いしてもよろしいですか?」


 来たか。

 しかも幼子をギルドの見習いにするなどというという面倒事まで俺に振ってくるとはな。


「わかった。オルガからも魔伝書簡(マナエピスル)を受け取っている。ああ、君も一緒に来てくれ。魔力紋登録と属性把握、ついでに魔器官発達深度の確認も行おう。補佐を頼む」

 

 俺はエリーネを伴い、オルガらが待つ小会議室へと向かう。丁度よいので魔力暴走したという幼子の魔器官の具合も確認しておくとしよう。


 


 部屋に入り、オルガと今までの一連の出来事について改めて情報交換と認識のすり合わせを行う。これに関しては事前に報告を受けていたこともあり、(とどこお)りなく終了した。


 次が問題の幼子だ。


 得られた情報では幼子は十歳となっていたが、実際目の前にしてみればずっと幼く見える。そういえばソルヴェ村は年齢の数え方が他所(よそ)とは違ったのではなかったか?


 まぁ、その確認は後でいいな。


 それにしても女児か。どちらとも書いてなかったが、これほど愛らしい幼子が報告にあったようなことを仕出かそうとはとても思えんな。


 とは言え、何事も先入観を持って当たるのは判断ミスにも繋がる。

 ここは通常の対応を心掛けねばな。


「ふむ。ミーアだったな? 話はオルガから聞いたが改めていくつか確認したい。それに魔力紋の登録と属性の把握も必要だ。断っておくが拒否は出来ない。これは冒険者登録時の義務だ。誤魔化しは許されない」


 こう語りかければ、表情からは読み取れないものの緊張していることがわかり、まるで俺が幼子をいじめているようで、やるせなさを感じる。


 当たり(さわ)りのないところで名前、年齢、出生地などの確認をエリーネに頼む。俺がやるより女性の方が警戒心もゆるむだろう。


「ミーア、十歳。そる()村うまれ? おとうさん、おかあさんは知らない。会ったことない」


 この発言に場の空気が重くなる。言葉も見た目以上にたどたどしい。

 苦労したのだろうし不憫(ふびん)にも思うが、残念なことに孤児などさほど珍しいものでもない。


 とりあえずスヴェン様から聞いている情報とも一致する。

 本人で間違いなかろう。


「次は魔力紋の登録だ。魔器官から出る魔力には一定のパターンがあり、魔力紋はそれを登録したものだ。人それぞれパターンは必ず異なるため、確実な個人判別が可能となる。それを用いた最たるものが冒険者登録プレートであり、他にも様々な用途に活用される。見習いとは言え登録は不可避だ」


 俺のお決まりの話が終わったところで、エリーネが魔力紋登録用の特殊なプレートをミーアに手渡す。


「ミーアさん、そのプレートを手で握りしめて魔力を通してほしいのだけど、出来る?」


「できる!」


 エリーネの問いかけに元気に答え、無邪気な様子で魔力を通しているミーア。

 俺に対する態度と随分違うじゃないか。


「うーん……」


「どうしたのだ?」


 ミーアからプレートを受け取り、魔導ボードで確認作業をしていたエリーネが首をかしげているので問いかける。


「魔力紋の転写は出来ているのですが、わずかですが雑紋(ノイズ)が混じってしまいまして……」


「ふむ、運用上問題が生じるわけではないのだな?」


「はい、それは大丈夫です。ちょっと気になっただけで運用上の支障はないと思います」


「そうか。まぁ使ってみて不具合が出るようなら作り直せばよかろう、安いものではないからな。では続けて属性把握だが、合わせて魔器官の発達深度についても確認したい」


 この言葉にミーアがまた緊張したことが(うかが)える。何やら不都合でもあるのか? だがやらずに済ませるなど出来ない。


「エリーネ。やってくれ」


「はい。ではミーアさん、ここに手を乗せて先ほどのように魔力を通してください」


 エリーネが用意した魔道具は、魔力の各属性の把握が出来るのはもちろん、魔器官の発達深度(レベル)などが測定できる大変高価で貴重なものだ。

 外観は卓上鏡を一回り程大きくした程度のもので、土台、支柱、それに魔石を配置するための二重になった円状の細い枠組みで構成されていて、枠の形に沿うように各属性を示す魔石が等配置されている。

 それらの枠とは別に上に向かい支柱から枝枠が螺旋状に伸びていて、そこには魔器官深度測定用の魔石群が配されている。

 支柱を支える土台からは手前に向かって枝枠が伸び、そこに魔力を通すための魔石が据えられている……といった構造である。


 なんとも複雑極まりなく、高価なことも(うなず)けるというものだ。


 ミーアが恐る恐るその手を測定魔石に伸ばす。


「なーにビビッてやがる、観念してとっとと測っちまいな!」


 見かねたオルガが活を入れる。

 全く、若い娘がどうしてこんな風に育ってしまったのか……。やはり周りの環境がわる……、いや、これは今考えることではない。



「ん~、まぁ、いっか……」


 ミーアがそんなことを口にしながら魔石に触れる。

 小さな手がぴくりとし、魔力を通そうとしたことが知れる。



 それはあり得ない、劇的で、奇跡のような光景だった。



 魔道具に填め込まれた魔石、その数二十一個。

 属性確認のための魔石が十一個。魔器官深度測定用には十個。


 それらすべての魔石が残らず、その役目を全うするかの(ごと)く輝いていた。

 これが示すことは誰が見てもわかることだ。


 だが。


 誰が見たとしても、それを素直に信じることが出来るものなど居まい。

 そう断言できる。


 この俺ですら……、この魔道具を用意した冒険者ギルド、ギルドマスターであるこの俺ですらそうなのだから。



 それほどまでにこの結果は恐るべきものだった。


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